『方丈記(ほうじょうき)』「養和の飢饉(ようわのききん)」の現代語訳・品詞分解・解説です。
日照り・大風・洪水が続いて作物が実らず、翌年には疫病まで加わった大飢饉のありさまを、鴨長明が記録した場面です。食べ物を求めてさまよい倒れる人々、道ばたにあふれる死体、薪として売られる仏像、そして愛する者に食べ物を譲って先に死んでいく人々。何をたとえた表現か、指示語の内容、二つの「あやし」の意味の違いがよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
一年目の飢饉
現代語訳また、養和のころだったか、ずいぶん昔のことになってはっきりとは覚えていない。
- 養和
- 平安時代末期の年号。
「とか」の下には「言ふ」などが省略されている。年月がたってはっきり覚えていない、という言い方。
現代語訳二年の間、世の中は食べ物がなくなって、なんとも言いようのないひどいことがありました。
- 飢渇
- 飢饉で食べ物がなくなること。
- あさまし
- (あきれるほど)ひどい。なんとも言いようがない。
「侍り」は「あり」の丁寧語で、作者から読者への敬意。
現代語訳ある年は春から夏に日照りが続き、ある年は秋に大風や洪水が起こるなど、よくないことが続いて、穀物はまったく実らなかった。
- 五穀
- 主要な穀物。
「あるいは〜、あるいは〜」は対句。
- そめき
- にぎわい。
田植えはしても、秋の収穫や冬の取り入れのにぎわいはない、ということ。
現代語訳このために、諸国の農民たちは、ある者は土地を捨てて国境を越えて出て行き、ある者は家を捨てて山に住む。
- 境
- 国境。
「これ」は、凶作で飢饉になったこと(飢渇)を指す。
現代語訳(朝廷の)さまざまなご祈祷が始まり、特別な修法も行われたが、少しも効き目は現れない。
- なべてならぬ
- 並々でない。格別念入りの。
- 験
- 効き目。
- さらさら〜打消
- まったく〜ない。
「御祈り」に「御」が付くのは、朝廷の命令で行われた祈祷だから。
現代語訳都の暮らしというものは、何事につけても、みな、もとは田舎を頼りにしているのに、
都の暮らしは、食べ物をはじめ何もかも、もとは地方(田舎)からの物資にたよっている、ということ。
「こそ」の結びは「頼める」となるはずだが、下に「に」が続いて文が終わらず、結びが流れている。
現代語訳地方からの品がぱったり届かなくなったので、いつまでも何食わぬ顔でいられようか、いや、いられない。
- 操
- ふだんどおりの態度。平静さ。
「さのみやは操も作りあへん」は反語。「そういつまでも平気なふりをしていられようか、いや、いられない」。平静を保てなくなったのは都の人々。
現代語訳がまんできなくなって、いろいろな財宝を手当たりしだいに投げ売りするようにしても、見向きもする人がいない。
- 念じわぶ
- がまんしきれなくなる。
- 見立つ
- 目をとめる。
- さらに〜打消
- まったく〜ない。
「捨つるがごとくすれども」は、食べ物を得るために、自分の財宝を捨てるような安い値段で売ろうとするということ。
現代語訳たまに交換する者は、金を安く見て、穀物を大事にする。物ごいが道ばたに多く、嘆き悲しむ声が耳にいっぱいに聞こえる。
- 粟
- 穀物。
- 乞食
- 物ごい。
「金を軽くし、粟を重くす」は、食べ物が手に入らないため、ふだんは価値の高い金よりも、穀物のほうが大事にされるということ。
二年目の飢饉と疫病
- からうじて
- やっとのことで。
現代語訳翌年は(世の中が)立ち直るだろうかと思っていたところ、そのうえ疫病まで加わって、いっそうひどくなり、元の姿はあとかたもない。
- あまりさへ
- そればかりか。そのうえ。
- 疫癘
- 流行病。疫病。
- まさざまなり
- いっそうひどい。
二年目は、前の年の飢饉に疫病が加わって、さらにひどくなった。
現代語訳世の人がみな飢え疲れてしまったので、日がたつにつれて行き詰まっていくようすは、「少ない水の中の魚」というたとえにぴったりあてはまる。
- けいす
- 飢え疲れる。
「少水の魚」は、わずかな水の中であえぐ魚。食べ物が日ごとに尽きていき、今にも死にそうな人々のようすをたとえている。
現代語訳しまいには、笠をかぶり、足を包んで、それなりの身なりをした者が、ひたすら家ごとに(食べ物を)乞い歩く。
- よろし
- 悪くない。それなりだ。
「よろしき姿したる者」は、それなりの身なりをした、物ごいをするようには見えない身分の人。そうした人までが家ごとに食べ物を乞い歩いている。
現代語訳このように困り果てて正気をなくした者たちが、歩いているかと見ていると、すぐに倒れ伏してしまう。
- わびしる
