『大鏡(おおかがみ)』「時平の大臣(ときひらのおとど)」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。教科書によっては、前半だけが「時平」という題で載っています。
菅原道真を大宰府へ追いやった左大臣・藤原時平の人がらを語る三つの話です。帝と示し合わせてぜいたくを戒めた話、笑い出すと止まらない時平の話、雷神となった道真に太刀を抜いて立ち向かった話が続きます。「の」の用法、敬語の向き、主語、指示語の内容がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
帝と示し合わせたぜいたく禁止
現代語訳そうはいっても、(時平公は)政治の手腕などは、たいそうすぐれていらっしゃったのですよ。
- 大和魂
- 実際の物事をうまく処理する才能。ここでは政治の手腕。
時平は、政治家としての実務の能力にはすぐれていた、という語り手の評価。
現代語訳醍醐天皇が世の中の決まりをお取り締まりになったけれど、度を過ぎたぜいたくをお抑えになることができずにいらっしゃったときに、
- 延喜
- 醍醐天皇。延喜は醍醐天皇の時代の年号。
- 過差
- 度を過ぎたぜいたく。
「延喜の」の「の」は主格。
醍醐天皇は世のありさまを正そうとしたが、度を過ぎたぜいたくだけは止められずにいた、ということ。
現代語訳この殿(時平)が、決まりを破ったご装束で、格別に立派なものを身に着けて宮中に参上なさり、殿上の間に控えていらっしゃるのを、
- 制
- 決まり。ここは、ぜいたくを禁じる決まり。
「御装束の、殊のほかにめでたき」の「の」は同格。「ご装束で、格別に立派なご装束」という意味。
現代語訳帝は小蔀からご覧になって、たいそうご機嫌を悪くなさり、職事をお呼び寄せになって、
- 小蔀
- 殿上の間をのぞけるように、清涼殿の天皇のお部屋に設けられた小窓。
- 職事
- 蔵人。
帝のご機嫌が悪くなったのは、ぜいたくを正そうとしているときに、最高位の左大臣である時平が、ことさら華やかな装束で参内しているのを見たから。
現代語訳「世間のぜいたくを禁じる決まりが厳しいときに、左大臣が、臣下で第一の人とはいっても、格別に華やかな装いで参上しているのは、けしからぬことだ。
- 一の人
- 臣下の中で最も位の高い人。
- 便なし
- 不都合だ。けしからぬ。
帝の言葉の中の「参れ」「まかり出づ」「仰せよ」は、帝が自分に関わる動作に敬語を使ったもの(自敬表現)。
現代語訳すぐに退出せよと伝えよ。」とおっしゃったので、
「早くまかり出づべきよし仰せよ」は、すぐに退出せよと(時平に)伝えよ、という職事への命令。
現代語訳命令を受けた職事は、いったいどうなることかと怖くなったが、(時平の所へ)参って、震えに震えながら、これこれでございますと申し上げたところ、
職事が「いかなることにか」と恐れたのは、帝の厳しい命令を伝える相手が、自分よりはるかに地位の高い左大臣だったから。
「参りて」の主語は職事。職事が時平のところへ参上したので、「参り」は語り手から時平への敬意。
「しかじか」は、職事が時平に申し上げた、帝の「世間の過差の制きびしきころ…早くまかり出づべきよし仰せよ」という命令の内容。
現代語訳(時平は)ひどく驚き、恐縮して承って、御随身が先払いをし申し上げるのもおやめになって、急いで退出なさったので、
- かしこまる
- 恐縮する。
- 御随身
- 朝廷から貴人につけられる護衛の役人。
- 御先参る
- 行列の先に立って、人々をよけさせる。先払いをする。
現代語訳先払いの者たちも妙なことだと思った。そうして、(時平は)本院の御門を一か月ほど閉ざさせて、
- 御前ども
- 行列の先を歩く者たち。
- 本院
- 時平の屋敷。
現代語訳御簾の外へもお出ましにならず、訪ねてくる人があっても、「(帝の)おとがめが重いので。」と言って面会なさらなかったことで、
- 勘当
- おとがめ。
訪ねてきた人にも、帝のおとがめが重いからと言って会わなかった。時平が謹慎しているように見せたのである。
前の句の「こそ」を受けて、「しか」(過去の助動詞「き」の已然形)で結んでいる。
現代語訳内々によくうかがったところ、そのようにしてこそ(世のぜいたくは)おさまるだろうということで、(時平公は)帝と心を合わせて示し合わせなさったのだということだ。
「さてばかりぞしづまらむ」は、最高位の左大臣でさえ決まりを破れば重く罰せられる、という例を見せなければ、世のぜいたくは収まらないだろう、ということ。
「帝と御心あはせさせ給へりける」…時平が華やかな装束で参内して帝にとがめられたのは、ぜいたくの風潮を正すために、帝と時平が前もって打ち合わせた芝居だった、ということ。
