『朝三暮四(ちょうさんぼし)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、道家の思想書『列子』です。同じ話は『荘子』にも出てきます。
書き下し文・現代語訳・解説
狙公と猿
白文宋有狙公者。
書き下し宋に狙公なる者有り。
現代語訳宋の国に、狙公という者がいた。
- 宋
- 春秋・戦国時代の国の名。
- 狙
- さる(猿)。「狙公」は猿を飼っている人。
白文愛狙、養之成群。
書き下し狙を愛し、之を養ひて群を成す。
現代語訳(狙公は)猿をかわいがり、飼って、群れをなすほどの数になっていた。
- 之
- 狙を指す。
- 成群
- 群れをなす。数が多いことをいう。
白文能解狙之意、狙亦得公之心。
書き下し能く狙の意を解し、狙も亦た公の心を得たり。
現代語訳(狙公は)猿の気持ちをよくわかっており、猿もまた、狙公の気持ちをよく察していた。
- 能
- 「よク」。~できる。
- 解
- 理解する。
- 亦
- 「まタ」。~もまた。
- 得公之心
- 狙公の気持ちをつかんでいた。
白文損其家口、充狙之欲。
書き下し其の家口を損じ、狙の欲を充たす。
現代語訳(狙公は)自分の家族の食べ物を減らしてまで、猿の食欲を満たしていた。
- 其
- 狙公を指す。
- 家口
- 家族。ここでは、家族が食べる分。
- 損
- へらす。
- 充
- 満たす。
猿のためにそこまでしていた、という書き方から、狙公が猿を大切にしていたこと、そして次の「貧しくなった」ことにつながる流れがわかります。
餌を減らす
白文俄而匱焉。
書き下し俄にして匱し。
現代語訳(狙公は)まもなく食べ物が乏しくなった。
- 俄而
- 「にはかニシテ」。急に、まもなく。
- 匱
- 「とぼシ」。乏しい、足りなくなる。
- 焉
- 置き字。文末の語調を整える。
白文将限其食。
書き下し将に其の食を限らんとす。
現代語訳そこで、猿のえさを制限しようとした。
- 将
- 再読文字。「まさニ~ントす」。今にも~しようとする。
- 其
- 猿(狙)を指す。
- 食
- えさ。
白文恐衆狙之不馴於己也、先誑之曰、
書き下し衆狙の己に馴れざらんことを恐るるや、先づ之を誑きて曰はく、
現代語訳(けれども)猿たちが自分になつかなくなってしまうのを案じ、先に猿たちをだますことにして、こう言った。
- 衆狙
- たくさんの猿。
- 馴
- (人に)なつく。なれる。
- 於己
- 「己に」。「於」は対象を示す置き字。
- 也
- ここでは「や」と読み、強調(調子を整える)を表す。
- 先
- 「まヅ」。最初に、まず。
- 誑
- だます。「之」は猿を指す。
猿がなつかなくなると困る、と考えた狙公は、えさを減らす前に、まず言葉で猿をだまそうとします。「先づ之を誑きて」とあるのは、この話の中心がだましの手口にあることを示しています。
朝三暮四と朝四暮三
白文「与若芧、朝三而暮四、足乎。」
書き下し「若に芧を与ふるに、朝に三にして暮れに四にせん、足るか。」と。
現代語訳「おまえたちにどんぐりを与えるのに、朝に三つ、夕方に四つにしようと思うが、それで足りるか。」と。
- 若
- 「なんぢ」。おまえ(たち)。
- 芧
- どんぐり・トチの実など木の実。猿のえさ。
- 与若芧
- 「若に芧を与ふ」。「与」は、与える相手と物を二つとる動詞。
- 朝三而暮四
- 朝に三つ、暮れに四つ。
- 足乎
- 「足るか」。それで十分か。「乎」は疑問を表す助字。
白文衆狙皆起而怒。
書き下し衆狙皆起ちて怒る。
現代語訳多くの猿は皆、立ち上がって怒った。
- 起
- 立ち上がる。
- 而
- 置き字。順接(~て)を示す。
白文俄而曰、「与若芧、朝四而暮三、足乎。」
書き下し俄にして曰はく、「若に芧を与ふるに、朝に四にして暮れに三にせん、足るか。」と。
現代語訳すぐ続けて(狙公は)言った。「おまえたちにどんぐりを与えるのに、朝に四つ、夕方に三つにしようと思うが、足りるか。」と。
- 俄而
- すぐに。
白文衆狙皆伏而喜。
書き下し衆狙皆伏して喜ぶ。
現代語訳多くの猿は皆、ひれ伏して喜んだ。
- 伏
- ひれ伏す。
テストで問われるポイント
- 出典=『列子』。狙公=猿を飼う人。
- 「能」=よく(できる)。「亦」=また。「先」=まづ。「俄而」=にはかにして。
- 「将」=再読文字。「将に其の食を限らんとす」。
- 「損其家口」の「家口」=家族(が食べる分)。
- 狙公がえさを減らそうとしたのは、貧しくなったから。
- 「先誑之」=猿がなつかなくなるのを心配して、まず言葉でだました。
- 猿が朝三暮四で怒り、朝四暮三で喜んだのは、合計は同じなのに、目先の数の違いにとらわれたから。
- 置き字=焉・於・而。
- 「朝三暮四」=目先の違いに惑わされ、結果が同じと気づかない/言葉巧みに人をだます。
テスト予想問題
A 語句・置き字
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
①能
②亦
③先
④俄而解答を見る
①よく/~できる
②また/~もまた
③まず/最初に
④にわかにして/急に、すぐに本文中の置き字をすべて抜き出せ。
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焉・於・而
B 書き下し文・現代語訳
「将限其食」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:将に其の食を限らんとす。
現代語訳:(猿の)えさを制限しようとした。「恐衆狙之不馴於己也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:衆狙の己に馴れざらんことを恐るるや
現代語訳:猿たちが自分になつかなくなることを案じて「与若芧、朝三而暮四、足乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:若に芧を与ふるに、朝に三にして暮れに四にせん、足るか。
現代語訳:おまえたちにどんぐりを与えるのに、朝に三つ、夕方に四つにしようと思うが、それで足りるか。
C 内容の読み取り
「損其家口」とあるが、この「家口」とは何のことか。また、狙公はなぜそうしたのか。
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家口=家族(が食べる分)
理由=猿をかわいがっていて、猿の食欲を満たしてやりたかったから。狙公が「将限其食」と考えたのはなぜか。
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急に貧しくなり、猿に十分なえさを与えられなくなったから。
狙公が、えさを減らすことを先に告げず、「先誑之」としたのはなぜか。
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えさを減らすと言えば、猿が自分になつかなくなるのを恐れたから。
猿が「朝三而暮四」で怒り、「朝四而暮三」で喜んだのはなぜか。
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どちらも一日の合計は七つで同じなのに、朝の数が減ったと感じて怒り、増えたと感じて喜んだから。(目先の違いにとらわれて、合計が同じであることに気づかなかった)
故事成語「朝三暮四」の意味を二つ答えよ。
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①目先の違いにとらわれて、結果が同じであることに気づかないこと。
②うまい言葉で人をだますこと。