韓愈(かんゆ)『師説(しせつ)』の第三段落、「愛其子〜其可怪也歟」の書き下し文・現代語訳・解説です。出典は『唐宋八家文読本』。
①では、師とは「道を伝へ業を受け惑ひを解く」人であり、年齢や身分に関係なく道のある所に師がいること、今の人々は師に学ぶことを恥じていることが述べられました。
書き下し文・現代語訳・解説
わが子には師をつける親
白文愛其子、択師而教之。
書き下し其の子を愛しては、師を択びて之に教へしむ。
現代語訳(人々は)自分の子をかわいがっては、よい師を選んで子どもを教えさせる。
- 愛
- かわいがる。
- 択
- 「えらブ」。選ぶ。
- 之
- わが子を指す。
- 教
- 「教へしむ」。(師に)教えさせる。
白文於其身也、則恥師焉。
書き下し其の身に於いてや、則ち師とするを恥づ。
現代語訳それなのに、親自身が学ぶ段になると、師について学ぶのを恥ずかしがる。
- 其身
- 親自身。
- 於其身也
- 「其の身に於いてや」。自分自身のこととなると。
- 則
- 「すなはチ」。ここでは前の部分と区別して、「〜の場合は」という意味を表す。
- 恥師
- 師とすることを恥じる。師について学ぶことを恥とする。
白文惑矣。
書き下し惑へり。
現代語訳考え違いをしている。
- 惑
- ここでは、心得違い。道理に外れた考え。
- ○わが子には師をつけて学ばせるのに、親自身は師につくことを恥じている、という矛盾を「惑」と言っている。
白文彼童子之師、授之書而習其句読者也。
書き下し彼の童子の師は、之に書を授けて其の句読を習はしむる者なり。
現代語訳あの子どもの師というのは、子どもに書物を与えて、その読み方を習わせる者である。
- 彼
- 「かノ」。あの。
- 童子
- 子ども。
- 之
- 子どもを指す。
- 句読
- 文章の読み方。昔の文章には句読点がなかったので、まず句読点をつけて区切ることが読解のはじめだった。
白文非吾所謂伝其道、解其惑者也。
書き下し吾が所謂其の道を伝へ、其の惑ひを解く者に非ざるなり。
現代語訳私の言うところの、道を伝え、迷いを解いてくれる師ではないのだ。
- 所謂
- 「いはゆる」。ここでは、(前に)私が言ったところの。
- ○「伝其道、解其惑」は、第一段落の「師者、所以伝道受業解惑也」を受けている。上下点の間にある二つの句が、どちらも「者」にかかる。
白文句読之不知、惑之不解、或師焉、或不焉。
書き下し句読を之れ知らざる、惑ひを之れ解かざる、或いは師とし、或いは不せず。
現代語訳書物の読み方がわからないことと、心の迷いが解けないこととについて、一方では師について学び、一方では師につかない。
- 之
- ここでは、上の語を強める字。「句読之不知」は「句読を知らない」の意味で、語順を入れかえた形。
- 或〜、或〜
- 「或いは〜、或いは〜」。一方は〜、一方は〜。
- 不
- ここでは「しかせず」と読む。「不師焉」の「師」を省いた形で、師につかないこと。
白文小学而大遺。
書き下し小を学びて大を遺る。
現代語訳(これでは)小さなことは学んで、大きなことを忘れていることになる。
- 遺
- 「わすル」。忘れる。
- 小
- 句読(書物の読み方)。
- 大
- 迷いを解くこと。道を学ぶこと。
- ○「小学而大遺」も、「学小而遺大」の語順を入れかえた形。
白文吾未見其明也。
書き下し吾未だ其の明なるを見ざるなり。
現代語訳私は、それが賢明なことだとは、まだ見たことがない。
- 未
- 「いまダ〜ず」と二度読む再読文字。まだ〜ない。
- 明
- 賢明であること。物事の道理がわかっていること。
- ○そのような態度を賢明だとは思えない、ということ。
職人たちと士大夫
白文巫医・楽師・百工之人、不恥相師。
書き下し巫医・楽師・百工の人は、相師とするを恥ぢず。
現代語訳祈禱師や医者、音楽家、さまざまな職人たちは、互いに師として学び合うことを恥じない。
- 巫医
- 祈禱師と医者。
- 楽師
- 音楽家。音楽の演奏家。
- 百工
- さまざまな職人。
- 相
- 「あひ」。互いに。
白文士大夫之族、曰師、曰弟子云者、則群聚而笑之。
書き下し士大夫の族は、曰はく師、曰はく弟子と云ふ者をば、則ち群聚して之を笑ふ。
現代語訳(ところが)士大夫の人々は、師だ、弟子だと言う者がいると、寄り集まってその人を笑う。
- 士大夫
- 官職についている知識人。
- 族
- 仲間。人々。
- 曰師、曰弟子云者
- 師だとか弟子だとか言う者。「云」は上の二つの「曰」を受けてまとめる。
- 群聚
- 群がり集まる。
白文問之則曰、「彼与彼、年相若也、道相似也。」
書き下し之を問へば則ち曰はく、「彼と彼とは、年相若けり、道相似たり。」と。
現代語訳そのわけを尋ねると、「あの人とあの人とは、年齢も同じくらいだし、身につけた道も似たようなものだ。」と言う。
- 彼与彼
- 「彼と彼とは」。あの人とあの人とは。師と弟子だと言い合っている者どうしを指す。「与」は「と」と読み、「AとBと」の形をつくる。
- 相若
- 「あひしク」。同じくらいである。
- 相似
- 似かよっている。
白文位卑則足羞、官盛則近諛。
書き下し位卑ければ則ち羞づるに足り、官盛んなれば則ち諛ふに近しとす。
