『孟母断機(もうぼだんき)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、前漢の劉向(りゅうきょう)が編んだ『列女伝(れつじょでん)』(母儀篇)です。すぐれた女性たちの伝記を集めた書物で、孟子の母の話はその中に収められています。
書き下し文・現代語訳・解説
途中で帰ってきた孟子
白文孟子之少也、既学而帰。
書き下し孟子の少きとき、既に学びて帰る。
現代語訳孟子が若かったころ、学問をしに出ていたのに、(途中で)家に帰ってきた。
- 少
- 「わかシ」。年が若い。「少きとき」で、幼いころ・若いころ。
- 既学而帰
- 学問をしていたが、途中で帰ってきたということ。
- 而
- 置き字。「~て」と読む順接。
白文孟母方織。
書き下し孟母方に織る。
現代語訳孟子の母は、ちょうど機を織っているところだった。
- 方
- 「まさニ」。ちょうど(その時)。
- 織
- ここは動詞で、機を織る。
白文問曰、「学何所至矣。」
書き下し問ひて曰はく、「学何れに至る所ぞ。」と。
現代語訳(母が)尋ねて言うことには、「学問はどこまで進みましたか。」と。
- 何所至
- 「何れに至る所ぞ」。どこまで進んだのか。疑問の形。
- 矣
- 置き字。
白文孟子曰、「自若也。」
書き下し孟子曰はく、「自若たり。」と。
現代語訳孟子が言うことには、「前と変わりません。」と。
- 自若
- もとのままで、変わらないさま。学問が少しも進んでいないことを表す。
- 也
- 置き字。
白文孟母以刀断其織。
書き下し孟母刀を以て其の織を断つ。
現代語訳(すると)孟子の母は、刀で織りかけの布を断ち切った。
- 以刀
- 「刀を以て」。刀で。「以」は手段を表す。
- 其織
- 母が織っていた、織りかけの布。前の文の「織」(動詞)と違い、ここは名詞。
母の戒め
白文孟子懼而問其故。
書き下し孟子懼れて其の故を問ふ。
現代語訳孟子は驚き恐れて、その(布を断ち切った)わけを尋ねた。
- 懼
- 「おそル」。驚き恐れる。
- 故
- 「ゆゑ」。理由。母が突然布を断ち切った理由。
白文孟母曰、「子之廃学、若吾断斯織也。
書き下し孟母曰はく、「子の学を廃するは、吾の斯の織を断つがごときなり。
現代語訳母が言うことには、「あなたが学問を途中でやめるのは、私が今この布を織りかけのまま切ってしまうのと変わりません。
- 子
- あなた。二人称で、ここは孟子を指す。
- 廃学
- 学問をやめる。「廃」は、やめる。
- 若
- 「ごとシ」。~のようだ(比況)。
- 斯
- 「こノ」。この。
白文夫君子学以立名、問則広知。
書き下し夫れ君子は学びて以て名を立て、問ひて則ち知を広む。
現代語訳そもそも君子というものは、学問をして名をあげ、(わからないことを)人に尋ねて知識を広めるものです。
- 夫
- 「そレ」。そもそも。文の初めに置いて、話を説き起こす。
- 君子
- 学問・徳を身につけた立派な人。
- 立名
- 名をあげる。名声を得る。
白文是以居則安寧、動則遠害。
書き下し是を以て居れば則ち安寧にして、動けば則ち害に遠ざかる。
現代語訳こうして、(仕官せずに)家にいるときは心安らかに暮らせ、(仕官して)世に出て働くときには災いを遠ざけることができるのです。
- 是以
- 「ここヲもつテ」。こういうわけで。それで。
- 居
- 仕官せずに家にいる。
- 安寧
- 安らかで穏やかなこと。
- 動
- 仕官して世の中で活動する。
- 遠害
- 災難から遠ざかる。
白文今而廃之、是不免於廝役、而無以離於禍患也。
書き下し今にして之を廃するは、是れ廝役を免れずして、以て禍患より離るる無きなり。
現代語訳今ここで学問をやめてしまったら、それは人に使われる下働きの身になることを避けられず、災難から逃れることもできないということです。
- 之
- 学問を指す。
- 廝役
- 人に使われる下働きの者。召使い。
- 免
- まぬかれる。避ける。
- 禍患
- わざわい。災難。「禍」も「患」もわざわいの意味。
- 於
- 置き字。
白文何以異於織績而食、中道廃而不為。
書き下し何を以て織績して食するに、中道にして廃して為さざるに異ならんや。
現代語訳(学問をやめることは)機を織り糸を紡いで暮らしを立てている者が、途中で仕事をやめてしまうのと、どこが違うでしょうか、いや、同じことです。
- 何以
- 「何を以て~ん(や)」。どうして~だろうか、いや~ない。ここは反語。
- 織績
- 機を織ることと、糸を紡ぐこと。
- 食
- 生活する。暮らしを立てる。
- 中道
- 途中。
- 不為
- 仕事をしない。
白文寧能衣其夫子、而長不乏糧食哉。
書き下し寧くんぞ能く其の夫子に衣せて、長く糧食に乏しからざらしめんや。
