『売鬼(定伯鬼を売る)』書き下し文・現代語訳・解説|捜神記・宋定伯・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 夜道で幽霊に出会う
  3. 交代で背負い合う
  4. 幽霊の弱点を聞き出す
  5. 川を渡る
  6. 幽霊を売る
  7. テスト予想問題

『売鬼(ばいき)』(定伯鬼を売る)の書き下し文・現代語訳・語句・句法を解説します。出典は、東晋の干宝(かんぽう)が編んだ志怪小説集『捜神記(そうじんき)』です。「鬼」は、日本でいう「おに」ではなく、死んだ人の霊、つまり幽霊のことです。

書き下し文・現代語訳・解説

夜道で幽霊に出会う

本文(訓読文)

白文南陽宋定伯、年少時、夜行逢鬼。

書き下し南陽の宋定伯、年少(わか)き時、夜行きて鬼に逢ふ。

現代語訳南陽の宋定伯が若かったころ、夜道を歩いていて幽霊に出会った。

南陽
郡の名。今の河南省南陽市のあたり。
少
「わかシ」。年が若い。
夜行
夜に道を歩くこと。
逢
思いがけず出会う。
鬼
死者の霊。幽霊。日本でいう「おに」ではない。

白文問之、鬼言、「我是鬼。」

書き下し之に問ふに、鬼言ふ、「我は是れ鬼なり。」と。

現代語訳(定伯が)その者に(誰かと)たずねると、幽霊は「おれは幽霊だ。」と言った。

問之
定伯が、出会った相手に何者かとたずねた。「之」は出会った幽霊を指す。
是
「A是B」で「AはBである」。

白文鬼問、「汝復誰。」

書き下し鬼問ふ、「汝は復た誰(たれ)ぞ。」と。

現代語訳幽霊のほうからも、「ところで、おまえは誰なんだ。」とたずねてきた。

汝
おまえ。
復
ここでは「ところで、いったい」のような軽い意味。
誰
「たれ」。誰か。

白文定伯誑之言、「我亦鬼。」

書き下し定伯之を誑(あざむ)きて言ふ、「我も亦鬼なり。」と。

現代語訳定伯は幽霊をだまして、「おれも幽霊だ。」と言った。

誑
「あざむク」。だます。
之
幽霊を指す。
亦
「また」。~もまた(同じく)。

白文鬼問、「欲至何所。」

書き下し鬼問ふ、「何れの所にか至らんと欲する。」と。

現代語訳幽霊が、「どこへ行くつもりだ。」とたずねた。

何所
「いづレノところ」。どこ。
欲
「ほっス」。~しようとする。~したいと思う。
至
行き着く。

白文答曰、「欲至宛市。」

書き下し答へて曰はく、「宛(ゑん)の市に至らんと欲す。」と。

現代語訳(定伯が)答えて言うには、「宛の町の市場に行くところだ。」と。

宛
南陽郡の役所が置かれた県。
市
市場。

白文鬼言、「我亦欲至宛市。」

書き下し鬼言ふ、「我も亦宛の市に至らんと欲す。」と。

現代語訳幽霊は、「おれも宛の市場に行くところだ。」と言った。

白文遂行数里。

書き下し遂(つひ)に行くこと数里。

現代語訳そのまま(二人で)数里ほど歩いた。

遂
「つひニ」。そのまま。
数里
数里ほど。

交代で背負い合う

本文(訓読文)

白文鬼言、「歩行太遅。可共逓相担。何如。」

書き下し鬼言ふ、「歩行すること太(はなは)だ遅し。共に逓(たが)ひに相担(にな)ふべし。何如(いかん)。」と。

現代語訳幽霊が言った、「歩いていくのはひどく遅い。交代でおたがいを背負っていこう。どうだ。」と。

太
「はなはダ」。非常に。とても。
可
「べシ」。~するのがよい。
逓
「たがヒニ」。かわるがわる。
相担
おたがいに背負う。
何如
「いかん」。どうか。相手の考えをたずねる。

白文定伯曰、「大善。」

書き下し定伯曰はく、「大いに善し。」と。

現代語訳定伯は、「それはいい。」と答えた。

大善
大いに結構だ。

白文鬼便先担定伯数里。

書き下し鬼便(すなは)ち先づ定伯を担ふこと数里。

現代語訳幽霊はすぐに、まず定伯を背負って数里ほど行った。

便
「すなはチ」。すぐに。そこで。
先
「まヅ」。最初に。

白文鬼言、「卿太重。将非鬼也。」

書き下し鬼言ふ、「卿(けい)太だ重し。将(は)た鬼に非ずや。」と。

現代語訳幽霊が言った、「きみはずいぶん重い。もしかすると、幽霊ではないのではないか。」と。

卿
「けい」。きみ。親しい相手や同輩を呼ぶ言い方。
将
「はタ」。もしかすると。あるいは。
也
ここでは文末で疑問を表し、「や」と読む。
将非鬼也
もしや幽霊ではないのか、と半信半疑で疑う言い方。

