『塞翁馬(さいおうがうま)』(塞翁が馬)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、前漢の淮南王劉安らの編んだ『淮南子(えなんじ)』(人間訓)です。
書き下し文・現代語訳・解説
馬が逃げる
白文近塞上之人、有善術者。
書き下し塞上に近きの人に、術を善くする者有り。
現代語訳国境のとりでの近くに、占いなどの術にすぐれた人が住んでいた。
- 塞上
- 国境のとりでのあたり。
- 近
- 近い。「塞上に近き人」で、とりでの近くに住む人。
- 術
- 占いなどの術。
- 善
- 「よクス」。上手にする。得意とする。
白文馬無故亡而入胡。
書き下し馬故無くして亡げて胡に入る。
現代語訳(その人の)馬が、理由もなく逃げて、胡の地に入ってしまった。
- 故
- 「ゆゑ」。理由。
- 亡
- 「にグ」。逃げる。
- 胡
- 北方・西方の異民族の地。
- 而
- 置き字。「~て」と読む順接。
白文人皆弔之。
書き下し人皆之を弔す。
現代語訳人々は皆これを気の毒に思い、慰めた。
- 弔
- なぐさめる。不幸にあった人を悲しんで見舞う。
- 之
- 馬が逃げたことを指す。
白文其父曰、「此何遽不為福乎。」
書き下し其の父曰はく、「此れ何遽ぞ福と為らざらんや。」と。
現代語訳その老人が言うことには、「これがどうして福とならないことがあろうか、いや、きっと福となるだろう。」と。
- 其父
- その老人。占いの術を得意とする者。
- 此
- 馬が逃げたこと。
- 何遽ゾ~乎
- 「何ぞ~んや」。どうして~だろうか、いや~ない。
- 為
- ここは「なル」。
馬が戻る
白文居数月、其馬将胡駿馬而帰。
書き下し居ること数月、其の馬胡の駿馬を将ゐて帰る。
現代語訳数か月たって、その馬が胡の駿馬(足の速いすぐれた馬)を連れて帰ってきた。
- 居数月
- 「居ること数月」。数か月が過ぎて。
- 将
- 「ひきゐル」。連れる。ここは再読文字ではない。
- 駿馬
- 足の速い優れた馬。
白文人皆賀之。
書き下し人皆之を賀す。
現代語訳人々は皆これを祝った。
- 賀
- 祝う。「弔」の反対の意味。
白文其父曰、「此何遽不能為禍乎。」
書き下し其の父曰はく、「此れ何遽ぞ禍と為る能はざらんや。」と。
現代語訳その老人が言うことには、「これがどうして禍とならないことがあろうか、いや、禍となるだろう。」と。
- 能
- 「よク」。ここは「~できる」の意味。「為る能はず」で、「なることができない」。
- 不能為禍
- 禍となることができない。
- 何遽不能為禍乎
- 禍にならないはずがない、きっと禍になる、という強い言い方。
息子が骨を折る
白文家富良馬。
書き下し家良馬に富む。
現代語訳家は、良い馬が多くなった。
- 富
- 「とム」。豊かである。たくさん持つ。
- 良馬
- すぐれた馬。
白文其子好騎、堕而折其髀。
書き下し其の子騎を好み、堕ちて其の髀を折る。
現代語訳その子は馬に乗ることを好み、(馬から)落ちて、足の骨を折ってしまった。
- 騎
- 馬に乗ること。
- 堕
- 「おツ」。落ちる。
- 髀
- もも。大腿部。
白文人皆弔之。
書き下し人皆之を弔す。
現代語訳人々は皆これを気の毒に思い、慰めた。
白文其父曰、「此何遽不為福乎。」
書き下し其の父曰はく、「此れ何遽ぞ福と為らざらんや。」と。
現代語訳その老人が言うことには、「これがどうして福とならないことがあろうか、いや、きっと福となるだろう。」と。
戦争が起こる
白文居一年、胡人大入塞。
書き下し居ること一年、胡人大いに塞に入る。
現代語訳一年が過ぎ、胡の人々が大軍で国境のとりでに攻め入ってきた。
- 胡人
- 胡の人。異民族。
- 大
- 「おほイニ」。大規模に。
白文丁壮者引弦而戦、近塞之人、死者十九。
書き下し丁壮なる者、弦を引きて戦ひ、塞に近きの人、死する者十に九なり。
現代語訳働き盛りの男たちは、弓を引いて戦い、とりでの近くの人は、死んだ者が十人のうち九人だった。
- 丁壮
- 働き盛りの若い男。
- 引弦
- 弓の弦を引く。弓を取って戦う。
- 十九
- 十のうち九。
- 死者十九
