『竹取物語』「かぐや姫の昇天」②(竹取心惑ひて〜百人ばかり天人具して、昇りぬ)の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。教科書によっては「天の羽衣」という題で、「天人の中に、持たせたる箱あり」から載っています。
月へ帰るかぐや姫が、翁に手紙を書き残し、帝に手紙と歌、不死の薬を贈ります。そして天の羽衣を着たとたん、翁を思う心も消えてしまいます。人間の心を大切にするかぐや姫と、それを理解しない天人の違い、三つの「奉る」の意味に注意して読みましょう。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語の種類と向きを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
翁との別れ
現代語訳竹取の翁が心を乱して泣き伏しているところに近寄って、かぐや姫が言う、
- 惑ふ
- 心が乱れる。
「泣き伏せる」の主語は翁(竹取)。
現代語訳「私だって、望んでこうして去っていくのではありません。だから、空へ昇っていくところだけでも見送ってください。」と言うが、
- 心にもあらで
- 本心ではなく。
- まかる
- 退出する。おいとまする。
「だに」は「せめて〜だけでも」。
現代語訳「どうして、こんなに悲しいのに、お見送りなどいたしましょうか。私をどうしろと言って、見捨ててお昇りになるのですか。
- なにしに
- どうして。
「なにしに〜む」は反語。「どうしてお見送りなどしようか、いや、しない」。
現代語訳いっしょに連れていらっしゃってください。」と泣き伏すので、かぐや姫のお心も乱れてしまった。
- 具す
- 連れる。
- 率(い)る
- 連れて行く。
「ね」は他に対する願望。「連れていらっしゃってください」。
「御心惑ひぬ」は、翁があまりに嘆くので、かぐや姫の心が乱れた、ということ。
現代語訳「手紙を書き残してまいりましょう。私が恋しく思われるようなときには、取り出してご覧ください。」と言って、
- 文(ふみ)
- 手紙。
現代語訳「この国に生まれた身であったなら、お二人を嘆かせ申し上げないときまで、おそばにおりましょうに。
「嘆かせ奉らぬほどまで」は、翁と嫗を嘆かせ申し上げないときまで、つまり翁と嫗が亡くなるまで。「嘆かせ奉ら」の主語はかぐや姫。
- 本意(ほい)なし
- 残念だ。不本意だ。
「こそ」の結びは「侍れ」(已然形)。
現代語訳脱いで残していく着物を私の形見としてご覧ください。月の出ているような夜は、こちらを見てください。
- 形見
- 思い出のよすがとなる品。
- 見おこす
- (遠くから)こちらを見る。
「見おこせ給へ」は、月が出た夜は、地上からかぐや姫のいる月の方を見てほしいということ。
現代語訳お二人をお見捨て申し上げて去っていく私は、空からも落ちてしまいそうな気持ちがします。」と書き残す。
空からも落ちてしまいそうな気持ちだというのは、翁と嫗を見捨てて去ることが心残りで、つらいということ。
天の羽衣と不死の薬
- あるは
- ある箱には。もう一つの箱には。
現代語訳天人の一人が、「壺のお薬を召し上がってください。
ここの「奉る」は「飲む」の尊敬語(召し上がる)。天人からかぐや姫への敬意。
現代語訳けがれた地上の物をお食べになっていたので、きっとご気分がすぐれないでしょう。」と言って、
- きこしめす
- 「食ふ」「飲む」の尊敬語。召し上がる。
「きたなき所」は、地上の人間の世界。天人はかぐや姫が地上のけがれた物を食べたと考えている。
現代語訳薬を持って寄ってきたので、かぐや姫はわずかになめなさり、残りを少し形見にしようと、脱いで置いていく着物に包もうとすると、
- いささか
- ほんの少し。
「なめ給ひ」の主語はかぐや姫。少しを形見として、翁たちのために残そうとした。
現代語訳その場の天人がそれをさせない。そして羽衣を取り出し、かぐや姫に着せようとする。
- 御衣(みぞ)
- お召し物。ここでは天の羽衣。
