『論語(ろんご)』微子篇の「長沮・桀溺(ちょうそ・けつでき)」の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。『論語』の学問・仁・政治についての章は「論語①学び」「論語②仁・政治」で解説しています。
書き下し文・現代語訳・解説
渡し場を尋ねる
白文長沮・桀溺耦而耕。
書き下し長沮・桀溺耦して耕す。
現代語訳長沮と桀溺が、二人並んで畑を耕していた。
- 長沮・桀溺
- 二人の隠者の名。
- 耦
- 「ぐうス」。二人並ぶ。「耦而耕」で、二人並んで耕す。
- 而
- 置き字。
白文孔子過之、使子路問津焉。
書き下し孔子之を過ぎ、子路をして津を問はしむ。
現代語訳孔子がそのそばを通りかかり、子路に渡し場(のありか)を尋ねさせた。
- 之
- 長沮と桀溺が耕している所を指す。
- 子路
- 孔子の弟子。
- 津
- 「しん」。渡し場。
- 焉
- 置き字。
- 使AB
- 「AをしてBしむ」。使役。
長沮との問答
白文長沮曰、「夫執輿者為誰。」
書き下し長沮曰はく、「夫の輿を執る者は誰と為す。」と。
現代語訳長沮が言うには、「あの、車の手綱を取っている人は誰か。」と。
- 夫
- 「かノ」。あの。
- 執輿者
- 車の手綱を取っている人。孔子のこと。
- 為誰
- 「誰と為す」。誰か。
白文子路曰、「為孔丘。」
書き下し子路曰はく、「孔丘と為す。」と。
現代語訳子路が言うには、「孔丘です。」と。
- 孔丘
- 孔子のこと。「丘」は孔子の名。
白文曰、「是魯孔丘与。」
書き下し曰はく、「是れ魯の孔丘か。」と。
現代語訳(長沮が)言うには、「それは魯の国の孔丘か。」と。
- 是
- 「こレ」。それ。
- 魯
- 孔子の生まれた国。
- 与
- 「か」。疑問を表す。
白文対曰、「是也。」
書き下し対へて曰はく、「是れなり。」と。
現代語訳(子路が)答えて言うには、「そうです。」と。
- 対
- 「こたフ」。目上の人に答える。
- 是也
- そうです。
白文曰、「是知津矣。」
書き下し曰はく、「是れなれば津を知らん。」と。
現代語訳(長沮が)言うには、「それなら(孔子は)渡し場くらい知っているだろう。」と。
- 是知津矣
- 孔子のような人なら、渡し場のありかは当然知っているはずだ、という意味。
- 矣
- 置き字。
桀溺との問答
白文問於桀溺。
書き下し桀溺に問ふ。
現代語訳(子路は、今度は)桀溺に尋ねた。
- 於
- 置き字。
白文桀溺曰、「子為誰。」
書き下し桀溺曰はく、「子は誰と為す。」と。
現代語訳桀溺が言うには、「あなたは誰か。」と。
- 子
- 二人称。あなた。ここでは子路を指す。
白文曰、「為仲由。」
書き下し曰はく、「仲由と為す。」と。
現代語訳(子路が)言うには、「仲由です。」と。
- 仲由
- 子路の姓名。
白文曰、「是魯孔丘之徒与。」
書き下し曰はく、「是れ魯の孔丘の徒か。」と。
現代語訳(桀溺が)言うには、「では、魯の孔丘の弟子か。」と。
- 徒
- 仲間。門人。弟子。
白文対曰、「然。」
書き下し対へて曰はく、「然り。」と。
現代語訳(子路が)答えて言うには、「そうです。」と。
- 然
- 「しかリ」。そのとおりだ。
桀溺のことば
白文曰、「滔滔者、天下皆是也。
書き下し曰はく、「滔滔たる者、天下皆是れなり。
現代語訳(桀溺が)言うには、「水が勢いよく流れて戻らないように、世の中が乱れて正しい道から離れていくのは、天下どこでも同じだ。
- 滔滔
- 水が盛んに流れて、戻らないさま。ここでは、世の中が乱れて、道から離れていくことをたとえる。
- 是
- 滔滔とした状態を指す。
白文而誰以易之。
書き下し而るに誰と以にか之を易へん。
現代語訳それなのに、(孔子は)いったい誰と一緒にこれを変えようというのか。
- 而
- 「しかルニ」。それなのに。逆接。「しかシテ」と読む読み方もある。
- 以
- 「ともニ」。「与」と同じ。
- 易之
- 乱れた世の中を変える。
- 誰以易之
- 誰と一緒に変えようというのか、誰とも変えることはできない、という気持ち。
白文且而与其従辟人之士也、豈若従辟世之士哉。」
書き下し且つ而其の人を辟くるの士に従はんよりは、豈に世を辟くるの士に従ふに若かんや。」と。
現代語訳そのうえ、あなたも、人を選り好みして避けている人(孔子)に従うよりは、世の中そのものを避けている者(我々)に従ったほうがよいではないか。」と。
- 且
- 「かツ」。そのうえ。
- 而
- 「なんぢ」。あなた。子路を指す。
- 辟
- 「さク」。避ける。「避」と同じ。
- 辟人之士
- 人を避ける人。仕える相手を選び、意に合わない人を避けている者。孔子を指す。
- 辟世之士
- 乱れた世の中そのものを避けて暮らす人。長沮・桀溺のような隠者を指す。
白文耰而不輟。
書き下し耰して輟めず。
現代語訳(そう言うと桀溺は)まいた種に土をかぶせる作業を続けて、手を止めなかった。
- 耰
- 「いうス」。まいた種に土をかぶせる。
- 輟
- 「やム」。やめる。中止する。
孔子のことば
白文子路行以告。
書き下し子路行きて以つて告ぐ。
