『苛政猛於虎(かせいはとらよりももうなり)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、儒家の経典「五経」の一つ『礼記(らいき)』(檀弓下篇)です。『礼記』は、礼に関する理論や作法、言い伝えなどを集めた書物で、前漢の戴聖が編んだとされます。
書き下し文・現代語訳・解説
墓の前で泣く婦人
白文孔子過泰山側。
書き下し孔子泰山の側を過ぐ。
現代語訳孔子が泰山のふもとを通りかかった。
- 泰山
- 今の山東省にある名山。
- 側
- 「かたはら」。そば。ふもと。
- 過
- 通り過ぎる。通りかかる。
白文有婦人哭於墓者而哀。
書き下し婦人の墓に哭する者有りて哀しげなり。
現代語訳墓の前で声をあげて泣いている婦人がいて、いかにも悲しそうであった。
- 哭
- 「こくス」。死者をいたんで、大声をあげて泣く。
- 於
- 置き字。場所を表す(~で)。
- 婦人の~者
- 「~する婦人」。「の」は同格で、「婦人で、墓の前で泣いている者」。
- 而
- 置き字。
- 哀
- 「かなシゲナリ」。悲しそうである。
白文夫子式而聴之、使子路問之曰、
書き下し夫子式して之を聴き、子路をして之に問はしめて曰はく、
現代語訳先生(孔子)は車の横木に手をかけて礼をし、その泣き声にじっと耳を傾けていたが、(弟子の)子路に婦人へ尋ねさせて言うには、
- 夫子
- 先生。ここでは孔子を指す。
- 式
- 「しよくス」。車の前の横木に手をかけて、身をかがめて礼をする。車上で行う礼。
- 聴
- 耳を傾けて聞く。
- 子路
- 孔子の弟子。
- 使子路問之
- 「子路をして之に問はしむ」。子路に婦人へ尋ねさせる。使役。
- 之
- 「聴之」の「之」は婦人の泣き声、「問之」の「之」は婦人を指す。
白文「子之哭也、壱似重有憂者。」
書き下し「子の哭するや、壱に重ねて憂ひ有る者に似たり。」と。
現代語訳「あなたの泣き方は、まるで何度も重ねて不幸にあった人のようですね。」と。
- 子
- 「し」。あなた。相手を敬って呼ぶ言い方。
- 也
- 「や」。「~は」と上の語を軽く取り立てる。
- 壱
- 「いつニ」。まったく。まるで。
- 重
- 「かさネテ」。何度も。
- 憂
- ここでは、身内の死にあうこと。不幸。
婦人の答え
白文而曰、「然。昔者吾舅死於虎、吾夫又死焉、今吾子又死焉。」
書き下し而ち曰はく、「然り。昔者吾が舅虎に死し、吾が夫又焉に死し、今吾が子又焉に死せり。」と。
現代語訳すると(婦人が)言うには、「そのとおりです。以前、私のしゅうとが虎に殺され、私の夫もまた虎に殺され、今度は私の子どもまでもが虎に殺されたのです。」と。
- 而
- ここは「すなはチ」と読む。すると。
- 然
- 「しかリ」。そのとおりだ。孔子(子路)の「重ねて憂ひ有る者に似たり」を受ける。
- 昔者
- 「むかし」。以前。「者」は時を表す語に添える字。
- 舅
- 「しうと」。夫の父。
- 死於虎
- 虎に殺される。
- 焉
- 「これ」。「於此」と同じで「これに」。虎を指す。読まずに「吾が夫又死し」とする読み方もある。
- 又
- さらにまた。
白文夫子曰、「何為不去也。」
書き下し夫子曰はく、「何為れぞ去らざるや。」と。
現代語訳先生が言うには、「どうして(こんな危険な土地から)立ち去らないのですか。」と。
- 何為
- 「なんすレゾ」。どうして。理由を問う。
- 也
- 「や」。疑問を表す。
白文曰、「無苛政。」
書き下し曰はく、「苛政無ければなり。」と。
現代語訳(婦人が)言うには、「(ここには)むごい政治がないからです。」と。
- 苛政
- 重い税や厳しい刑罰などで人々を苦しめる、むごい政治。
- 無ければなり
- 理由を問われた答えなので、「無し」ではなく「無ければなり」(ないからである)と読む。
孔子の教え
白文夫子曰、「小子識之。苛政猛於虎也。」
書き下し夫子曰はく、「小子之を識せ。苛政は虎よりも猛なり。」と。
現代語訳先生が言うには、「おまえたち、このことをよく覚えておきなさい。むごい政治は、虎よりも恐ろしいものなのだ。」と。
- 小子
- おまえたち。先生が弟子たちに呼びかける言葉。
- 識
- 「しるス」。心にとどめる。よく覚えておく。
- 之
- 婦人の話(むごい政治は虎よりも恐ろしいということ)。
- 猛
- ひどい。恐ろしい。
- 於
- 置き字。比較を表す(~よりも)。
- 也
- 「なり」。断定。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①哭
②夫子
③昔者
④然
⑤識解答を見る
①こくする
②ふうし
③むかし
④しかり
⑤しるせ「夫子」「小子」は、それぞれ誰を指すか。
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夫子=孔子
小子=孔子の弟子たち「子之哭也」「何為不去也」「苛政猛於虎也」の三つの「也」の読みを、それぞれ答えよ。
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子之哭也=や
何為不去也=や
苛政猛於虎也=なり
B 書き下し文・現代語訳
「使子路問之曰」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:子路をして之に問はしめて曰はく、
現代語訳:子路に婦人へ尋ねさせて言うことには、「何為不去也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:何為れぞ去らざるや。
現代語訳:どうして(この土地から)立ち去らないのか。「苛政猛於虎也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:苛政は虎よりも猛なり。
現代語訳:むごい政治は、虎よりも恐ろしいものだ。
C 内容の読み取り
「壱似重有憂者」とあるが、婦人の「憂ひ」とは具体的にどのようなことか。
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しゅうと・夫・子どもの三人が、次々に虎に殺されたこと。
「吾夫又死焉」の「焉」は何を指すか。本文中の語で答えよ。
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虎
婦人が、家族を虎に殺されながらもこの土地を離れないのはなぜか。
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この土地には、むごい政治がないから。(よその土地へ行けば、むごい政治に苦しめられるから。)
孔子が弟子たちに「小子識之」と言って覚えさせようとしたのは、どのようなことか。
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むごい政治は、人を食い殺す虎よりも恐ろしく、人々を苦しめるものだということ。