『史記』「孫臏」①書き下し文・現代語訳・解説|斉の威王の師と為る・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 龐涓のねたみ
  3. 斉へ逃れる
  4. 競馬の必勝法
  5. 威王の師となる
  6. テスト予想問題
  7. 続き(②)

『史記』「孫臏(そんぴん)」①「斉の威王の師と為る」の書き下し文・現代語訳・解説です。

孫臏は、戦国時代の斉の兵法家です。春秋時代の兵法家孫武(そんぶ)の子孫とされます。若いころ、龐涓(はうけん)といっしょに兵法を学びましたが、魏の将軍となった龐涓にその才能をねたまれ、罪に陥れられて両足を断たれてしまいます。それでも孫臏は、ひそかに斉へ逃れ、知恵によって認められていきます。

書き下し文・現代語訳・解説

龐涓のねたみ

本文(訓読文)

白文孫臏嘗与龐涓倶学兵法。

書き下し孫臏(そんぴん)嘗(かつ)て龐涓(はうけん)と倶(とも)に兵法(へいはふ)を学(まな)ぶ。

現代語訳孫臏はかつて、龐涓と共に兵法を学んだことがあった。

嘗
「かつテ」。以前。
与
「と」。〜と。書き下し文では平仮名にする。
倶
「ともニ」。いっしょに。

白文龐涓既事魏、得為恵王将軍。

書き下し龐涓既(すで)に魏(ぎ)に事(つか)へ、恵王(けいわう)の将軍(しやうぐん)と為(な)るを得(え)たり。

現代語訳龐涓はやがて魏に仕え、恵王の将軍となることができた。

既
ここでは、やがて。その後。
事
「つかフ」。仕える。
恵王
魏の王。梁の恵王ともいう。
得
〜することができる。

白文而自以為能不及孫臏。

書き下し而(しか)れども自(みづか)ら以為(おもへ)らく、能(のう)は孫臏に及(およ)ばずと。

現代語訳しかし、自分の能力は孫臏に及ばないと、自分でも思っていた。

而
ここは「しかレドモ」と読み、逆接。
以為
「おもヘラク」。〜と思う。「自ら以て能は孫臏に及ばずと為す」と読むこともある。
能
才能。能力。

白文乃陰使召孫臏。

書き下し乃(すなは)ち陰(ひそ)かに孫臏を召(め)さしむ。

現代語訳そこで、こっそりと(人をやって)孫臏を魏に呼び寄せた。

乃
「すなはチ」。そこで。
陰
「ひそカニ」。こっそりと。
使召
人に命じて呼び寄せさせる。

白文臏至。

書き下し臏(ひん)至(いた)る。

現代語訳孫臏がやって来た。

臏
孫臏のこと。

白文龐涓恐其賢於己疾之、

書き下し龐涓其の己(おのれ)より賢(けん)なるを恐(おそ)れて之(これ)を疾(ねた)み、

現代語訳龐涓は、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れて、孫臏をねたみ、

其
孫臏をさす。
於
置き字。ここでは比較を表し、「己」に「より」を送って読む。
疾
「ねたム」。ねたむ。

白文則以法刑断其両足而黥之、

書き下し則(すなは)ち法刑(はふけい)を以(もつ)て其の両足(りやうそく)を断(た)ちて之を黥(げい)し、

現代語訳そこで法の刑罰によって孫臏の両足を断ち、顔に入れ墨をして、

法刑
法による刑罰。罪をきせて刑罰を加えたのである。
断其両足
両足を切断する。
黥
顔に入れ墨をする刑。

白文欲隠勿見。

書き下し隠(かく)れて見(み)る勿(な)からしめんと欲(ほつ)す。

現代語訳(孫臏を)隠れ住まわせ、人前に姿を現せないようにしようとしたのである。

隠
身を隠す。
勿
ここでは「なシ」と読み、否定を表す。「見る勿からしめん」で、人前に姿を現さないようにさせる。
孫臏が二度と表に出て活躍できないようにしようとしたのである。

斉へ逃れる

本文(訓読文)

