『管鮑之交(かんぽうのまじわり)』(管鮑の交わり)の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、宋末元初の曾先之が編んだ中国の歴史読み物『十八史略』(春秋戦国・斉)です。春秋時代の斉の国の、管仲と鮑叔の友情の話です。
書き下し文・現代語訳・解説
斉の跡継ぎ争い
白文兄襄公無道。
書き下し兄襄公無道なり。
現代語訳(小白の)兄の襄公は、道にはずれたふるまいの多い君主だった。
- 襄公
- 斉の君主。小白(のちの桓公)の兄。
- 無道
- 人としての道にはずれていること。むごく、でたらめなふるまいをすること。
白文群弟恐禍及。
書き下し群弟禍の及ばんことを恐る。
現代語訳弟たちは、災いが自分の身にふりかかることを恐れた。
- 群弟
- 多くの弟たち。
- 禍
- 災い。
白文子糾奔魯。管仲傅之。
書き下し子糾魯に奔る。管仲之に傅たり。
現代語訳子糾は魯の国へ逃げた。管仲はその守り役であった。
- 子糾
- 襄公の弟。小白の兄。
- 魯
- 春秋時代の国の名。子糾の母の国。
- 奔
- 「はしル」。逃げていく。
- 傅
- 守り役。教育係。「傅たり」で、守り役である。
- 之
- 子糾を指す。
白文小白奔莒。鮑叔傅之。
書き下し小白莒に奔る。鮑叔之に傅たり。
現代語訳小白は莒の国へ逃げた。鮑叔はその守り役であった。
- 小白
- 襄公の弟。のちの斉の桓公。
- 莒
- 斉の東にあった国の名。
- 之
- 小白を指す。
小白が君主となる
白文襄公為弟無知所弑、無知亦為人所殺。
書き下し襄公弟無知の弑する所と為り、無知も亦人の殺す所と為る。
現代語訳襄公は(いとこの)無知に殺され、その無知もまた人に殺された。
- 無知
- 公孫無知。襄公の叔父の子で、本文では「弟」と書かれている。襄公を殺して自ら君主となったが、まもなく殺された。
- 弑
- 「しいス」。臣下や目下の者が、君主や目上の人を殺すこと。
- 為A所B
- 「AのBする所と為る」。AにBされる。受身。
- 亦
- 「まタ」。~もまた。
白文斉人召小白於莒。
書き下し斉人小白を莒より召く。
現代語訳斉の人々は、小白を莒から呼び戻した。
- 召
- 「まねク」。呼び寄せる。
- 於
- 置き字。ここでは「莒より」の「より」にあたる。
白文而魯亦発兵送糾。
書き下し而して魯も亦兵を発して糾を送る。
現代語訳一方、魯の国もまた兵を出して、子糾を(斉へ)送りこんだ。
- 而
- ここは「しかシテ」と読む接続語。そして。
- 発兵
- 兵を出す。軍隊を派遣する。
- 糾
- 子糾。
白文管仲嘗遮莒道、射小白中帯鉤。
書き下し管仲嘗て莒の道を遮り、小白を射て帯鉤に中つ。
現代語訳管仲は以前、莒からの道をふさいで小白を矢で射たが、矢は帯の留め金に当たった。
- 嘗
- 「かつテ」。以前に。
- 遮
- 「さへぎル」。道をふさぐ。
- 帯鉤
- 帯の留め金。
- 中
- 「あツ」。命中させる。
白文小白先至斉而立。
書き下し小白先づ斉に至りて立つ。
現代語訳小白が(子糾より)先に斉に着いて、君主の位についた。
- 先
- 「まヅ」。先に。
- 立
- 君主の位につく。即位する。
- 而
- 置き字。読まない。
鮑叔、管仲を推薦する
白文鮑叔牙薦管仲為政。
書き下し鮑叔牙管仲を薦めて政を為さしむ。
現代語訳鮑叔牙は、管仲を(桓公に)推薦して政治を行わせた。
- 鮑叔牙
- 鮑叔のこと。
- 薦
- 「すすム」。推薦する。
- 為政
- 政治を行う。
- 為さしむ
- 「しむ」は使役の助動詞。「使」などの字はないが、「薦めて~させる」という意味なので使役で読む。
白文公置怨而用之。
書き下し公怨みを置きて之を用ゐる。
現代語訳桓公は(管仲への)怨みを捨てて、管仲を重く用いた。
- 公
- 桓公(小白)。
- 怨
- 管仲が小白を矢で射たことに対する怨み。
- 置
- 捨ておく。問題にしない。
- 之
- 管仲を指す。
- 而
- 置き字。読まない。
管鮑の交わり
白文管仲、字夷吾。
書き下し管仲、字は夷吾。
現代語訳管仲は、字を夷吾といった。
- 字
- 成人してから、本名とは別につける呼び名。
白文嘗与鮑叔賈。
書き下し嘗て鮑叔と賈す。
現代語訳以前、鮑叔と組んで商売をしたことがあった。
- 与
- 「と」。~と(いっしょに)。
- 賈
- 「こス」。商売をする。
白文分利多自与。
書き下し利を分かつに多く自ら与ふ。
現代語訳もうけを分けるとき、(管仲は)自分の取り分を多くした。
- 利
- 利益。もうけ。
- 自与
- 自分に与える。自分の取り分にする。
白文鮑叔不以為貪。
書き下し鮑叔以て貪と為さず。
現代語訳(それでも)鮑叔は、管仲を欲深い人間だとは思わなかった。
- 以為~
- 「以て~と為す」。~だと思う。~とみなす。
