杜甫『兵車行』②書き下し文・現代語訳・解説|男を生むは悪しく・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 荒れ果てた農村(第十五句~第二十句)
  3. 兵士の訴え(第二十一句~第二十六句)
  4. 男を生むは悪しく(第二十七句~第三十句)
  5. 青海の白骨(第三十一句~第三十四句)
  6. テスト予想問題
  7. 『兵車行』を最初から読む
  8. 杜甫の詩をもっと読む

杜甫(とほ)の『兵車行(へいしやかう)』②の書き下し文・現代語訳・解説です。詩の後半(第十五句〜第三十四句)を読みます。

①では、出征する兵士と、それを見送る家族の嘆きが描かれ、兵士が「徴兵がしきりにある」と答えました。②では、兵士の言葉の形で、男手を失って荒れ果てた農村、休みなく続く徴兵と税の取り立て、そして戦場に放置された白骨のようすが語られます。

書き下し文・現代語訳・解説

荒れ果てた農村(第十五句~第二十句)

兵車行 杜甫(訓読文)

白文君不聞漢家山東二百州

書き下し君(きみ)聞(き)かずや漢家(かんか)山東(さんとう)の二百州(にひやくしう)

現代語訳あなたは聞いたことがないだろうか。漢の国の、山東の二百州では、

君不聞
あなたは聞いていないか(きっと聞いているだろう)。楽府の詩でよく使われる、読み手への呼びかけ。
漢家
漢の王朝。実際には唐の王朝をさす。
山東
函谷関(かんこくかん)より東の地域。

白文千村万落生荊杞

書き下し千村(せんそん)万落(ばんらく)荊杞(けいき)を生(しやう)ずるを

現代語訳どの村にも、いばらやくこ(の雑木)が生い茂っているということを。

千村万落
数多くの村々。
荊杞
いばらとくこ。雑木。畑が手入れされずに荒れていることを表す。
「君不聞」の内容は、この第十六句の「荊杞を生ずるを」までである。

白文縦有健婦把鋤犂

書き下し縦(たと)ひ健婦(けんぷ)の鋤犂(じよれい)を把(と)る有(あ)るも

現代語訳たとえ、けなげな女たちが、すきやくわを手に取って耕すことがあっても、

縦
「たとヒ」。たとえ〜しても。
健婦
しっかりした、けなげな女性。男たちの留守を守る妻たち。
鋤犂
すきやくわ。田畑を耕す農具。

白文禾生隴畝無東西

書き下し禾(くわ)は隴畝(ろうほ)に生(しやう)じて東西(とうざい)無(な)し

現代語訳作物は田畑にばらばらに生えて、きちんとした列にならない。

禾
穀物。作物。
隴畝
田畑。「隴」は畑のうね、「畝」はあぜ。
無東西
東西の区別もない。作物の列が乱れて、うまく育たないこと。

白文況復秦兵耐苦戦

書き下し況(いは)んや復(ま)た秦兵(しんぺい)の苦戦(くせん)に耐(た)ふるとて

現代語訳まして、そのうえ、秦の地の兵士は苦しい戦いにもよく耐えるからといって、

況復
「いはンヤまタ」。まして、そのうえ。
秦兵
秦の地(長安を中心とする関中地方)の出身の兵士。この兵士自身も含まれる。
「況んや復た秦兵苦戦に耐ふるをや」と読み、抑揚の形として扱う読み方もある。

白文被駆不異犬与鶏

書き下し駆(か)らるること犬(いぬ)と鶏(とり)とに異(こと)ならず

現代語訳(戦場へ)駆り立てられることは、犬や鶏と何も変わらない。

被駆
駆り立てられる。戦争に追い立てられること。
不異犬与鶏
犬や鶏と変わらない。人間として扱われていないことをいう。
与
「と」。〜と。書き下し文では平仮名にする。

兵士の訴え(第二十一句~第二十六句)

兵車行 杜甫(訓読文)

