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『史記』廉頗と藺相如②書き下し文・現代語訳

藺相如固止之曰、「公之視廉将軍、孰与秦王。」

藺相如固く之を止めて曰はく、「公の廉将軍を視ること、秦王に孰与れぞ。」と。

藺相如は固くこれを止めて言うことには、「あなたたちが廉将軍を見て、秦王と比べてどちらが上か。」と。

A孰与B…「AはBに孰与(いづ)れぞ」AはBと比べてどうか。

※Bの方が上だという意味がこめられていることが多い。

曰、「不若也。」

曰はく、「若かざるなり。」と。

言うことには、「(廉頗は秦王には)及びません。」と。

A不若B…「A Bに()かず」AはBに及ばない。

相如曰、「夫以秦王之威、而相如廷叱之、辱其群臣。相如雖駑、独畏廉将軍哉。

相如曰はく、「夫れ秦王の威を以てするも、相如之を廷叱し、其の群臣を辱む。相如駑なりと雖も、独り廉将軍を畏れんや。

相如が言うことには、「そもそも秦王の威厳に対しても、相如(=私)は朝廷で彼を𠮟りつけ、その群臣に屈辱を与えた。相如は愚かではあるが、どうして廉将軍を恐れるだろうか、いや、恐れない。

・夫…「そレ」そもそも

・雖~…主語が上にあるときは、「~けれども」。

独~哉…「独り~んや」どうして~か、いや~ない(反語)

・駑…愚か

自分は廉頗より上の秦王に対しても恐れずに叱責したのだから、廉頗を恐れて逃げ隠れしているのではない、ということ。

顧吾念之、彊秦之所以不敢加兵於趙者、徒以吾両人在也。

だ吾之をおもふに、彊秦きやうしんの敢へて兵を趙に加へざる所以の者は、徒だ吾が両人の在るを以てなり。

ただ私が考えるに、強国の秦が兵を趙に向けようとしない理由は、ただ私たち二人(廉頗と藺相如)がいるからである。

・不敢~…「敢へて~ず」(進んでは)~しようとしない。

今両虎共闘、其勢不倶生。

今両虎共に闘はば、其の勢ひ(とも)には生きざらん。

今二頭の虎が互いに戦えば、なりゆきとして二人ともは生き残らないだろう(少なくとも一方は死ぬ)。

〇両虎…廉頗と藺相如をたとえている。

〇不倶~…「倶には~ず」両方ともは~しない。(部分否定)

※倶不~…「倶に~ず」両方とも~しない。

吾所以為此者、以先国家之急而後私讎也。」

吾の此を為す所以の者は、国家の急を先にして私讎を後にするを以てなり。」と。

私がこのようにする理由は、国家の危急を優先して、個人的なうらみを後回しにしているからである。」と。

○此…相如が廉頗を避けて、争おうとしないこと。

○廉頗に侮辱されたうらみを晴らすよりも、秦に侵略されそうな危険な状況において廉頗と藺相如の二人が並び立ち国力を保つことを優先して争わないのだといっている。

廉頗聞之、肉袒負荊、因賓客、至藺相如門。

廉頗之を聞き、肉袒して荊を負ひ、賓客に因りて、藺相如の門に至る。

廉頗はこれを聞き、衣服を脱いでいばらのむちを背負い、(相如の)客人に仲介してもらって、藺相如の門に至った。

謝罪曰、「鄙賤之人、不知将軍寛之至此也。」

罪を謝して曰はく、「鄙賤の人、将軍の寛なることの此に至るを知らざるなり。」と。

謝罪して言うことには、「いやしい人(=私)は、将軍の寛大さがこれほどであることを知りませんでした。」と。

○相如の考えを知り、自分が個人的なうらみを優先して相如を侮辱し、国家のことを考えていなかったことを恥じて謝罪した。

卒相与驩、為刎頸之交。

卒に相与に驩びて、刎頸ふんけいの交はりを為す。

最後には互いに親密になり、刎頸の交わりを結んだ。

・卒…「つひニ」最後には、結局。

刎頸之交…相手のためなら自分の首がはねられてもかまわないほどの親密な関係。

『史記』廉頗と藺相如①

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