『臥薪嘗胆(がしんしょうたん)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、元の曾先之が編んだ中国の歴史読み物『十八史略』です。春秋時代の呉と越の争いを描いています。
書き下し文・現代語訳・解説
呉王闔廬と伍員(子胥)
白文呉王闔廬挙伍員謀国事。
書き下し呉王闔廬、伍員を挙げて国事を謀らしむ。
現代語訳呉王の闔廬は、伍員を取り立てて、国の政治を取り仕切らせた。
- 挙
- 「あグ」。取り立てる、登用する。
- 謀国事
- 「国事を謀らしむ」。国の政治を取り仕切らせる。「しむ」は使役。
白文員、字子胥、楚人伍奢之子。
書き下し員、字は子胥、楚人伍奢の子なり。
現代語訳員は、字を子胥といい、楚の人である伍奢の子である。
- 字
- 実名のほかに、成人してからつける名。
- 子胥
- 伍員のこと。以下は「子胥」で登場する。
白文奢誅而奔呉、以呉兵入郢。
書き下し奢誅せられて呉に奔り、呉の兵を以ゐて郢に入る。
現代語訳(父の)奢が楚に殺されたため、子胥は呉に逃げ込み、のちに呉の兵を連れて、楚の都の郢に攻め入った。
- 誅
- 罪によって殺す。「誅せられ」と受け身で読み、「殺された」と訳す。
- 奔
- 「はしル」。逃げ込む。
- 以
- 「ひきゐル」。率いる。「以」を「もつて」と読む場合と区別する。
- 郢
- 楚の都。
夫差の復讐の誓い
白文呉伐越、闔廬傷而死。
書き下し呉越を伐ち、闔廬傷つきて死す。
現代語訳呉が越を攻めたが、闔廬は傷を負って死んだ。
- 伐
- 「うツ」。攻める。
- 而
- 置き字。順接を表す。
白文子夫差立。
書き下し子の夫差立つ。
現代語訳子の夫差が王位についた。
- 夫差
- 闔廬の子。
白文子胥復事之。
書き下し子胥復た之に事ふ。
現代語訳子胥はまた(夫差に)仕えた。
- 復
- 「まタ」。
- 事
- 「つかフ」。仕える。
- 之
- 夫差を指す。
白文夫差志復讎、朝夕臥薪中、出入使人呼曰、
書き下し夫差、讎を復せんと志し、朝夕薪中に臥し、出入するに人をして呼ばしめて曰はく、
現代語訳夫差は仇を討とうと志し、朝も夕も薪の中に寝て、出入りのたびに人に呼ばせて言わせた。
- 復讎
- 仇を討つ。
- 臥薪中
- 薪の中に寝る。薪の上で寝て、体の痛みで復讐の心を忘れないようにするため。
- 使人呼
- 「人をして呼ばしむ」。人に呼ばせる。使役。
- 曰
- 「いはク」。(言わせた)。
白文「夫差、而忘越人之殺而父邪。」
書き下し「夫差、而、越人の而の父を殺せるを忘れたるか。」と。
現代語訳「夫差よ、おまえは、越の者がおまえの父を殺したことを忘れたのか。」と。
- 而
- ここでは「なんぢ」。おまえ。置き字の「而」と区別する。
- 越人之殺而父
- 越の人がおまえの父を殺したこと。
- 邪
- 「か」。疑問を表す。
越王句践の降伏
白文周敬王二十六年、夫差敗越于夫椒。
書き下し周の敬王の二十六年、夫差、越を夫椒に敗る。
現代語訳周の敬王の二十六年、夫差が夫椒で越を破った。
- 敗
- 「やぶル」。打ち負かす。
- 于
- 「に」。置き字。場所を示す。
白文越王句践、以余兵棲会稽山、請為臣妻為妾。
書き下し越王句践、余兵を以ゐて会稽山に棲み、臣と為り、妻は妾と為らんと請ふ。
現代語訳越王の句践は、残った兵を連れて会稽山にたてこもり、自分は臣下に、妻は召し使いになるから、と許しを願い出た。
- 余兵
- 残った兵。
- 棲
- 立てこもる。
- 請
- 「こフ」。願う。
- 為臣
- 臣下となる。
- 為妾
- 召し使いとなる。降伏して許しを求める言葉。
白文子胥言、「不可。」
書き下し子胥言ふ、「不可なり。」と。
現代語訳子胥は、「いけません。」と言った。
- 不可
- よくない。いけない。句践を許してはならないという意味。
白文太宰伯嚭受越賂、説夫差赦越。
書き下し太宰伯嚭、越の賂を受け、夫差に説きて越を赦さしむ。
現代語訳太宰の伯嚭は、越の贈り物(賄賂)を受け取ると、夫差を説いて、越を許すようにさせた。
- 太宰
- 宰相。
- 賂
- 「まひなひ」。賄賂。
- 説夫差赦越
- 「夫差に説きて越を赦さしむ」。夫差を説得して、越を許させた。使役。
句践の復讐の誓い
白文句践反国、懸胆於坐臥、即仰胆嘗之曰、
書き下し句践、国に反り、胆を坐臥に懸け、即ち胆を仰ぎ之を嘗めて曰はく、
現代語訳句践は国に戻り、獣の胆を座ったり寝たりする場所につるし、そのたびに胆を見上げてなめては、こう言った。
- 反
- 「かへル」。帰る。
- 胆
- きも。苦いものとされる。
