『徒然草(つれづれぐさ)』第七十三段「世に語り伝ふること」の現代語訳・品詞分解・解説です。
世の中で語り伝えられていることの多くはうそだ――。兼好は、うそが大げさに語られ、書きとめられて本当のことにされていくしくみを述べ、すぐばれるうそ、受け売りのうそ、本当らしく作ったうそなどを見分けていきます。最後に、うそへの向き合い方と、神仏の話をどう扱えばよいかを説きます。語句の意味、助動詞、「にや」の下の省略、うそを言う人の様子がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
語り伝えられることの多くはうそ
現代語訳世間で語り伝えていることは、真実はおもしろくないのだろうか、多くはみなうそである。
- あいなし
- おもしろくない。つまらない。
- 虚言(そらごと)
- うそ。つくりごと。
「まことはあいなきにや」は、はさみこまれた部分。「にや」のあとに「あらむ」が省かれている(「に」は断定「なり」の連用形)。
「まこと」(真実)と「虚言」(うそ)が対になっている。真実はおもしろくないので、人はうそを語り伝えるのだろうか、ということ。
うそが定まるまで
- あるにも過ぐ
- 実際以上である。
- 言ひなす
- ことさらに(大げさに)言う。
うそが生まれるのは、人がもともと、ものごとを実際以上に言うものだから。
現代語訳まして、年月が過ぎ、場所も遠く離れてしまうと、言いたいようにこしらえて語って、
- まして
- なおさら。
- 境
- 場所。土地。
- 語りなす
- ことさらに(作って)語る。
「まして」は、時も場所も近い場合でさえ大げさに言うのに、年月がたち場所も離れればなおさらだ、ということ。
- やがて
- そのまま。
「定まりぬ」は、大げさに作られた話が、書きとめられたことで事実として定着してしまうということ。
現代語訳それぞれの道の名人のすばらしさなどは、ものの道理がわからない人で、その道を知らない人は、
- 道々
- それぞれの専門の道。
- 上手(じやうず)
- 名人。
- いみじ
- すばらしい。
- かたくななり
- ものの道理をわきまえない。教養がない。
「かたくななる人の、その道知らぬ」の「の」は同格。「ものの道理をわきまえない人で、その道を知らない人」と訳す。
現代語訳むやみに神のようにほめて言うけれども、その道を知っている人は、まったく信じる気持ちも起こさない。
- そぞろなり
- むやみやたらだ。
- さらに〜打消
- まったく〜ない。
- 信
- 信じる心。
神のようにほめて言うのは、道を知らない人。その人たちが、名人のすばらしさを大げさに言う。
「道知れる人」は、直前の「かたくななる人の、その道知らぬ」と対比されている。
- 音に聞く
- うわさに聞く。
人から聞いた話と実際に見たものとは違う、ということ。
うその種類
現代語訳(話すそばから)一方でうそがばれていくのもかまわず、口にまかせてまくしたてるうそは、たちまちいいかげんな話だとわかる。
- かつ
- 一方では。すぐそばから。
- 省みる
- 気にかける。
- 浮きたること
- いいかげんなこと。根拠のないこと。
「かつ」の前には、「(うそを)語りながら」という内容が省かれている。話すそばからばれていくうそ、つまり口から出まかせのうそ。
現代語訳また、本人も本当らしくないと思いつつ、人から聞いたままに、小鼻をぴくぴくさせて話すうそは、その人自身が作ったうそではない。
- まことし
- 本当らしい。
- おごめく
- ぴくぴく動く。
「鼻のほどおごめきて」は、小鼻をぴくぴくさせた、得意そうな顔つき。
「その人の虚言にはあらず」は、話している本人が作ったうそではない、ということ。人から聞いたうそを受け売りしているのである。
- げにげにし
- いかにも本当らしい。
- うちおぼめく
- はっきりしないふりをする。あいまいにする。
- よし
- ふり。様子。
- さりながら
- そうではあるが。それでいて。
- つまづま
- 話のはしばし。
「恐ろしきことなり」と言うのは、いかにも本当らしく、つじつまも合っているので、聞き手がだまされやすいから。
現代語訳自分の名誉になるように言われたうそについては、人はたいして否定しない。
- 面目
- 名誉。
- いたく〜打消
- それほど〜ない。
- あらがふ
- 反論する。否定する。
「人」は、うそを言われた当人。自分の名誉になるうそなので、強く否定しない。
現代語訳みんながおもしろがっているうそは、自分一人が「そうでもなかったのになあ。」と言うのもかいがないので、
- 興ず
- おもしろがる。
- せんなし
- しかたがない。かいがない。
「ものを」は詠嘆の終助詞。「そうでもなかったのになあ」。
現代語訳黙って聞いているうちに、(そのうその)証人にまでされて、ますます(本当のこととして)定まってしまうにちがいない。
- いとど
- ますます。
みんながおもしろがるうそを、否定せずに黙って聞いていたので、その場にいた者として証人にされてしまう。こうして、うそが本当のこととして定まってしまう。
うそへの向き合い方
- とにもかくにも
- 何にしても。
現代語訳ただ、ふつうにある珍しくもないことと同じように心得ておくならば、万事において間違うことはないだろう。
- 常にある
- ふつうにある。
- よろづ
- すべてにおいて。
うその多い世の中では、変わった話も、ふつうにある珍しくないことと同じように受けとめておけばよい、という対処法。
「心得たらん」の「ん」は仮定。「心得ているならば」。
