『史記』「孫臏(そんぴん)」①「斉の威王の師と為る」の書き下し文・現代語訳・解説です。
孫臏は、戦国時代の斉の兵法家です。春秋時代の兵法家孫武(そんぶ)の子孫とされます。若いころ、龐涓(はうけん)といっしょに兵法を学びましたが、魏の将軍となった龐涓にその才能をねたまれ、罪に陥れられて両足を断たれてしまいます。それでも孫臏は、ひそかに斉へ逃れ、知恵によって認められていきます。
書き下し文・現代語訳・解説
龐涓のねたみ
白文孫臏嘗与龐涓倶学兵法。
書き下し孫臏嘗て龐涓と倶に兵法を学ぶ。
現代語訳孫臏はかつて、龐涓と共に兵法を学んだことがあった。
- 嘗
- 「かつテ」。以前。
- 与
- 「と」。〜と。書き下し文では平仮名にする。
- 倶
- 「ともニ」。いっしょに。
白文龐涓既事魏、得為恵王将軍。
書き下し龐涓既に魏に事へ、恵王の将軍と為るを得たり。
現代語訳龐涓はやがて魏に仕え、恵王の将軍となることができた。
- 既
- ここでは、やがて。その後。
- 事
- 「つかフ」。仕える。
- 恵王
- 魏の王。梁の恵王ともいう。
- 得
- 〜することができる。
白文而自以為能不及孫臏。
書き下し而れども自ら以為らく、能は孫臏に及ばずと。
現代語訳しかし、自分の能力は孫臏に及ばないと、自分でも思っていた。
- 而
- ここは「しかレドモ」と読み、逆接。
- 以為
- 「おもヘラク」。〜と思う。「自ら以て能は孫臏に及ばずと為す」と読むこともある。
- 能
- 才能。能力。
白文乃陰使召孫臏。
書き下し乃ち陰かに孫臏を召さしむ。
現代語訳そこで、こっそりと(人をやって)孫臏を魏に呼び寄せた。
- 乃
- 「すなはチ」。そこで。
- 陰
- 「ひそカニ」。こっそりと。
- 使召
- 人に命じて呼び寄せさせる。
白文臏至。
書き下し臏至る。
現代語訳孫臏がやって来た。
- 臏
- 孫臏のこと。
白文龐涓恐其賢於己疾之、
書き下し龐涓其の己より賢なるを恐れて之を疾み、
現代語訳龐涓は、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れて、孫臏をねたみ、
- 其
- 孫臏をさす。
- 於
- 置き字。ここでは比較を表し、「己」に「より」を送って読む。
- 疾
- 「ねたム」。ねたむ。
白文則以法刑断其両足而黥之、
書き下し則ち法刑を以て其の両足を断ちて之を黥し、
現代語訳そこで法の刑罰によって孫臏の両足を断ち、顔に入れ墨をして、
- 法刑
- 法による刑罰。罪をきせて刑罰を加えたのである。
- 断其両足
- 両足を切断する。
- 黥
- 顔に入れ墨をする刑。
白文欲隠勿見。
書き下し隠れて見る勿からしめんと欲す。
現代語訳(孫臏を)隠れ住まわせ、人前に姿を現せないようにしようとしたのである。
- 隠
- 身を隠す。
- 勿
- ここでは「なシ」と読み、否定を表す。「見る勿からしめん」で、人前に姿を現さないようにさせる。
- 孫臏が二度と表に出て活躍できないようにしようとしたのである。
斉へ逃れる
白文斉使者如梁。
書き下し斉の使者梁に如く。
現代語訳斉の使者が、魏の都の大梁に行った。
- 如
- 「ゆク」。行く。
- 梁
- 魏の都、大梁。魏は都を大梁に移したので、梁とも呼ばれる。
白文孫臏以刑徒陰見説斉使。
書き下し孫臏刑徒を以て陰かに見えて斉の使ひに説く。
現代語訳孫臏は刑罰を受けた身であったので、こっそりと斉の使者に会って、自分の考えを説いた。
- 刑徒
- 刑罰を受けた者。
- 以刑徒
- 刑罰を受けた身であるので。
- 見
- 「まみユ」。お目にかかる。
- 説
- 「とク」。自分の考えを説明する。
白文斉使以為奇、窃載与之斉。
書き下し斉の使ひ以て奇と為し、窃かに載せて与に斉に之く。
現代語訳斉の使者は孫臏を並外れた人物だと思い、こっそり(車に)乗せて、いっしょに斉へ行った。
- 以為奇
- すぐれた人物だと思う。「奇」は、ここでは、並外れてすぐれていること。
- 窃
- 「ひそカニ」。こっそりと。
- 之
- 「ゆク」。行く。
白文斉将田忌善而客待之。
書き下し斉の将田忌善みして之を客待す。
現代語訳斉の将軍の田忌は、孫臏を気に入り、客として手厚くもてなした。
- 田忌
- 斉の将軍。
- 善
- 「よミス」。よいと認める。気に入る。
- 客待
- 客として待遇する。
- 田忌が孫臏の才能を認めたことがわかる。
競馬の必勝法
白文忌数与斉諸公子馳逐重射。
書き下し忌数斉の諸公子と馳逐重射す。
現代語訳田忌は、しばしば斉の公子たちと、大金を賭けて馬を走らせ競争していた。
- 数
- 「しばしば」。たびたび。
- 諸公子
- 王の子どもたち。
- 馳逐
- 馬を走らせて競争する。競馬。
- 重射
- 大金を賭ける。
白文孫子見其馬足不甚相遠、馬有上中下輩。
書き下し孫子其の馬足甚だしくは相遠からざるも、馬に上中下の輩有るを見る。
現代語訳孫臏は、馬の脚力にはそれほど大きな差はないが、馬に上・中・下の等級があることを見抜いた。
- 孫子
- 孫臏のこと。
- 馬足
- 馬の脚力。足の速さ。
- 相遠
- (互いの力が)大きくかけ離れる。
- 輩
- 等級。ランク。
白文於是孫子謂田忌曰、「君弟重射。臣能令君勝。」
書き下し是に於いて孫子田忌に謂ひて曰はく、「君弟だ重射せよ。臣能く君をして勝たしめん。」と。
現代語訳そこで孫臏は田忌に言った、「あなた様は、ただ大きくお賭けください。私があなた様を勝たせてさしあげましょう。」と。
