『枕草子(まくらのそうし)』「中納言参りたまひて」の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。
中宮定子の弟である中納言隆家が、すばらしい扇の骨を手に入れたと得意げに話します。それを聞いた清少納言のとっさの一言に、隆家も感心して笑います。登場人物が三人いるので、敬語から誰の動作・誰への敬意かを見分けることが大切です。「ななり」や「に」の識別もよく問われます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
扇の骨の自慢
現代語訳中納言(隆家様)が(中宮様のもとに)参上なさって、扇を献上なさるときに、
- 参る
- 参上する(謙譲語)。
- 奉らす
- 差し上げる(謙譲語)。
隆家が参上したのは、宮中の、姉である中宮定子のもと。
「参りたまひ」は、謙譲語「参り」が作者から中宮への敬意、尊敬語「たまひ」が作者から隆家への敬意を表す二方面敬語。「奉らせたまふ」「申したまふ」も同じ。
現代語訳「私隆家は、見事な(扇の)骨を手に入れたのでございます。
- いみじ
- すばらしい。
「隆家こそ」は、自分の名を出して「この隆家は」と強く言ったもの。
「はべれ」は丁寧の補助動詞で、隆家から聞き手の中宮への敬意。「こそ」の結び。
- 参らす
- 差し上げる(謙譲語)。隆家から中宮への敬意。
「それ」は、隆家が手に入れた「いみじき骨」を指す。その骨に紙を張らせて、中宮に差し上げるつもりでいる。
「するに」の「に」は逆接の確定条件の接続助詞(〜のに、〜が)。
現代語訳ありふれた紙ではとても張れそうにないので、(ふさわしい紙を)探しているのです。」と申し上げなさる。
- おぼろけなり
- ふつうだ、ありふれている。
- え〜まじ
- とても〜できそうにない。
隆家が探しているのは、すばらしい骨に見合う、特別な紙。ありふれた紙では、骨に釣り合わない。
現代語訳「どのような骨なのですか。」と(中宮様が)お尋ね申し上げなさると、
- いかやうなり
- どのようだ。
「いかやうにかある」は中宮の言葉。
「問ひきこえさせたまへ」の「きこえ」は謙譲の補助動詞で作者から隆家への敬意、「させたまへ」は最高敬語(二重敬語)で作者から中宮への敬意。
現代語訳「とにかくすばらしいものでございます。『これまでまったく見たことのない骨のありさまだ。』と人々が申しております。
- さらに〜打消
- まったく〜ない。
人々の言葉を引いて、骨のすばらしさをさらに強調している。
※「申す」は、その場にいる中宮をはばかって改まった言い方をしたもので、隆家から中宮への敬意を表す。人々が中宮に直接申し上げたわけではない。
現代語訳実際、これほどの(骨)は目にしたことがありませんでした。」と、大きな声でおっしゃるので、
- かばかり
- これほど。
- 言高し
- 声が大きい。
- のたまふ
- おっしゃる(尊敬語)。
「かばかりの」の「の」は体言の代用で、「これほどの骨」の意。「かばかり」は、前の「いみじき骨」「さらにまだ見ぬ骨」を受けている。
「言高く」には、すばらしい骨を手に入れた隆家の得意げな様子が表れている。
清少納言の切り返し
現代語訳「それでは、扇の(骨)ではなくて、くらげの(骨)であるようですね。」と(私が)申し上げると、
- さては
- それでは。
- 聞こゆ
- 申し上げる(謙譲語)。作者から隆家への敬意。
作者(清少納言)の言葉。隆家の「さらにまだ見ぬ骨のさまなり」をとらえて、だれも見たことがない骨なら、骨のないくらげの骨でしょう、ととっさに切り返した。
「扇の」「くらげの」の「の」は体言の代用で、下に「骨」が省略されている。
「ななり」は、断定の助動詞「なり」の連体形「なる」が撥音便で「なん」となり、「ん」が書かれていない「な」に、推定の助動詞「なり」の終止形が付いたもの。「〜であるようだ」と訳す。
現代語訳(隆家様は)「これは隆家が言ったことにしてしまおう。」と言って、お笑いになる。
- 言
- 言葉。
隆家は、作者のしゃれに感心して、「これは隆家が言ったことにしてしまおう」と笑っている。からかわれたことを怒ってはいない。
「言にしてむ」は、言(名詞)+に(格助詞・変化の結果)+し(サ変「す」の連用形)+て(「つ」の未然形・強意)+む(意志)。「〜にしてしまおう」と訳す。
書きとめたわけ
現代語訳このようなことは、(書くと)聞き苦しいことの中に入れておくべきなのだろうが、
- かたはらいたし
- (そばで聞いていて)聞き苦しい、みっともない。