白文長者雖有問

書き下し長者(ちやうじや)問(と)ふ有(あ)りと雖(いへど)も

現代語訳あなた様がおたずねくださいますが、

長者
目上の人を敬っていう語。ここでは、①でわけをたずねた「道傍過者」(作者)をさす。
雖
「いへどモ」。〜けれども。

白文役夫敢申恨

書き下し役夫(えきふ)敢(あ)へて恨(うら)みを申(の)べんや

現代語訳私のような兵士が、どうして恨みを申し上げることなどできましょうか。

役夫
兵役に駆り出された男。兵士が自分のことを言っている。
敢
「あヘテ〜ンや」と読み、「どうして〜しようか、いや、しない」という反語を表す。
申
述べる。

白文且如今年冬

書き下し且(か)つ今年(こんねん)の冬(ふゆ)のごときは

現代語訳そのうえ、たとえば今年の冬などは、

且
「かツ」。そのうえ。
如
「ごとシ」。「〜のごときは」で、たとえば〜などは。書き下し文では平仮名にする。

白文未休関西卒

書き下し未(いま)だ関西(くわんせい)の卒(そつ)を休(や)めず

現代語訳まだ関西の兵士を休ませてくれません。

関西
函谷関より西の地域。秦の地。
卒
兵士。
関西卒
関西の兵士。詩の中の「秦兵」「役夫」と同じ人々をさす。
未
再読文字。「未だ〜ず」。まだ〜しない。

白文県官急索租

書き下し県官(けんくわん)急(きふ)に租(そ)を索(もと)むるも

現代語訳県の役人は、厳しく税を取り立てようとしますが、

県官
県の役人。
急
せきたてるように。厳しく。
租
作物で納める税。
索
「もとム」。求める。取り立てる。

白文租税従何出

書き下し租税(そぜい)何(いづ)くより出(い)でんや

現代語訳その税は、いったいどこから出てくるのでしょうか(どこからも出てきはしません)。

従何
どこから。「従」は「よリ」で起点を表す。
男たちが兵士として連れて行かれ、田畑が荒れているので、税を納められるはずがないということ。

男を生むは悪しく(第二十七句~第三十句)

兵車行 杜甫(訓読文)

白文信知生男悪

書き下し信(まこと)に知(し)る男(をとこ)を生(う)むは悪(あ)しく

現代語訳まことに思い知りました。男の子を生むのは悪いことで、

信
「まことニ」。本当に。
生男
男の子を生む。

白文反是生女好

書き下し反(かへ)つて是(こ)れ女(をんな)を生(う)むの好(よ)きを

現代語訳むしろ女の子を生むほうがよいのだということを。

反
「かへツテ」。逆に。反対に。
第二十七句と第二十八句は対句。「生男」と「生女」、「悪」と「好」が対応する。

白文生女猶得嫁比隣

書き下し女(をんな)を生(う)まば猶(な)ほ比隣(ひりん)に嫁(か)するを得(え)ん

現代語訳女の子を生んだのなら、それでもまだ近所に嫁がせることができます。

猶
「なホ」。それでもまだ。
比隣
となり近所。
嫁
嫁にやる。
得
〜できる。

白文生男埋没随百草

書き下し男(をとこ)を生(う)まば埋没(まいぼつ)して百草(ひやくさう)に随(したが)はん

現代語訳男の子を生んだら、(戦場で死んで)埋もれ、多くの雑草とともに朽ち果てるだけでしょう。

埋没
土の中に埋もれる。
百草
多くの草。雑草。
随
ともにする。雑草とともに朽ちていく。
第二十九句と第三十句も対句になっている。

青海の白骨(第三十一句~第三十四句)

兵車行 杜甫(訓読文)

白文君不見青海頭

書き下し君(きみ)見(み)ずや青海(せいかい)の頭(ほとり)

現代語訳あなたは見たことがないだろうか、青海のほとりを。

君不見
あなたは見たことがないか。読み手への呼びかけ。
青海
湖の名。今の青海省にあるココノール。唐と吐蕃(とばん)がたびたび戦った場所。
頭
「ほとリ」。あたり。