現代語訳(仕事を途中でやめては)どうして夫や子どもに着物を着せ、いつまでも食べ物に困らない暮らしをさせられるでしょうか、いや、無理です。
- 寧
- 「いづクンゾ」。どうして。文末の「哉」と呼応して反語を表す。
- 夫子
- 夫と子ども。
- 衣
- ここは動詞で「きス」。着物を着せる。
- 糧食
- 食料。
- 乏
- 「とぼシ」。足りない。不自由する。
白文女則廃其所食、男則堕於修徳、不為窃盗、則為虜役矣。」
書き下し女は則ち其の食する所を廃し、男は則ち徳を修むるを堕らば、窃盗と為らずんば、則ち虜役と為らん。」と。
現代語訳女が暮らしを立てるための仕事をやめ、男が徳を身につけることを怠ったならば、盗人にならないとしても、人に使われる下働きの身になるでしょう。」と。
- 所食
- 暮らしを立てる手段。女性にとっては機織りや糸紡ぎの仕事。
- 堕
- 「おこたル」。怠る。
- 修徳
- 徳を修める。学問をして人格を高めること。
- 窃盗
- 盗み。盗人。
- 虜役
- 人に使われる者。召使い。
名儒となる
白文孟子懼、旦夕勤学不息。
書き下し孟子懼れ、旦夕学に勤めて息まず。
現代語訳孟子は(母の言葉を聞いて)恐れ、朝から晩まで休むことなく学問に励んだ。
- 懼
- ここでは、学問をやめたときの自分の将来を恐れた。
- 旦夕
- 朝と夕方。朝から晩まで。いつも。
- 息
- 「やム」。やめる。休む。「不息」で、休むことなく。
白文師事子思、遂成天下之名儒。
書き下し子思に師事し、遂に天下の名儒と成れり。
現代語訳子思を師として学び、とうとう天下に名の知られた儒学者となった。
- 師事
- 先生として仕え、教えを受ける。
- 子思
- 孔子の孫。
- 遂
- 「つひニ」。とうとう。
- 名儒
- 名高い儒学者。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①少(少きとき)
②方
③夫
④寧
⑤息(息まず)解答を見る
①わかき
②まさに
③それ
④いずくんぞ
⑤やまず次の語の本文中での意味を答えよ。
①自若
②廝役
③旦夕解答を見る
①もとのままで変わらないこと
②人に使われる下働きの者(召使い)
③朝から晩まで(いつも)
B 書き下し文・現代語訳
「学何所至矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:学何れに至る所ぞ。
現代語訳:学問はどこまで進みましたか。「子之廃学、若吾断斯織也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:子の学を廃するは、吾の斯の織を断つがごときなり。
現代語訳:あなたが学問を途中でやめるのは、私が織りかけのこの布を切ってしまうのと同じだ。「寧能衣其夫子、而長不乏糧食哉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:寧くんぞ能く其の夫子に衣せて、長く糧食に乏しからざらしめんや。
現代語訳:どうして夫や子どもに着物を着せ、長く食べ物に困らない暮らしをさせられようか、いや、させられない。「不為窃盗、則為虜役矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:窃盗と為らずんば、則ち虜役と為らん。
現代語訳:盗人にならなければ、人に使われる身になるだろう。
C 内容の読み取り
「孟母以刀断其織」とあるが、母が織りかけの布を断ち切ったのは何のためか。
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途中で学問をやめて帰ってきた孟子に、学問をやめることは、織っている最中の布を切ってしまうのと変わらないと示して、学問を怠ってはならないと戒めるため。
「今而廃之」の「之」は何を指すか。また、それをやめるとどうなると母は言っているか。
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「之」=学問。
やめると、人に使われる下働きの身になることを避けられず、災難からも逃れられなくなる。本文に二回出てくる「孟子懼」について、孟子はそれぞれ何を恐れたのか。
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一回目=母が突然織りかけの布を断ち切ったこと(そのわけがわからなかったこと)。
二回目=母の話を聞き、学問をやめたら召使いや盗人になるしかないという自分の将来。故事成語「孟母断機」は、どのようなことを戒めた言葉か。
解答を見る
学問を途中でやめてはいけないということ。