天人は、薬を地上に残すことを許さない。
「その時」は、天人が羽衣を取り出して、かぐや姫に着せかけようとしたその時。
現代語訳「この衣を着せられると、心が別のものに変わってしまうと聞く。そうなる前に、ひと言だけ言っておくべきことがあったのだ。」と言って、手紙を書く。
- 心異(こころこと)なり
- 心が(ふつうと)違っている。
「心異になる」は、人間の心がなくなり、天人の心に変わってしまうこと。あとの「この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ」と同じ内容。
「しばし待て」と言ったのは、天の羽衣を着て心が変わってしまう前に、帝に手紙を書いておきたかったから。
帝への手紙と歌
現代語訳天人は、「遅い。」とじれったがりなさる。
- 心もとながる
- じれったがる。待ち遠しく思う。
天人は、手紙を書いて羽衣を着ようとしないかぐや姫に、いらだっている。
現代語訳かぐや姫は、「人の心もわからないことを、おっしゃいますな。」と言って、少しも騒がず静かに、帝へのお手紙をしたためて差し上げなさる。
- もの知らぬ
- ものの情けを知らない。
- 朝廷(おおやけ)
- ここでは帝。
「もの知らぬこと」は、別れを惜しむ人間の気持ちを理解しない、天人の心ない言動。
「な〜そ」は禁止。「おっしゃいますな」。
ここの「奉る」は「与ふ」の謙譲語(差し上げる)。語り手から帝への敬意。「給ふ」は語り手からかぐや姫への敬意。
天人がせかしても、かぐや姫は落ち着いている。
現代語訳「このように大勢の人をおつかわしになって、私をお引きとめなさいますが、
- あまた
- たくさん。
「あまたの人」は、帝がかぐや姫を守るために送った人々。
現代語訳それを許さない迎えがやってまいりまして、私を連れて行ってしまいますので、残念で悲しいことです。
- 取り率(い)る
- 連れて行く。
- 口惜し
- 残念だ。
「許さぬ迎へ」は、かぐや姫が地上にとどまることを許さない月の都からの迎え。
現代語訳お仕えしないままで終わってしまったのも、このようにやっかいな身の上だったからでございます。
- わづらはし
- 面倒だ。やっかいだ。
「かくわづらはしき身」は、いずれ月の都へ戻る定めの身の上。宮仕えしなかったのはそのためだ、とかぐや姫は言う。
- 心得
- 納得する。理解する。
- 思し召す
- お思いになる。
現代語訳強情にお言葉をお受けしないままになったことで、無礼な者だと帝のお心に残ってしまうことが、心残りでございます。」と書いて、
- 心強し
- 強情だ。
- なめげなり
- 無礼だ。
- 思し召しとどむ
- (帝が)お心にとどめなさる。
「心強く承らずなりにしこと」は、帝からの宮仕えのお言葉を、かたくなに承知しなかったこと。
かぐや姫の心残りは、それによって帝に無礼な者だと思われたままになってしまうこと。
「なむ」の結びは「ぬる」(連体形)。
現代語訳もうこれでお別れと天の羽衣を身にまとう今になって、帝のことが胸にしみていとしく思い出されることです。
- 今はとて
- 今はもうこれまでと。
- 君
- ここでは帝。
- あはれなり
- しみじみといとしい。
かぐや姫の、帝を心からいとしく思う気持ち。宮仕えは断ったが、帝を拒んでいたわけではないことがわかる。
「ぞ」の結びは「ける」(連体形)。
昇天
現代語訳と詠み、壺の不死の薬もそえて、頭中将を呼び寄せ、帝のもとへ差し上げさせる。
- 頭中将(とうのちゅうじょう)
- 帝の使いとして来ていた人。
かぐや姫が頭中将を通して帝に差し上げさせたのは、手紙(と歌)と不死の薬。
現代語訳天人がすぐさま羽衣をかぐや姫にお着せすると、翁を気の毒に、またいとしくお思いになっていた気持ちも、たちまち消えうせた。
- いとほし
- かわいそうだ。気の毒だ。
- かなし
- いとしい。
ここの「奉る」は謙譲の補助動詞(〜申し上げる)。語り手からかぐや姫への敬意。
天の羽衣を着たとたん、翁を気の毒だ、いとしいと思っていた心も消えてしまった。
