『方丈記(ほうじょうき)』「安元の大火(あんげんのたいか)」の現代語訳・品詞分解・解説です。
鴨長明が体験した災害の記録(大火・つむじ風・遷都・飢饉・大地震)のうち、最初に書かれている大火事の場面です。風にあおられて燃え広がる火、空を真っ赤に染める灰、逃げまどう人々のようすが、比喩・擬人法・対句を使って生々しく描かれます。最後の一文で、作者は危険な都に家を作ることのむなしさを述べます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
世の不思議
現代語訳私が物事の道理をわきまえるようになってから、四十年あまりの年月を過ごしてきた間に、世の中の思いもよらない出来事を見ることが、だんだん度重なってきた。
- ものの心
- 物事の道理。
- 春秋
- 年月。
- 不思議
- 思いもよらない出来事。
- やや
- だんだん。しだいに。
「世の不思議」は、このあとに書かれる安元の大火・治承のつむじ風・福原遷都・養和の飢饉・元暦の大地震などの災害を指す。
大火のあらまし
- いにし
- 過ぎ去った。去る。
「かとよ」は「〜であったろうか」。昔のことを思い出して書いているので、日付をはっきり言い切らない言い方になっている。
現代語訳風が激しく吹いて騒がしかった夜、午後八時ごろ、都の東南の方から火が出て、西北へと燃え広がった。
- 戌の時
- 今の午後八時ごろ。
「東南」は「たつみ(辰巳・巽)」、「西北」は「いぬゐ(戌亥・乾)」とも言う。火は都の東南から出て、西北へ広がった。
現代語訳最後には朱雀門・大極殿・大学寮・民部省といった建物にまで燃え広がり、ひと晩で(すべて)焼けてちりや灰になった。
- 塵灰
- ちりと灰。後の「灰燼」と同じ意味。
朱雀門は大内裏の南側の正門。火が大内裏の建物にまで及んだ。
「なりにき」の「き」は、作者が自分で見た・体験した過去を表す。
現代語訳火元は樋口富小路だったとか。舞人を宿泊させていた仮の小屋から出火したという話だ。
- 舞人
- 舞を舞う人。
- 宿す
- 泊まらせる。
「とかや」「となん」は、どちらも下に「言ふ」(「聞く」)などが省略されている(結びの省略)。「〜とかいうことだ」「〜ということだ」。
「出で来たりける」の主語は火。
燃え広がる火
現代語訳向きの定まらない風にあおられて、火はあちこちへ移りながら、扇を開いたような形に末広がりに広がった。
- 吹き迷ふ
- あちこちと向きを変えて吹く。
- とかく
- あちらこちらと。
「扇を広げたるがごとく」は比喩。火元から出た火が、先へいくほど広がっていくようすを、扇を開いた形にたとえている。
現代語訳火から遠い家は煙にむせかえるようであり、近いあたりでは(風が)ただもう炎を地面に吹きつけている。
- ひたすら
- ただもう。さかんに。
「遠き家は煙にむせび」は、家を人のように「むせぶ」と言う擬人法。
「遠き家は〜」と「近きあたりは〜」は対句になっている。
現代語訳空には(風が)灰を巻き上げているので、それが炎の光に照らされて、空じゅうが赤く染まっているところへ、
- あまねし
- すみずみまで行き渡っている。
「火の光に映じて」の主語は、空に吹き上げられた灰。灰が下の炎の光に照らされて、空一面が真っ赤に見えている。
現代語訳風の力にこらえきれずにちぎれた炎が、宙を飛ぶようにして、一、二町も先へと移っていく。
「飛ぶがごとくして」も比喩。ちぎれた炎が空を飛ぶようにして離れた所へ燃え移っていく。
「移りゆく」のように現在形で終わる文が続き、目の前で見ているような臨場感が出ている。
逃げまどう人々
- うつし心
- 正気。生きた心地。
「や」は反語。「生きた心地がしただろうか、いや、しなかっただろう」。
「その中の人」は、火が燃え広がった地域の中にいる人。
現代語訳煙にむせて倒れ伏す人もいれば、炎で目がくらみ、そのまま息絶える人もいる。
- まぐる
- 目がくらむ。
「あるいは〜、あるいは〜」は対句。逃げられずに死ぬ人々のようすを並べている。
現代語訳ある人は身一つでやっとのことで逃げても、家財を取り出すことはできない。
- からうじて
- やっとのことで。
- 資財
- 家財。
- 〜に及ばず
- 〜することができない。
大火の被害
現代語訳あらゆる宝物が、そっくりそのまま灰になってしまった。その損害は、いったいどれほどであっただろうか。
- 七珍万宝
- あらゆる貴重な宝物。
- さながら
- そっくりそのまま。全部。
- 費え
- 損害。
- いくそばく
- どれほど。
「その費え」は、火事による家・家財・宝物などの損害。
現代語訳その時、公卿の家が十六軒焼けた。まして、そのほか(の家)は数えきることもできない。
- 公卿
