『史記』「孫臏(そんぴん)」③「遂に豎子の名を成さしむ」の書き下し文・現代語訳・解説です。出典は『史記』孫子呉起列伝です。
②「十万の竈を為らしめよ」の書き下し文・現代語訳・解説を読む
②では、孫臏の計略にかかった魏の将軍龐涓(はうけん)が、歩兵を残し、精鋭だけで斉軍を追いかけました。③では、孫臏が馬陵(ばりよう)で待ち伏せをして魏軍を破ります。かつて孫臏を罪に陥れた龐涓は、ここで最期を迎えます。
書き下し文・現代語訳・解説
馬陵での待ち伏せ
白文孫子度其行、暮当至馬陵。
書き下し孫子其の行を度るに、暮れに当に馬陵に至るべし。
現代語訳孫臏が魏軍の行軍の速さを計算してみると、夕暮れにはきっと馬陵に着くはずであった。
- 孫子
- 孫臏のこと。
- 度
- 「はかル」。計算する。見積もる。
- 其行
- 龐涓の率いる魏軍の行軍(の速さ)。
- 馬陵
- 地名。
白文馬陵道狭而旁多阻隘、可伏兵。
書き下し馬陵は道狭くして旁ら阻隘多く、兵を伏すべし。
現代語訳馬陵は道が狭いうえに、そのわきには険しく狭い所が多く、兵を隠しておくことができた。
- 旁
- 「かたはラ」。道のわき。両側。
- 阻隘
- 険しくて狭い所。
- 伏兵
- 兵を隠しておく。待ち伏せの兵を置く。
- 可
- 「べシ」。ここでは「〜できる」という可能の意味。
白文乃斫大樹、白而書之曰、「龐涓死于此樹之下。」
書き下し乃ち大樹を斫り、白げて之に書して曰はく、「龐涓此の樹の下に死せん。」と。
現代語訳そこで大木の皮を削り取って白い木はだを出し、そこに「龐涓はこの木の下で死ぬだろう。」と書いた。
- 斫
- 「きル」。刃物で削る。
- 白
- 「しらグ」。皮を削って、白い木はだを出す。
- 于
- 置き字。場所を表す。
白文於是令斉軍善射者、万弩夾道而伏。
書き下し是に於いて斉の軍の善く射る者をして、万弩道を夾みて伏せしむ。
現代語訳そして、斉の軍の弓の上手な者たちに、たくさんのいしゆみを持たせて道の両側に隠れさせた。
- 善射者
- 弓を射るのが上手な者。
- 弩
- いしゆみ。ばねじかけで矢を放つ弓。
- 万弩
- 数多くのいしゆみ。
- 夾道
- 道を両側からはさむ。
白文期曰、「暮見火挙而倶発。」
書き下し期して曰はく、「暮れに火の挙がるを見て倶に発せよ。」と。
現代語訳そして、「夕暮れに火が挙がるのを見たら、一斉に(矢を)放て。」と言いつけておいた。
- 期
- あらかじめ約束する。取り決める。
- 倶
- 「ともニ」。いっしょに。一斉に。
- 発
- 矢を放つ。
龐涓の最期
白文龐涓果夜至斫木下、見白書。
書き下し龐涓果たして夜斫木の下に至り、白書を見る。
現代語訳龐涓は、孫臏の予想どおり、夜になって皮を削った木の下にやって来て、白い木はだに書かれた文字を見つけた。
- 果
- 「はたシテ」。予想どおり。案の定。
- 斫木
- 皮を削った木。
- 白書
- 白い木はだに書いた文字。
白文乃鑽火燭之。
書き下し乃ち火を鑽りて之を燭らす。
現代語訳そこで火をおこして、その文字を照らした。
- 鑽火
- 木をきりもみして火をおこす。
- 燭
- 「てらス」。照らす。
- 之
- 木に書かれた文字。
白文読其書、未畢、斉軍万弩倶発。
書き下し其の書を読み、未だ畢はらざるに、斉の軍の万弩倶に発す。
現代語訳その文字を読んで、まだ読み終わらないうちに、斉の軍のたくさんのいしゆみが、一斉に放たれた。
- 未畢
- まだ(読み)終わらない。
- 畢
- 「をはル」。終わる。
白文魏軍大乱相失。
書き下し魏の軍大いに乱れ相失す。
現代語訳魏の軍は大混乱におちいり、互いを見失ってばらばらになった。
- 相失
- 互いに見失う。仲間どうしの連絡がとれなくなるほど混乱する。同士討ちをしたと解することもある。
白文龐涓自知智窮兵敗、乃自剄曰、「遂成豎子之名。」
書き下し龐涓自ら智窮まり兵敗るるを知り、乃ち自剄して曰はく、「遂に豎子の名を成さしむ。」と。
