『梁上君子(りょうじょうのくんし)』(梁上の君子)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、後漢の歴史を記した『後漢書(ごかんじょ)』(陳寔伝)です。『後漢書』は、六朝時代の宋の范曄(はんよう)がまとめた歴史書です。
書き下し文・現代語訳・解説
盗人が梁の上に隠れる
白文時歳荒民倹。
書き下し時に歳荒れ民倹なり。
現代語訳その年は凶作で、人々の暮らしは貧しかった。
- 歳
- 穀物の実り。「歳荒る」で、作物が実らない。凶作である。
- 倹
- 貧しい。生活が苦しい。
白文有盗夜入其室、止於梁上。
書き下し盗有りて夜其の室に入り、梁上に止まる。
現代語訳盗人がいて、夜、陳寔の部屋に入り込み、梁の上にひそんでいた。
- 盗
- 盗人。泥棒。
- 其室
- 陳寔の部屋。陳寔は後漢の人で、太丘県の長官をつとめ、人徳のある公正な人物として知られる。
- 梁上
- はりの上。屋根裏。
- 止
- 「とどマル」。じっととどまる。隠れている。
陳寔が子や孫に教える
白文寔陰見、乃起自整払、呼命子孫、正色訓之曰、
書き下し寔陰かに見、乃ち起ちて自ら整払し、呼びて子孫に命じ、色を正し之に訓へて曰はく、
現代語訳陳寔はこっそりと(盗人を)見つけると、そこで起き上がって自分で身なりを整え、子や孫を呼び集め、表情を引きしめて彼らに教えて言うことには、
- 寔
- 陳寔。
- 陰
- 「ひそカニ」。こっそりと。
- 乃
- 「すなはチ」。そこで。
- 整払
- 衣服を整え、ちりを払う。身なりを整える。
- 正色
- 顔つきを改める。まじめな表情になる。
- 訓
- 「をしフ」。教えさとす。
- 之
- 子や孫を指す。
白文「夫人不可不自勉。
書き下し「夫れ人は自ら勉めざるべからず。
現代語訳「そもそも人は、自分から努め励まなければならない。
- 夫
- 「そレ」。文頭に置いて「そもそも」の意味を表す。
- 勉
- 「つとム」。努力する。
白文不善之人、未必本悪。
書き下し不善の人も、未だ必ずしも本より悪ならず。
現代語訳善くない行いをする者であっても、生まれつきの悪人だとは限らない。
- 不善之人
- よくない行いをする人。
- 本
- 「もとヨリ」。もともと。生まれつき。
白文習以性成、遂至於此。
書き下し習ひて以つて性成り、遂に此に至る。
現代語訳(悪い)習慣が積み重なることでその人の性質ができあがり、しまいにはこのような(盗みをする)ことになるのだ。
- 習
- 習慣。くり返し身につけたこと。
- 以
- ここは「習ひて以つて」で、「習慣によって」。
- 性成
- 性質ができあがる。
- 遂
- 「つひニ」。とうとう。しまいには。
- 此
- よくない行いをするようになること。ここでは、盗みをするようになること。
白文梁上君子者是矣。」
書き下し梁上の君子は是れなり。」と。
現代語訳梁の上の君子(梁の上にいるお方)が、まさにそれだ。」と。
- 梁上君子
- 梁の上にいる君子。梁の上に隠れている盗人を指す。
- 君子
- ふつうは徳の高い立派な人をいうが、ここでは盗人を遠回しに呼んでいる。
- 者
- ここは「は」と読み、書き下し文ではひらがなにする。
- 是
- ここでは、「不善の人も、もとから悪人ではなく、習慣で悪くなる」という話の例を指す。
盗人が罪をわびる
白文盗大驚、自投於地、稽顙帰罪。
書き下し盗大いに驚き、自ら地に投じ、稽顙して罪に帰す。
現代語訳盗人はたいへん驚き、自分から(梁の上から)床に飛び降り、額を地につけて罪をわびた。
- 投於地
- 地面(床)に身を投げる。飛び降りる。
- 稽顙
- 額を地面につけて礼をする。深くわびること。
- 帰罪
- 罪を認めて罰を受けようとする。
陳寔が盗人を諭す
白文寔徐譬之曰、「視君状貌、不似悪人、宜深剋己反善。
書き下し寔徐ろに之を譬して曰はく、「君の状貌を視るに、悪人に似ず、宜しく深く己に剋ちて善に反るべし。
現代語訳陳寔は落ち着いて盗人に言い聞かせた、「あなたの顔つきや姿を見ると、悪人のようには見えない。よく自分(の欲)に打ち勝って、善にたち返るのがよい。
- 徐
- 「おもむロニ」。ゆっくりと。落ち着いて。
- 譬
- 「さとス」。言い聞かせる。
- 君
- あなた。盗人を指す。
- 状貌
- 顔つきや姿。
- 剋己
- 自分(の欲や弱さ)に打ち勝つ。
- 反善
