『刻舟求剣(こくしゅうきゅうけん)』(舟に刻みて剣を求む)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、秦の呂不韋(りょふい)が学者たちを集めて編ませた『呂氏春秋(りょししゅんじゅう)』(慎大覧)です。
書き下し文・現代語訳・解説
剣を水に落とす
白文楚人有渉江者。
書き下し楚人に江を渉る者有り。
現代語訳楚の国の人で、長江を(舟で)渡る者がいた。
- 楚
- 春秋・戦国時代、長江の中流域にあった大国。
- 楚人
- 楚の国の人。「そひと」と読む。
- 江
- 長江。
- 渉
- 「わたル」。川を渡る。
白文其剣自舟中墜於水。
書き下し其の剣舟中より水に墜つ。
現代語訳(あるとき)その人の剣が、舟の中から水に落ちた。
- 自
- 「より」。~から。起点を表す。
- 墜
- 「おツ」。落ちる。
- 於
- 置き字。「水に」の「に」にあたる。
白文遽刻其舟曰、「是吾剣之所従墜。」
書き下し遽かに其の舟に刻みて曰はく、「是れ吾が剣の従りて墜ちし所なり。」と。
現代語訳(その人は)急いで舟べりに印を刻みつけて言った、「ここが、私の剣が落ちた所だ。」と。
- 遽
- 「にはカニ」。急いで。すぐに。
- 刻
- 刻みつける。印をつける。
- 是
- 「これ」。ここ。舟べりの、印をつけた所を指す。
- 所従墜
- そこから落ちた所。「従」は「よリテ」と読み、~から。
印の所から探す
白文舟止。
書き下し舟止まる。
現代語訳(やがて)舟が止まった。
白文従其所刻者、入水、求之。
書き下し其の刻みし所の者より、水に入りて、之を求む。
現代語訳(その人は)印を刻んだ所から水に入って、剣を探した。
- 従
- 「より」。~から。
- 所刻者
- 印を刻んだ所。
- 之
- 水に落とした剣を指す。
- 求
- 探し求める。
白文舟已行矣、而剣不行。
書き下し舟は已に行けり、而も剣は行かず。
現代語訳舟はもう進んでしまっている。しかし、剣は(落ちた所から)進んでいない。
- 已
- 「すでニ」。もう。
- 矣
- 置き字。完了の意味を添える。
- 而
- 「しかモ」。ここは逆接で、しかし。
白文求剣若此、不亦惑乎。
書き下し剣を求むること此くのごときは、亦惑ひならずや。
現代語訳剣をこのようなやり方で探すのは、なんと愚かなことではないか。
- 若此
- 「かクノごとシ」。このようである。
- 惑
- 愚かである。道理がわからない。
- 不亦~乎
- 「亦~ならずや」。なんと~ではないか。
古い法で国を治める
白文以此故法為其国与此同。
書き下し此の故法を以つて其の国を為むるは此と同じ。
現代語訳(だから)この古い法で国を治めるのは、これ(楚の人の剣の探し方)と同じである。
- 故法
- 古い規範や法律。昔のやり方。
- 為
- 「をさム」。治める。
- 与
- 「と」。下の字から返って読む。
- 此
- 楚の人の、水に落とした剣の探し方を指す。
白文時已徙矣。
書き下し時已に徙れり。
現代語訳時勢はもう移り変わっている。
- 時
- 時勢。世の中のありさま。
- 徙
- 「うつル」。移る。移り変わる。
白文而法不徙、以此為治。
書き下し而るに法は徙らず、此を以つて治を為す。
現代語訳それなのに法は変わっていない。このようなやり方で政治を行う。
- 而
- 「しかルニ」。それなのに。逆接。
- 為治
- 政治を行う。国を治める。
白文豈不難哉。
書き下し豈に難からざらんや。
現代語訳(これでは)どうして難しくないことがあろうか、いや、きっと難しい。
- 豈~哉
- 「豈に~んや」。どうして~だろうか、いや~ない。
- 難
- 「かたシ」。難しい。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
①遽(遽刻其舟)
②墜
③已
④徙解答を見る
①にわかに/急いで
②おつ/落ちる
③すでに/もう
④うつる(うつれり)/移り変わる「江」「故法」は、それぞれどのような意味か。
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江=長江 故法=古い規範や法律(昔のやり方)
「舟已行矣、而剣不行」の「而」の読みを答えよ。また、順接・逆接のどちらの働きをしているか。
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しかも/逆接(しかし)
B 書き下し文・現代語訳
「従其所刻者、入水、求之」を書き下し文にし、「之」の内容を明らかにして現代語訳せよ。
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書き下し文:其の刻みし所の者より、水に入りて、之を求む。
現代語訳:印を刻んだ所から水に入って、落とした剣を探した。「求剣若此、不亦惑乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:剣を求むること此くのごときは、亦惑ひならずや。
現代語訳:剣をこのようなやり方で探すのは、なんと愚かなことではないか。「以此為治。豈不難哉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:此を以つて治を為す。豈に難からざらんや。
現代語訳:このようなやり方で政治を行う。どうして難しくないことがあろうか、いや、きっと難しい。
C 内容の読み取り
「是吾剣之所従墜」の「是」は、どこを指すか。
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舟べりの、印を刻みつけた所。
楚の人の剣の探し方が「惑ひ」と言われるのはなぜか。
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舟はもう進んでいるのに、剣が落ちたときに舟べりにつけた印をたよりに探しているから。
「与此同」の「此」は、何を指すか。
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楚の人の、水に落とした剣の探し方。
前半のたとえ話の「舟が進んだこと」と「剣が動かないこと」は、後半ではそれぞれ何にあたるか。
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舟が進んだこと=時勢が移り変わったこと
剣が動かないこと=法が変わらないことこの話から生まれた故事成語「舟に刻みて剣を求む(刻舟求剣)」の意味を答えよ。
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時の流れや状況の変化に気づかず、古いやり方やしきたりにこだわる愚かさのたとえ。