現代語訳龐涓は、自分の知恵も尽き、軍も敗れたことをさとって、自分で首をはねて言った、「とうとうあの小僧に名をあげさせてしまった。」と。
- 智窮
- 知恵が尽きる。打つ手がなくなる。
- 自剄
- 自分で首をはねて死ぬ。
- 遂
- 「つひニ」。とうとう。
- 豎子
- 小僧。人をののしっていう語。ここでは孫臏をさす。
- 成名
- 名をあげる。「成さしむ」で、名をあげさせる。
孫臏の名が天下に知れわたる
白文斉因乗勝、尽破其軍、虜魏太子申以帰。
書き下し斉因りて勝ちに乗じて、尽く其の軍を破り、魏の太子申を虜にし以て帰る。
現代語訳斉はこうして勝ちに乗じて、魏の軍をすっかり打ち破り、魏の太子の申を捕虜にして帰国した。
- 因
- 「よリテ」。そこで。こうして。
- 乗勝
- 勝った勢いに乗る。
- 尽
- 「ことごとク」。すべて。
- 太子申
- 魏の恵王の太子。名は申。
- 虜
- 「とりこニス」。捕虜にする。
白文孫臏以此名顕天下。
書き下し孫臏此を以て名天下に顕る。
現代語訳孫臏は、この戦いによって、名が天下に知れわたった。
- 以此
- このことによって。馬陵の戦いで魏軍を破ったことをさす。
- 顕
- 「あらはル」。広く知られる。
白文世伝其兵法。
書き下し世其の兵法を伝ふ。
現代語訳世の中では、孫臏の兵法が伝えられている。
- 其兵法
- 孫臏の兵法。
テスト予想問題
A 語句
次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
①度る
②旁ら
③果たして
④自ら
⑤尽く解答を見る
①はかる
②かたわら
③はたして
④みずから
⑤ことごとく次の語の意味を答えよ。
①阻隘
②期(期して曰はく)
③相失
④豎子解答を見る
①険しく狭い所
②あらかじめ約束する(取り決める)
③互いを見失うほど混乱する(ばらばらになる)
④小僧(人をののしっていう語)
B 書き下し文・現代語訳
「暮当至馬陵」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:暮れに当に馬陵に至るべし
現代語訳:夕暮れにはきっと馬陵に着くはずだ。「令斉軍善射者、万弩夾道而伏」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:斉の軍の善く射る者をして、万弩道を夾みて伏せしむ
現代語訳:斉の軍の弓の上手な者たちに、たくさんのいしゆみを持たせて道の両側に隠れさせた。「遂成豎子之名」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:遂に豎子の名を成さしむ
現代語訳:とうとうあの小僧に名をあげさせてしまった。
C 内容の読み取り
孫臏が馬陵を待ち伏せの場所に選んだのはなぜか。本文に即して説明せよ。
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龐涓の軍が夕暮れに着くと計算でき、しかも道が狭く、両側に険しい所が多くて、兵を隠しておくことができたから。
孫臏が「暮見火挙而倶発」と命じたのは、どのようなことを予測したからか。
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夜に大木の下に来た龐涓が、書かれた文字を読むために火をつけること。
「魏軍大乱相失」とあるが、魏軍がこのようになったのはなぜか。
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暗い夜に、隠れていた斉軍から突然いしゆみを一斉に射かけられたから。
「豎子」とは誰をさすか。また、この言葉から龐涓のどのような気持ちが読み取れるか。
解答を見る
孫臏。
孫臏の計略にかかって敗れた無念さと、最後まで孫臏を見下そうとする負け惜しみの気持ち。