『侵官之害(官を侵すの害)』書き下し文・現代語訳・解説|韓非子・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 冠係が衣をかける
  3. 昭侯が二人を罰する
  4. 罰した理由
  5. 明主の臣下の扱い方
  6. テスト予想問題

『侵官之害(しんかんのがい)』(官を侵すの害)の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。出典は、戦国時代末期の韓非(かんぴ)の著とされる法家の思想書『韓非子』(二柄篇)です。

書き下し文・現代語訳・解説

冠係が衣をかける

本文(訓読文)

白文昔者、韓昭侯酔而寝。

書き下し昔者(むかし)、韓の昭侯(せうこう)酔ひて寝(い)ねたり。

現代語訳昔、韓の昭侯が酒に酔って寝てしまった。

昔者
二字で「むかし」と読む。「者」は時を表す語に添えて語調を整える助字。
韓
戦国時代の国の名。
昭侯
韓の君主。法家の申不害を宰相に用いて国を治めた。
寝
「いヌ」。横になって眠る。「寝ぬ」と読むこともある。
而
置き字。「~て」と読む順接。

白文典冠者見君之寒也。

書き下し典冠(てんくわん)の者、君の寒きを見るなり。

現代語訳冠係の役人が、主君が寒そうにしているのを見た。

典冠
君主の冠を管理する役人。冠係。「典」は「つかさどる」の意。
君之寒
主君(昭侯)が寒そうにしている様子。
見君之寒也
「君の寒きを見るや、」と読み、次の「故に」に続けることもある。

白文故加衣於君之上。

書き下し故に衣(い)を君の上に加ふ。

現代語訳そこで、衣を主君の体の上にかけた。

故
「ゆゑニ」。だから。そこで。
加
「くはフ」。上にのせる。かける。
於
置き字。「君の上に」と、場所を表す。

昭侯が二人を罰する

本文(訓読文)

白文覚寝而説、問左右曰、「誰加衣者。」

書き下し寝より覚めて説(よろこ)び、左右(さいう)に問ひて曰はく、「誰(たれ)か衣を加ふる者ぞ。」と。

現代語訳(昭侯は)眠りから覚めると喜んで、そばに仕える者に尋ねて言った、「誰が衣をかけてくれたのか。」と。

覚寝
「寝より覚む」。眠りから覚める。
説
「よろこブ」。「悦」と同じ意味。
左右
君主のそば近くに仕える者。側近。
誰~者
「誰か~者ぞ」。誰が~したのか。(疑問)

白文左右対曰、「典冠。」

書き下し左右対(こた)へて曰はく、「典冠なり。」と。

現代語訳側近はお答えして、「冠係です。」と言った。

対
「こたフ」。目上の人の問いにお答えする。

白文君因兼罪典衣与典冠。

書き下し君因(よ)りて典衣(てんい)と典冠とを兼ね罪せり。

現代語訳昭侯はそこで、衣服係と冠係を二人とも罰した。

因
「よリテ」。そこで。それによって。
典衣
君主の衣服を管理する役人。衣服係。
与
「と」。「A与B」で「AとBと」と並べる。
兼罪
両方とも罰する。
罪
「つみス」。罰する。

罰した理由

本文(訓読文)

白文其罪典衣、以為失其事也。

書き下し其の典衣を罪せるは、以て其の事を失ふと為せばなり。

現代語訳衣服係を罰したのは、自分の役目を果たさなかったと考えたからである。

以為A
「以てAと為す」。Aと考える。Aと判断する。
失其事
自分の職務を怠る。衣服係なのに、主君に衣をかけなかったこと。
~也
「~ばなり」。~からである。

白文其罪典冠、以為越其職也。

書き下し其の典冠を罪せるは、以て其の職を越ゆと為せばなり。

現代語訳冠係を罰したのは、自分の受け持ちを越えて手を出したと判断したからである。

越其職
自分の職分を越える。冠係なのに、衣服係の仕事である「衣をかける」ことをしたこと。

白文非不悪寒也。

書き下し寒きを悪(にく)まざるに非ざるなり。

現代語訳(昭侯も)寒いのをいやがらないわけではない。

悪
「にくム」。いやがる。きらう。
非不A
「Aざるに非ず」。Aしないわけではない。(二重否定)

