『石上私淑言(いそのかみのささめごと)』「もののあはれを知る」の現代語訳・品詞分解・解説です。
「もののあはれを知る」とはどういうことか、という問いに、本居宣長が『古今和歌集』の序の言葉を引いて答える文章です。和歌は「もののあはれを知る心」から生まれるという考えと、人が歌を詠まずにはいられない理由をおさえましょう。「これら」「ここ」「そのいはれ」などの指示語が何を指すかもよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
問い
現代語訳(ある人が)たずねて言うには、「もののあはれを知る」とはどういうことか。
- いはく
- 言うことには。「いふ」のク語法。
- いかなり
- どのようだ。
この文章は、問う人と、答える筆者(本居宣長)との問答の形で書かれている。
『古今和歌集』の序と「もののあはれを知る心」
現代語訳答えて言うことには、『古今和歌集』の仮名で書かれた序に「和歌は、ひとすじの心が種となり、それがさまざまな言葉となって表れたものだ」とある、
- やまと歌
- 和歌。
- 言の葉
- 言葉。
「やまと歌は…なれりける」は、『古今和歌集』仮名序の冒頭。和歌は人の心を種として、それがさまざまな言葉となって表れたものだ、ということ。
『古今和歌集』仮名序は、ふつう「人の心を種として」という本文で知られている。
「ぞ」の結びは「ける」(連体形)。
- すなはち
- とりもなおさず。つまり。
仮名序の「(一つ)心」こそが、もののあはれを知る心だ、と筆者は言っている。
- 事業(ことわざ)
- 出会うできごとや、する行い。
- しげし
- 多い。
これも仮名序の言葉。この世に生きる人は、経験することが多い、ということ。
現代語訳胸の中で思うことを、目に見るもの耳に聞くものにことよせて、(歌として)言葉に出しているのである」とある、
- つく
- 託す。ことよせる。
「言ひ出だせる」のは、和歌。胸の中の思いを、目や耳にふれるものにことよせて歌にする、ということ。
現代語訳この「心に思うこと」というのも、やはりとりもなおさず、もののあはれを知る心である。
仮名序の「心に思ふこと」も、またもののあはれを知る心だ、と言っている。
現代語訳前の「一つ心を(種として)」と言っているところは、(和歌とは何かという)おおもとを言い、ここ(「世の中にある人」以下)は、その(和歌が生まれる)わけを述べているのである。
- 大綱(たいかう)
- おおもと。根本。
- いはれ
- わけ。理由。
「上の『一つ心を』」は、仮名序の「やまと歌は一つ心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」の部分。和歌とは何かというおおもとを言っている。
「ここ」は「世の中にある人…言ひ出だせるなり」の部分。「そのいはれ」は、和歌が生まれるわけ(人が歌を詠む理由)。
現代語訳同じ(『古今和歌集』の)漢文の序(真名序)に「人の思いは移ろいやすく、悲しみと喜びも入れかわる」とあるのも、やはりもののあはれを知っているということである。
- 真名序(まなじよ)
- 漢文で書かれた『古今和歌集』の序。「真名」は漢字。
「思慮易遷、哀楽相変」は、「思慮遷り易く、哀楽相変はる」と読み、人の思いは移ろいやすく、悲しみと喜びも入れかわるという意味。心が物事に触れて動くことを言っているので、これも「もののあはれを知る」ことだ、としている。
人が歌を詠む理由
現代語訳これらを「もののあはれを知っているのである」と言うわけは、総じて世の中に生きているすべてのものには、みな情(心)がある。
- すべて
- 総じて。おしなべて。
- 生きとし生けるもの
- 生きているすべてのもの。「と」「し」は意味を強める。
- 情(こころ)
- 心。感情。
「これら」は、仮名序の「心」「心に思ふこと」と、真名序の「思慮易遷、哀楽相変」。
「いはれ」の内容は、このあとの「すべて世の中に…必ず思ふことあり」の部分。
現代語訳心があるから、何かに触れれば必ず思うことが生じる。それゆえ、生きているものにはどれにも歌があるのである。
生きているものにみな歌があるのは、生きているものにはみな情があり、物事に触れると必ず思うことがあるから。思うことがあれば、それが歌となる。
現代語訳その中でも人は、とりわけほかのあらゆるものよりすぐれていて、心の働きもはっきりしているので、思うことも多く深い。
- 殊に
- とりわけ。
- よろづのもの
- あらゆるもの。ここは、あとの「禽獣」と同じく、人以外の生き物。
- 明らかなり
- はっきりしている。明白だ。
人がほかの生き物と違う一つめの点:心がすぐれていて働きもはっきりしているので、思うことが多く深い。
現代語訳そのうえ人は、鳥や獣よりも、出会うできごとや行いの多いものであって、物事に触れる機会も多いので、思うことはいっそう多くなるのである。
- 禽獣(きんじう)
- 鳥や獣。