現代語訳(師とする人の)地位が低ければ(その人を師とするのは)恥ずかしいことだし、官職が高ければ(その人を師とするのは)へつらうのに近い、と考えている。
- 位卑・官盛
- 師とする人の地位・官職をいう。
- 足羞
- 恥じるのに十分である。とても恥ずかしい。
- 諛
- 「へつらフ」。こびる。
- A則B
- 「Aなれば則ちB」。AならばBである。
白文嗚呼、師道之不復、可知矣。
書き下し嗚呼、師道の復せざること、知るべし。
現代語訳ああ、(これでは)師の正しいあり方が昔の姿にもどらないのも、よくわかる。
- 嗚呼
- 「ああ」。嘆きを表す。
- 復
- もとにもどる。回復する。
- 可知
- 知ることができる。よくわかる。
白文巫医・楽師・百工之人、君子不歯。
書き下し巫医・楽師・百工の人は、君子歯せず。
現代語訳祈禱師や医者、音楽家、職人たちを、君子(である士大夫)は同列に扱わず、見下している。
- 君子
- ここでは士大夫のこと。もとは才徳のすぐれた立派な人物をいう。
- 歯
- 並ぶ。同列に扱う。「歯せず」で、同列に考えない、見下す。「君子之を鄙しむ」(見下す)とする本文もある。
白文今其智、乃反不能及。
書き下し今其の智は、乃ち反つて及ぶ能はず。
現代語訳ところが今、士大夫の知恵は、なんと逆に(巫医・楽師・百工の人々に)及ばないのである。
- 其
- 士大夫(君子)を指す。
- 乃
- 「すなはチ」。なんと。
- 反
- 「かへつテ」。逆に。
- 不能A
- 「A(する)能はず」。Aできない。
白文其可怪也歟。
書き下し其れ怪しむべきかな。
現代語訳なんとも不思議なことであるよ。
- 其
- 「それ」。語調を強める。
- 怪
- 「あやシム」。不思議に思う。
- 也歟
- 二字で「かな」と読み、詠嘆を表す。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①彼(彼童子)
②所謂
③或
④不(或不焉)
⑤乃解答を見る
①かの
②いわゆる
③あるいは
④しかせず
⑤すなわち次の語の本文中での意味を答えよ。
①句読
②百工
③士大夫
④相若
⑤不歯解答を見る
①書物(文章)の読み方
②さまざまな職人
③官職についている知識人
④同じくらいである
⑤同列に扱わない・見下す
B 書き下し文・現代語訳
「非吾所謂伝其道、解其惑者也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:吾が所謂其の道を伝へ、其の惑ひを解く者に非ざるなり。
現代語訳:私の言うところの、道を伝え、迷いを解いてくれる師ではないのだ。「吾未見其明也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:吾未だ其の明なるを見ざるなり。
現代語訳:私は、それが賢明なことだとは、まだ見たことがない。「嗚呼、師道之不復、可知矣」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:嗚呼、師道の復せざること、知るべし。
現代語訳:ああ、師の正しいあり方が昔の姿にもどらないのも、よくわかる。「其可怪也歟」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:其れ怪しむべきかな。
現代語訳:なんとも不思議なことであるよ。
C 内容の読み取り
「惑矣」とあるが、筆者はどのようなことを「惑」だと言っているか。
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わが子には師を選んで教えさせるのに、親である自分自身は師につくことを恥じていること。
「小学而大遺」の「小」「大」はそれぞれ何を指すか。また、全体でどのようなことを言っているか。
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小=句読(書物の読み方) 大=迷いを解くこと
書物の読み方のような小さなことは師について学ぶのに、迷いを解くという大事なことについては師につこうとしない、ということ。「位卑則足羞、官盛則近諛」の「位」「官」は、だれの位・官のことか。また、この部分はどのような考えを表しているか。
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師とする人の位・官。
師とする人の地位が低ければ恥ずかしく、官職が高ければこびへつらうのに近くなる、という士大夫の考え。「今其智、乃反不能及」とあるが、何が何に及ばないのか。また、そうなるのはなぜか。
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士大夫(君子)の知恵が、巫医・楽師・百工の人々の知恵に及ばない。巫医・楽師・百工の人々は互いに師として学び合うのに、士大夫は師について学ぶことを恥じて笑うから。
続き(③)
聖人には決まった師がいないこと、孔子の「三人行へば、則ち必ず我が師有り」という言葉、そして李蟠にこの文章を贈った理由は③で読めます。
『師説』③(第四・第五段落)の書き下し文・現代語訳・解説を読む