笑い出すと止まらない時平
現代語訳(時平公は)ちょっとしたおかしさにも、どうしてもこらえることがおできにならなかった。いったん笑い出しなさると、ひどく物事もしまりがなくなったということだ。
- 念ず
- 我慢する。
政治の手腕はあるが、笑い出すと止まらない、という時平のもう一つの面が語られる。
現代語訳北野(道真)と二人で政治をとっていらっしゃったころ、(時平が)筋の通らないことをおっしゃったので、
- まつりごつ
- 政治を行う。
北野(道真)は右大臣、時平は左大臣として、二人で政治を行っていた。
「仰せられければ」の主語は時平。
現代語訳(道真は、時平が)なんといっても身分の高い方で、強引になさることなので、どうして止められようかとお思いになって、
- せちなり
- ひたすらだ。ここは、強引に押し通す様子。
「せちにし給ふ」の主語は時平、「思して」の主語は道真。
「いかがは」の下には「止められようか」という意味の言葉が省略されている。止めたくても止められない、ということ。
現代語訳「この大臣のなさることなので、よくないとは思うけれど、どうすることができようか。」とお嘆きになっていたところ、
- 不便なり
- 不都合だ。
嘆いているのは道真。時平のやり方が不都合だと思っても、身分の高い時平のすることなので、従うしかないことを嘆いている。
現代語訳何とかいう史が、「たいしたことではございません。私がきっと、あのお方のなさることを止めてみせましょう。」と申し上げたので、
- 構へて
- 必ず。きっと。
「かの御こと」は、時平の「非道なること」をさす。
現代語訳(道真が)「まったくあってはならないことだ。どうやって(止めるのか)。」などとおっしゃったが、(史は)「とにかくご覧ください。」と言って、
「いとあるまじきこと。いかにして。」は道真の言葉。史の申し出に驚いている。
「ただ御覧ぜよ」は史が道真に言った言葉で、「御覧ぜよ」は史から道真への敬意。
現代語訳(時平が)座について、政務を厳しく決めて大声を出していらっしゃるときに、この史は、文刺に文書を挟んで、
- 文刺
- 文書を挟んで差し出すための杖。
「こときびしく定めののしり給ふ」の主語は時平。政務をきびしく取り決め、声を張り上げている様子。
現代語訳大げさな身ぶりで、この大臣に差し上げようとして、たいそう高らかに(おならを)鳴らしましたところ、
- いらなし
- 大げさだ。仰々しい。
史が文書を差し出す瞬間に高らかに音を鳴らした(おならをした)のは、時平を笑わせて、その政務を止めさせるため。
「侍り」は語り手から聞き手への丁寧語。
- やがて
- そのまま。すぐに。
現代語訳「今日はどうにもならない。右大臣にお任せ申す。」とさえ最後まで言うことがおできにならなかったので、
- 術なし
- どうしようもない。
- 言ひやる
- 最後まで言う。
時平は笑いが止まらず、「あとは右大臣に任せる」とさえ言い終えられないほど、政務ができなくなった。「申す」は時平から道真への敬意。
現代語訳そのおかげで、菅原の大臣(道真)は、お考えのとおりに政治をお執りになった。
「それ」は、時平が笑い出して政務ができなくなったこと。そのおかげで、道真は思いどおりに政治を行うことができた。
雷神となった道真と時平
現代語訳また、北野(道真)が亡くなって雷神となられ、ものすごく恐ろしい雷鳴と稲光で、清涼殿に今にも落ちかかろうとするように見えたときに、
「北野の、神にならせ給ひて」は、大宰府で亡くなった道真が、雷神になったということ。
「落ちかかりぬ」の「ぬ」は強意で、今にも落ちかかりそうなほどだった、ということ。
現代語訳本院の大臣(時平)は、太刀を抜き放って、「生きていたときも、私の次の地位にいらっしゃった。
- 抜きさく
- 抜き放つ。
「わが次にこそものし給ひしか」は、生きていたときも、道真は右大臣で、左大臣の時平より下の地位だった、ということ。
現代語訳今日、雷神になっておいでだとしても、この世では私に対して一歩引いて遠慮なさるべきだ。そうしないですむはずがあろうか。」と、
- 所置く
- 遠慮する。
「さらでは」の「さ」は、「(神になったとしても)この世では私に遠慮するべきだ」ということ。「いかでか…べき」は反語で、遠慮しないでいてよいはずがない、という意味。
現代語訳(空のほうを)にらみつけておっしゃった。(すると雷も)いったんはお静まりになったと、世の人は申しておりました。
時平が空をにらみつけて言うと、雷神は一度は鎮まった、と世間の人々は言っていた。
現代語訳けれども、それは、あの大臣(時平)がすぐれていらっしゃったからではなく、
「それ」は、時平がにらみつけて言うと、雷神が一度は鎮まったこと。