- 貪
- 欲張り。欲が深いこと。「貧」と字の形が似ているので注意。
白文知仲貧也。
書き下し仲の貧なるを知ればなり。
現代語訳管仲が貧乏なのを分かっていたからだ。
- 仲
- 管仲。
- 貧
- 貧しい。
- 知ればなり
- 知っていたからである。理由を表す。
白文嘗謀事窮困。
書き下し嘗て事を謀りて窮困す。
現代語訳以前、(管仲は)ある事を計画して失敗し、ひどく困ったことがあった。
- 謀事
- 事を計画する。
- 窮困
- 行き詰まって苦しむ。
白文鮑叔不以為愚。
書き下し鮑叔以て愚と為さず。
現代語訳(それでも)鮑叔は、管仲のことを愚かだとは考えなかった。
- 愚
- 愚か者。
白文知時有利不利也。
書き下し時に利と不利と有るを知ればなり。
現代語訳時の運には、うまくいくときとうまくいかないときがあることを知っていたからである。
- 利不利
- うまくいくこととうまくいかないこと。運と不運。
白文嘗三戦三走。
書き下し嘗て三たび戦ひて三たび走る。
現代語訳以前、(管仲は)三度戦って、三度とも逃げ帰った。
- 走
- 逃げる。戦いに負けて逃げる。
白文鮑叔不以為怯。
書き下し鮑叔以て怯と為さず。
現代語訳(それでも)鮑叔は、管仲のことを臆病だとは考えなかった。
- 怯
- 臆病。臆病者。
白文知仲有老母也。
書き下し仲に老母有るを知ればなり。
現代語訳管仲には年をとった母がいるのを知っていたからだ。
- 老母
- 年老いた母。
白文仲曰、「生我者父母、知我者鮑子也。」
書き下し仲曰はく、「我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり。」と。
現代語訳管仲は、「私を生んでくれたのは父母だが、私を本当に理解してくれているのは鮑叔である。」と言った。
- 知
- 理解する。本当の値打ちを分かってくれる。
- 鮑子
- 鮑叔のこと。「子」は男子を敬っていう語。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①奔(る)
②傅(たり)
③嘗
④中(つ)
⑤賈(す)解答を見る
①はしる
②ふたり
③かつて
④あつ
⑤こす次の語の、本文での意味を答えよ。
①無道
②窮困
③走
④怯解答を見る
①人としての道にはずれていること
②行き詰まって苦しむこと
③(戦いに負けて)逃げる
④臆病である
B 書き下し文・現代語訳
「群弟恐禍及」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:群弟禍の及ばんことを恐る。
現代語訳:弟たちは、災いが自分の身に及ぶことを恐れた。「襄公為弟無知所弑、無知亦為人所殺」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:襄公弟無知の弑する所と為り、無知も亦人の殺す所と為る。
現代語訳:襄公は無知に殺され、その無知もまた人に殺された。「鮑叔牙薦管仲為政」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:鮑叔牙管仲を薦めて政を為さしむ。
現代語訳:鮑叔牙は管仲を推薦して、政治を行わせた。「鮑叔不以為貪。知仲貧也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:鮑叔以て貪と為さず。仲の貧なるを知ればなり。
現代語訳:鮑叔は(管仲を)欲深いとは思わなかった。管仲が貧乏なのを分かっていたからだ。「生我者父母、知我者鮑子也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:我を生む者は父母、我を知る者は鮑子なり。
現代語訳:私を生んでくれたのは父母であり、私を本当に理解してくれているのは鮑叔である。
C 内容の読み取り
「公置怨而用之」とあるが、桓公の「怨」とは何に対する怨みか。また、「之」はだれを指すか。
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怨:管仲が莒からの道をふさぎ、小白(桓公)を矢で射たこと(矢は帯の留め金に当たった)。
之:管仲鮑叔が管仲を「貪」「愚」「怯」と思わなかったのは、それぞれ何を知っていたからか。
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貪=管仲が貧しいこと。
愚=時の運にはうまくいくときといかないときがあること。
怯=管仲に年老いた母がいること。故事成語「管鮑の交わり」とは、どのような関係のことか。
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互いによく理解し合い、深く信頼し合った親しい友人関係。