陶淵明(とうえんめい)の『飲酒(いんしゅ)』の書き下し文・現代語訳・解説です。教科書に載っている「結廬在人境(廬を結びて人境に在り)」で始まる詩(其五)を読みます。
作者は人里に住んでいますが、訪ねて来る客の車馬の騒がしさはありません。心が世俗から離れているからです。垣根のそばで菊を摘み、ふと目を上げると南山が見えます。夕暮れの山の空気はすばらしく、鳥たちは連れだってねぐらへ帰っていきます。その中に「真意」があると感じたのに、説明しようとすると言葉が出てこない――自然の中で心静かに暮らす境地を詠んだ詩です。
書き下し文・現代語訳・解説
白文結廬在人境
書き下し廬を結びて人境に在り
現代語訳粗末な家を人里の中に構えて住んでいるが、
- 結廬
- 粗末な家を構える。「廬」は、いおり。粗末な家。
- 人境
- 人里。世間の人々が住んでいるところ。山奥ではないことをいう。
白文而無車馬喧
書き下し而も車馬の喧しき無し
現代語訳それなのに、訪ねて来る人の車馬の騒がしさはない。
- 而
- 「しかモ」。それなのに。ここは逆接。
- 車馬
- 訪ねて来る人が乗る車や馬。役人などの訪問をいう。
- 喧
- やかましい。騒がしい。
白文問君何能爾
書き下し君に問ふ何ぞ能く爾ると
現代語訳「どうしてそんなふうにしていられるのか」と、君に問うてみる。
- 君
- ここでは作者自身のこと。自分で自分に問いかけている(自問自答)。
- 能
- 「よク」。〜できる。
- 爾
- 「しかリ」。そのようである。第一・二句の、人里にいながら世間のわずらわしさのない暮らしをさす。
白文心遠地自偏
書き下し心遠ければ地自ら偏なり
現代語訳(答えて言うには、)心が世俗から遠く離れているので、住む土地も自然とへんぴなところと同じになるのだ。
- 心遠
- 心が世俗(名誉や利益を求める世間のこと)から遠く離れている。
- 自
- 「おのづかラ」。自然と。
- 偏
- へんぴである。中心から離れて、かたよっている。
白文采菊東籬下
書き下し菊を采る東籬の下
現代語訳家の東側の垣根のあたりで菊の花を摘み、
- 采
- 「とル」。摘み取る。
- 東籬
- 家の東側の垣根。「籬」は、竹や柴で編んだ垣根。まがき。
- 下
- 「もと」。あたり。
白文悠然見南山
書き下し悠然として南山を見る
現代語訳ゆったりとした心でいると、はるかに南山の姿が目に入る。
- 悠然
- ゆったりとして落ち着いているさま。
- 南山
- 南にある山。廬山(今の江西省にある山)をさすとするのが通説。
- 見
- 自然に目に入る。見ようとして見るのではない。
白文山気日夕佳
書き下し山気日夕に佳く
現代語訳山の空気は、夕暮れどきがことにすばらしく、
- 山気
- 山の空気。山のたたずまい。
- 日夕
- 夕暮れ。
- 佳
- よい。すばらしい。
白文飛鳥相与還
書き下し飛鳥相与に還る
現代語訳飛ぶ鳥たちは連れだって、ねぐらへ帰っていく。
- 相与
- 「あひともニ」。連れだって。いっしょに。
- 還
- 帰る。朝に飛び立った鳥が、夕方にねぐらへもどること。
白文此中有真意
書き下し此の中に真意有り
現代語訳この中にこそ、本当の在り方(真実)があるのだ。
- 此中
- 直接には、第七・八句の、夕暮れの山と、ねぐらへ帰る鳥の光景をさす。菊を摘み南山を見る第五・六句を含めて考えることもある。
- 真意
- この世の本当の在り方。作者が求める理想の境地。
白文欲弁已忘言
書き下し弁ぜんと欲して已に言を忘る
現代語訳それを説明しようとしても、もう言葉を忘れてしまっている。
- 弁
- はっきり区別して説明する。
- 欲
- 「〜んとほっス」。〜しようとする。
- 已
- 「すでニ」。もう。早くも。
- 忘言
- 言葉を忘れる。「真意」は言葉では言い表しきれないということ。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者と詩の形式を答えよ。また、押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:陶潜(陶淵明) 詩の形式:五言古詩 押韻:喧・偏・山・還・言
次の語を、送り仮名まで含めてどう読むか。現代仮名遣いのひらがなで書け。
①爾る
②自ら
③相与に
④已に解答を見る
①しかる
②おのずから
③あいともに
④すでに次の語の意味を答えよ。
①廬
②人境
③悠然
④日夕解答を見る
①粗末な家
②人里
③ゆったりとして落ち着いているさま
④夕暮れ
B 書き下し文・現代語訳
「問君何能爾」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:君に問ふ何ぞ能く爾ると
現代語訳:「どうしてそのようにしていられるのか」と、君に問う。「心遠地自偏」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:心遠ければ地自ら偏なり
現代語訳:心が世俗から遠く離れているので、住む土地も自然とへんぴになる。「欲弁已忘言」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:弁ぜんと欲して已に言を忘る
現代語訳:説明しようとしても、もう言葉を忘れてしまっている。
C 内容の読み取り
「問君何能爾」について、①「君」とは誰のことか。②「爾」は、どのようなことをさしているか。
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①作者自身(自問自答している)。
②人里に住んでいるのに、訪ねて来る車馬の騒がしさがなく、静かに暮らしていること。「心遠」とは、心が何から遠く離れていることか。
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世俗(名誉や利益を求める世間のわずらわしさ)。
「此中」は、直接には第何句と第何句の内容をさすか。また、それはどのような光景か。
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第七句と第八句。
夕暮れどきの山の空気がすばらしく、鳥たちが連れだってねぐらへ帰っていく光景。「欲弁已忘言」とは、どういうことを言っているか。
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自然の中に感じた「真意」は、言葉で説明しようとしても、言葉では言い表しきれないということ。