『大鏡(おおかがみ)』「鶯宿梅(おうしゅくばい)」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
村上天皇の御代、清涼殿の前の梅の木が枯れ、夏山繁樹がその代わりの木を探す役目をまかされます。繁樹が見つけて掘り取ってきた見事な梅の木には、一首の歌が結びつけられていました。歌に込められた気持ち、「させ」「の」の用法、敬語の向き、帝と繁樹の気持ちがよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
梅の木を探す
現代語訳(繁樹が)「とても興味深く、しみじみと心を打たれましたことは、あの天暦の(村上天皇の)御代に、清涼殿の前庭に植えてあった梅の木が枯れてしまったので、
- をかし
- 趣深い。おもしろい。
- あはれなり
- しみじみと心を動かされる。
- 天暦の御時
- 村上天皇の御代。
- 清涼殿
- 天皇がふだん暮らす御殿。
ここから「…辛くなりにき」までが夏山繁樹の語り。「侍り」は丁寧の補助動詞で、繁樹から聞き手への敬意。
「梅の木の枯れたりしかば」の「木の」の「の」は主格(梅の木が)。「清涼殿の」「御前の」「梅の」の「の」は連体修飾格。
現代語訳(帝が代わりの木を)お探しになったところ、だれそれという方が蔵人でいらっしゃった時に、(そのご命令を)お受けして、
- なにがしぬし
- だれそれという方。名前をぼかした言い方。
- 蔵人
- 天皇のそばで雑事をつとめる役人。
- いますがり
- 「あり」の尊敬語。「にていますがり」で「〜でいらっしゃる」。
- 承る
- 「受く」の謙譲語。お受けする。
「求めさせ給ひし」の主語は帝(村上天皇)。「させ給ふ」は最高敬語(二重敬語)で、繁樹から帝への敬意。
「承りて」は、なにがしぬしが、清涼殿の前に植える梅の木を探せという帝のご命令をお受けしたということ。
現代語訳(その方が私に)『若い者どもには(梅の木の良し悪しを)見分けられないだろう。おまえが探し出せ。』とおっしゃったので、
- え〜じ
- 〜できないだろう。
- 見知る
- 見分ける。
- きむぢ
- おまえ。ここでは繁樹のこと。
「若き者どもはえ見知らじ」は、なにがしぬしの言葉。若い者は経験が浅く、梅の木の良し悪しを見分けられまい、ということ。
「のたまひ」の主語はなにがしぬしで、繁樹からなにがしぬしへの敬意。
現代語訳(私は)京の町をあちこち歩き回りましたが、(これはという木は)ございませんでしたが、
- 一京
- 京じゅう。
- まかり歩く
- (あちこち)歩き回る。「まかり」は謙譲の意を添える。
「侍らざりしに」は、清涼殿の前に植えるのにふさわしい梅の木がございませんでした、ということ。この「侍ら」は「あり」の丁寧語(本動詞)。
現代語訳西の京のとある家に、(花が)濃い色に咲いている木で、姿の整った木がございましたのを、掘り取りましたところ、
- 西の京
- 平安京の朱雀大路より西の地域。
- そこそこ
- どこそこ。
- 様体
- 姿。枝ぶり。
- うつくし
- 立派だ。整っている。
「色濃く咲きたる木の、様体うつくしきが」の「の」は同格。「(花が)色濃く咲いている木で、枝ぶりの立派な(木)が」と訳す。
梅に結ばれた歌
現代語訳家の主人が、『この木にこれを結びつけて(宮中に)持って参りなさい。』と(召使いを通して)言わせなさったので、
- 家あるじ
- 家の主人。