現代語訳教養のない下々の人の話は、耳を驚かすようなことばかりだ。教養のある人は不思議な話をしない。
- 下ざま
- 身分が低く教養のない人。
- よき人
- 教養のある人。
- あやし
- 不思議だ。
「よき人」と「下ざまの人」が対になっている。
神仏の話
現代語訳こうは言うものの、仏や神の不思議なしるしや、仏・菩薩が人の姿となってこの世に現れた人の伝記は、そういちがいに信じるなというものでもない。
- 奇特(きどく)
- 不思議なしるし。霊験。
- 権者(ごんじや)
- 仏・菩薩が人々を救うため、仮に人の姿でこの世に現れた者。
- さのみ
- そういちがいに。
「にもあらず」の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形。神仏の話は、世俗のうそと同じように頭から信じないのもよくない、ということ。
現代語訳これについては、世俗のうそを本気になって信じこむのもばかばかしいし、「まさかそんなことはあるまい。」などと言っても仕方がないので、
- ねんごろなり
- 熱心だ。
- をこがまし
- ばかげている。
- よも〜じ
- まさか〜ないだろう。
現代語訳だいたいは本当のこととして応対して、ひたすら信じることもせず、また、疑ってばかにしたりもしないのがよい。
- おほかた
- だいたい。
- あひしらふ
- 応対する。調子を合わせる。
- ひとへに
- ひたすら。
このように扱えと言っているのは、「仏神の奇特、権者の伝記」。むやみに信じすぎても、疑ってあざけってもいけない、という態度。
『徒然草』のほかの段:花は盛りに① / 家居のつきづきしく / 名を聞くより / 今日はそのことをなさんと思へど / あだし野の露消ゆる時なく / ある人、弓射ることを習ふに
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①虚言
②上手
③面目
④奇特
⑤権者
⑥下ざま
⑦違ふ解答を見る
①そらごと
②じょうず
③めんぼく
④きどく
⑤ごんじゃ
⑥しもざま
⑦たがう本文中で使われている意味を、次の語それぞれについて答えよ。
①あいなし
②かたくななり
③そぞろなり
④げにげにし
⑤あらがふ
⑥いとど
⑦をこがまし
⑧せんなし解答を見る
①おもしろくない・つまらない
②ものの道理をわきまえない
③むやみやたらだ
④いかにも本当らしい
⑤反論する・否定する
⑥ますます
⑦ばかげている
⑧しかたがない・かいがない
B 文法
次の【 】の助動詞の意味と活用形を答えよ。
①言ひ【たき】ままに
②書きとどめ【ぬれ】ば
③神の【ごとくに】言へども
④言は【れ】ぬる虚言
⑤さもなかり【し】ものを
⑥虚言多き世【なり】解答を見る
①希望・連体形
②完了・已然形
③比況・連用形
④受身・連用形
⑤過去・連体形
⑥断定・終止形「いとど定まりぬべし」の「ぬ」「べし」の意味を答え、この部分を現代語訳せよ。
解答を見る
ぬ=強意 べし=推量
訳=ますます(本当のこととして)定まってしまうにちがいない。
C 現代語訳・内容
「世に語り伝ふること、まことはあいなきにや、多くはみな虚言なり。」を現代語訳せよ。また、「にや」の下に省略されている語を補え。
解答を見る
訳=世間で語り伝えていることは、真実はおもしろくないのだろうか、多くはみなうそである。
省略=あらむ(あらん)「筆にも書きとどめぬれば、やがてまた定まりぬ」とあるが、何がどのように定まるのか、説明せよ。
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年月がたち場所も離れて、言いたいように大げさに作られた話が、文章に書きとめられることで、そのまま事実として定着してしまう。
「道知れる人」と対比されている部分を、本文中から抜き出せ。また、その部分の「の」の用法を答えよ。
解答を見る
かたくななる人の、その道知らぬ
「の」=同格「鼻のほどおごめきて言ふは、その人の虚言にはあらず」について、①「鼻のほどおごめきて」とはどのような様子か。②「その人の虚言にはあらず」とはどういうことか、説明せよ。
解答を見る
①小鼻をぴくぴくさせた、得意そうな様子。
②話している本人が作ったうそではなく、人から聞いたうそをそのまま受け売りしているということ。「つまづま合はせて語る虚言は、恐ろしきことなり」とあるが、なぜ「恐ろしき」なのか、説明せよ。
解答を見る
いかにも本当らしく、わざとあいまいにしたり知らないふりをしたりしながら、話のつじつまは合わせてあるので、聞き手がだまされやすいから。
「我がため面目あるやうに言はれぬる虚言は、人いたくあらがはず。」を現代語訳せよ。また、人が反論しないのはなぜか。
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訳=自分の名誉になるように言われたうそについては、人はたいして否定しない。
理由=自分の名誉になるうそだから。「証人にさへなされて」とあるが、なぜ証人にされてしまうのか、説明せよ。
解答を見る
みんながおもしろがっているうそを、一人で否定してもしかたがないと思って、黙って聞いていたから。
筆者は、うそへの向き合い方について、①世間一般の話と、②神仏に関わる話とで、それぞれどうすべきだと述べているか。
解答を見る
①ふつうにある珍しくないことと同じように受けとめておけばよい。
②むやみに信じすぎず、また疑ってあざけることもせず、だいたいは本当のこととして応対するのがよい。