正岡子規(まさおかしき)の『送夏目漱石之伊予(なつめそうせきのいよにゆくをおくる)』の書き下し文・現代語訳・解説です。
俳人・歌人として知られる正岡子規と、小説家の夏目漱石は、学生時代からの親友でした。漱石は、子規の故郷である伊予(今の愛媛県)の松山の中学校で、英語の教師をしていました。この詩は、東京から伊予へ向かう漱石を見送り、遠い旅路と任地での苦労を思いやって、春の再会を約束した詩です。
漱石も漢詩を作っています。漱石の漢詩は『題自画』で読めます。
書き下し文・現代語訳・解説
白文送夏目漱石之伊予
書き下し夏目漱石の伊予に之くを送る
現代語訳夏目漱石が伊予へ行くのを見送る。
- 之
- ここでは「ゆク」。行く。
- 伊予
- 今の愛媛県。子規の故郷。漱石は松山の中学校の教師をしていた。
白文去矣三千里
書き下し去けよ三千里
現代語訳さあ行きたまえ、三千里のかなたへ。
- 去
- 行く。ここでは命令形で「去けよ」と読む。
- 矣
- 意味を強める置き字。訓読では読まない。
- 三千里
- 非常に遠い距離。ここでは、東京から伊予(松山)までの道のりの遠さをいう。
白文送君生暮寒
書き下し君を送れば暮寒生ず
現代語訳君を見送ると、日暮れの寒さがひときわ身にこたえる。
- 君
- 夏目漱石のこと。
- 暮寒
- 夕暮れの寒さ。別れのさびしさを重ねている。
白文空中懸大岳
書き下し空中に大岳懸かり
現代語訳(陸の旅では)大空に大きな山(富士山)が高くそびえ、
- 大岳
- 大きな山。ここでは富士山をさす。
- 懸
- 空にかかる。高くそびえる。
白文海末起長瀾
書き下し海末に長瀾起こる
現代語訳(海の旅では)海の果てに大波がわき起こることだろう。
- 海末
- 海の果て。
- 長瀾
- 長く連なる大きな波。
白文僻地交遊少
書き下し僻地交遊少に
現代語訳都から遠い田舎では、親しく付き合える友人もほとんどいないし、
- 僻地
- 都会から遠く離れた土地。ここでは松山をさす。
- 交遊
- 親しく付き合う友人。
- 少
- 「まれニ」と読み、ほとんどない、の意。「少なく」と読むこともある。
白文狡児教化難
書き下し狡児教化難からん
現代語訳いたずら盛りの生徒たちを教え導くのも、難しいことだろう。
- 狡児
- いたずらっ子。ここでは、漱石が教えている松山の中学校の生徒たち。
- 教化
- 教え導くこと。
- 難
- 「かたカラン」と読み、難しいだろう、の意。「難し」と読むこともある。
白文清明期再会
書き下し清明再会を期す
現代語訳(来年の春の)清明節のころに、また会おう。
- 清明
- 清明節。春分から十五日目にあたる日で、春の行楽や墓参りをする習慣があった。
- 期
- 約束する。心に待ち望む。
白文莫後晩花残
書き下し後るる莫かれ晩花の残はるるに
現代語訳遅咲きの花が散ってしまうのに、遅れないようにしてくれよ。
- 後
- 遅れる。「後るる」は、下二段活用の動詞「後る」の連体形。
- 晩花
- 遅咲きの花。ここでは桜。
- 残
- 散ってしまう。「残はるる」は、「残ふ」の未然形に受身の助動詞「る」の連体形が付いた形。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の形式を答え、押韻している字をすべて抜き出せ。また、対句になっているのはどの聯か。
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形式:五言律詩 押韻:寒・瀾・難・残
対句:頷聯(第三・四句)と頸聯(第五・六句)次の語の意味を答えよ。
①長瀾
②僻地
③大岳
④晩花解答を見る
①長く連なる大きな波
②都会から遠く離れた土地(松山)
③大きな山(富士山)
④遅咲きの花(桜)「三千里」は、ここではどこからどこまでの道のりの遠さを言っているか。
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東京から伊予(松山)まで。
B 書き下し文・現代語訳
「送君生暮寒」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:君を送れば暮寒生ず
現代語訳:君を見送ると、日暮れの寒さがひときわ身にこたえる。「狡児教化難」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:狡児教化難からん
現代語訳:いたずら盛りの生徒たちを教え導くのも、難しいことだろう。「莫後晩花残」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:後るる莫かれ晩花の残はるるに
現代語訳:遅咲きの花が散ってしまうのに、遅れないようにしてくれよ。
C 内容の読み取り
「暮寒」という語には、作者のどのような気持ちが重ねられているか。
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親友の漱石と別れるさびしさ。
第三句・第四句「空中懸大岳 海末起長瀾」は、何を描いたものか。
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漱石がこれから伊予へ向かう旅の途中で目にするであろう雄大な景色(陸路の富士山と、海の大波)を想像して描いたもの。
第五句・第六句に描かれた松山での生活を題材の一つにした、夏目漱石の小説の題名を答えよ。
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『坊っちゃん』
最後の二句(尾聯)に込められた作者の気持ちを説明せよ。
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任地での苦労を思いやりながら、来年の春の清明節のころ、遅咲きの桜が散る前に、必ず漱石と再会したいと強く望む気持ち。