「言はせ給ひ」の「せ」は使役。家の主人が召使いに言わせたのであって、最高敬語の「せ給ふ」ではない。「給ひ」は繁樹から家あるじへの敬意。
「これ」は、歌を書いた紙のこと。
現代語訳きっと何かわけがあるのだろうと思い、(宮中へ)持って参上してお控えしておりますと、
- あるやう
- わけ。事情。
- 候ふ
- ここでは謙譲語で、(帝のおそばに)お控えする。
「あるやうこそは」の下には「あらめ」などが省略されている。「何かわけがあるのだろう」と思って、ということ。
現代語訳(帝が)『これは何だ。』と言ってご覧になると、女性の筆跡で書かれておりました(歌は)、
- 御覧ず
- 「見る」の尊敬語。
- 手
- 筆跡。
「御覧じ」の主語は帝。
現代語訳天皇のご命令ですので、まことに恐れ多く、(梅の木はお譲りします)。けれども、鶯が自分の宿はどこへいったのかと尋ねてきたら、どう答えればよいのでしょうか。
- 勅
- 天皇のご命令。
- かしこし
- 恐れ多い。
「鶯の」の「の」は主格。「鶯が『私の宿(いつもとまっていた梅の木)はどうなったの』と尋ねたら」ということ。
天皇のご命令なので梅の木は差し上げるが、本当は大切にしてきた梅の木を手放したくない、という気持ちを、鶯の身になって遠回しに伝えている。二句切れの歌。
帝の後悔と繁樹の思い
現代語訳と書かれていたので、(帝は)不思議だとお思いになり、『だれの家か。』と(人をやって)調べさせなさったところ、
- あやし
- 不思議だ。
- 思し召す
- 「思ふ」の尊敬語。
帝が「あやしく」思ったのは、献上させた梅の木に、思いもよらず見事な歌が結びつけられていたから。
「尋ねさせ給ひ」の「させ」は使役で、帝が人に命じて、何者の家かを調べさせたということ。
- 貫之
- 紀貫之。『古今和歌集』の撰者の一人で、『土佐日記』の作者。
- 御女
- 娘。ここでは紀内侍のこと。
「なりけり」の「けり」は、そこで初めてわかったことを表す詠嘆。
現代語訳(帝は)『残念なことをしてしまったなあ。』とおっしゃって、ばつが悪そうにしておいででした。
- 遺恨のわざ
- 残念なこと。
- あまゆ
- きまり悪がる。恥ずかしがる。
「遺恨のわざをもしたりけるかな」は帝の言葉。梅の木を大切にしていた家の主人の気持ちを考えず、その木を差し出させてしまったことを悔やみ、恥じている。
「ありけるに」の「けり」は過去、「したりけるかな」の「けり」は詠嘆。
- 今生
- この世に生きている間。一生。
- 辱号
- 恥。恥辱。
「繁樹、今生の辱号」とは、自分が梅の木を掘り取ってきたせいで、帝にきまりの悪い思いをさせてしまったこと。
「や」の結びは「けむ」。
現代語訳それなのに、『望みどおりの木を持って参った。』というので、(ほうびの)衣をいただいたことも、(かえって)つらいことになってしまいました。」
- さるは
- そうはいうものの。それなのに。
- かづく
- (ほうびの衣などを)与える。「かづけられ」で、いただく。
「思ふやうなる木持て参りたり」は帝の言葉。「参り」は謙譲語だが、帝が自分に対して使っている(自敬表現)。
「辛くなりにき」の理由:帝にきまりの悪い思いをさせた張本人なのに、思いどおりの木を持ってきたとほめられ、ほうびの衣までいただいたので、かえってつらく思った。
「られ」は受身で、繁樹が衣をいただいたということ。
- こまやかに
- にっこりと。
この話で過去の「き」が使われているのは、繁樹自身が体験したことだから。
『大鏡』のほかの話:三舟の才 / 弓争ひ / 花山天皇の出家① / 道真左遷① / 道長の豪胆(肝試し) / 時平の大臣