白文定伯言、「我新鬼。故身重耳。」

書き下し定伯言ふ、「我は新鬼なり。故に身重きのみ。」と。

現代語訳定伯は、「おれは幽霊になったばかりだ。だから体が重いのさ。」と言った。

新鬼
死んで間もない、なりたての幽霊。
故
「ゆゑニ」。だから。
耳
「のみ」。~だけだ。断定・限定を表す。書き下し文では平仮名にする。

白文定伯因復担鬼、鬼略無重。

書き下し定伯因りて復た鬼を担ふに、鬼略(ほぼ)重さ無し。

現代語訳そこで今度は定伯が幽霊を背負ったが、幽霊にはほとんど重さがなかった。

因
「よリテ」。そこで。
復
ここでは「今度は」の意。
略
「ほぼ」。ほとんど。

白文如是再三。

書き下し是(か)くのごとくすること再三なり。

現代語訳このように(交代で背負い合うことを)何度もくり返した。

如是
「かクノごとシ」。このようである。ここでは、定伯と幽霊がかわるがわる相手を背負うこと。
再三
何度も。

幽霊の弱点を聞き出す

本文(訓読文)

白文定伯復言、「我新鬼。不知有何所畏忌。」

書き下し定伯復た言ふ、「我は新鬼なり。何の畏忌(ゐき)する所有るかを知らず。」と。

現代語訳定伯がまた言った、「おれは幽霊になったばかりだ。(幽霊には)どんなこわいもの、苦手なものがあるのか知らないんだ。」と。

畏忌
おそれきらう。
所畏忌
おそれきらうもの。「所」は下の動詞と結びついて「~するもの・こと」の意味になる。
不知有何所畏忌
何をおそれきらうのかを知らない。

白文鬼答言、「惟不喜人唾。」

書き下し鬼答へて言ふ、「惟(た)だ人の唾を喜ばざるのみ。」と。

現代語訳幽霊は、「ただ人間の唾だけが苦手だ。」と答えた。

惟
「ただ」。文末の「のみ」と呼応して限定を表す。
喜
好む。
不喜
好まない。いやがる。

白文於是共行、道遇水。

書き下し是に於(お)いて共に行き、道に水に遇(あ)ふ。

現代語訳そうして一緒に歩いて行くと、途中で川に行きあたった。

於是
「ここニおイテ」。そこで。そうして。
水
川。
遇
出会う。行きあたる。

川を渡る

本文(訓読文)

白文定伯令鬼先渡、聴之、了然無声音。

書き下し定伯鬼をして先に渡らしめ、之を聴くに、了然として声音無し。

現代語訳定伯は幽霊を先に渡らせ、耳をすませて聞いてみたが、まったく音がしなかった。

令
使役。「AをしてBしむ」で「AにBさせる」。
聴
注意して聞く。耳をすます。
了然
はっきりしたさま。ここでは下の「無」を強めて「まったく(~ない)」。
声音
物音。

白文定伯自渡、漕漼作声。

書き下し定伯自ら渡れば、漕漼(さうさい)として声を作す。

現代語訳定伯が自分で渡ると、ざぶざぶと水音が立った。

自
「みづかラ」。自分で。
漕漼
水音を表す語。ざぶざぶ。じゃぶじゃぶ。
作声
音を立てる。

白文鬼復言、「何以有声。」

書き下し鬼復た言ふ、「何を以て声有るや。」と。

現代語訳幽霊がまた言った、「どうして音がするのだ。」と。

何以
「なにヲもつテ」。どうして。理由をたずねる。

白文定伯曰、「新死、不習渡水故耳。勿怪吾也。」

書き下し定伯曰はく、「新たに死して、水を渡るに習はざるが故のみ。吾を怪しむこと勿かれ。」と。

現代語訳定伯は言った、「死んで間もないので、川を渡るのにまだ慣れていないだけだ。おれのことを怪しむな。」と。

新死
死んだばかりで。
習
慣れる。
故
わけ。理由。
故耳
~だからにすぎない。
勿
「なカレ」。~するな。禁止。
怪
怪しむ。不思議に思う。
吾
私。

幽霊を売る

本文(訓読文)

白文行欲至宛市、定伯便担鬼著肩上、急執之。

書き下し行(ゆくゆく)宛の市に至らんと欲し、定伯便ち鬼を担ひて肩の上に著(つ)け、急に之を執(と)らふ。

現代語訳そのうち宛の市場に着こうとするころ、定伯はすかさず幽霊を背負って肩にのせ、急にがっちりとつかまえた。

行
「ゆくゆく」。そのうち。まもなく。
欲
ここでは「~しそうになる」。今にも~しようとする状態を表す。
著
「つク」。置く。のせる。
急
しっかりと。きつく。
執
「とらフ」。つかまえる。
之
幽霊を指す。