- いよいよ
- ますます。
人がほかの生き物と違う二つめの点:経験するできごとや行いが多く、物事に触れる機会も多いので、思うことがいっそう多くなる。
- かなふ
- (打消を伴って)〜しないではいられない。「歌なくてかなはぬ」は、歌がなくてはすまされない、ということ。
- 理(ことわり)
- 道理。
人は、ほかの生き物より思うことが多く深いので、歌を詠まずにはいられない、という結論。
本居宣長のほかの文章:『源氏物語玉の小櫛』もののあはれ・『玉勝間』師の説になづまざること
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①事業
②大綱
③真名序
④情(皆情あり)
⑤禽獣
⑥理解答を見る
①ことわざ
②たいこう
③まなじょ
④こころ
⑤きんじゅう
⑥ことわり次の語の本文中での意味を答えよ。
①いかなる
②やまと歌
③しげし
④いはれ
⑤すべて(すべて世の中に)
⑥明らかなり
⑦いよいよ解答を見る
①どのような
②和歌
③多い
④わけ・理由
⑤総じて・おしなべて
⑥はっきりしている・明白だ
⑦ますます
B 文法
「よろづの言の葉とぞなれりける」の係り結びについて、係助詞と結びの語を書き抜き、結びの活用形を答えよ。
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係助詞=ぞ、結び=ける(連体形)
「生きとし生けるもの」について、①「と」「し」を文法的に説明せよ。②「る」の意味と活用形を答えよ。③現代語訳せよ。
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①と=強意の格助詞、し=強意の副助詞
②存続・連体形(存続の助動詞「り」の連体形)
③生きているすべてのもの
C 現代語訳・内容
「やまと歌は一つ心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」は何という作品のどの部分からの引用か。また、これを現代語訳し、筆者がここの「心」を何だと言っているかを答えよ。
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『古今和歌集』の仮名序。訳=和歌は、ひとすじの心を種として、それがさまざまな言葉となって表れたものである。筆者は、この「心」をもののあはれを知る心だと言っている。
仮名序の「世の中にある人、事業、しげきものなれば」から「言ひ出だせるなり」までを現代語訳せよ。また、何を「言ひ出だせる」のかを答えよ。
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訳=この世に生きる人は、経験するできごとや行いが多いので、胸の中で思うことを、目に見るもの耳に聞くものにことよせて、言葉に出しているのである。言葉に出しているのは和歌。
「上の『一つ心を』といへるは、大綱をいひ、ここはそのいはれを述べたるなり」について、①「ここ」の指す部分の初めと終わりの五字を抜き出せ。②「大綱」「そのいはれ」とは、それぞれどのようなことか、説明せよ。
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①世の中にあ〜だせるなり
②大綱=和歌とは何かという根本。そのいはれ=和歌が生まれる(人が歌を詠む)わけ。「同真名序に『思慮易遷、哀楽相変』といへるもまた、もののあはれを知るなり」について、「思慮易遷、哀楽相変」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文=思慮遷り易く、哀楽相変はる。訳=人の思いは移ろいやすく、悲しみと喜びも入れかわる。
「これらを『もののあはれ知るなり』といふいはれは」の「これら」の指すものを、本文中からすべて抜き出せ。
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心/心に思ふこと/思慮易遷、哀楽相変
「このゆゑに生きとし生けるもの皆歌あるなり」とあるが、生きているものにみな歌があるのはなぜか。説明せよ。
解答を見る
生きているものにはみな情(心)があり、情があると物事に触れて必ず思うことが生まれ、それが歌となるから。
「されば人は歌なくてかなはぬ理なり」について、①「ぬ」の意味と活用形を答え、②全体を現代語訳せよ。③人が歌を詠まずにいられないのはなぜか。ほかの生き物との違いにふれて説明せよ。
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①打消・連体形
②だから、人は歌がなくてはいられない(歌を詠まずにはいられない)道理である。③人はほかの生き物よりすぐれ、心の働きもはっきりしているので思うことが多く深いうえに、経験することも多く、物事に触れる機会が多いので、ますます思うことが多くなるから。