『伊勢物語』初冠 現代語訳・品詞分解・解説|テスト予想問題付き

目次
  1. 原文の読み方
  2. 現代語訳・品詞分解・解説
  3. 春日の里の姉妹
  4. 「春日野の」の歌
  5. 「陸奥の」の歌
  6. テスト予想問題

『伊勢物語(いせものがたり)』第一段「初冠(ういこうぶり)」の現代語訳・品詞分解・解説です。

元服したばかりの男が、さびれた旧都で美しい姉妹をのぞき見て心を乱し、着ていた狩衣の裾を切って歌を書きつけて贈る、という『伊勢物語』の最初の章段です。和歌の序詞・掛詞や、「いちはやきみやび」が何を指すかがよく問われます。

原文の読み方

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現代語訳・品詞分解・解説

春日の里の姉妹

原文
昔、男、初冠ういこうぶりしサ変連用て接助単純接続、奈良の格助体修京、春日かすがの格助体修里に格助場所しるラ四連体よしして格助手段、狩りに格助目的往いにナ変連用けり過去終止。

現代語訳昔、ある男が元服して、奈良の都の春日の里に領地をもっている縁で、鷹狩りに出かけた。

初冠(ういこうぶり)
男子が成人して初めて冠をつけること。元服。
しる
(土地を)領有する。治める。
よし
縁。ゆかり。
狩り
鷹狩り。
解説

奈良の京(平城京)は、都が移ってさびれた旧都。あとの「ふるさと」はここを指す。

「往にけり」の「に」は、ナ変動詞「往ぬ」の連用形の活用語尾。「にけり」の形でも、完了の「ぬ」ではない。

原文
そ代名の格助体修里に格助場所、いと副なまめいカ四連用・音たる存続連体女おんなはらから住みマ四連用けり過去終止。

現代語訳その里に、たいそう若くて美しい姉妹が暮らしていた。

なまめく
若々しく美しい。
はらから
同じ母から生まれた兄弟姉妹。「女はらから」で姉妹。
原文
こ代名の格助体修男、垣間見かいまみマ上一連用て完了連用けり過去終止。

現代語訳この男は、(その姉妹を)物のすきまからこっそりのぞき見てしまった。

垣間見る
物のすきまからこっそりのぞき見る。
解説

当時の貴族の女性は人前に姿を見せなかったので、男が女性の姿を知るには垣間見しかなく、恋の始まりになることが多かった。

「垣間見てけり」の「て」は、完了の助動詞「つ」の連用形。

原文
思ほえヤ下二未然ず打消連用、ふるさとに格助場所いと副はしたなくク連用て接助単純接続ありラ変連用けれ過去已然ば接助順接確定、心地惑ひハ四連用に完了連用けり過去終止。

現代語訳思いがけず、さびれた旧都に(姉妹が)ひどく不似合いなさまで暮らしていたので、(男は)すっかり心が乱れてしまった。

思ほえず
思いがけず。
ふるさと
旧都。ここでは奈良の京(平城京)。
はしたなし
不釣り合いだ。不似合いだ。
惑ふ
心が乱れる。
解説

さびれた旧都と、そこに住む若々しく美しい姉妹とが、不釣り合いだというのである。

男の心が乱れたのは、思いもかけず、さびれた旧都に美しい姉妹がいるのを見つけて、恋をしてしまったから。

原文
男の格助主格着きカ上一連用たり存続連用ける過去連体狩衣かりぎぬの格助体修裾すそを格助対象切りラ四連用て接助単純接続、歌を格助対象書きカ四連用て接助単純接続やるラ四終止。