- 困り果てて正気をなくす。
- すなはち
- すぐに。
現代語訳土塀のわきや道ばたに、飢え死にした者のたぐいは、数えきれない。
- 築地
- 土塀。
- つら
- そば。
現代語訳(死体を)片づける方法もわからないので、腐ったにおいがあたり一面に満ちて、腐って変わっていく顔や姿のありさまは、目も当てられないことが多い。
「変はりゆくかたちありさま」は、片づけられずに腐っていく死体のようす。
- いはんや
- まして。
- だに
- 〜さえ。
「河原」は鴨川の河原。死体が多くて、馬や車の通る道さえない。
薪として売られる仏像
現代語訳身分の低い者や山で働く人も力尽きて、(食べ物ばかりか)薪までもが乏しくなっていくので、
- あやし
- ここでは「身分が低い」。
- 賤
- 身分の低い者。
- 山がつ
- 山で働く人。きこりなど。
- さへ
- 〜までも。
食べ物ばかりか、薪までも乏しくなった、ということ。
現代語訳頼るあてのない人は、自分の家を壊して、(その木材を薪として)市に出て売る。
- こぼつ
- 壊す。
「頼むかたなき人」は、頼るあてのない人。家を壊して、その木を薪として売っている。
現代語訳一人が持ち出した(薪の)売値は、その日一日を生きのびる(食べ物の)分にも足りないという話だ。
「価」は、一人が市に持ち出して売った薪の値段。
「一日が命にだに及ばず」は、その日一日を生きのびるだけの食べ物さえ買えないということ。
「とぞ」の下には「言ふ」などが省略されている。
現代語訳不思議なことには、薪の中に、赤い丹がつき、金箔などがところどころに見える木が混じっていたので、調べてみると、
- あやし
- ここでは「不思議だ」。「あやしき賤、山がつも力尽きて」の「あやしき賤」の「あやし」(身分が低い)との違いに注意。
- 丹
- 赤い顔料。
- 箔
- 金箔。
「あやしきこと」は、薪の中に、丹や箔のついた木が混じっていたこと。
現代語訳困り果てた者が、古い寺から仏像を盗み出し、堂の仏具をはぎ取って、それを割って砕いたものだったのだ。
- 物の具
- 仏具。
丹や箔のついた木は、困り果てた者が古寺から盗み、割り砕いた仏像や仏具だった。
「なりけり」の「けり」は、調べてみてはじめて気づいた驚きを表す。
現代語訳(仏法の衰えた)けがれと悪に満ちた世に生まれ合わせて、このような情けない行いを見てしまいました。
- 濁悪世
- 仏の教えが衰え、けがれと悪に満ちた世。
- 心憂し
- 情けない。
「かかる心憂きわざ」は、古寺の仏像や仏具を盗んで割り砕き、薪として売ること。
人々の心のよりどころであるはずの仏までが薪にされるのを見て、このような世に生まれ合わせたことを嘆いている。
「見侍りし」の「し」は、作者が自分で見たことを表す過去の助動詞「き」の連体形(「なん」の結び)。「侍り」は作者から読者への敬意。
愛する者に食べ物を譲る人々
- あはれなり
- しみじみと心を打たれる。
「いとあはれなること」の内容は、このあとの「去りがたき妻・夫〜臥せるなどもありけり」。
現代語訳離れがたい妻や夫を持っている者は、相手を思う気持ちがより深いほうが、必ず先に死ぬ。
- 去りがたし
- 離れがたい。
相手を思う気持ちが深いほうが先に死ぬ。理由は次の文に書かれている。
現代語訳その理由は、自分のことは後回しにして相手を気の毒に思うので、たまたま手に入れた食べ物も、相手に譲るからである。
- いたはし
- 気の毒だ。大切に思う。
- まれまれ
- たまに。
「彼」は、大切に思う相手(夫にとっての妻、妻にとっての夫)。
自分のことは後回しにして、まれに手に入れた食べ物も相手に譲ってしまうから、先に死ぬのである。
現代語訳だから、親子である者は、決まりきったことで、親のほうが先に死んだ。
- されば
- だから。
「定まれること」は、決まりきったこと。親は自分よりも子どもを優先するので、必ず親のほうが先に死んだ。
現代語訳また、母親がすでに死んでいるのも知らずに、幼い子が、まだその乳房に吸いついたまま寝ていることもあった。
- いとけなし
- 幼い。
隆暁法印と死者の数
現代語訳仁和寺にいた隆暁法印という人は、こうして数えきれないほどの人が死んでいくのを悲しんで、
- 仁和寺
- 京都にある寺。
現代語訳死人の頭が見えるたびに、額に「阿」の字を書いて、仏と縁を結ばせることをなさった。
- 阿字
- 梵字の「阿」の字。
額に阿字を書いて「縁を結ばしむる」は、死者を仏と縁を結ばせて、成仏させるため。
「せられける」の「られ」は尊敬で、作者から隆暁法印への敬意。「けり」が使われているので、この話は作者が直接見たのではなく、人から伝え聞いたことだとわかる。