現代語訳帝のご威光が限りなく大きくていらっしゃるために、(道真の霊が)道理にかなうかどうかのけじめをお示しになったのだ。
- 王威
- 天皇の威光。
- 理非
- 道理にかなうことと、はずれること。
「理非を示させ給へる」の主語は雷神の道真。雷神が鎮まったのは時平が立派だったからではない。天皇の威光が大きいので、道真の霊が、官位の上下という秩序を重んじて身を引いてみせたのだ、と語り手は述べている。
『大鏡』のほかの話:道真左遷① / 道長の豪胆(肝試し) / 弓争ひ / 花山天皇の出家① / 三舟の才 / 鶯宿梅
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①過差
②小蔀
③御気色
④職事
⑤御簾
⑥文刺解答を見る
①かさ
②こじとみ
③みけしき
④しきじ
⑤みす
⑥ふばさみ次の語の意味を答えよ。
①大和魂(ここでは)
②便なし
③念ず
④せちなり
⑤術なし
⑥構へて
⑦所置く解答を見る
①政治の手腕・実務の才能
②不都合だ・けしからぬ
③我慢する
④ひたすらだ・強引だ
⑤どうしようもない
⑥必ず・きっと
⑦遠慮する
B 文法・敬語
次の「の」の用法を答えよ。
①「延喜の、世間の作法…」の「延喜の」
②「御装束の、殊のほかにめでたき」の「御装束の」
③「御簾の外にも」の「御簾の」解答を見る
①主格
②同格
③連体修飾格次の傍線部の助動詞の意味を答えよ。
①美麗殊のほかにて参れる(る)
②いとあるまじきこと(まじき)
③清涼殿に落ちかかりぬ(ぬ)
④いかがすべからむ(べから)解答を見る
①存続
②打消当然
③強意
④可能①「内に参り給ひて」と、②「参りて、わななくわななく」の「参り」は、それぞれだれに対する敬意か。また、②の主語を答えよ。③「世の過差は平らぎたりしか」の「しか」が已然形になっているのはどの語の働きによるか。
解答を見る
①帝
②時平(主語は職事)
③前の「あはせ給はざりしにこそ」の「こそ」(係り結び)
C 現代語訳・内容
帝が「御気色いと悪しく」なったのはなぜか。また、命令を伝える職事が「わななくわななく」申し上げたのはなぜか。
解答を見る
帝=世のぜいたくを正そうとしているときに、最高位の左大臣である時平が、格別に華やかな装束で参内しているのを見たから。/職事=厳しい命令を伝える相手が、自分よりはるかに地位の高い左大臣だったから。
「人などの参るにも、『勘当の重ければ。』とて、あはせ給はざりし」を現代語訳せよ。また、「帝と御心あはせさせ給へりける」とはどういうことか。
解答を見る
訳=人などが訪ねて来ても、「おとがめが重いので。」と言ってお会いにならなかった。/内容=時平が華やかな装束で参内して帝にとがめられ謹慎したのは、左大臣でさえ罰を受けるという例を見せて世のぜいたくをやめさせるための、帝と時平が打ち合わせた芝居だったということ。
「この大臣のし給ふことなれば、不便なりと見れど、いかがすべからむ」を現代語訳せよ。また、これはだれが、どのようなことを嘆いた言葉か。
解答を見る
訳=この大臣のなさることだから、よくないと思っても、どうにもできないではないか。/道真が、時平の道理にはずれたやり方を、身分の高い時平のすることなので止められないと嘆いた。
①「かの御こと」がさす内容を本文中から抜き出せ。②史が「いと高やかに鳴らして侍りける」のは何のためか。③「大臣文もえ取らず、手わななきて、やがて笑ひて」を現代語訳せよ。④「御心のままにまつりごち給ひけれ」の主語を答えよ。
解答を見る
①非道なること
②時平を笑わせて、その政務(非道なこと)を止めさせるため。③大臣(時平)は文書も受け取れず、手がぶるぶるして、すぐに笑いだして、
④菅原の大臣(道真)「生きても、わが次にこそものし給ひしか。」「今日、神となり給へりとも、この世には、我に所置き給ふべし。」を現代語訳せよ。また、「さらでは」の「さ」がさす内容を答えよ。
解答を見る
訳=(あなたは)生前も、私より下の位でいらっしゃった。たとえ今日雷神になっておいでだとしても、この世では私に遠慮なさるべきだ。/「さ」=(神になったとしても)この世では時平に遠慮するべきだということ。
「それは、かの大臣の…理非を示させ給へるなり」について、①「それ」は何をさすか。②「示させ給へる」の主語はだれか。③語り手は何を言おうとしているのか、説明せよ。
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①時平がにらみつけて言うと、雷神が一度は鎮まったこと。②雷神となった道真
③雷神が静まったのは時平が偉かったからではない。帝の威光が大きいので、道真の霊が官位の上下のけじめを守ってみせたのだということ。