- 善にもどる。
白文然此当由貧困。」
書き下し然れども此れ当に貧困に由るべし。」と。
現代語訳しかし、こうなったのは、きっと貧しさのせいであろう。」と。
- 然
- 「しかレドモ」。しかし。
- 此
- 盗人が盗みをしようとしたこと。
- 由
- 「よル」。原因となる。~のせいである。
- 貧困
- 貧しくて生活に困ること。凶作(歳荒)で人々が貧しかったことによる。
白文令遺絹二匹。
書き下し絹二匹を遺らしむ。
現代語訳(家の者に命じて)絹二匹を盗人に贈らせた。
- 令
- 「しム」。使役。~させる。だれにさせたかは書かれていないが、家の者にさせたと考えられる。
- 遺
- 「おくル」。贈る。与える。
- 匹
- 布を数える単位。
白文自是一県無復盗窃。
書き下し是より一県に復た盗窃無し。
現代語訳このことがあってから、県じゅうで二度と盗みは起こらなかった。
- 自是
- 「これヨリ」。このときから。
- 一県
- 県全体。
- 無復A
- 「復たA無し」。二度とAがない。
- 盗窃
- 盗み。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①陰(かに)
②訓(へて)
③徐(ろに)
④譬(して)
⑤自是解答を見る
①ひそかに
②おしえて
③おもむろに
④さとして
⑤これより「倹」「整払」「稽顙」は、本文ではそれぞれどのような意味か。
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倹=貧しい
整払=身なりを整える
稽顙=額を地につけて礼をする(深くわびる)
B 書き下し文・現代語訳
「夫人不可不自勉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:夫れ人は自ら勉めざるべからず。
現代語訳:そもそも人は、自分から努め励まなければならない。「不善之人、未必本悪」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:不善の人も、未だ必ずしも本より悪ならず。
現代語訳:善くない行いをする者であっても、生まれつきの悪人だとは限らない。「宜深剋己反善」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:宜しく深く己に剋ちて善に反るべし。
現代語訳:よく自分に打ち勝って、善にたち返るのがよい。「自是一県無復盗窃」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:是より一県に復た盗窃無し。
現代語訳:このことがあってから、県じゅうで二度と盗みは起こらなかった。
C 内容の読み取り
「遂至於此」の「此」は、どのようなことを指しているか。
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もともと悪人ではなかった人が、悪い習慣が身につくことで、盗みなどのよくない行いをするようになること。
「梁上君子」とは、具体的にはだれのことか。
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陳寔の部屋に忍び込み、梁の上に隠れている盗人。
盗人が「自投於地、稽顙帰罪」したのはなぜだと考えられるか。
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自分が隠れていることに陳寔が気づいていると知って驚き、しかも自分を「君子」と呼んで、もとから悪人なのではないと言ってくれた陳寔の言葉に心を打たれたから。
陳寔は、盗人が盗みをしようとした原因を何だと考えたか。また、そのような状況になったのはなぜか。
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原因=貧困(貧しさ)
そのようになったのは、その年が凶作(歳荒)で、人々の暮らしが苦しかったから。この話から、陳寔はどのような人物だと読み取れるか。
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人はもとから悪いのではないと考えて盗人を責めずに立ち直らせようとする心の広い人物であり、また、盗みのもとになった貧しさを思いやって絹を贈る、情け深い人物。