白文以為、侵官之害、甚於寒。

書き下し以為(おもへ)らく、官を侵すの害は、寒きよりも甚(はなは)だしと。

現代語訳他人の職分に踏み込むことの害は、寒さ(による害)よりも大きいと考えたのである。

以為
「おもヘラク」。思うことには。考えたことには。
侵官
他人の職務を侵すこと。ここでは、冠係が衣服係の仕事をしたこと。
甚
「はなはだシ」。ひどい。
於
置き字。「寒きよりも」と、比較を表す。

明主の臣下の扱い方

本文(訓読文)

白文故明主之畜臣、

書き下し故に明主(めいしゆ)の臣を畜(やしな)ふや、

現代語訳だから、賢明な君主が臣下を召し抱えるときは、

明主
賢明な君主。
畜
「やしなフ」。召し抱える。
~や
「~するときは」と、話題を示す。

白文臣不得越官而有功、不得陳言而不当。

書き下し臣は官を越えて功有るを得ず、言を陳(の)べて当たらざるを得ず。

現代語訳臣下は、自分の官職を越えて手柄を立てることはできず、意見を述べたからには、その言葉と実際の仕事が一致しないことは許されない。

越官
自分の官職(職分)を越える。
功
手柄。功績。
陳
「のブ」。述べる。
言
意見。君主に申し述べたこと。
当
「あたル」。一致する。ぴったり合う。
不当
述べた意見と実際の仕事(実績)が一致しないこと。

白文越官則死、不当則罪。

書き下し官を越ゆれば則ち死(ころ)され、当たらざれば則ち罪せらる。

現代語訳職分を越えれば死刑にされ、言ったことと実際が一致しなければ罰せられる。

則
「すなはチ」。~すれば、そのときは。
死
「ころス」。ここは「死さる」で、殺される。死刑にされる。
罪せらる
罰せられる。「らる」は受身。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
    ①昔者
    ②説(覚寝而説)
    ③対(左右対曰)
    ④因(君因)
    ⑤畜(明主之畜臣)

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    ①むかし
    ②よろこび
    ③こたえて
    ④よりて
    ⑤やしなう(やしなうや)

  2. 次の語の、本文中での意味を答えよ。
    ①典冠
    ②左右
    ③明主

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    ①君主の冠を管理する役人(冠係)
    ②君主のそばに仕える者(側近)
    ③賢明な君主

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「誰加衣者」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:誰か衣を加ふる者ぞ。
    現代語訳:誰が衣をかけてくれたのか。

  2. 「非不悪寒也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:寒きを悪まざるに非ざるなり。
    現代語訳:寒いのをいやがらないわけではない。

  3. 「以為侵官之害甚於寒」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:以為へらく、官を侵すの害は、寒きよりも甚だしと。
    現代語訳:他人の職分に踏み込むことによる害は、寒さよりも大きいと考えた。

  4. 「臣不得越官而有功、不得陳言而不当」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:臣は官を越えて功有るを得ず、言を陳べて当たらざるを得ず。
    現代語訳:臣下は自分の官職を越えて手柄を立てることはできず、意見を述べたら、それと実際の仕事が一致しないことは許されない。

C 内容の読み取り

  1. 昭侯が典衣と典冠を罰した理由を、それぞれ本文中から三字で抜き出し、その意味を説明せよ。

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    典衣:失其事(自分の職務である衣服の管理を怠ったから)
    典冠:越其職(自分の職分を越えて、衣服係の仕事をしたから)

  2. 「侵官」とあるが、ここではだれの、どのような行為を指すか。

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    冠係(典冠)が、衣服係(典衣)の職務に手を出して、昭侯に衣をかけた行為。

  3. 「越官」「不当」とは、それぞれどういうことか。

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    越官:自分の職分を越えて、出すぎたことをすること。
    不当:述べた意見と、実際の仕事(実績)とが一致しないこと。

  4. この文章に表れている、法と刑罰によって国を治めようとする考え方を何というか。また、韓非の属する学派を答えよ。

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    法治主義(法治政治)。学派は法家。