現代語訳男は、自分の着ていた狩衣の裾を切り取って、(それに)歌を書いて贈る。

狩衣(かりぎぬ)
貴族の男性がふだん着た服。
やる
(こちらから相手へ)送る。反対に、相手からこちらへよこすことは「おこす」という。
解説

狩衣の裾を切って歌を書いたのは、しのぶずりの乱れ模様を見せて、自分の心もこのように乱れていると伝えるため。

原文
そ代名の格助体修男、しのぶずりの格助体修狩衣かりぎぬを格助対象なむ係助強意着きカ上一連用たり存続連用ける過去連体。

現代語訳その男は、(ちょうど)しのぶずりの狩衣を身につけていたのである。

しのぶずり
しのぶ草の汁などをすりつけて、乱れた模様を出した布。
解説

「なむ」の結びは「ける」(過去の助動詞「けり」の連体形)。

「春日野の」の歌

原文
春日野かすがのの格助体修若紫わかむらさきの格助体修すり衣ごろもしのぶの格助体修乱れ限り知らラ四未然れ可能未然ず打消終止

現代語訳春日野の若々しい紫草のようなあなたがたを見て、このしのぶずりの衣の乱れ模様のように、ひそかに恋い慕う私の心は、どこまで乱れるのか限りも知れません。

若紫
若々しい紫草。
すり衣
模様をすり染めにした衣。
解説

「春日野の若紫のすり衣」は、「しのぶ」を導く序詞。

「しのぶの乱れ」は、「しのぶずりの衣の乱れ模様」と「人を恋い慕う心の乱れ」の二つの意味をもつ掛詞。

「若紫」は、美しい姉妹(なまめいたる女はらから)をたとえている。

「しのぶの乱れ限り知られず」は、地の文の「心地惑ひにけり」とほぼ同じ気持ちを表している。

原文
と格助引用なむ係助強意、追ひつきカ四連用て接助単純接続言ひやりラ四連用ける過去連体。

現代語訳と、すぐさま詠んで贈ったのだった。

追ひつきて
すぐに。時をおかずに。
言ひやる
(歌を)詠んで送る。
原文
ついでおもしろきク連体ことと格助引用も係助強意や係助疑問思ひハ四連用けむ過去推量連体。

現代語訳(男は)事のなりゆきを趣深いことだとでも思ったのだろうか。

ついで
事のなりゆき。
おもしろし
趣がある。
解説

「ついで」は、美しい姉妹を見て心が乱れたちょうどそのときに、その心を表すような乱れ模様の「しのぶずり」の狩衣を着ていた、というなりゆきを指す。

「思ひけむ」の主語は男。この文から後は、出来事についての語り手の説明・感想になっている。

「陸奥の」の歌

原文
陸奥みちのくの格助体修しのぶもぢずり誰たれ代名ゆゑに格助原因乱れそめマ下二連用に完了連用し過去連体我代名なら断定未然な打消未然くに接助逆接確定

現代語訳陸奥のしのぶもぢずりの乱れ模様のように、(あなた以外の)だれのせいで心が乱れはじめた私でもないのに。(乱れるのはあなたゆえなのです。)

陸奥(みちのく)
今の東北地方。
しのぶもぢずり
陸奥の信夫地方で作られた、乱れ模様のすり染め。
〜なくに
〜ないのに。
解説

「陸奥のしのぶもぢずり」は、「乱れ」を導く序詞。

「そめ」は「染め」と「初め」の掛詞。「乱れ」「染め」は「しのぶもぢずり」の縁語。

この歌は『古今和歌集』にある源融(みなもとのとおる)の歌。男の「春日野の」の歌は、この歌をふまえている。

原文
と格助引用いふハ四連体歌の格助体修心ばへなり断定終止。

現代語訳という古い歌の趣向をふまえたものである。

心ばへ
趣向。
解説

二つの歌は、恋のために乱れた心を、しのぶずりの乱れ模様にたとえている点が共通している。

原文
昔人むかしびとは係助区別、かく副いちはやきク連体みやびを格助対象なむ係助強意しサ変連用ける過去連体。

現代語訳昔の人は、このように情熱的で風流なふるまいをしたのだった。

いちはやし
激しい。情熱的だ。
みやび
宮廷風で上品なこと。優雅。風流。
解説

「いちはやきみやび」は、美しい姉妹を見るとすぐに、着ていた狩衣の裾を切って、それに巧みな歌を書いて贈った男の、情熱的で風流なふるまいを指す。

語り手は、昔の人のこのようなふるまいを、よき時代のものとしてなつかしみ、あこがれていると考えられる。

『伊勢物語』のほかの章段:東下り① / 東下り② / 月やあらぬ / 狩りの使ひ / 関守・つひにゆく道

テスト予想問題

A 読み・語句

  1. 次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
    ①初冠
    ②垣間見て
    ③狩衣
    ④陸奥
    ⑤昔人

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    ①ういこうぶり
    ②かいまみて
    ③かりぎぬ
    ④みちのく
    ⑤むかしびと

  2. 次の語の本文中での意味を答えよ。
    ①しる
    ②なまめく
    ③はらから
    ④ふるさと
    ⑤はしたなし
    ⑥追ひつきて
    ⑦ついで
    ⑧心ばへ
    ⑨みやび

