『伊勢物語(いせものがたり)』第五段「関守(せきもり)」(「通ひ路の関守」とも)と、第百二十五段「つひにゆく道」の現代語訳・品詞分解・解説です。
「関守」は、人目を忍んで通っていた女のもとへ、見張りのせいで行けなくなった男が、一首の歌を詠む話です。「つひにゆく道」は『伊勢物語』の最後の章段で、死を目前にした男の歌が一首だけ記されています。どちらも短い章段なので、一つの記事にまとめました。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
関守(第五段) 現代語訳・品詞分解・解説
通い路の見張り
- 東の五条
- 平安京の東半分(左京)の五条。
- わたり
- あたり。
- 忍ぶ
- 人目を避ける。
「いと忍びて行きけり」は、男が女のもとへ、人目を避けてこっそり通っていたということ。
現代語訳人目を忍んで通う所なので、門から入ることもできずに、子どもたちが踏んで穴をあけた土塀の崩れから出入りしていた。
- みそかなり
- ひそかだ。
- え〜で
- 〜できないで。
- 築地
- 土塀。
門から入れなかったのは、人目を忍んでひそかに通う所だったから。
「みそかなる所なれば」の「なる」は形容動詞「みそかなり」の連体形の活用語尾、「なれ」は断定の助動詞「なり」の已然形。
現代語訳人目が多いわけではないけれど、(男の訪れが)何度も重なったので、家の主人がそれを耳にして、
- しげし
- 多い。
- あるじ
- (家の)主人。
「人しげくもあらねど」は、人目が多いわけではないけれど、ということ。
現代語訳その通い路に、毎晩番人を置いて見張らせたので、(男は)出かけて行っても逢うことができないで帰った。
- 通ひ路
- 通う道。
- 据う
- 置く。ワ行下二段活用。
「人を据ゑて」の「人」は番人。主人が、男を女のもとへ通わせないように置いたのである。
「詠める」の下に「歌」が省略されている。
「人知れぬ」の歌
現代語訳人に知られない私の通い路の番人は、毎晩毎晩、ちょっとでも眠ってしまってほしい。
- 関守
- 関所の番人。ここでは、通い路を見張る番人をたとえている。
- 宵々ごと
- 毎晩。
「なむ」は、未然形に付いて「〜てほしい」と他にあつらえ望む終助詞。「寝な」の「な」は強意の助動詞「ぬ」の未然形。
男が番人に寝てほしいと願うのは、番人が眠れば、そのすきに女に逢いに行けるから。
現代語訳と(男が)詠んだので、(女は)ひどく心を痛めた。それで家の主人は(男が通うのを)許してやった。
- いたう
- ひどく。「いたく」のウ音便。
「心病みけり」の主語は女。男の歌を知って、ひどく心を痛めたのである。
「あるじ許してけり」は、家の主人が、男が女のもとへ通うことを許したということ。歌によって願いがかなったのである。
後日の種明かし
現代語訳(これは男が)二条の后のもとに人目を忍んで参上していたのを、世間のうわさになったので、(后の)兄たちが(番人に)見張らせなさったということだ。
- 二条の后
- 藤原高子(たかいこ)。
- 聞こえ
- うわさ。評判。
- 兄人
- (女から見て)兄弟。
「参り」は謙譲語で、作者から二条の后への敬意。「給ひ」は尊敬語で、作者から兄人たちへの敬意。
この一文は、前の話の裏にあった事実を明かす後日談。男が通っていた女は二条の后で、通い路を見張らせていたのは后の兄たちだったというのである。
「とぞ」の下には「言ふ」「伝へける」などが省略されている(結びの省略)。
つひにゆく道(第百二十五段) 現代語訳・品詞分解・解説
『伊勢物語』の最後の章段です。病気になった男が、死を前にして詠んだ歌です。
- わづらふ
- 病気になる。
- おぼゆ
- (自然に)思われる。感じられる。
「心地死ぬべく」は、今にも死にそうな気持ち、ということ。
現代語訳最後には(だれもが)行く道だと、前から聞いてはいたけれど、(それが)昨日今日(のように差し迫ったこと)とは思わなかったよ。
- つひに
- 最後には。
- かねて
- 前もって。以前から。
「つひにゆく道」は、人が最後にはだれでも行く道、つまり死出の道のこと。
「昨日今日とは」は、それが昨日今日のように差し迫ったものだとは、ということ。
死はだれにでも訪れると知ってはいたが、まさか自分にこれほど早くやってくるとは思わなかった、という驚きと嘆きが詠まれている。
『伊勢物語』のほかの章段:初冠 / 月やあらぬ / 東下り① / 東下り② / 狩りの使ひ