- 坐臥
- 座ることと寝ること。ふだん過ごす場所。
- 即
- 「すなはチ」。そのたびに。
- 仰
- 「あふグ」。見上げる。
- 嘗
- 「なム」。なめる。
- 仰胆嘗之
- 苦い胆をなめて、会稽での恥を忘れないようにするため。
白文「女忘会稽之恥邪。」
書き下し「女、会稽の恥を忘れたるか。」と。
現代語訳「おまえは、会稽での恥を忘れたのか。」と。
- 女
- 「なんぢ」。おまえ。自分に言い聞かせている。
- 会稽之恥
- 会稽山で夫差に降伏した恥辱。
白文挙国政属大夫種、而与范蠡治兵、事謀呉。
書き下し国政を挙げて大夫種に属し、而して范蠡と兵を治め、呉を謀るを事とす。
現代語訳国の政治のすべてを大夫の種に任せ、そして范蠡と軍隊を整え、呉に報復する計略を立てることに専念した。
- 挙国政
- 国政のすべて。
- 属
- 「しよくス」。任せる。
- 治兵
- 軍隊を整え、鍛える。
- 事
- 「こと」。仕事、専念すること。「呉を謀るを事とす」で、呉を討つ計略を立てることを仕事とした。
子胥の最期
白文太宰嚭譖子胥恥謀不用怨望。
書き下し太宰嚭、子胥、謀の用ゐられざるを恥ぢて怨望すと譖す。
現代語訳太宰の嚭は、子胥が自分の計略を用いてもらえなかったのを恥として、恨んでいると夫差に中傷した。
- 譖
- 「しんス」。人をおとしいれるために悪く言う。中傷する。
- 怨望
- 恨む。
白文夫差乃賜子胥属鏤之剣。
書き下し夫差、乃ち子胥に属鏤の剣を賜ふ。
現代語訳夫差はそこで、子胥に属鏤という剣を与えた。
- 乃
- 「すなはチ」。そこで。
- 賜属鏤之剣
- この剣で自殺せよという意味。
白文子胥告其家人曰、「必樹吾墓檟。
書き下し子胥、其の家人に告げて曰はく、「必ず吾が墓に檟を樹ゑよ。
現代語訳子胥は、家の者に告げて言った。「必ず私の墓に檟の木を植えよ。
- 家人
- 家の者。
- 檟
- 木の名。棺おけの材料になる木。
- 樹
- 「うう」。植える。
白文檟可材也。
書き下し檟は材とすべきなり。
現代語訳檟の木は、(呉王の)棺おけの材料にできるからだ。
- 材
- 材料。ここは棺おけの材料。
- 子胥の考え
- 夫差は自分の忠告を聞かずに呉を滅ぼされ、棺おけが必要になるだろう、という皮肉。
白文抉吾目懸東門。
書き下し吾が目を抉りて東門に懸けよ。
現代語訳私の目をくりぬいて、(都の)東門に掛けよ。
- 抉
- 「ゑぐル」。くりぬく。
- 懸
- 「かク」。掛ける。
- 東門
- 呉の都の東門。越の兵が攻め入ってくるのを見届けたいという気持ち。
白文以観越兵之滅呉。」
書き下し以つて越兵の呉を滅ぼすを観ん。」と。
現代語訳そうして、越の兵が呉を滅ぼすのを見届けよう。」と。
- 以
- 「もつテ」。そうして。それによって。
- 観
- 見る。見届ける。
白文乃自剄。
書き下し乃ち自ら剄す。
現代語訳そこで、(子胥は)自ら首をはねて死んだ。
- 自剄
- 自分で首をはねて死ぬ。
白文夫差取其尸、盛以鴟夷、投之江。
書き下し夫差、其の尸を取り、盛るに鴟夷を以つてし、之を江に投ず。
現代語訳夫差は、その屍を取り、鴟夷(革の袋)に詰め込んで、長江に投げ込んだ。
- 尸
- 「しかばね」。死体。
- 鴟夷
- 革でできた袋。
- 江
- 長江。
白文呉人憐之、立祠江上、命曰胥山。
書き下し呉人之を憐れみ、祠を江上に立て、命けて胥山と曰ふ。
現代語訳呉の人々は子胥を気の毒に思い、長江のほとりに祠を建て、胥山と名づけた。
- 憐
- 「あはれブ」。かわいそうに思う。
- 祠
- ほこら。霊をまつる小さな社。
- 命曰~
- 「命けて~と曰ふ」。~と名づける。
越が呉を滅ぼす
白文越十年生聚、十年教訓。
書き下し越、十年生聚し、十年教訓す。
現代語訳越は、十年間は国民を増やして物資を蓄え、さらに十年間は国民を教育・訓練した。
- 生聚
- 人口を増やし、財物を集める。
- 教訓
- 教え、鍛える。軍事の訓練。
白文周元王四年、越伐呉。
書き下し周の元王の四年、越呉を伐つ。
現代語訳周の元王の四年、越は呉を攻めた。
白文呉三戦三北。
書き下し呉、三たび戦ひ三たび北ぐ。
現代語訳呉は、三度戦って三度とも負けた。
- 北
- 「にグ」。敗れて逃げる。敗北する。「三戦三北」で連戦連敗。
白文夫差上姑蘇、亦請成於越。
書き下し夫差、姑蘇に上り、亦た成を越に請ふ。
現代語訳夫差は姑蘇台に立てこもり、(かつての句践と同じように)やはり越に和睦を願い出た。
- 上
- 「のぼル」。
- 亦
- 「まタ」。夫差も、かつて句践が願い出たのと同じように。
- 成