- 於是
- 「ここニおイテ」。そこで。
- 弟
- 「たダ」。ただ。「第」と同じ。
- 臣
- わたくし。自分をへりくだっていう語。
- 能
- 「よク」。〜できる。
白文田忌信然之、与王及諸公子逐射千金。
書き下し田忌信に之を然りとし、王及び諸公子と千金を逐射す。
現代語訳田忌は、本当にそのとおりだと思って、王や公子たちと千金を賭けて競馬をした。
- 信
- 「まことニ」。本当に。
- 然之
- そのとおりだと思う。
- 逐射千金
- 千金を賭けて競争する。千金は大金のこと。
威王の師となる
白文及臨質、孫子曰、
書き下し質に臨むに及び、孫子曰はく、
現代語訳いよいよ競馬が始まろうとするときになって、孫臏が(田忌に)言った、
- 臨質
- 競馬の場に臨む。競馬が始まろうとするときになる。
白文「今以君之下駟与彼上駟、取君上駟与彼中駟、取君中駟与彼下駟。」
書き下し「今君の下駟を以て彼の上駟に与し、君の上駟を取りて彼の中駟に与し、君の中駟を取りて彼の下駟に与せよ。」と。
現代語訳「今、あなた様のいちばん劣る馬を相手のいちばんすぐれた馬と組ませ、あなた様のいちばんすぐれた馬を相手の中くらいの馬と組ませ、あなた様の中くらいの馬を相手のいちばん劣る馬と組ませなさい。」と。
- 駟
- 四頭立ての馬車。ここでは、競走に出す馬。
- 下駟・上駟・中駟
- 下等・上等・中等の馬。
- 彼
- 相手(王や公子たち)。
- 与
- 「くみス」。組み合わせて対戦させる。
白文既馳三輩畢、而田忌一不勝而再勝、卒得王千金。
書き下し既に三輩を馳せ畢はりて、田忌一たび勝たざるも再び勝ち、卒に王の千金を得たり。
現代語訳三回の競走を終えてみると、田忌は一回は負けたが二回勝ち、とうとう王の千金を手に入れた。
- 三輩
- 三組。三回の競走。
- 畢
- 「をはル」。終わる。
- 一不勝而再勝
- 一回は勝たず、二回勝つ。二勝一敗。「再」は二度。
- 卒
- 「つひニ」。とうとう。結局。
白文於是忌進孫子於威王。
書き下し是に於いて忌孫子を威王に進む。
現代語訳そこで田忌は、孫臏を威王に推薦した。
- 進
- 推薦する。
- 威王
- 斉の王。
- 於威王
- 「於」は置き字。「威王に」と読む。
白文威王問兵法、遂以為師。
書き下し威王兵法を問ひ、遂に以て師と為す。
現代語訳威王は(孫臏に)兵法についてたずね、そのまま孫臏を師とした。
- 遂
- 「つひニ」。その結果。そのまま。
- 以為師
- 師とする。
テスト予想問題
A 語句
次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
①嘗て
②陰かに
③如く
④数
⑤弟だ
⑥卒に解答を見る
①かつて
②ひそかに
③ゆく
④しばしば
⑤ただ
⑥ついに次の語の意味を答えよ。
①疾(之を疾み)
②黥
③客待
④重射解答を見る
①ねたむ
②顔に入れ墨をする(刑罰)
③客として手厚くもてなす
④大金を賭ける
B 書き下し文・現代語訳
「龐涓恐其賢於己疾之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:龐涓其の己より賢なるを恐れて之を疾み
現代語訳:龐涓は、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れて、孫臏をねたみ「其馬足不甚相遠」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:其の馬足甚だしくは相遠からざるも
現代語訳:馬の脚力にはそれほど大きな差はないが「臣能令君勝」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:臣能く君をして勝たしめん
現代語訳:私はあなた様を勝たせることができましょう。
C 内容の読み取り
「欲隠勿見」とあるが、龐涓は孫臏をどうしようとしたのか。
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孫臏を人前に姿を現せない身にして、世に出て活躍できないようにしようとした。
龐涓が孫臏を罪に陥れたのはなぜか。本文に即して説明せよ。
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自分の能力が孫臏に及ばないと思っており、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れてねたんだから。
「斉使以為奇」の「奇」とは、ここではどのような意味か。
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並外れてすぐれていること(すぐれた人物)。
孫臏が田忌に教えた馬の組み合わせ方を説明し、その結果を答えよ。
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田忌の下等の馬を相手の上等の馬と、上等の馬を相手の中等の馬と、中等の馬を相手の下等の馬と対戦させる。
結果:田忌の二勝一敗で、王の千金を手に入れた。孫臏が威王の師となるまでの経緯を説明せよ。
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競馬で田忌を勝たせたことで田忌に推薦され、威王が孫臏に兵法をたずねて、師とした。