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①東
②童べ
③築地
④関守
⑤二条の后
⑥兄人
⑦昨日今日解答を見る
①ひんがし
②わらわべ
③ついじ
④せきもり
⑤にじょうのきさき
⑥しょうと
⑦きのうきょう次の語の本文中での意味を答えよ。
①忍ぶ
②みそかなり
③あるじ
④聞こえ
⑤わづらふ
⑥かねて解答を見る
①人目を避ける
②ひそかだ
③(家の)主人
④うわさ・評判
⑤病気になる
⑥前もって・以前から
B 文法
次の傍線部を文法的に説明せよ。
①みそか【なる】所【なれ】ば
②門よりもえ入ら【で】
③さて詠め【る】
④あるじ許し【て】けり
⑤兄人たちの守ら【せ】給ひける解答を見る
①なる=ナリ活用の形容動詞「みそかなり」の連体形の活用語尾、なれ=断定の助動詞「なり」の已然形
②打消の接続助詞「で」
③完了の助動詞「り」の連体形
④完了の助動詞「つ」の連用形
⑤使役の助動詞「す」の連用形「宵々ごとにうちも寝ななむ」の「な」「なむ」を文法的に説明し、現代語訳せよ。また、男が番人に寝てほしいと願ったのはなぜか。
解答を見る
な=強意の助動詞「ぬ」の未然形。なむ=他にあつらえ望む(願望の)終助詞。訳=毎晩毎晩、少しでも眠ってしまってほしい。理由=番人が眠れば、そのすきに女に逢いに行けるから。
「二条の后に忍びて参りけるを」の「参り」と、「兄人たちの守らせ給ひける」の「給ひ」について、それぞれ敬語の種類と、だれからだれへの敬意かを答えよ。
解答を見る
参り=謙譲語、作者から二条の后への敬意。給ひ=尊敬語、作者から兄人たちへの敬意。
C 現代語訳・内容
「みそかなる所なれば、門よりもえ入らで」を現代語訳せよ。また、男はどこから女のもとへ通っていたか、本文中から抜き出せ。
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訳=人目を忍んで通う所なので、門から入ることもできずに。どこから=童べの踏みあけたる築地の崩れ
「人しげくもあらねど、たび重なりければ」を現代語訳せよ。また、歌の中の「関守」とは、本文中のだれのことか。
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訳=人目が多くはないけれど、(男が通うことが)たび重なったので。関守=あるじが通い路に置いた番人(「夜ごとに人を据ゑて」の「人」)。
「いといたう心病みけり。あるじ許してけり」について、①「心病みけり」の主語を答えよ。②だれが、何を許したのか、説明せよ。
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①女(二条の后)
②家の主人が、男が女のもとへ通うことを許した。最後の一文「二条の后に忍びて参りけるを、…守らせ給ひけるとぞ」は、前の部分に対してどのような役割をもっているか、説明せよ。
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前の話の裏にあった事実を明かす後日談の役割。男が通っていた女は二条の后であり、通い路を見張らせていたのは后の兄たちだったことを明かしている。
「心地死ぬべくおぼえければ」を品詞分解し、現代語訳せよ。
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心地=名詞/死ぬ=動詞「死ぬ」(ナ行変格活用)の終止形/べく=助動詞「べし」(推量)の連用形/おぼえ=動詞「おぼゆ」(ヤ行下二段活用)の連用形/けれ=助動詞「けり」(過去)の已然形/ば=接続助詞(順接確定)。訳=今にも死にそうに思われたので。
「つひにゆく道とはかねて聞きしかど昨日今日とは思はざりしを」を現代語訳せよ。また、「しか」「ざり」「し」の意味と活用形を答え、この歌にこめられた心情を説明せよ。
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訳=最後にはだれもが行く道(死出の道)だと前から聞いてはいたけれど、それが昨日今日のように差し迫ったこととは思わなかったよ。しか=過去・已然形、ざり=打消・連用形、し=過去・連体形。心情=死はだれにでも訪れると知ってはいたが、自分にこれほど早くやってくるとは思わなかったという、驚きと嘆き。