『史記』「孫臏」②書き下し文・現代語訳・解説|十万の竈を為らしめよ・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 斉軍、大梁へ向かう
  3. 孫臏の計略
  4. 龐涓の追撃
  5. テスト予想問題
  6. 続き(③)

『史記』「孫臏(そんぴん)」②「十万の竈を為らしめよ」の書き下し文・現代語訳・解説です。出典は『史記』孫子呉起列伝です。

①では、龐涓(はうけん)にねたまれて両足を断たれた孫臏が斉に逃れ、威王の師となりました。②では、魏と斉の戦いが始まります。魏の将軍は、かつて孫臏を罪に陥れた龐涓です。孫臏は、斉の兵は臆病だと思いこんでいる魏軍の心理を利用する計略を立てます。

書き下し文・現代語訳・解説

斉軍、大梁へ向かう

本文(訓読文)

白文魏与趙攻韓。

書き下し魏(ぎ)趙(てう)と韓(かん)を攻(せ)む。

現代語訳魏は、趙といっしょに韓を攻めた。

魏・趙・韓
戦国時代の国。もとは一つの晋の国が三つに分かれてできた。
与
「と」。〜と。書き下し文では平仮名にする。

白文韓告急於斉。

書き下し韓急(きふ)を斉(せい)に告(つ)ぐ。

現代語訳韓は、危急を斉に知らせて(救いを求めた)。

告急
危急を知らせる。救援を求める。
於
置き字。「斉に」と読む。

白文斉使田忌将而往。

書き下し斉田忌(でんき)をして将(しやう)として往(ゆ)かしむ。

現代語訳斉は、田忌を将軍として出撃させた。

将
将軍。「将として」で、将軍となって。
而
置き字。

白文直走大梁。

書き下し直(ただ)ちに大梁(たいりやう)に走(おもむ)く。

現代語訳(田忌の軍は)まっすぐ魏の都の大梁に向かった。

直
まっすぐに。
走
「おもむク」。向かう。
大梁
魏の都。

白文魏将龐涓聞之、去韓而帰。

書き下し魏の将(しやう)龐涓(はうけん)之(これ)を聞(き)き、韓を去(さ)りて帰(かへ)る。

現代語訳魏の将軍龐涓はこれを聞いて、韓から引きあげて(魏へ)帰った。

之
斉の軍が魏の都の大梁に向かっていること。
去韓
韓への攻撃をやめて、韓から離れる。

白文斉軍既已過而西矣。

書き下し斉の軍(ぐん)既已(すで)に過(す)ぎて西(にし)す。

現代語訳斉の軍は、そのときすでに(国境を)越えて西へ進んでいた。

既已
二字で「すでニ」。
過
斉と魏の国境を越えること。
西
「にしス」。西へ進む。魏は斉の西にある。
矣
置き字。読まない。

孫臏の計略

本文(訓読文)

白文孫子謂田忌曰、「彼三晋之兵、素悍勇而軽斉、斉号為怯。

書き下し孫子(そんし)田忌に謂(い)ひて曰(い)はく、「彼(か)の三晋(さんしん)の兵(へい)は、素(もと)より悍勇(かんゆう)にして斉を軽(かろ)んじ、斉をば号(がう)して怯(けふ)と為(な)す。

現代語訳孫臏が田忌に言った、「あの魏の兵は、もともと気が荒く勇ましくて、斉を軽く見ており、斉の兵を臆病者と呼んでいます。

孫子
孫臏のこと。
三晋
晋が分かれてできた韓・魏・趙の三国。ここでは魏をさす。
素
「もとヨリ」。もともと。
悍勇
気が荒く、勇ましい。
号
言いふらす。呼ぶ。
怯
臆病。臆病者。

白文善戦者因其勢而利導之。

書き下し善(よ)く戦(たたか)ふ者(もの)は其の勢(いきほ)ひに因(よ)りて之を利導(りだう)す。

現代語訳戦いのうまい者は、そのなりゆきを利用して、自分に有利なように導くものです。

善戦者
戦いの上手な者。
勢
なりゆき。情勢。ここでは、魏の兵が斉の兵を臆病だと見下していること。
因
「よル」。〜を利用する。
利導
うまく利用して、勝利に導く。

白文兵法、『百里而趣利者、蹶上将、五十里而趣利者、軍半至。』

書き下し兵法(へいはふ)に、『百里(ひやくり)にして利(り)に趣(おもむ)く者(もの)は、上将(じやうしやう)を蹶(たふ)され、五十里(ごじふり)にして利に趣く者は、軍半(なか)ば至(いた)る。』と。

現代語訳兵法の書に、『百里の道のりを、利益を求めて急いで進む者は、総大将を討ち取られ、五十里の道のりを、利益を求めて急いで進む者は、軍の半分しか到着しない。』とあります。

