陳玄祐『離魂記』①書き下し文・現代語訳・解説|寤寐に感想す・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 倩娘と王宙
  3. 倩娘の縁談
  4. テスト予想問題
  5. 続き(②)

陳玄祐『離魂記(りこんき)』①「寤寐に感想す」の書き下し文・現代語訳・解説です。

『離魂記』は唐代の伝奇小説です。六朝時代の「志怪」が不思議なできごとを記録したものだったのに対して、唐代には、そうした話を素材に意識して創作された小説が生まれました。これを「伝奇」といいます。『離魂記』は、体から抜け出した魂が恋しい人のもとへ行き、のちにまた体と一つになるという話で、唐代伝奇がさかんになる先がけとなった作品の一つです。

作者の陳玄祐(ちんげんいう)は、唐の大暦(七六六〜七七九年)の末ごろにこの作品を書いたこと以外、何もわかっていません。本文は『太平広記』の「王宙」の条によります。

書き下し文・現代語訳・解説

倩娘と王宙

本文(訓読文)

白文天授三年、清河張鎰、因官家于衡州。

書き下し天授(てんじゆ)三年、清河(せいか)の張鎰(ちやういつ)、官に因(よ)りて衡州(かうしう)に家(いへ)す。

現代語訳天授三年、清河の張鎰は、役人としての勤めのために衡州に住んでいた。

天授三年
六九二年。「天授」は唐の則天武后の時代の年号。
清河
地名。今の河北省のあたり。
因官
役人の勤めのために。
家
「いへス」。住む。家を構える。
于
置き字。場所を表す。「於」と同じ。
衡州
地名。

白文性簡静、寡知友。

書き下し性簡静(かんせい)にして、知友(ちいう)寡(すく)なし。

現代語訳(鎰は)性格が飾り気がなくもの静かで、友人も少なかった。

簡静
飾り気がなく、おだやかでもの静かなこと。
寡
「すくなシ」。少ない。
知友
親しい友人。

白文無子、有女二人。

書き下し子無く、女(むすめ)二人有り。

現代語訳息子はなく、娘が二人いた。

子
ここは男の子、息子の意味。
女
「むすめ」。娘。

白文其長早亡、幼女倩娘、端姸絶倫。

書き下し其の長は早く亡く、幼女倩娘(せんぢやう)は、端姸(たんけん)絶倫(ぜつりん)なり。

現代語訳上の娘は早くに亡くなり、下の娘の倩娘は、容姿が整っていて、その美しさは並ぶ者がなかった。

長
上の娘。長女。
幼女
末の娘。
端姸
顔かたちが整って美しいこと。
絶倫
人並みはずれてすぐれていること。

白文鎰外甥太原王宙、幼聡悟、美容範。

書き下し鎰の外甥(ぐわいせい)太原(たいげん)の王宙(わうちう)は、幼(えう)にして聡悟(そうご)、容範(ようはん)美(うるは)し。

現代語訳鎰の甥である太原の王宙は、幼いころから賢く、顔かたちも態度もりっぱだった。

外甥
姉妹の息子。甥。
太原
地名。今の山西省太原市。
聡悟
賢くて、のみこみが早いこと。
容範
顔かたちと態度。
美
「うるはシ」。りっぱである。

白文鎰常器重、毎曰、「他時当以倩娘妻之。」

書き下し鎰常に器重(きちよう)し、毎(つね)に曰はく、「他時(たじ)当(まさ)に倩娘を以て之(これ)に妻(めあは)すべし。」と。

現代語訳鎰はいつも(王宙の)才能を認めて大切にし、ことあるごとに、「いずれ倩娘を王宙の妻にしよう。」と言っていた。

器重
才能のある人物と認めて重んじる。
常
いつも。
毎
ことあるごとに。「常」も「毎」も「つねに」と読むが、意味が違う。
他時
いつか。将来。
当
「まさニ~ベシ」と読む再読文字。
之
王宙を指す。
妻
「めあはス」。妻として嫁がせる。

倩娘の縁談

本文(訓読文)

白文後各長成、宙与倩娘、常私感想於寤寐、家人莫知其状。

書き下し後各(おのおの)長成(ちやうせい)し、宙と倩娘とは、常に私(ひそ)かに寤寐(ごび)に感想(かんさう)すれども、家人(かじん)其の状(じやう)を知る莫(な)し。

現代語訳その後、二人はそれぞれ成長し、王宙と倩娘とは、いつも寝ても覚めても心の中でひそかに思い合っていたが、家の人々は誰もそのことを知らなかった。

長成
成長する。
宙与倩娘
「宙と倩娘と」。「A与B」は「AとBと」と読む。
私
「ひそかニ」。人に知られずに。心の中で。
感想
心を動かし、相手を強く思う。
寤寐
寝ても覚めても。「寤」は目が覚めること、「寐」は寝ること。
於
置き字。
家人
家の人々。
其状
王宙と倩娘が思い合っている様子。
莫
「なシ」。ここは「無」と同じ。

