李白(りはく)の『月下独酌(げっかどくしゃく)』の書き下し文・現代語訳・解説です。教科書に載っている、四首の連作のうちの第一首(其の一)を読みます。
春の夜、花の咲く下で、作者は一人で酒を飲んでいます。いっしょに飲む友がいないので、空の明月を招き、地面にうつった自分の影と向かい合って「三人」の酒宴にします。月も影も酒は飲めませんが、作者が歌えば月がさまよい、舞えば影がゆれ動きます。最後は、天の川での再会を月と約束して終わる、自由な発想の詩です。
書き下し文・現代語訳・解説
白文花間一壺酒
書き下し花間一壺の酒
現代語訳(春の夜、)咲いている花の下に、酒の入った壺が一つ。
- 花間
- 花の咲いているあたり。花の下。
- 一壺酒
- ひと壺の酒。
白文独酌無相親
書き下し独り酌みて相親しむもの無し
現代語訳ひとりで酒を酌むばかりで、いっしょに飲む親しい友はいない。
- 独酌
- ひとりで酒を酌んで飲む。題の「独酌」と同じ。
- 相親
- 親しくする相手。ここでは、ともに酒を飲む仲間。「相」は、動作に相手があることを表す。
白文挙杯邀明月
書き下し杯を挙げて明月を邀へ
現代語訳そこで杯を高くかかげて、明るい月を(酒の相手として)招き寄せ、
- 挙杯
- 杯を高く持ち上げる。
- 邀
- 招き寄せる。迎える。
- 明月
- 明るく輝く月。
白文対影成三人
書き下し影に対して三人と成る
現代語訳自分の影と向かい合うと、これで三人の仲間になった。
- 影
- 月の光で地面にうつった、作者自身の影。
- 対
- 向かい合う。
- 三人
- 作者(李白)・月・影の三者。月と影を人に見立てて(擬人化して)数えている。
白文月既不解飲
書き下し月既に飲むを解くせず
現代語訳けれども月は、そもそも酒が飲めないうえに、
- 既
- ここでは「〜であるうえに」。次の句の「徒」と組になり、「月は〜であるうえに、影も〜だ」という意味になる。
- 不解
- 「〜できない」。この「解」は「能」と同じで、可能を表す。「飲むを解せず」と読むこともある。
白文影徒随我身
書き下し影徒らに我が身に随ふ
現代語訳影も、ただむなしく私の体について動くだけだ。
- 徒
- 「いたづラニ」。ただむなしく(〜するだけ)。
- 随
- あとについていく。
白文暫伴月将影
書き下し暫く月と影とを伴ひ
現代語訳それでも、しばらくは月と影とを連れにして、
- 暫
- しばらく。わずかの間。とりあえず。
- 将
- 「と」と読む。「与」と同じで、「月と影と」のように二つのものを並べる(並列)。二度目の「と」に「将」の字を当てて読む。書き下し文では「月と影とを伴ひ」と、ひらがなで書く。
- 伴
- 連れにする。仲間にする。
白文行楽須及春
書き下し行楽須らく春に及ぶべし
現代語訳楽しむなら、ぜひ春のうちに楽しまなければならない。
- 行楽
- 遊び楽しむこと。
- 須
- 再読文字。「すべかラク〜ベシ」と読み、「ぜひ〜する必要がある」の意味。
- 及春
- 春のうちに。春が過ぎ去ってしまわないうちに。
白文我歌月徘徊
書き下し我歌へば月徘徊し
現代語訳私が歌うと、月は(空を)行きつ戻りつし、
- 徘徊
- 行きつ戻りつする。さまよう。作者の歌に合わせて、月が動くように見えている。
白文我舞影零乱
書き下し我舞へば影零乱す
現代語訳私が舞うと、影はゆらゆらと乱れ動く。
- 零乱
- 定まらずに乱れ動く。
白文醒時同交歓
書き下し醒むる時同に交歓し
現代語訳酔いがまだ浅いうちは、(三人で)ともに楽しみを分かち合うが、
- 醒時
- 酔いつぶれずに、意識がはっきりしているとき。
- 同
- 「ともニ」。いっしょに。
- 交歓
- 互いに喜び合う。楽しみを分かち合う。
白文酔後各分散
書き下し酔ひて後各分散す
現代語訳酔いつぶれてしまったあとは、それぞればらばらに別れてしまう。
- 各
- 「おのおの」。それぞれ。作者・月・影の三者をさす。
- 分散
- 別れ別れになる。
白文永結無情遊
書き下し永く無情の遊を結び
現代語訳いつまでも、世俗の情を離れたこの交わりを結び、
- 無情遊
- 世俗を超えた交わり。「無情」は、人間のような感情を持たないもの、ここでは月と影をさす。月や影を相手にした、人間世界の俗な感情を離れたつきあいをいう。
白文相期邈雲漢
書き下し相期す邈かなる雲漢に
現代語訳はるか遠い天の川で(また会おうと)約束しよう。
- 相期
- 約束する。ここでは、作者が月(と影)と再会を約束すること。「相」は第二句の「相親」の「相」と同じで、相手があることを表す。
- 邈
- はるかに遠い。
- 雲漢
- 天の川。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者と詩の形式を答えよ。また、この詩は途中で韻を変えている。前半と後半それぞれで押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:李白 詩の形式:五言古詩
前半:親・人・身・春 後半:乱・散・漢対句をなしている句の組み合わせを、「第○句と第○句」の形で三組答えよ。
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第三句と第四句、第九句と第十句、第十一句と第十二句
次の字の読みを、送り仮名をふくめてひらがな(現代仮名遣い)で書け。
①独
②徒
③暫
④同
⑤各解答を見る
①ひとり
②いたずらに
③しばらく
④ともに
⑤おのおの次の語の意味を答えよ。
①邀
②零乱
③雲漢解答を見る
①招き寄せる(迎える)
②定まらずに乱れ動く
③天の川
B 書き下し文・現代語訳
「月既不解飲」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:月既に飲むを解くせず
現代語訳:月はそもそも酒が飲めないうえに、「暫伴月将影」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:暫く月と影とを伴ひ
現代語訳:しばらくは月と影とを連れにして、「行楽須及春」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:行楽須らく春に及ぶべし
現代語訳:楽しむなら、ぜひ春のうちに楽しまなければならない。
C 内容の読み取り
「三人」とは、誰と何をさすか。すべて答えよ。
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作者(李白)・月・影
「醒時同交歓 酔後各分散」は、どういうことを言っているか。説明せよ。
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酔いが浅いうちは、作者と月と影がいっしょに楽しみ合うが、酔いつぶれてしまうと、三者はそれぞれ別れ別れになってしまうということ。
「相期邈雲漢」とあるが、作者は誰と、どのようなことを約束しているのか。
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月(と影)と、はるか遠い天の川で再び会うことを約束している。
この詩に描かれた作者の心境を説明せよ。
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人間の友がいない中で、月と影を相手に酒を楽しむ、世俗を超えた自由な心境。(その奥には、孤独な思いも感じられる。)