『方丈記(ほうじょうき)』「日野山の閑居」の現代語訳・品詞分解・解説です。
六十歳を前にした鴨長明は、都を離れ、日野山の奥に一丈四方(方丈)の小さな庵を結びます。いつでも移せる庵のつくり、仏道と和歌・音楽の道具、庵の周りの四季の風物、だれにも気がねしないひとりの暮らしが描かれます。たとえの内容、四季の風物と仏道とのつながり、反語の「か」、助動詞がよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
晩年の小さな庵
現代語訳さて、六十歳という露のようにはかない命が消えかかるころになって、新たに残りわずかな人生の住まいを作ったことがある。
- 六十(むそぢ)
- 六十歳。
- 消えがた
- 消えようとするころ。
- 末葉の宿り
- 晩年の住まい。
「露」は、はかない命のたとえ。六十歳になって命が尽きようとするころ、ということ。
「末葉の宿り」は、葉先の露のように今にも消えそうな、はかない住まいということ。
現代語訳たとえて言えば、旅人が一晩だけの宿を作り、年老いた蚕が繭を作るようなものである。
- いはば
- たとえて言えば。
「旅人の一夜の宿り」は、ほんのわずかな期間だけの住まい。「老いたる蚕の繭」は、年老いた自分が作る人生最後の住まいのたとえ。
「旅人の」の「の」は主格、「一夜の」の「の」は連体修飾格。「蚕の」の「の」も主格。
現代語訳これを人生の半ばに住んだ家と比べてみると、やはり百分の一にも足りない。
- 中ごろ
- (人生の)中ほどのころ。
- 栖(すみか)
- 住まい。
「これ」は、今の庵のこと。人生の半ばに住んでいた家と比べて、百分の一にも及ばないほど小さい。
現代語訳あれこれ言っているうちに、年齢は年ごとに高くなり、住まいはそのたびに狭くなる。
- とかく
- あれこれと。
- 齢(よはひ)
- 年齢。
- 折々
- そのたびごと。
年をとるほど住まいは狭くなる、と、「齢は〜高く」と「栖は〜狭し」を対句にしている。
現代語訳その家のつくりは、世間一般の家とはまるで違う。広さはたった一丈四方、高さも七尺までである。
- 方丈
- 一丈四方。約三メートル四方。
- 七尺
- 約二メートル十センチ。
世間ふつうの家と違う点は、このあとの「掛金を掛けたり」までに書かれている。
現代語訳(住む)場所をここと決めていないので、土地を自分のものとして(家を)建てることはしない。
- 占む
- 自分のものとする。
住む場所を決めていないので、土地を自分のものにして家を建てることはしない、ということ。その理由は、あとの「もし心にかなはぬことあらば、やすくほかへ移さんがため」。
現代語訳土台を組み、簡素な屋根をのせ、材木のつなぎ目ごとに掛け金をつけてある。
- 土居
- 土台。
- 打覆(うちおほひ)
- 簡単な屋根。
継ぎ目ごとに掛金を掛けたのは、すぐにばらして移せるように、組み立てや解体の手間を省くための工夫。
現代語訳もし気に入らないことがあったら、たやすくほかの場所へ移そうと思うためである。
- 心にかなはぬ
- 気に入らない。
- やすし
- たやすい。
「移さん」の目的語は庵。
- いくばく
- どれほど。
- 煩ひ
- 面倒。手間。
「か」は反語。手間などほとんどかからない、ということ。結びは「ある」(連体形)。
現代語訳車に積めばわずか二台分で、運び賃を払う以外には、何の費用もかからない。
- 車の力を報ふ
- 車で運んでもらったお礼(運び賃)を払う。
- さらに〜打消
- まったく〜ない。
- 用途(ようどう)
- 費用。
庵の中のようす
現代語訳今、日野山の奥に世を逃れて住むようになってから、(庵の)東に三尺あまりの庇を出して、柴を折ってくべる(炊事の)場所とする。
- 跡を隠す