- 大臣・大納言などの上級貴族。
「数へ知るに及ばず」は「数えて知ることもできない」。公卿の家でさえ十六軒焼けたのだから、それより身分の低い人々の家はなおさら数えきれない、ということ。
現代語訳全体で、都の三分の一に及んだということだ。死んだ男女は数十人。馬や牛のたぐいは、どれほどか見当もつかない。
- 辺際
- 果て。限り。
「とぞ」の下にも「言ふ」などが省略されている(結びの省略)。
「辺際を知らず」は、死んだ馬や牛の数が数えきれないほど多い、ということ。「男女死ぬるもの」と「馬牛のたぐひ」が対になっている。
作者の感想
現代語訳人間の営みはどれも愚かなものだが、なかでも、あれほど危ない都の中に家を建てようとして、
- さしも
- それほど。あれほど。
「さしも危ふき京中の家」は、大火のように一晩で灰になってしまう、危険な都の中の家。
現代語訳財産を使い、心を悩ませることは、とりわけつまらないことでございます。
- すぐれて
- とりわけ。
- あぢきなし
- つまらない。むなしい。
「あぢきなく」と言っているのは、危険な都に家を作るために、財産を使い、心を悩ませること。
どんな立派な家も一夜で灰になるという体験から、この世ははかない仮の世であるのに、家に執着するのはむなしいと述べている。作品全体に流れる無常観がうかがえる。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①公卿
②灰燼
③朱雀門
④辺際
⑤大極殿
⑥男女解答を見る
①くぎょう
②かいじん
③しゅしゃくもん
④へんさい
⑤だいこくでん
⑥なんにょ次の語の本文中での意味を答えよ。
①とかく
②あまねし
③まぐる
④さながら
⑤いくそばく
⑥あぢきなし解答を見る
①あちらこちらと
②すみずみまで行き渡っている
③目がくらむ
④そっくりそのまま・全部
⑤どれほど
⑥つまらない・むなしい「戌の時」は今の何時ごろか。
解答を見る
午後八時ごろ
B 文法
「一夜のうちに塵灰となりにき」の「に」「き」の意味と活用形を答えよ。また、ここで「き」が使われていることから、どんなことがわかるか。
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「に」=完了の助動詞「ぬ」の連用形。「き」=過去の助動詞「き」の終止形。 作者が大火を自分で見て体験したこと。
「火もとは、樋口富小路とかや」「仮屋より出で来たりけるとなん」「都のうち三分が一に及べりとぞ」の文末には、共通して何が省略されているか。省略されている語を一語で答えよ。
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言ふ(聞く) ※係助詞「か」「なん」「ぞ」の結びが省略されている。
「舞人を宿せる仮屋」の「宿せ」「る」を文法的に説明せよ。
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宿せ=サ行四段活用の動詞「宿す」の已然形。 る=存続の助動詞「り」の連体形。
C 現代語訳・内容
「吹き迷ふ風に、とかく移りゆくほどに、扇を広げたるがごとく末広になりぬ」を現代語訳せよ。また、「扇を広げたるがごとく」は、火のどのようなようすをたとえたものか。
解答を見る
訳=向きの定まらない風にあおられて、火はあちこちへ移りながら、扇を開いたような形に末広がりに広がった。 ようす=火元から出た火が、風にあおられて燃え移りながら、先へいくほど広い範囲に広がっていくようす。
「遠き家は煙にむせび」に使われている表現技法を答えよ。また、この文と対句になっている部分を本文から抜き出せ。
解答を見る
擬人法 対句=近きあたりはひたすら炎を地に吹きつけたり
「空には灰を吹きたてたれば、火の光に映じて、あまねく紅なる中に」とあるが、空はどのような状態になっているのか。説明せよ。
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空に吹き上げられた灰が、下で燃える火の光に照らされて、空一面が真っ赤に見えている状態。
「その中の人、うつし心あらんや」を現代語訳せよ。また、「その中の人」とはどのような人か。
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訳=その中にいる人は、生きた心地がしただろうか、いや、しなかっただろう。 どのような人=火が燃え広がった地域の中にいる人。
「すぐれてあぢきなくぞはべる」とあるが、何が「あぢきなし」だというのか。また、そこにうかがえる作者の考え方を「〜観」の形で答えよ。
解答を見る
危険な都の中に家を作るために、財産を使い、心を悩ませること。 無常観