白文後有賓寮之選者、求之。

書き下し後賓寮(ひんれう)の選者(せんじや)有りて、之を求む。

現代語訳その後、(鎰の)同僚で、選ばれて役人となった者が、倩娘を妻にほしいと申し出た。

賓寮
同じ役所に勤める仲間。同僚。「賓僚」とも書く。
選者
ここは「選ばれた者」の意味。何に選ばれたのかは解釈が分かれる。
之
倩娘を指す。

白文鎰許焉。

書き下し鎰許す。

現代語訳鎰はそれを承知した。

焉
置き字。断定の意を表す。

白文女聞而鬱抑。

書き下し女(むすめ)聞きて鬱抑(うつよく)す。

現代語訳倩娘はそれを聞いてふさぎこんでしまった。

女
倩娘のこと。
而
置き字。
鬱抑
心がふさいで晴れない。

白文宙亦深恚恨、託以当調、請赴京。

書き下し宙も亦(また)深く恚恨(いこん)し、託(たく)するに当調(たうてう)を以てし、京(けい)に赴(おもむ)かんと請(こ)ふ。

現代語訳王宙もまた激しく怒り恨み、転任の時期にあたることを口実にして、都に行きたいと願い出た。

亦
「また」。~もまた同じように。倩娘だけでなく王宙も、ということ。
恚恨
激しく怒り恨む。
託以
~を口実にする。
当調
転任の時期にあたること。「調」は官職が移ること。
京
都。長安。

白文止之不可。

書き下し之を止(とど)むれども可(き)かず。

現代語訳(鎰は)王宙を引き止めたが、(王宙は)聞き入れなかった。

之
王宙を指す。
止
引き止める。主語は鎰。
不可
「きかず」。聞き入れない。

白文遂厚遣之。

書き下し遂(つひ)に厚く之を遣(や)る。

現代語訳(鎰は)そのまま、旅の支度を手厚くととのえて王宙を送り出した。

遂
そのまま。結局。
厚
旅費などを十分に用意して。
遣
送り出す。
之
王宙を指す。
○引き止めたり手厚く送り出したりしていることから、鎰は王宙と倩娘の気持ちに気づいていなかったと考えられる。

白文宙陰恨悲慟、決別上船。

書き下し宙陰(ひそ)かに恨みて悲慟(ひどう)し、決別(けつべつ)して船に上(の)る。

現代語訳王宙は心の中で恨み、ひどく嘆き悲しみながら、別れを告げて船に乗った。

陰
「ひそかニ」。心の中で。こっそり。
悲慟
ひどく嘆き悲しむ。
決別
別れを告げる。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①寡
    ②毎
    ③私
    ④遂
    ⑤陰

    解答を見る

    ①すくなし/少ない
    ②つねに/ことあるごとに
    ③ひそかに/人に知られずに・心の中で
    ④ついに/そのまま・結局
    ⑤ひそかに/心の中でこっそり

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①他時
    ②寤寐
    ③鬱抑
    ④恚恨

    解答を見る

    ①いつか・将来
    ②寝ても覚めても
    ③心がふさいで晴れないこと
    ④激しく怒り恨むこと

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「他時当以倩娘妻之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:他時当に倩娘を以て之に妻すべし。
    現代語訳:いずれ倩娘を王宙の妻にしよう。

  2. 「止之不可。遂厚遣之」を書き下し文にし、二つの「之」が誰を指すかを明らかにして現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:之を止むれども可かず。遂に厚く之を遣る。
    現代語訳:(鎰は)王宙を引き止めたが、王宙は聞き入れなかった。そこで(鎰は)そのまま旅支度を手厚くととのえて王宙を送り出した。

  3. 「宙亦深恚恨、託以当調、請赴京」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:宙も亦深く恚恨し、託するに当調を以てし、京に赴かんと請ふ。
    現代語訳:王宙もまた激しく怒り恨み、転任を口実にして、都へ行きたいと願い出た。

C 内容の読み取り

  1. 「家人莫知其状」の「其状」とは、どのような様子か。説明せよ。

    解答を見る

    王宙と倩娘が、寝ても覚めても、心の中でひそかに思い合っている様子。

  2. 「求之」とは、誰が、誰を、どうしようと求めたのか。

    解答を見る

    鎰の同僚で選ばれて役人となった者が、倩娘を自分の妻にしたいと求めた。

  3. 倩娘の縁談が決まったことを知ったときの、倩娘と王宙の気持ちを、それぞれ本文中の二字の語で抜き出し、その意味を答えよ。

    解答を見る

    倩娘:鬱抑(心がふさいで晴れない)
    王宙:恚恨(激しく怒り恨む)

  4. 鎰が、都へ行こうとする王宙を引き止め、それでも行くと聞くと旅支度を手厚くととのえて送り出したことから、鎰についてどのようなことが考えられるか。

    解答を見る

    鎰は、王宙と倩娘が思い合っていることに気づいていなかったと考えられる。

  5. 王宙が都へ行きたいと願い出たのはなぜだと考えられるか。説明せよ。

    解答を見る

    倩娘と思い合い、鎰からも将来倩娘を妻にさせると言われていたのに、倩娘がほかの男に嫁ぐことになったので、怒り恨み、倩娘のいる衡州を離れようとしたから。

続き(②)

その夜、船で眠れずにいた王宙のもとへ、はだしの倩娘が追いかけてきます。