- 俗世間を離れて、人里離れた所に隠れ住む。
- よすが
- 都合のよい場所。
「柴折りくぶる」は、柴を折って火にくべること。つまり炊事をすること。
- 閼伽棚(あかだな)
- 仏に供える水や花を置く棚。
現代語訳(室内の)北側に寄せ、衝立で仕切って阿弥陀仏の絵姿をまつり、かたわらに普賢菩薩の絵を掛け、前には法華経を置いている。
- 障子
- ここでは衝立のこと。
- 普賢
- 普賢菩薩。
阿弥陀仏の絵像、普賢菩薩の像、法華経と、仏道修行のための物が置かれている。
- きは
- 端。
- ほとろ
- 蕨の穂がのびて、ほうけたもの。
- 構ふ
- こしらえる。
- 皮籠
- 皮張りの箱。
- 管弦
- 音楽。
- 抄物(せうもつ)
- 抜き書き。
「往生要集ごとき」の「ごとき」は例示(〜などの)。
現代語訳そばに琴と琵琶をそれぞれ一つずつ立ててある。いわゆる折琴、継琵琶がこれである。
- 一張(いつちやう)
- 琴や琵琶を数える言葉で、一つ。
- 折琴・継琵琶
- 折りたたんだり分解したりして、持ち運びできる琴と琵琶。
和歌・管弦の書物、折琴、継琵琶からは、仏道修行のかたわら、和歌や音楽といった風雅の道も楽しんでいたことがわかる。
現代語訳仮の庵のようすは、このようなものである。
ここまでが、庵の中のようす。東→南→西→北と順に、置かれた物を簡潔に書いている。
庵の周りと四季の風物
現代語訳その庵のある所のようすを言うと、南に懸樋がある。岩を立てて水をためてある。
- 懸樋(かけひ)
- 水を引くために、地上にかけわたした樋(とい)。
現代語訳林の木が近いので、たきぎにする小枝を拾うのに不自由しない。(この山の)名を音羽山という。
- 爪木
- たきぎにする小枝。
- 乏し
- 足りない。不自由だ。
現代語訳まさきのかずらが、(人の通った)跡をうずめている。谷は木が茂っているが、西は開けて見晴らしがよい。西方浄土を思い浮かべる手がかりが、ないわけではない。
- まさきのかづら
- つる草の名。
- 観念
- 心を静めて、仏や極楽浄土を思い浮かべること。
- たより
- 手がかり。
西が開けていることが「観念のたより」になるのは、極楽浄土は西方にあるとされていたから。
「なきにしもあらず」は「ないわけではない」。
現代語訳春は、藤の花が波のようにゆれるのを見る。(それは阿弥陀仏が乗って迎えに来る)紫の雲のようで、西の方に美しく咲いている。
- 藤波
- 藤の花房が風にゆれて、波のように見えるもの。
- にほふ
- 美しく色づく。
風にゆれる藤の花房を、阿弥陀仏が極楽往生する人を迎えに来るときに乗るという紫雲に見立てている。「西方」は極楽浄土の方角。
現代語訳夏は、ほととぎす(の声)を聞く。鳴いて語りかけるたびに、死出の山路の道案内を約束する。
- 語らふ
- 親しく語りかける。
- 死出の山路
- 死後に越えるという冥土の山道。
- 契る
- 約束する。
郭公(ほととぎす)は冥土に通う鳥と考えられていた。鳴くたびに、自分が死んで冥土へ行くときの道案内を約束する、ということ。
現代語訳秋は、ひぐらしの声が耳に満ちる。その声は、はかない世を嘆き悲しむ楽の音のように聞こえる。
- 空蟬(うつせみ)の世
- はかないこの世。
- 楽(がく)
- 音楽。
蜩の鳴き声を、無常の世を嘆く楽の音として聞いている。
現代語訳冬は、雪をしみじみと味わう。(雪が)積もっては消えるようすは、(人の)罪障にきっとたとえることができるだろう。
- あはれぶ
- しみじみと味わう。めでる。
- 罪障
- 極楽往生のさまたげとなる罪。
雪が積もっては消えるようすを、人の罪障が積もっては消えるのにたとえている。
春の藤波、夏の郭公、秋の蜩、冬の雪と、四季の風物はどれも仏道修行をする者に関係の深いものとして描かれている。