現代語訳都の中の、一条大路より南、九条大路より北、京極大路より西、朱雀大路より東の(地域の)、
一条・九条・京極・朱雀は、どれも都の大路の名。朱雀大路より東なので、都の東半分の区域にあたる。
「頭」は死人の頭。都の一部の区域の、しかも二か月間だけで、四万二千三百あまりの死者がいた。
現代語訳また、鴨川の河原、白河、西の京、そのほか都のまわりの土地などを加えて言うならば、限りもないだろう。
- 辺地
- 都のまわりの土地。
- 際限
- 限り。
- 七道諸国
- 都とその周辺(畿内)を除く日本全国。
「いかにいはんや〜をや」は、「まして〜はなおさらだ」。下に「言はん」などが省略されている。飢饉の被害が、全国では数えきれないほどであったことを言っている。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①飢渇
②疫癘
③築地
④濁悪世
⑤仁和寺
⑥七道諸国解答を見る
①けかつ
②えきれい
③ついじ
④じょくあくせ
⑤にんなじ
⑥しちどうしょこく次の語の本文中での意味を答えよ。
①あさまし
②なべてならぬ
③あまりさへ
④わびしる
⑤いとけなし解答を見る
①なんとも言いようがないほどひどい
②並々でない・格別念入りの
③そのうえ・そればかりか
④困り果てて正気をなくす
⑤幼い「あやしき賤、山がつも力尽きて」と「あやしきことは、薪の中に」の二つの「あやし」の意味を、それぞれ答えよ。
解答を見る
あやしき賤=身分が低い あやしきこと=不思議だ
B 文法・現代語訳
「さまざまの御祈り始まりて、なべてならぬ法ども行はるれど、さらさらその験なし」を現代語訳せよ。また、「御祈り」に「御」が付いているのはなぜか。
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訳=さまざまなご祈祷が始まり、特別な修法も行われたが、少しも効き目は現れない。 理由=朝廷の命令で行われた祈祷だから。
「さのみやは操も作りあへん」を現代語訳せよ。また、「やは」の意味と、その結びの語を答えよ。
解答を見る
訳=そういつまでも平気なふりをしていられようか、いや、いられない。 やは=反語 結び=ん(推量の助動詞「む」の連体形)
「一人が持ちて出でたる価、一日が命にだに及ばずとぞ」を、何の「価」かを明らかにして現代語訳せよ。また、「だに」の意味を答えよ。
解答を見る
訳=一人が(市に)持ち出した薪の売値は、その日一日を生きのびる食べ物の分にも足りないということだ。 だに=類推(〜さえ)
「縁を結ばしむるわざをなんせられける」の「しむる」「られ」「ける」の意味を答えよ。また、この「ける」と、「かかる心憂きわざをなん見侍りし」の「し」との使い分けから、どのようなことがわかるか。
解答を見る
しむる=使役 られ=尊敬 ける=過去 わかること=隆暁法印の話は作者が人から伝え聞いたことで、仏像が薪にされるのは作者が自分の目で見たことだとわかる。
C 内容
「さまざまの財物かたはしより捨つるがごとくすれども、さらに目見立つる人なし」「金を軽くし、粟を重くす」とは、都がどのような状況になっていたことを表しているか。
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田舎からの食べ物が届かなくなり、財宝を捨て値で売ろうとしても買い手がつかず、金よりも穀物のほうが大事にされるほど、食べ物が手に入らなくなっていた状況。
「日を経つつ窮まりゆくさま、少水の魚のたとへにかなへり」の「少水の魚」は、人々のどのようなありさまを言い表しているか。
解答を見る
わずかな水の中であえぐ魚のように、食べ物が日ごとに尽きていき、今にも死にそうになっている状態。
「かかる心憂きわざ」とは、どのような行いか。また、作者はどのような気持ちで「濁悪世にしも生まれ合ひて」と言っているのか。
解答を見る
行い=困り果てた者が古寺の仏像や仏具を盗んで割り砕き、薪として売ること。 気持ち=人の心のよりどころである仏までが薪にされるほど心が荒れた世の中に、生まれ合わせてしまったことを嘆く気持ち。
「去りがたき妻・夫持ちたる者は、その思ひまさりて深き者、必ず先立ちて死ぬ」とあるが、それはなぜか。
解答を見る
自分のことは後回しにして相手を大切に思い、たまに手に入れた食べ物も相手に譲ってしまうから。
隆暁法印が死者の額に阿字を書いたのは何のためか。また、「いかにいはんや七道諸国をや」を現代語訳せよ。
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目的=死者を仏と縁を結ばせて、成仏させるため。 訳=まして、全国ではどれほど(の死者)であろうか。