- 戦死した者は十人に九人。
白文此独以跛之故、父子相保。
書き下し此れ独り跛の故を以つて、父子相保てり。
現代語訳この家だけは、(息子の)足が不自由だったために、父も子も無事でいられた。
- 独
- 「ひとリ」。ただ~だけ。
- 跛
- 足が不自由なこと。
- 以
- 「もつテ」。理由を表す。「~のために」。
- 相
- お互いに。
- 保
- 無事でいる。
まとめ
白文故福之為禍、禍之為福、化不可極、深不可測也。
書き下し故に福の禍と為り、禍の福と為る、化極むべからず、深測るべからざるなり。
現代語訳だから、福が禍となり、禍が福となる、その変化は見きわめ尽くすことができず、その奥深さは推し量ることができないのだ。
- 故
- 「ゆゑニ」。だから。
- 化
- 変化。
- 不可極
- 「極むべからず」。極め尽くすことができない。
- 深
- 奥深さ。
- 不可測
- 「測るべからず」。測ることができない。
テストで問われるポイント
- 出典=『淮南子』。「人間万事塞翁が馬」の由来。
- 「故」=ゆゑ(理由)。「亡」=にぐ。「将」=ひきゐる。「弔」「賀」=反対の意味。
- 「何遽不為福乎」「何遽不能為禍乎」=反語。
- 「能」=(できる)。「不能為禍」=禍となることができない。
- 「独」=ひとり(ただ~だけ)。「以」=理由。「相」=お互いに。
- 「死者十九」=十人のうち九人が死んだ。
- 「父子相保」=息子が足が不自由で兵役を免れたため、父子ともに無事だった。
- 「福之為禍、禍之為福」=福と禍は入れ替わり、予測できない。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
①故
②亡
③将解答を見る
①ゆえ/理由
②にげて/逃げる
③ひきいて/連れる「弔」と「賀」は、それぞれどのような意味か。
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弔=気の毒に思って慰める 賀=祝う
B 書き下し文・現代語訳
「此何遽不為福乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:此れ何遽ぞ福と為らざらんや。
現代語訳:これがどうして福とならないことがあろうか、いや、きっと福となるだろう。「此何遽不能為禍乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:此れ何遽ぞ禍と為る能はざらんや。
現代語訳:これがどうして禍とならないことがあろうか、いや、禍となるだろう。「化不可極、深不可測也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:化極むべからず、深測るべからざるなり。
現代語訳:その変化は見きわめ尽くすことができず、その奥深さは推し量ることができない。
C 内容の読み取り
父と子がともに無事だったのはなぜか。それぞれの理由を答えよ。
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子=足が不自由だったので、兵役を免れて戦に行かなかったから。
父=年を取っていたので、戦に出なかったから。「家富良馬」とあるが、この家に良馬が増えたのはなぜか。
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逃げた馬が、胡の駿馬を連れて帰ってきたから。
「塞翁」の身に起こったできごとから、どのようなことが言えるか。
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幸いと思えたことが不幸のもとになり、不幸と思えたことが幸いのもとになるというように、人生の幸・不幸は予測できないということ。
この話から生まれた故事成語を答え、その意味を説明せよ。
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人間万事塞翁が馬。人生の幸・不幸は変化が激しく予測できないので、目の前の幸不幸に一喜一憂するべきではないということ。