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    ①(土地を)領有する
    ②若々しく美しい
    ③兄弟姉妹(ここでは姉妹)
    ④旧都(奈良の京)
    ⑤不釣り合いだ・不似合いだ
    ⑥すぐに
    ⑦事のなりゆき
    ⑧趣向
    ⑨宮廷風の優雅さ・風流

B 文法

  1. 次の傍線部の「に」を文法的に説明せよ。
    ①狩りに往【に】けり
    ②その里【に】
    ③心地惑ひ【に】けり
    ④乱れそめ【に】し

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    ①ナ行変格活用の動詞「往ぬ」の連用形の活用語尾
    ②格助詞(場所)
    ③完了の助動詞「ぬ」の連用形
    ④完了の助動詞「ぬ」の連用形

  2. 次の傍線部を文法的に説明せよ。
    ①限り知ら【れ】ず
    ②垣間見【て】けり
    ③乱れそめに【し】
    ④我【なら】なくに

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    ①可能の助動詞「る」の未然形
    ②完了の助動詞「つ」の連用形
    ③過去の助動詞「き」の連体形
    ④断定の助動詞「なり」の未然形

  3. 「しのぶずりの狩衣をなむ着たりける」「ついでおもしろきことともや思ひけむ」について、それぞれ係助詞と結びの語を抜き出し、結びの語の意味と活用形を答えよ。

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    前者=係助詞「なむ」、結び「ける」(過去の助動詞「けり」の連体形)。後者=係助詞「や」、結び「けむ」(過去推量の助動詞「けむ」の連体形)。

C 現代語訳・内容

  1. 「昔、男、初冠して」とあるが、「初冠す」とはどういうことか。また、本文中の「ふるさと」はどこを指すか。

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    初冠す=元服すること(成人して初めて冠をつけること)。ふるさと=旧都である奈良の京(平城京)。

  2. 「思ほえず、ふるさとにいとはしたなくてありければ、心地惑ひにけり」を現代語訳せよ。また、何と何とが「はしたなし」だというのか答えよ。

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    訳=思いがけず、旧都に(姉妹が)ひどく不似合いなさまで暮らしていたので、(男は)心が乱れてしまった。何と何=さびれた旧都と、若々しく美しい姉妹。

  3. 「春日野の若紫のすり衣しのぶの乱れ限り知られず」について、①序詞を抜き出せ。②「しのぶの乱れ」に掛けられた二つの意味を答えよ。③「若紫」は何のたとえか。本文中の語句で答えよ。④この歌とほぼ同じ心情を表す地の文の表現を抜き出せ。

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    ①春日野の若紫のすり衣
    ②しのぶずりの衣の乱れ模様/人を恋い慕う心の乱れ
    ③(いとなまめいたる)女はらから
    ④心地惑ひにけり

  4. 「ついでおもしろきことともや思ひけむ」を、主語を補って現代語訳せよ。また、「ついで」とはここではどのようなことを指すか、説明せよ。

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    訳=(男は)事のなりゆきを趣深いことだとでも思ったのだろうか。ついで=美しい姉妹に恋をして心が乱れたちょうどそのときに、その心を表すような乱れ模様のしのぶずりの狩衣を着ていたこと。

  5. 「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに」について、①序詞とそれが導く語を答えよ。②掛詞を抜き出し、掛けられた二つの意味を答えよ。③「しのぶもぢずり」の縁語を二つ抜き出せ。

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    ①序詞=陸奥のしのぶもぢずり、導く語=乱れ
    ②そめ(染め・初め)
    ③乱れ・そめ(染め)

  6. 「春日野の」の歌と「陸奥の」の歌に共通する発想を説明せよ。また、男が狩衣の裾を切り取り、それに歌を書きつけて贈った理由を答えよ。

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    共通点=恋のために乱れた心を、しのぶずりの乱れ模様にたとえているところ。理由=しのぶずりの乱れ模様を見せることで、自分の心もこのように乱れていると相手に伝えようとしたから。

  7. 「昔人は、かくいちはやきみやびをなむしける」について、①「いちはやきみやび」とは男のどのようなふるまいを指すか。②この一文から、語り手のどのような気持ちが読み取れるか。

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    ①美しい姉妹を見て恋をすると、すぐに着ていた狩衣の裾を切り、それに巧みな歌を書きつけて贈ったという、情熱的で風流なふるまい。②昔の人の情熱的で優雅なふるまいを、よき時代のものとしてなつかしみ、あこがれる気持ち。