気ままな修行の暮らし
現代語訳もし念仏をするのがおっくうで、読経に身が入らないときは、自分から休み、自分から怠ける。
- もの憂し
- なんとなく気が進まない。おっくうだ。
- まめなり
- 熱心だ。
念仏や読経が気の進まないときには、だれにも気がねせず、自分の意志で休む。
「妨ぐる」のは、作者が念仏や読経を休んだり怠けたりすること。
「恥づべき人」は、作者が修行を怠けるのをとがめる人。ひとりで暮らしているので、そうした人もいない。このことが、気ままに休める理由になっている。
現代語訳わざわざ無言の行をするわけではないけれども、ひとりでいるので、言葉による罪をきっと慎むことができる。
- ことさらに
- わざわざ。
- 無言
- 無言の行(言葉を発しない修行)。
- 口業(くごふ)
- 言葉による罪。
- 修む
- 慎む。(悪い行いをしないように)身を守る。
ひとりでいるので話す相手がなく、わざわざ無言の行をしなくても、言葉による罪を犯さずにすむ、ということ。
現代語訳必ずしも戒律を守ろうとしなくても、(戒律を破らせるような)環境がないので、何によって戒律を破ることがあろうか、いや、破ることはない。
- 禁戒
- 仏教の戒律。
- 境界(きやうがい)
- ここでは、戒律を破ってしまうような環境。
「か」は反語。結びは「ん」(連体形)。戒律を破らせるような環境がないので、破ることなどない、ということ。
和歌と音楽を楽しむ
現代語訳もし、船の跡に立つ白波(のようなはかなさ)にわが身を重ねる朝には、岡屋を行き交う船を眺め、満沙弥にならって(歌を詠み)、
- 朝(あした)
- 朝。
- 岡屋
- 宇治川の岸の地名。
- 風情を盗む
- 風流をまねる。
満沙弥(まんしやみ)の歌「世の中を何にたとへむ朝ぼらけ漕ぎ行く船の跡の白波」をふまえる。「跡の白波にこの身を寄する」は、船の跡の白波のように、はかない無常の思いにわが身を重ねること。
そういう朝には、宇治川を行き来する船を眺めて、満沙弥のように和歌を詠む。
現代語訳もし、桂の木に吹く風が葉を鳴らす夕方には、尋陽の江(の故事)を思いやって、源都督のしたようにまねて(琵琶を弾く)。
- 尋陽の江
- 白居易が「琵琶行」を詠んだ、川の名。
- 源都督
- 源経信(みなもとのつねのぶ)。桂の大納言と呼ばれた琵琶の名手。
桂の葉を鳴らす風の音から、白居易の「琵琶行」や桂の大納言を思い起こし、源都督にならって琵琶を弾く、ということ。
現代語訳もし興がさらにわいてくれば、たびたび松風の音に合わせて秋風楽を弾き、水の音に合わせて流泉の曲を奏でる。
- 余興
- 興がさらにわくこと。
- たぐふ
- 合わせる。
- あやつる
- (楽器を)奏でる。
秋風楽・流泉の曲は、どちらも曲の名。
現代語訳腕前はへただけれども、人の耳を喜ばせようというのではない。
- 芸
- (琴や琵琶の)腕前。
- つたなし
- へただ。
人に聞かせるためではない、という点が大切。
現代語訳ひとりで奏で、ひとりで(詩歌を)口ずさんで、自分で自分の心を慰めるだけである。
- 調ぶ
- (楽器を)奏でる。
- 詠ず
- (詩歌を)口ずさむ。
- 情(こころ)をやしなふ
- 心を慰める。
他人からの束縛や気がねがなく、ひとりで自由に、仏道と風雅を楽しむ暮らしを述べて結んでいる。
『方丈記』のほかの場面:ゆく河の流れ / 安元の大火 / 養和の飢饉
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①六十
②齢
③方丈
④庇
⑤閼伽棚
⑥皮籠
⑦懸樋
⑧郭公
⑨読経
⑩口業
⑪境界解答を見る
①むそじ
②よわい
③ほうじょう
④ひさし
⑤あかだな
⑥かわご
⑦かけい
