『枕草子(まくらのそうし)』「野分のまたの日こそ」の現代語訳・品詞分解・解説です。
野分(台風)が吹き荒れた翌日の庭の様子と、そこにいる二人の女性の姿を描いた段です。冒頭の一文に「あはれにをかし」と感想を示し、そのあとに具体的な描写が続きます。風の「荒々しさ」と「繊細さ」、二人の女性の服装と髪、「むべ山風を」の古歌がよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
野分の翌日の庭
- 野分
- 秋に吹く激しい風。台風
- いみじ
- 「いみじく」のウ音便
この章段の主題を示す一文。このあとの文章は、「あはれにをかし」と感じた具体的な内容を書いている。
「こそ」の結びは「をかしけれ」(已然形)。
現代語訳立蔀や透垣などが乱れ倒れているうえに、庭の植え込みの草木もひどく痛々しい様子である。
- 前栽ども
- 庭の植え込み(の草木)
- 心苦しげなり
- 痛々しい感じだ
- 立蔀
- 細い木を格子に組み、裏に板を張って立てた、目隠しの囲い。
- 透垣
- 板や竹で、すき間をあけて作った垣根。
現代語訳大きな木々も倒れ、枝などが吹き折られたのが、萩や女郎花などの上に横たわってかぶさっているのは、まったく思いがけない(光景だ)。
- よころばふ
- 横たわる
- 思はずなり
- 思いがけない
倒れた大木や折れた枝が、萩や女郎花の上に横たわってかぶさっている様子を、作者は「思はずなり(思いがけない)」と感じている。
- 壺
- (格子の)枠の一つ一つ
- ことさらなり
- わざわざ
「格子の壺」は、格子の枠組みの一つ一つ。
現代語訳一つ一つ細かく吹きこんであるのは、ゆうべのあの荒れ狂った風がしたこととは、とても思えない。
格子の枠の一つ一つに、わざとそうしたかのように木の葉を細かく吹き入れていることを、荒々しかった風のしわざとは思えない、と言っている。
作者は野分の、大木を吹き倒す荒々しい面と、木の葉を細かく吹き入れる繊細な面の両方に興味をもっている。
「こそ」の結びは「ね」(打消の助動詞「ず」の已然形)。
寝起きの女房
現代語訳ひどく濃い色の着物で、表のつやがあせたものの上に、黄朽葉色の織物や薄物の小袿をはおって、
- うはぐもる
- 表面のつやがなくなる
- 黄朽葉
- 赤みがかった黄色
- 薄物
- 薄く透ける織物
「衣の」の「の」は同格の格助詞(「着物で、表面のつやがなくなったもの」)。
現代語訳いかにもきちんとした感じの美しい人が、ゆうべは風が吹き荒れて寝つけなかったので、
- まことし
- まじめそうだ。実直そうだ
- 清げなり
- こざっぱりと美しい
「清げなる人」は、着ているものや、母屋からにじり出てきたことから、身分の高い人に仕える上級の女房と考えられる。
- ゐざり出づ
- ひざをついて進み出る
現代語訳(その人の)髪が風に乱されて、少しふわりとふくらみ、肩にかかっているさまは、実にみごとだ。
- うちふくだむ
- (髪が)ふくらんでけば立つ
「まことにめでたし」とほめているのは、風に吹き乱されて少しふくらんだ髪が、肩にかかっている様子。
現代語訳(その人が)しんみりとした面持ちで外へ目をやって、「むべ山風を」などと口にしているのも、風流を知る人らしく見えるが、
- 見出だす
- (内から外を)眺める
- むべ
- なるほど
「むべ山風を」は、『古今和歌集』の文屋康秀の歌「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」の一部。「山」と「風」を合わせると「嵐」になる、という歌。
「心あらむと見ゆる」のは、まことしう清げなる人。野分の翌日の情景にふさわしい古歌を口ずさんだので、情趣を解する人なのだろうと見えた。
十七、八歳の女性
現代語訳年は十七、八ほどであろうか、子どもではないが、まだ一人前の大人とも見えない人が、
- わざと
- とりたてて
ここから終わりまでが、二人目の女性の描写。「見えぬが」の「が」は主格の格助詞。
「十七、八ばかりやあらむ」は、作者が年ごろを推し量ってはさみこんだことば。
現代語訳生絹の単衣で、ひどくほころびて糸が切れ、縹色もあせて、濡れなどしているものに、
- 生絹
- 生糸で織った薄い絹
- ほころび絶ゆ
- 縫い目がほころびて糸が切れる
- 花
- 縹(はなだ)色。薄い藍色
- かへる
- (色が)あせる
「単衣の」の「の」は同格の格助詞。
「生絹の単衣の〜宿直物を着て」までが、この女性の衣装の描写。
- 薄色
- 薄い紫色
- 宿直物
- 夜着
- 色なり
- つややかで美しい
- うるはし
- きちんと整っている
現代語訳毛先もすすきの穂のようにふさふさとして、身の丈ほどもあったので、(その毛先は)着物の裾に隠れ、袴のひだのあいだからのぞいているが、
