夏目漱石(なつめそうせき)の『題自画(じがにだいす)』の書き下し文・現代語訳・解説です。
『吾輩は猫である』『草枕』などで知られる明治・大正時代の日本の小説家、夏目漱石は、漢詩も数多く作りました。晩年には南画(山水画)を描くことを好み、自分の絵に漢詩を書きつけています。この詩もその一つで、まだ寒さの残る早春の昼下がりの中庭に、かすかな春の気配を見つける様子を詠んでいます。
「漱石」という号の由来は、故事成語の「漱石枕流」です。また、親友の正岡子規が、伊予(松山)へ向かう漱石を見送ってよんだ漢詩は『送夏目漱石之伊予』で読めます。
書き下し文・現代語訳・解説
白文題自画
書き下し自画に題す
現代語訳自分で描いた絵に、詩を書きつける。
- 題
- ここでは、詩を書きつけること。
- 自画
- 自分で描いた絵。
白文唐詩読罷倚闌干
書き下し唐詩読み罷はりて闌干に倚る
現代語訳唐の詩を読み終えて、てすりに寄りかかる。
- 唐詩
- 唐の時代の詩。
- 罷
- やめる。終える。「読み罷めて」と読むこともある。
- 闌干
- てすり。欄干。
- 倚
- 寄りかかる。もたれる。
白文午院沈沈緑意寒
書き下し午院沈沈として緑意寒し
現代語訳昼下がりの中庭はひっそりと静まりかえり、草木の緑はまだ寒々としている。
- 午院
- 昼(昼下がり)の中庭。「午」は正午、「院」は中庭。
- 沈沈
- ひっそりと静まりかえっているさま。
- 緑意
- 草木の緑のたたずまい。芽生えの気配。
- 緑意寒
- 草木の緑がまだまばらで、寒々としている。春が浅い(早春である)ことを表す。
白文借問春風何処有
書き下し借問す春風何れの処にか有ると
現代語訳ちょっと尋ねてみる、春風はいったいどこにあるのか、と。
- 借問
- ちょっと尋ねてみる。試しに聞いてみる。
- 何処
- どこ。場所をたずねる疑問の語。
- 借問の主体
- 作者が、自分自身に問いかけている(自問している)と考えられる。
白文石前幽竹石間蘭
書き下し石前の幽竹石間の蘭
現代語訳(それは)庭石の前のひっそりとした竹と、石の間に生える蘭の(あたりに来ていたのだ)。
- 石前
- 庭石の前。
- 幽竹
- ひっそりとした趣の竹。奥深く静かな竹やぶ。
- 石間
- 庭石と庭石の間。
- 蘭
- ラン。ここでは庭に生えている蘭の葉。
テスト予想問題
A 詩の形式・語句
この詩の作者を漢字で答えよ。また、詩の形式を答え、押韻している字をすべて抜き出せ。
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作者:夏目漱石 詩の形式:七言絶句 押韻:干・寒・蘭
次の語は何と読むか。送り仮名も含め、現代仮名遣いのひらがなで書け。
①罷(読罷)
②闌干
③借問
④何処解答を見る
①おわりて
②らんかん
③しゃもん
④いずれのところ次の語の意味を答えよ。
①題(題自画)
②午院
③緑意
④幽竹解答を見る
①詩を書きつける
②昼(昼下がり)の中庭
③草木の緑のたたずまい(芽生えの気配)
④ひっそりとした趣の竹
B 書き下し文・現代語訳
「借問春風何処有」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:借問す春風何れの処にか有ると
現代語訳:ちょっと尋ねてみる、春風はいったいどこにあるのか、と。「午院沈沈緑意寒」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:午院沈沈として緑意寒し
現代語訳:昼下がりの中庭はひっそりと静まりかえり、草木の緑はまだ寒々としている。「唐詩読罷倚闌干」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:唐詩読み罷はりて闌干に倚る
現代語訳:唐の詩を読み終えて、てすりに寄りかかる。
C 内容の読み取り
承句の「緑意寒」は、どのような情景を表しているか。季節にもふれて説明せよ。
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草木の緑がまだはっきりと芽生えず、寒々としている情景。春が浅い、早春(春のはじめ)の昼下がりである。
転句「借問春風何処有」は、誰が、どのような気持ちで発した問いか。
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作者が自分自身に向けて(自問して)、まだ寒々とした庭のどこに春が来ているのかを探し求める気持ちで発した問い。
作者は、春風(春の訪れ)をどこに見いだしたか。説明せよ。
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庭石の前のひっそりとした竹や、石の間に生える蘭のあたり(その葉がかすかに揺れるところ)に見いだした。
転句と結句は、どのような関係になっているか。説明せよ。
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転句で「春風はどこにあるのか」と問い、結句で「庭石の前の竹と石の間の蘭のあたりにある」と答える、問いと答えの関係。