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①天暦
②清涼殿
③蔵人
④一京
⑤様体
⑥勅
⑦御女
⑧今生
⑨辱号
⑩衣解答を見る
①てんりゃく
②せいりょうでん
③くろうど
④ひときょう
⑤ようだい
⑥ちょく
⑦おんむすめ
⑧こんじょう
⑨ぞくごう
⑩きぬ次の語の本文中での意味を答えよ。
①なにがしぬし
②そこそこ
③手
④かしこし
⑤遺恨のわざ
⑥あまゆ
⑦さるは
⑧こまやかに解答を見る
①だれそれという方
②どこそこ
③筆跡
④恐れ多い
⑤残念なこと
⑥きまり悪がる・恥ずかしがる
⑦そうはいうものの
⑧にっこりと
B 文法・敬語
次の「の」の用法を答えよ。
①梅の木「の」枯れたりしかば
②色濃く咲きたる木「の」、様体うつくしきが
③鶯「の」宿はと問はば解答を見る
①主格
②同格
③主格次の「させ」「せ」の意味を答えよ。また、それぞれの動作の主語を答えよ。
①求め「させ」給ひしに
②『木にこれ結ひ付けて持て参れ。』と言は「せ」給ひしかば
③『何者の家ぞ。』と尋ね「させ」給ひければ解答を見る
①尊敬(主語=帝)
②使役(主語=家あるじ)
③使役(主語=帝)①「とありけるに」の「ける」と、「遺恨のわざをもしたりけるかな」の「ける」の意味をそれぞれ答えよ。②「あるやうこそは」の下に省略されている語を答えよ。
解答を見る
①「ありける」…過去 「したりける」…詠嘆
②あらめ次の傍線部の敬語の種類と、だれからだれへの敬意かを答えよ。
①『…きむぢ求めよ。』と「のたまひ」しかば
②あはれに「侍り」しことは
③『何ぞ。』とて「御覧じ」ければ
④あまえ「おはしまし」ける解答を見る
①尊敬語。繁樹からなにがしぬしへ
②丁寧語。繁樹から聞き手へ
③尊敬語。繁樹から帝へ
④尊敬語。繁樹から帝へ帝が自分自身に敬語を用いている(自敬表現)部分を、本文中から抜き出せ。
解答を見る
持て参りたり(「思ふやうなる木持て参りたり」の「参り」)
C 現代語訳・内容
「若き者どもはえ見知らじ」を、何を見分けられないのかがわかるように現代語訳せよ。また、だれの言葉か答えよ。
解答を見る
訳=若い者どもには、梅の木の良し悪しを見分けられないだろう。/なにがしぬし(蔵人)の言葉
「勅なればいともかしこし鶯の宿はと問はばいかが答へむ」を現代語訳せよ。また、この歌に込められた家の主人の気持ちを説明せよ。
解答を見る
訳=天皇のご命令ですので、まことに恐れ多く、(梅の木はお譲りします)。けれども、鶯が自分の宿はどこへいったのかと尋ねてきたら、どう答えればよいのでしょうか。/気持ち=勅命なので断れないが、大切にしてきた梅の木を本当は手放したくないという気持ち。
「あやしく思し召して」とあるが、帝が不思議に思ったのはなぜか。
解答を見る
献上させた梅の木に、思いもよらず見事な歌が結びつけられていたから。
「遺恨のわざをもしたりけるかな」を現代語訳せよ。また、このときの帝の気持ちを説明せよ。
解答を見る
訳=残念なことをしてしまったなあ。/気持ち=梅の木を大切にしていた家の主人(紀貫之の娘)の気持ちを考えず、その木を差し出させてしまったことを悔やみ、恥じる気持ち。
「衣かづけられたりしも、辛くなりにき」とあるが、繁樹がつらく思ったのはなぜか。
解答を見る
梅の木を掘り取ってきて帝にきまりの悪い思いをさせた張本人なのに、思いどおりの木を持ってきたと、ほうびの衣までいただいたから。