白文鬼大呼、声咋咋然。

書き下し鬼大いに呼び、声咋咋然(さくさくぜん)たり。

現代語訳幽霊は大声で叫び、ぎゃあぎゃあと騒いだ。

呼
叫ぶ。大声を出す。
咋咋然
叫び声を表す語。ぎゃあぎゃあ。

白文索下、不復聴之。

書き下し下ろさんことを索(もと)むるも、復た之を聴かず。

現代語訳(幽霊は)下ろしてくれと頼んだが、(定伯は)もう聞き入れなかった。

索
「もとム」。求める。頼む。
下
下ろす。
聴
聞き入れる。
之
下ろしてくれという幽霊の願いを指す。
不復聴之
主語は定伯。

白文径至宛市中、下著地、化為一羊。

書き下し径(ただ)ちに宛の市中に至り、下ろして地に著くれば、化して一羊と為る。

現代語訳まっすぐ宛の市場の中に入り、(幽霊を)地面に下ろすと、(幽霊は)一匹の羊に姿を変えた。

径
「ただチニ」。まっすぐに。すぐに。
著地
地面に置く。
化
姿を変える。化ける。

白文便売之。

書き下し便ち之を売る。

現代語訳(定伯は)すぐにその羊を売った。

之
幽霊が化けた羊を指す。

白文恐其変化、唾之。

書き下し其の変化せんことを恐れて、之に唾す。

現代語訳また姿を変えるといけないと心配して、それに唾を吐きかけた。

恐
心配する。気づかう。
其
幽霊が化けた羊を指す。
変化
姿を変えること。
唾之
羊に唾をかけた。幽霊は人の唾をきらう(唾をかけられると化ける力を失う)と考えられていた。

白文得銭千五百乃去。

書き下し銭千五百を得て乃(すなは)ち去る。

現代語訳銭千五百を手に入れて、そのまま立ち去った。

乃
「すなはチ」。そこで。そのまま。
去
立ち去る。

白文当時石崇有言、「定伯売鬼、得銭千五。」

書き下し当時石崇(せきすう)言へる有り、「定伯鬼を売り、銭千五を得たり。」と。

現代語訳当時、石崇がこう言った、「定伯は幽霊を売って、銭千五百をもうけた。」と。

石崇
西晋の人。大富豪として知られた。
千五
千五百のこと。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と、ここでの意味を答えよ。
    ①少き
    ②誑きて
    ③太だ
    ④卿
    ⑤略
    ⑥径ちに

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    ①わかき/年が若い
    ②あざむきて/だまして
    ③はなはだ/非常に
    ④けい/きみ(親しい相手を呼ぶ語)
    ⑤ほぼ/ほとんど
    ⑥ただちに/まっすぐに・すぐに

  2. 「欲至宛市」の「欲」と、「行欲至宛市」の「欲」は、それぞれどのような意味を表しているか。

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    「欲至宛市」の「欲」=~しようと思う(動作をする人の意志・希望)。
    「行欲至宛市」の「欲」=~しそうになる(まもなく宛の市場に着きそうだという状況)。

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「将非鬼也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:将た鬼に非ずや。
    現代語訳:ひょっとすると、(おまえは)幽霊ではないのではないか。

  2. 「不知有何所畏忌」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:何の畏忌する所有るかを知らず。
    現代語訳:(幽霊には)どんなおそれきらうものがあるのか知らない。

  3. 「定伯令鬼先渡」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:定伯鬼をして先に渡らしめ、
    現代語訳:定伯は幽霊を先に(川を)渡らせ、

  4. 「新死、不習渡水故耳。勿怪吾也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:新たに死して、水を渡るに習はざるが故のみ。吾を怪しむこと勿かれ。
    現代語訳:死んで間もないので、川を渡るのにまだ慣れていないだけだ。私のことを怪しむな。

  5. 「索下、不復聴之」を書き下し文にし、主語を補って現代語訳せよ。

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    書き下し文:下ろさんことを索むるも、復た之を聴かず。
    現代語訳:幽霊は下ろしてくれと頼んだが、定伯はもう聞き入れなかった。

C 内容の読み取り

  1. 「問之」とあるが、誰が誰に何をたずねたのか。

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    宋定伯が、出会った幽霊に、何者であるかをたずねた。

  2. 「如是再三」とは、何をどうすることか。

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    定伯と幽霊が、かわるがわる相手を背負って行くことを、何度もくり返すこと。

  3. 定伯が幽霊ではないと疑われた場面を二つ挙げ、それぞれ定伯がどのように言いわけしたかを答えよ。

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    ①幽霊が定伯を背負ったとき、重すぎると言われた場面。→幽霊になったばかりだから体が重いのだと言った。
    ②川を渡るとき、定伯だけが水音を立てた場面。→死んで間もないので、まだ川の渡り方に慣れていないからだと言った。

  4. 定伯が羊に唾を吐きかけたのはなぜか。説明せよ。

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    羊に化けた幽霊が、また別の姿に変わって逃げるのを心配したから。幽霊は人の唾をきらうと、前もって幽霊自身から聞き出していた。