白文古来白骨無人収

書き下し古来(こらい)白骨(はくこつ)人(ひと)の収(をさ)むる無(な)し

現代語訳昔から、戦死者の白骨は、拾い集めて葬る人もいない。

古来
昔から。
白骨
戦死した兵士の骨。
無人収
拾って葬る人がいない。

白文新鬼煩冤旧鬼哭

書き下し新鬼(しんき)は煩冤(はんゑん)し旧鬼(きうき)は哭(こく)す

現代語訳死んだばかりの者の霊はもだえ恨み、昔死んだ者の霊は声をあげて泣く。

鬼
死んだ人の霊。
新鬼
死んで間もない人の霊。
旧鬼
死んでから長くたった人の霊。
煩冤
もだえ苦しみ、恨む。

白文天陰雨湿声啾啾

書き下し天(てん)陰(くも)り雨(あめ)湿(うるほ)ひて声(こゑ)啾啾(しうしう)たり

現代語訳空が曇り、雨がしっとりと降る日には、霊たちのすすり泣く声が、しくしくと聞こえてくる。

陰
くもる。
湿
雨にしめる。
啾啾
霊が悲しげにむせび泣く声を表す語。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
    ①縦ひ
    ②況んや
    ③敢へて
    ④且つ
    ⑤信に
    ⑥反つて

    解答を見る

    ①たとい
    ②いわんや
    ③あえて
    ④かつ
    ⑤まことに
    ⑥かえって

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①荊杞
    ②隴畝
    ③比隣
    ④鬼(新鬼・旧鬼)

    解答を見る

    ①いばらとくこ(雑木)
    ②田畑
    ③となり近所
    ④死んだ人の霊

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「縦有健婦把鋤犂」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:縦ひ健婦の鋤犂を把る有るも
    現代語訳:たとえ、けなげな女たちが、すきやくわを手に取って耕すことがあっても

  2. 「役夫敢申恨」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:役夫敢へて恨みを申べんや
    現代語訳:兵士の身で、どうして恨みを申し上げることができようか(いや、できない)。

  3. 「生女猶得嫁比隣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:女を生まば猶ほ比隣に嫁するを得ん
    現代語訳:女の子を生んだのなら、それでもまだ近所に嫁がせることができる。

C 内容の読み取り

  1. 「君不聞」とあるが、「君」に聞かせようとしている内容はどこまでか。その句を抜き出せ(訓点不要)。

    解答を見る

    千村万落生荊杞

  2. 「千村万落生荊杞」とあるが、村々がこのようになったのはなぜか。

    解答を見る

    田畑を耕す働き手の男たちが兵士として連れて行かれ、田畑の手入れが行き届かなくなったから。

  3. 「関西卒」とは、どのような人々か。説明せよ。

    解答を見る

    函谷関より西の秦の地(長安一帯)の兵士。詩の中の「秦兵」「役夫」と同じ人々。

  4. 「租税従何出」とあるが、税が出せないのはなぜか。

    解答を見る

    男たちが兵士として連れて行かれ、田畑が荒れて作物がとれないから。

  5. 「信知生男悪、反是生女好」と言うのはなぜか。

    解答を見る

    男の子は兵士として連れて行かれ、戦場で死んで草の中に埋もれてしまうが、女の子は戦場へ行くことがなく、近所に嫁がせることができるから。

  6. 「新鬼煩冤旧鬼哭」とあるが、死者の霊がもだえ恨み、泣いているのはなぜか。

    解答を見る

    国のために戦って死んだのに、遺骨は戦場に放置されたままで、拾って葬ってくれる人もいないから。

  7. 「声啾啾」とは、誰の、どのような声か。

    解答を見る

    戦死した兵士たちの霊(新鬼・旧鬼)が、悲しげにすすり泣く声。

『兵車行』を最初から読む

杜甫の詩をもっと読む

戦乱の中で、年老いた女性まで役人に連れて行かれる夜を描いた『石壕吏』も読んでみましょう。