現代語訳羽衣を着た人はもう思い悩むこともなくなったので、車に乗り、百人ほどの天人を従えて、空へと昇っていった。
- 物思ひ
- 思い悩むこと。人間としての悩みや悲しみ。
「この衣着つる人」と呼び、「かぐや姫」と言わないことで、かぐや姫がもう月の都の人になってしまったことを印象づけている。
天の羽衣は、空を飛ぶ道具ではなく(飛ぶ車がある)、人間の心を消して天人にするものとして描かれている。
前の場面:『竹取物語』かぐや姫の昇天①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①本意
②衣(脱ぎ置く衣)
③天の羽衣
④御衣
⑤心異に
⑥朝廷
⑦頭中将解答を見る
①ほい
②きぬ
③あまのはごろも
④みぞ
⑤こころことに
⑥おおやけ
⑦とうのちゅうじょう次の語の本文中での意味を答えよ。
①まかる
②見おこせ
③きこしめし
④心もとながり
⑤口惜しく
⑥なめげなる
⑦いとほし
⑧かなし解答を見る
①退出する・おいとまする
②(遠くから)こちらを見る
③召し上がっ
④じれったがり
⑤残念で
⑥無礼な
⑦かわいそうだ・気の毒だ
⑧いとしい
B 文法・敬語
次の「奉る」の敬語の種類と本文中での意味を答えよ。
①壺なる御薬奉れ
②おほやけに御文奉り給ふ
③天の羽衣うち着せ奉りつれば解答を見る
①尊敬語(本動詞)・召し上がる(お飲みになる)
②謙譲語(本動詞)・差し上げる
③謙譲語(補助動詞)・〜申し上げる次の敬語は、だれからだれへの敬意を表すか。
①心もとながり給ふ の「給ふ」
②御文奉り給ふ の「奉り」
③心得ず思し召されつらめども の「思し召さ」解答を見る
①語り手から天人へ
②語り手から帝へ
③かぐや姫から帝へ次の傍線の係助詞に対する結びの語と、その活用形を答えよ。
①本意なく「こそ」おぼえ侍れ
②思し召しとどめられぬる「なむ」、心にとまり侍りぬる
③天の羽衣着る折「ぞ」君をあはれと思ひ出でける解答を見る
①侍れ・已然形
②ぬる・連体形
③ける・連体形
C 現代語訳・内容
「嘆かせ奉らぬほどまで侍らむ」について、①「嘆かせ奉ら」の主語はだれか。②「嘆かせ奉らぬほどまで」とは、具体的にはいつまでか。
解答を見る
①かぐや姫
②翁と嫗が亡くなるまで。「しばし待て」とかぐや姫が言ったのはなぜか。「衣着せつる人は、心異になるなり」の意味にふれて説明せよ。
解答を見る
天の羽衣を着せられた人は、人間の心がなくなり別の心になってしまうと聞いていたので、その前に、帝に言い残すべきことを手紙に書いておきたかったから。
「もの知らぬこと、なのたまひそ」について、①「もの知らぬこと」とは、だれのどのような言動か。②全体を現代語訳せよ。
解答を見る
①天人の、別れを惜しむ人間の気持ちを理解せず、「遅し」とせかすような心ない言動。
②ものの情けをわきまえないことを、おっしゃいますな。「かくわづらはしき身」とは、かぐや姫のどのような身の上をいうのか。
解答を見る
月の世界の人であって、時が来れば月に帰らなければならない身の上。
「心にとまり侍りぬる」とあるが、かぐや姫は何が心残りなのか。説明せよ。
解答を見る
帝からの宮仕えの求めをかたくなに承知しなかったために、帝に無礼な者だと思われたままになってしまうこと。
「今はとて天の羽衣着る折ぞ君をあはれと思ひ出でける」を現代語訳せよ。また、この歌からわかる、かぐや姫の帝への気持ちを説明せよ。
解答を見る
訳=もうこれでお別れと天の羽衣を身にまとう今になって、帝のことがしみじみといとしく思い出されることです。 気持ち=宮仕えは断ったが、帝を心からいとしく思い、別れを惜しむ気持ち。
「この衣着つる人は、物思ひなくなりにければ」とあるが、①羽衣を着たことで消えてしまった気持ちを、本文中から抜き出せ。②この話で天の羽衣は、どんな働きをするものとして描かれているか。
解答を見る
①翁を、いとほし、かなしと思しつること
②着た人から人間としての心(悩みや悲しみ、人をいとしく思う気持ち)を消し去り、天人にしてしまう役割。