白文斉使者如梁。

書き下し斉(せい)の使者(ししや)梁(りやう)に如(ゆ)く。

現代語訳斉の使者が、魏の都の大梁に行った。

如
「ゆク」。行く。
梁
魏の都、大梁。魏は都を大梁に移したので、梁とも呼ばれる。

白文孫臏以刑徒陰見説斉使。

書き下し孫臏刑徒(けいと)を以(もつ)て陰(ひそ)かに見(まみ)えて斉の使(つか)ひに説(と)く。

現代語訳孫臏は刑罰を受けた身であったので、こっそりと斉の使者に会って、自分の考えを説いた。

刑徒
刑罰を受けた者。
以刑徒
刑罰を受けた身であるので。
見
「まみユ」。お目にかかる。
説
「とク」。自分の考えを説明する。

白文斉使以為奇、窃載与之斉。

書き下し斉の使ひ以(もつ)て奇(き)と為(な)し、窃(ひそ)かに載(の)せて与(とも)に斉に之(ゆ)く。

現代語訳斉の使者は孫臏を並外れた人物だと思い、こっそり(車に)乗せて、いっしょに斉へ行った。

以為奇
すぐれた人物だと思う。「奇」は、ここでは、並外れてすぐれていること。
窃
「ひそカニ」。こっそりと。
之
「ゆク」。行く。

白文斉将田忌善而客待之。

書き下し斉の将(しやう)田忌(でんき)善(よ)みして之を客待(かくたい)す。

現代語訳斉の将軍の田忌は、孫臏を気に入り、客として手厚くもてなした。

田忌
斉の将軍。
善
「よミス」。よいと認める。気に入る。
客待
客として待遇する。
田忌が孫臏の才能を認めたことがわかる。

競馬の必勝法

本文(訓読文)

白文忌数与斉諸公子馳逐重射。

書き下し忌数(しばしば)斉の諸公子(しよこうし)と馳逐(ちちく)重射(ちようせき)す。

現代語訳田忌は、しばしば斉の公子たちと、大金を賭けて馬を走らせ競争していた。

数
「しばしば」。たびたび。
諸公子
王の子どもたち。
馳逐
馬を走らせて競争する。競馬。
重射
大金を賭ける。

白文孫子見其馬足不甚相遠、馬有上中下輩。

書き下し孫子(そんし)其の馬足(ばそく)甚(はなは)だしくは相遠(あひとほ)からざるも、馬に上中下(じやうちゆうげ)の輩(はい)有るを見る。

現代語訳孫臏は、馬の脚力にはそれほど大きな差はないが、馬に上・中・下の等級があることを見抜いた。

孫子
孫臏のこと。
馬足
馬の脚力。足の速さ。
相遠
(互いの力が)大きくかけ離れる。
輩
等級。ランク。

白文於是孫子謂田忌曰、「君弟重射。臣能令君勝。」

書き下し是に於(お)いて孫子田忌に謂(い)ひて曰(い)はく、「君(きみ)弟(た)だ重射(ちようせき)せよ。臣(しん)能(よ)く君をして勝(か)たしめん。」と。

現代語訳そこで孫臏は田忌に言った、「あなた様は、ただ大きくお賭けください。私があなた様を勝たせてさしあげましょう。」と。

於是
「ここニおイテ」。そこで。
弟
「たダ」。ただ。「第」と同じ。
臣
わたくし。自分をへりくだっていう語。
能
「よク」。〜できる。

白文田忌信然之、与王及諸公子逐射千金。

書き下し田忌信(まこと)に之を然(しか)りとし、王及(およ)び諸公子と千金(せんきん)を逐射(ちくせき)す。

現代語訳田忌は、本当にそのとおりだと思って、王や公子たちと千金を賭けて競馬をした。

信
「まことニ」。本当に。
然之
そのとおりだと思う。
逐射千金
千金を賭けて競争する。千金は大金のこと。

威王の師となる

本文(訓読文)