「かやうのこと」は、隆家の自慢に作者がとっさに機知のある言葉を返し、隆家に感心されたという話。自分の自慢話になるので、書くのは「かたはらいたきこと」だと言っている。
「つべけれ」は「きっと〜するのがよい」の意。「こそ」の結びの「べけれ」は、下に「ど」が続いて文が終わらないので、結びは流れている(結びの消滅)。
現代語訳(まわりの人が)「一つも書き落とすな。」と言うのだから、どうしようもない(書くしかない)。
- な〜そ
- 〜するな(禁止)。
- いかがはせむ
- どうしようか、いや、どうしようもない(反語)。
「一つな落としそ」は「一つも書きもらすな」の意。「言へ」の主語は、作者のまわりの人々(同僚の女房たち)。敬語が使われていない。
人に勧められたからしかたなく書くのだと、自慢話を書きとめることの言い訳をしている。
『枕草子』のほかの章段:宮に初めて参りたるころ① / 雪のいと高う降りたるを / 九月ばかり
テスト予想問題
A 語句
次の語句の、ここでの意味を答えよ。
①おぼろけなり
②いみじ
③かたはらいたし
④かばかり
⑤いかがはせむ解答を見る
①ふつうだ・ありふれている
②すばらしい
③聞き苦しい・みっともない
④これほど
⑤どうしようか、いや、どうしようもない
B 敬語・文法
次の傍線部の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えよ。
①中納言【参り】たまひて
②参り【たまひ】て
③得て【はべれ】
④張らせて【参らせ】む
⑤問ひ【きこえ】させたまへば
⑥問ひきこえ【させたまへ】ば
⑦言高く【のたまへ】ば
⑧と【聞こゆれ】ば解答を見る
①謙譲語・作者から中宮
②尊敬語・作者から隆家
③丁寧語・隆家から中宮
④謙譲語・隆家から中宮
⑤謙譲語・作者から隆家
⑥尊敬語・作者から中宮
⑦尊敬語・作者から隆家
⑧謙譲語・作者から隆家次の「に」を文法的に説明せよ。
①参らせむとする【に】
②いかやう【に】かある
③扇の【に】はあらで
④隆家が言【に】してむ解答を見る
①接続助詞(逆接の確定条件)
②形容動詞「いかやうなり」の連用形活用語尾
③断定の助動詞「なり」の連用形
④格助詞(変化の結果)「くらげのななり」の「ななり」を文法的に説明し、「くらげのななり」を現代語訳せよ。
解答を見る
断定の助動詞「なり」の連体形「なる」の撥音便「なん」の「ん」が表記されていない形+推定の助動詞「なり」の終止形。訳=くらげの(骨)であるようだ。
「かたはらいたきことのうちに入れつべけれど」の「つ」「べけれ」を文法的に説明せよ。
解答を見る
つ=強意の助動詞「つ」の終止形 べけれ=適当の助動詞「べし」の已然形
次を現代語訳せよ。
①おぼろけの紙はえ張るまじければ
②さらにまだ見ぬ骨のさまなり
③一つな落としそ解答を見る
①ありふれた紙ではとても張ることができそうにないので
②これまでまったく見たことのない骨のありさまだ
③一つも書き落とすな
C 内容
「求めはべるなり」とあるが、隆家は何を探しているのか。
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見事な扇の骨に見合う、並のものではない紙。
「言高くのたまへば」には、誰のどのような様子が表れているか。
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隆家の、すばらしい扇の骨を手に入れたことを得意に思い、自慢する様子。
「さては、扇のにはあらで、くらげのななり」について、①誰の言葉か。②隆家のどの言葉を受けたものか、本文中から抜き出せ。③どのような意図で言ったのか。
解答を見る
①作者(清少納言)
②さらにまだ見ぬ骨のさまなり
③隆家が「まだ見たことのない骨だ」と自慢したのをとらえて、だれも見たことのない骨なら、骨のないくらげの骨だろうと、しゃれで切り返した。「これは隆家が言にしてむ」と言ったときの隆家の気持ちとして考えられることを説明せよ。
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作者のとっさのしゃれに感心し、おもしろく思って、自分が言ったことにしてしまおうと冗談を言っている。
「かやうのこと」とはどのようなことか。また、作者がそれを「かたはらいたきこと」と考えるのはなぜか。
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隆家の扇の骨の自慢に、作者が機知のある言葉で切り返し、隆家に感心されたこと。自分の自慢話になってしまうから。