- 「たひらぎ」。和睦、講和。
白文范蠡不可。
書き下し范蠡可かず。
現代語訳范蠡は聞き入れなかった。
- 可
- ここでは「きク」。聞き入れる。
- 不可
- 聞き入れない。
白文夫差曰、「吾無以見子胥。」
書き下し夫差曰はく、「吾、以つて子胥を見る無し。」と。
現代語訳夫差は言った。「私は、子胥に合わせる顔がない。」と。
- 無以~
- 「以つて~する無し」。~する方法・手段がない。ここでは、子胥に会う(合わせる)顔がない。
- 見
- 会う。
白文為幎冒乃死。
書き下し幎冒を為りて乃ち死す。
現代語訳(夫差は)幎冒(死者の顔をおおう布)を作って、そして自殺した。
- 為
- 「つくル」。作る。
- 幎冒
- 死者の顔をおおう布。子胥に顔を見せられないので、顔を覆って死んだ。
テストで問われるポイント
- 出典=『十八史略』。呉と越の争い。
- 「挙」=取り立てる。「属」=任せる。「誅」=罪によって殺す。
- 「以」=ひきゐる。「事」=つかふ。「反」=かへる。「北」=にぐ。「成」=たひらぎ(和睦)。
- 「使人呼」=人をして呼ばしむ(使役)。「説夫差赦越」=夫差に説きて越を赦さしむ。
- 「臥薪中」=薪の上に寝て復讐の心を忘れないため。「嘗胆」=胆をなめて会稽の恥を忘れないため。
- 「賜属鏤之剣」=この剣で自殺せよという意味。
- 子胥の言葉=墓に檟を植えさせたのは夫差の棺おけにするため。目を東門に掛けさせたのは越の兵が呉を滅ぼすのを見るため。
- 「吾無以見子胥」=子胥に合わせる顔がない。子胥の忠告を聞かなかった後悔。
- 「臥薪嘗胆」=仇を討つために長い間苦労に耐えること。
テスト予想問題
A 語句
次の語の本文での意味を答えよ。
①挙(挙伍員)
②属(属大夫種)
③誅(奢誅)解答を見る
①取り立てる(登用する)
②任せる
③罪によって殺す次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①以(以余兵)
②事(復事之)
③反(反国)
④北(三北)解答を見る
①ひきいて
②つかう
③かえり
④にぐ
B 書き下し文・現代語訳
「出入使人呼曰」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:出入するに人をして呼ばしめて曰はく、
現代語訳:出入りのたびに人に呼ばせて、こう言わせた。「説夫差赦越」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:夫差に説きて越を赦さしむ。
現代語訳:夫差を説得して、越を許させた。「吾無以見子胥」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:吾、以つて子胥を見る無し。
現代語訳:私は、子胥に合わせる顔がない。
C 内容の読み取り
夫差が「朝夕臥薪中」とし、句践が「仰胆嘗之」としたのは、それぞれなぜか。
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夫差=父が越との戦いで死んだことを忘れず、復讐心をかきたてるため。
句践=会稽山で降伏を願った恥を忘れず、復讐心をかきたてるため。子胥が「不可」と言ったのはなぜか。
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句践を許せば、のちに越が呉に復讐すると考えたから。
「賜子胥属鏤之剣」とは、どういう意味か。
解答を見る
その剣で自殺せよということ。
子胥は、墓に檟を植えよ、また自分の目を東門に掛けよと言ったが、それぞれの目的を答えよ。
解答を見る
檟=呉が滅んだとき、夫差の棺おけの材料にするため。
目=越の兵が呉を滅ぼすのを見届けるため。夫差が「吾無以見子胥」と言ったときの心情を答えよ。
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子胥の忠告を聞き入れずに敗れたことを後悔し、子胥に合わせる顔がないと思う気持ち。
「越十年生聚、十年教訓」を現代語訳せよ。
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越は、十年間は人口を増やして財物を集め、さらに十年間は国民を教育・訓練した。
故事成語「臥薪嘗胆」の意味を答えよ。
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仇を討つために、長い間苦労に耐えること。また、目的を果たすために苦心して努力を重ねること。