白文及臨質、孫子曰、

書き下し質(しつ)に臨(のぞ)むに及(およ)び、孫子曰(い)はく、

現代語訳いよいよ競馬が始まろうとするときになって、孫臏が(田忌に)言った、

臨質
競馬の場に臨む。競馬が始まろうとするときになる。

白文「今以君之下駟与彼上駟、取君上駟与彼中駟、取君中駟与彼下駟。」

書き下し「今(いま)君の下駟(かし)を以(もつ)て彼(か)の上駟(じやうし)に与(くみ)し、君の上駟を取(と)りて彼の中駟(ちゆうし)に与し、君の中駟を取りて彼の下駟に与せよ。」と。

現代語訳「今、あなた様のいちばん劣る馬を相手のいちばんすぐれた馬と組ませ、あなた様のいちばんすぐれた馬を相手の中くらいの馬と組ませ、あなた様の中くらいの馬を相手のいちばん劣る馬と組ませなさい。」と。

駟
四頭立ての馬車。ここでは、競走に出す馬。
下駟・上駟・中駟
下等・上等・中等の馬。
彼
相手(王や公子たち)。
与
「くみス」。組み合わせて対戦させる。

白文既馳三輩畢、而田忌一不勝而再勝、卒得王千金。

書き下し既(すで)に三輩(さんぱい)を馳(は)せ畢(を)はりて、田忌一(ひと)たび勝(か)たざるも再(ふたた)び勝ち、卒(つひ)に王の千金を得(え)たり。

現代語訳三回の競走を終えてみると、田忌は一回は負けたが二回勝ち、とうとう王の千金を手に入れた。

三輩
三組。三回の競走。
畢
「をはル」。終わる。
一不勝而再勝
一回は勝たず、二回勝つ。二勝一敗。「再」は二度。
卒
「つひニ」。とうとう。結局。

白文於是忌進孫子於威王。

書き下し是に於いて忌孫子を威王(ゐわう)に進(すす)む。

現代語訳そこで田忌は、孫臏を威王に推薦した。

進
推薦する。
威王
斉の王。
於威王
「於」は置き字。「威王に」と読む。

白文威王問兵法、遂以為師。

書き下し威王兵法を問(と)ひ、遂(つひ)に以(もつ)て師(し)と為(な)す。

現代語訳威王は(孫臏に)兵法についてたずね、そのまま孫臏を師とした。

遂
「つひニ」。その結果。そのまま。
以為師
師とする。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
    ①嘗て
    ②陰かに
    ③如く
    ④数
    ⑤弟だ
    ⑥卒に

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    ①かつて
    ②ひそかに
    ③ゆく
    ④しばしば
    ⑤ただ
    ⑥ついに

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①疾(之を疾み)
    ②黥
    ③客待
    ④重射

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    ①ねたむ
    ②顔に入れ墨をする(刑罰)
    ③客として手厚くもてなす
    ④大金を賭ける

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「龐涓恐其賢於己疾之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:龐涓其の己より賢なるを恐れて之を疾み
    現代語訳:龐涓は、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れて、孫臏をねたみ

  2. 「其馬足不甚相遠」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:其の馬足甚だしくは相遠からざるも
    現代語訳:馬の脚力にはそれほど大きな差はないが

  3. 「臣能令君勝」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:臣能く君をして勝たしめん
    現代語訳:私はあなた様を勝たせることができましょう。

C 内容の読み取り

  1. 「欲隠勿見」とあるが、龐涓は孫臏をどうしようとしたのか。

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    孫臏を人前に姿を現せない身にして、世に出て活躍できないようにしようとした。

  2. 龐涓が孫臏を罪に陥れたのはなぜか。本文に即して説明せよ。

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    自分の能力が孫臏に及ばないと思っており、孫臏が自分よりすぐれていることを恐れてねたんだから。

  3. 「斉使以為奇」の「奇」とは、ここではどのような意味か。

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    並外れてすぐれていること(すぐれた人物)。

  4. 孫臏が田忌に教えた馬の組み合わせ方を説明し、その結果を答えよ。

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    田忌の下等の馬を相手の上等の馬と、上等の馬を相手の中等の馬と、中等の馬を相手の下等の馬と対戦させる。
    結果:田忌の二勝一敗で、王の千金を手に入れた。

  5. 孫臏が威王の師となるまでの経緯を説明せよ。

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    競馬で田忌を勝たせたことで田忌に推薦され、威王が孫臏に兵法をたずねて、師とした。

続き(②)