現代語訳子路は(孔子のところへ)行って、(二人の言ったことを)報告した。
- 以
- 「もつテ」。そうして。
白文夫子憮然曰、「鳥獣不可与同群。
書き下し夫子憮然として曰はく、「鳥獣は与に群を同じくすべからず。
現代語訳先生(孔子)ががっかりした様子で言われるには、「鳥や獣とは、群れを同じくして一緒に暮らすことはできない。
- 夫子
- 先生。孔子を指す。
- 憮然
- がっかりするさま。失望するさま。
- 鳥獣
- 世を避けて山野に暮らす隠者の生き方を、鳥や獣と暮らすことにたとえている。
- 与
- 「ともニ」。一緒に。
- 不可
- 「べからず」。~できない。
白文吾非斯人之徒与而誰与。
書き下し吾斯の人の徒と与にするに非ずして誰と与にせん。
現代語訳私は、この世の人々と一緒に生きるのでなくて、いったい誰と一緒に生きようか(世の人々とともに生きるほかはない)。
- 斯人之徒
- この世の人々。世間の人々。
- 与
- 「ともニス」。一緒にする。ともに生きる。
- 誰与
- 「誰と与にせん」。誰と一緒に生きようか。反語。
白文天下有道、丘不与易也。」
書き下し天下道有らば、丘与に易へざるなり。」と。
現代語訳もし天下に正しい道が行われているならば、私は人々とともに世の中を変えようとはしない(道が行われていないから、変えようとしているのだ)。」と。
- 有道
- 正しい道が行われている。世の中の秩序が保たれている。
- 丘
- 孔子が自分を名で呼んだもの。
- 与易
- 人々と一緒に(世の中を)変える。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①耦して
②津
③夫の
④与(是魯孔丘与)
⑤而(且而)
⑥憮然として解答を見る
①ぐうして
②しん
③かの
④か
⑤なんじ
⑥ぶぜんとして次の語の、本文中での意味を答えよ。
①執輿者
②滔滔
③耰
④輟解答を見る
①車の手綱を取っている人(孔子)
②水が盛んに流れて戻らないさま(世の中が乱れて道から離れていくことのたとえ)
③まいた種に土をかぶせる
④やめる
B 書き下し文・現代語訳
「使子路問津焉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:子路をして津を問はしむ。
現代語訳:子路に渡し場のありかを尋ねさせた。「滔滔者、天下皆是也。而誰以易之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:滔滔たる者、天下皆是れなり。而るに誰と以にか之を易へん。
現代語訳:水が勢いよく流れて戻らないように、世の中が乱れていくのは天下どこでも同じだ。それなのに、誰と一緒にこれを変えようというのか。「且而与其従辟人之士也、豈若従辟世之士哉」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:且つ而其の人を辟くるの士に従はんよりは、豈に世を辟くるの士に従ふに若かんや。
現代語訳:そのうえ、あなたも、人を避ける人に従うよりは、世の中を避ける者に従ったほうがよいではないか。「鳥獣不可与同群。吾非斯人之徒与而誰与」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:鳥獣は与に群を同じくすべからず。吾斯の人の徒と与にするに非ずして誰と与にせん。
現代語訳:鳥や獣とは一緒に群れをなして暮らすことはできない。私はこの世の人々と一緒に生きるのでなくて、いったい誰と一緒に生きようか。
C 内容の読み取り
長沮が「是知津矣」と言ったのは、孔子をどのような人だと見ていたからか。
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世の中に道を説いて回っている物知りの人なのだから、渡し場のありかくらい当然知っているはずだと見ていたから(皮肉を込めている)。
「辟人之士」「辟世之士」は、それぞれ誰を指すか。
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辟人之士=孔子 辟世之士=長沮・桀溺(世を避けて暮らす隠者)
「耰而不輟」から、桀溺のどのような態度が読み取れるか。
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孔子の一行と出会ったことなど、仕事を中断するほどの大事ではないとして、相手にしない態度(と読み取れる)。
孔子が「憮然」としたのはなぜか。
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世の人々とともに世の中を正そうとする自分の考えが、隠者たちに理解されなかったからだと考えられる。
「天下有道、丘不与易也」には、孔子のどのような考えが表れているか。
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今の天下には正しい道が行われていないので、世を避けるのではなく、人々とともに世の中を変えていかなければならないという考え。