兵法
ここでは兵法の書。孫臏の先祖とされる孫武の『孫子』に、同じ趣旨の言葉がある。
趣利
利益を求めて急いで進む。
蹶
「たふス」。倒す。「蹶され」で、倒される。
上将
上将軍。総大将。
軍半至
軍の半分だけが到着する。

白文使斉軍入魏地為十万竈、明日為五万竈、又明日為三万竈。」

書き下し斉の軍をして魏の地(ち)に入(い)り十万(じふまん)の竈(かまど)を為(つく)り、明日(みやうにち)には五万(ごまん)の竈を為り、又(また)明日には三万(さんまん)の竈を為らしめよ。」と。

現代語訳斉の軍に、魏の領地に入ったら十万人分のかまどを作らせ、次の日には五万人分のかまどを、さらにその次の日には三万人分のかまどを作らせなさい。」と。

竈
かまど。兵の食事を作るためのもの。
為
「つくル」。作る。
使
使役。「斉の軍をして……為らしめよ」と、最後の「為」から返って読む。

龐涓の追撃

本文(訓読文)

白文龐涓行三日、大喜曰、「我固知斉軍怯。

書き下し龐涓行(ゆ)くこと三日(みつか)、大(おほ)いに喜(よろこ)びて曰(い)はく、「我(われ)固(もと)より斉の軍の怯(けふ)なるを知(し)る。

現代語訳龐涓は三日間(斉軍のあとを追って)進み、大喜びして言った、「わしは、もとから斉の軍が臆病なことを知っていたのだ。

行三日
三日間行軍する。
固
「もとヨリ」。もともと。前から。

白文入吾地三日、士卒亡者過半矣。」

書き下し吾(わ)が地(ち)に入(い)りて三日、士卒(しそつ)の亡(に)ぐる者(もの)半(なか)ばに過(す)ぐ。」と。

現代語訳わが国の領地に入って三日で、兵士の逃げた者が半分を超えたぞ。」と。

士卒
兵士。
亡
「にグ」。逃げる。
過半
半分を超える。かまどが十万から三万に減ったのを見て、こう考えたのである。

白文乃棄其歩軍、与其軽鋭、倍日并行逐之。

書き下し乃(すなは)ち其の歩軍(ほぐん)を棄(す)て、其の軽鋭(けいえい)と、日を倍(ばい)にし行(かう)を并(あは)せて之を逐(お)ふ。

現代語訳そこで、歩兵の部隊を後に残し、身軽な精鋭の兵とともに、二日分の道のりを一日で進んで、斉の軍を追いかけた。

歩軍
歩兵の部隊。
軽鋭
身軽で、すばやい精鋭の兵。
倍日并行
一日で二日分の道のりを進む。昼も夜も休まず急ぐこと。
逐
「おフ」。追いかける。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
    ①直ちに
    ②既已に
    ③素より
    ④固より
    ⑤乃ち

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    ①ただちに
    ②すでに
    ③もとより
    ④もとより
    ⑤すなわち

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①悍勇
    ②怯
    ③士卒
    ④軽鋭

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    ①気が荒く、勇ましいこと
    ②臆病(臆病者)
    ③兵士
    ④身軽で、すばやい精鋭の兵

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「斉使田忌将而往」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:斉田忌をして将として往かしむ
    現代語訳:斉は田忌を将軍として出撃させた。

  2. 「善戦者因其勢而利導之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:善く戦ふ者は其の勢ひに因りて之を利導す
    現代語訳:戦いのうまい者は、そのなりゆきを利用して、自分に有利なように導くものだ。

C 内容の読み取り

  1. 「魏将龐涓聞之」の「之」とは、どのようなことか。

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    斉の軍が、魏の都の大梁に向かっていること。

  2. 「其勢」とは、どのような情勢をさしているか。本文に即して説明せよ。

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    魏の兵が、もともと気が荒く勇ましくて斉を軽く見ており、斉の兵を臆病者と呼んでいるという情勢。

  3. 孫臏が引用した兵法の言葉は、どのようなことを説いているか。

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    利益を求めて遠くまで無理な強行軍をすると、大将を討たれたり、兵の半分しか着かなかったりするので、強行軍をしてはいけないということ。

  4. 孫臏が、斉軍に竈の数を日ごとに減らして作らせたのは、なぜか。

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    斉の兵が次々に逃げて減っているように見せかけ、斉軍を臆病だと見下している魏軍を油断させて、無理な追撃をさせるため。

  5. 「倍日并行」とは、どういうことか。

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    一日で二日分の道のりを進むこと(昼夜兼行で急ぐこと)。

  6. 孫臏の兵法の言葉に反する龐涓の行動を、本文中から一文で抜き出せ(訓点不要)。

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    乃棄其歩軍、与其軽鋭、倍日并行逐之。

続き(③)