- 末
- 髪の先
- 尾花
- すすきの穂
- 丈
- 背丈
- そばそば
- ひだの所々
「袴のそばそばより見ゆる」のは、髪の毛先。身の丈ほどもある長い髪なので、その先が袴のひだのあいだからのぞいている。
現代語訳(その人が、)童女や若い女房たちが、根こそぎ吹き倒された草木を、そこここで拾い集めたり、立て直したりしているのを、
- 根ごめ
- 根もとから全部
「童部、若き人々の」の「の」は主格。「取り集め、起こし立てなどする」のは、召使いの子どもや若い女房たち。
「吹き折られたる」の下に「草木」などのことばが省略されている。
現代語訳うらやましそうに(簾を)外へ押し出して、簾に寄りそって(眺めて)いる後ろ姿も趣がある。
- 押し張る
- (簾を)外へ押し出す
- 後ろ手
- 後ろ姿
「うらやましげに」は、自分は庭に出るべき立場ではないが、自分も庭に出てみたいという気持ち。簾を外へ押し出して、身を乗り出すように見ている。
二人の女性について、作者はどちらも着ているものと髪の様子をくわしく書いている。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①母屋
②立蔀
③小袿
④野分
⑤宿直物
⑥透垣
⑦生絹
⑧前栽
⑨後ろ手
⑩女郎花
⑪簾
⑫黄朽葉解答を見る
①もや
②たてじとみ
③こうちき
④のわき
⑤とのいもの
⑥すいがい
⑦すずし
⑧せんざい
⑨うしろで
⑩おみなえし
⑪す
⑫きくちば本文で使われている意味を答えよ。
①またの日
②心苦しげなり
③思はずなり
④ことさらに
⑤まことし
⑥清げなり
⑦めでたし
⑧後ろ手解答を見る
①翌日
②痛々しい感じだ
③思いがけない
④わざわざ・わざと
⑤まじめそうだ・実直そうだ
⑥こざっぱりと美しい
⑦すばらしい
⑧後ろ姿
B 文法
次の「れ」を文法的に説明せよ。
①枝など吹き折られたるが
②夜は風の騒ぎに寝られざりければ
③肩にかかれるほど
④いみじうあはれにをかしけれ解答を見る
①受身の助動詞「る」の連用形
②可能の助動詞「らる」の未然形の一部
③ラ行四段動詞「かかる」の已然形の活用語尾
④シク活用の形容詞「をかし」の已然形の一部次の「の」「が」の用法を答えよ。
①いと濃き衣のうはぐもりたるに
②まことしう清げなる人の、夜は
③わざと大人とは見えぬが
④生絹の単衣のいみじうほころび絶え(「単衣の」)
⑤童部、若き人々の、根ごめに解答を見る
①同格
②主格
③主格
④同格
⑤主格次の文中の( )内の助動詞について、意味と活用形をそれぞれ示せ。
①荒かりつる風のしわざとはおぼえね(ね)
②木の葉をことさらにしたらむやうに(む)
③十七、八ばかりやあらむ(む)解答を見る
①打消・已然形(「こそ」の結び)
②婉曲・連体形
③推量・連体形(「や」の結び)
C 内容
①この章段の主題にあたる一文を抜き出せ。②この章段は、類集的章段・日記的章段・随想的章段のどれにあたるか。
解答を見る
①野分のまたの日こそ、いみじうあはれにをかしけれ。②随想的章段
「荒かりつる風のしわざとはおぼえね」について、①作者は何を見てこう感じたのか。②作者は野分のどのような二つの面に興味をもっているか。
解答を見る
①格子の枠組みの一つ一つに、わざとそうしたかのように木の葉が細かく吹き入れてある様子。②大木を吹き倒すような荒々しい面と、格子に木の葉を細かく吹き入れるような繊細な面。
「まことしう清げなる人」について、①どのような身分の人と考えられるか。②作者が「まことにめでたし」とほめているのは、何がどのような様子であることか。
解答を見る
①(着ているものや、母屋からにじり出てきたことから)高貴な方に仕える、身分の高い女房。②風に乱されてふわりとふくらんだ髪が、肩にかかっているさま。
「『むべ山風を』など言ひたるも心あらむと見ゆる」について、①「むべ山風を」はどのような和歌をふまえているか。和歌集の名とあわせて答えよ。②「心あらむと見ゆる」のはだれか。本文中から抜き出せ。③そう見えたのはなぜか。
解答を見る
①『古今和歌集』の「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風をあらしといふらむ」(文屋康秀)。②まことしう清げなる人
③野分の翌日の情景にふさわしい古歌を口ずさんだから。十七、八歳の女性について、①「根ごめに吹き折られたる、ここかしこに取り集め」の部分を、省略されている語を補って現代語訳せよ。②「うらやましげに」から、この女性のどのような気持ちが読み取れるか。③作者が二人の女性について共通してくわしく書いていることを二つ答えよ。
解答を見る
①根こそぎ吹き倒された(草木)を、そこここで拾い集め
②自分も庭に出てみたいという気持ち。③着ているもの(服装)と、髪の様子。