⑧ほととぎす
⑨どきょう
⑩くごう
⑪きょうがい本文中で使われている意味を、次の語句それぞれについて答えよ。
①末葉の宿り
②跡を隠す
③よすが
④抄物
⑤爪木
⑥空蟬の世
⑦あはれぶ
⑧もの憂し
⑨まめなり解答を見る
①晩年の住まい
②俗世間を離れて隠れ住む
③都合のよい場所
④抜き書き
⑤たきぎにする小枝
⑥はかないこの世
⑦しみじみと味わう・めでる
⑧なんとなく気が進まない・おっくうだ
⑨熱心だ
B 文法
次の【 】の助動詞の意味を答えよ。
①宿りを結べ【る】こと
②老い【たる】蚕
③繭を営むが【ごとし】
④往生要集【ごとき】の抄物
⑤やすくほかへ移さ【ん】がため
⑥罪障にたとへ【つ】【べし】
⑦恥づ【べき】人
⑧人の耳をよろこば【しめ】ん解答を見る
①完了
②完了
③比況
④例示
⑤意志
⑥つ=強意 べし=可能
⑦当然
⑧使役
C 現代語訳・内容
「旅人の一夜の宿りを作り、老いたる蚕の繭を営むがごとし」とあるが、①「旅人の一夜の宿り」、②「老いたる蚕の繭」は、それぞれ作者のどのような住まいをたとえているか。
解答を見る
①ほんのわずかな期間だけの、仮の住まい。
②年老いた作者が作った、人生最後の住まい。「これを中ごろの栖に比ぶれば、また百分が一に及ばず。」を、「これ」の内容を補って現代語訳せよ。
解答を見る
この(日野山の)庵を、人生の半ばに住んだ家と比べてみると、やはり百分の一にも足りない。
「地を占めて造らず」とあるが、作者が土地を自分のものにせず、庵を組み立て式にした理由にあたる一続きの部分を、本文から抜き出して示せ。
解答を見る
もし心にかなはぬことあらば、やすくほかへ移さんがため
「その改め作ること、いくばくの煩ひかある。」を現代語訳せよ。
解答を見る
庵を建て直すのに、どれほどの手間がかかろうか、いや、たいした手間ではない。
庵の中に置かれた物のうち、作者が仏道修行のほかに楽しんでいたことがわかる物を、本文中から三つ抜き出せ。また、それは何を楽しんでいたことを示しているか。
解答を見る
物=和歌・管弦(の抄物)、折琴、継琵琶
楽しみ=和歌や音楽といった風雅の道。「観念のたより、なきにしもあらず。」について、①何が「観念のたより」となるのか。②この文を現代語訳せよ。
解答を見る
①谷は木が茂っているが、西の方が開けていて見晴らしがよいこと。(極楽浄土は西方にあるとされたから)
②西方浄土を思い浮かべる手がかりが、ないわけではない。春の「藤波」、夏の「郭公」、秋の「蜩」、冬の「雪」は、それぞれ何と結びつけて描かれているか。また、それらに共通することを答えよ。
解答を見る
春=阿弥陀仏が乗って迎えに来る紫雲 夏=冥土への道案内(死出の山路) 秋=はかないこの世を悲しむ音楽 冬=積もっては消える罪障
共通すること=どれも仏道修行をする者にとって関係の深いものとして描かれている。「もし念仏もの憂く、読経まめならぬ時は、自ら休み、自ら怠る」ことができる理由を、三十字以内で答えよ。
解答を見る
怠けるのを妨げる人も、気がねしなければならない人もいないから。(30字)
「境界なければ、何につけてか破らん。」を、「境界」がどのような環境かがわかるように現代語訳せよ。
解答を見る
戒律を破ってしまうような環境がないので、何によって(戒律を)破ることがあろうか、いや、破ることはない。
「芸はこれつたなけれども、人の耳をよろこばしめんとにはあらず。」を現代語訳せよ。また、本文の最後の部分から、作者のどのような暮らしぶりが読み取れるか、説明せよ。
解答を見る
訳=腕前はへただけれども、人の耳を喜ばせようというのではない。
暮らしぶり=他人からの束縛や気がねがなく、ひとりで自由に、和歌や音楽を楽しみながら仏道にかなった生活をし、自分の心を慰めている。