李景亮『人虎伝』②書き下し文・現代語訳・解説|道に虎有り・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 道に虎が出る
  3. 虎の声は李徴に似ていた
  4. 再会のあいさつ
  5. なぜ姿を見せないのか
  6. テスト予想問題
  7. 続き(③)

李景亮『人虎伝(じんこでん)』②「道に虎有り」の書き下し文・現代語訳・解説です。中島敦「山月記」の原典となった唐代の伝奇小説で、本文は『唐人説薈』によります。

①では、才能を鼻にかけて下級役人の地位に満足できなかった李徴が、旅の帰りに発狂して行方不明になりました。

書き下し文・現代語訳・解説

道に虎が出る

本文(訓読文)

白文至明年、陳郡袁傪以監察御史、奉詔使嶺南。

書き下し明年に至り、陳郡(ちんぐん)の袁傪(ゑんさん)監察御史(かんさつぎよし)を以て、詔(みことのり)を奉じて嶺南(れいなん)に使ひす。

現代語訳翌年になって、陳郡出身の袁傪が、監察御史として、天子の命令を受けて嶺南へ使者として出かけた。

明年
翌年。李徴が行方不明になった次の年。
陳郡
地名。今の河南省のあたりにあった郡。
監察御史
役人の不正を取り締まる高官。
奉詔
天子の命令を受ける。
使
「つかヒス」。使者として行く。
嶺南
地名。南嶺山脈より南の地方。

白文乗伝至商於界、晨将去。

書き下し伝(でん)に乗りて商於(しやうお)の界に至り、晨(あした)に将(まさ)に去らんとす。

現代語訳宿場ごとの馬車に乗って商於の地の境まで来て、早朝に出発しようとした。

伝
宿場ごとに用意された、役人が使う馬車。
商於
地名。今の陝西省から河南省にかけての地。
晨
「あした」。早朝。
将
「まさニ~(ント)ス」と読む再読文字。~しようとする。

白文其駅吏白曰、「道有虎、暴而食人。

書き下し其の駅吏(えきり)白(まう)して曰はく、「道に虎有り、暴にして人を食らふ。

現代語訳宿場の役人が申し上げて言うには、「この先の道には虎がいて、凶暴で人を食います。

駅吏
宿場の役人。
白
「まうス」。申し上げる。
暴
荒々しい。凶暴である。

白文故途於此者、非昼莫敢進。

書き下し故に此に途(みち)する者は、昼に非ざれば敢へて進むもの莫し。

現代語訳ですから、ここを通る者は、昼間でなければ、進んで行こうとする者はおりません。

途
「みちス」。道を行く。通る。
非昼
昼でなければ。
莫敢進
「敢へて進むもの莫し」。進んで行こうとする者はいない。

白文今尚早。願且駐車。決不可前。」

書き下し今は尚(な)ほ早し。願(ねが)はくは且(しばら)く車を駐(とど)めよ。決して前(すす)むべからず。」と。

現代語訳今はまだ早うございます。どうか、しばらく車をお止めください。決して出発なさってはいけません。」と。

尚
「なホ」。まだ。
願
「ねがハクハ」。どうか~してください。
且
ここは「しばらク」と読む。しばらく。
駐
「とどム」。止める。
前
「すすム」。前に進む。出発する。
不可A
「Aすべからず」。ここは禁止で、Aしてはいけない。

白文傪遂命駕而行。

書き下し傪遂に駕(が)を命じて行く。

現代語訳(しかし)袁傪はそのまま車の用意を命じて出発した。

遂
「つひニ」。そのまま。
駕
乗り物。ここは馬車。
而
置き字。

虎の声は李徴に似ていた

本文(訓読文)

白文去未尽一里、果有虎、自草中突而出。

書き下し去りて未だ一里を尽くさざるに、果たして虎有り、草中より突(をど)りて出づ。

現代語訳出発してまだ一里も行かないうちに、はたして虎が現れ、草むらの中から躍り出てきた。

未尽一里
まだ一里も進まない。
果
「はたシテ」。思ったとおり。駅吏の言ったとおり。
突
「をどル」。勢いよく飛び出す。

白文傪驚甚。

書き下し傪驚くこと甚だし。

現代語訳袁傪はたいへん驚いた。

白文俄而虎匿身草中、人声而言曰、「異乎哉。幾傷我故人也。」

書き下し俄(には)かにして虎身を草中に匿(かく)し、人声もて言ひて曰はく、「異なるかな。幾(ほとん)ど我が故人(こじん)を傷つけんとするなり。」と。

現代語訳(ところが)虎はすぐに身を草むらの中に隠し、人間の声で言った、「不思議なことだ。あやうく私の旧友を傷つけるところだった。」と。

俄而
「にはカニシテ」。急に。まもなく。
匿
「かくス」。隠す。
人声
人間の声。
異乎哉
「異なるかな」。なんと不思議なことか。
幾
「ほとんド」。あやうく。もう少しで。
故人
旧友。昔なじみの友人。ここは虎(李徴)から見た旧友で、袁傪のこと。
○虎が草むらに身を隠したのは、襲いかかった相手が旧友だとわかったから。

白文傪聆其音、似李徴者。

書き下し傪其の音(こゑ)を聆(き)くに、李徴なる者に似たり。

現代語訳袁傪がその声をよく聴くと、李徴に似ていた。

聆
「きク」。耳をすまして聴く。
音
「こゑ」。声。

白文傪昔与徴同登進士第、分極深。

書き下し傪昔徴と同じく進士の第に登り、分(ぶん)極めて深し。

現代語訳袁傪は以前、李徴と同じ年に進士に合格し、たいへん親しいつきあいをしていた。

同登進士第
同じ年に進士に合格する。
分
交わり。つきあい。

白文別有年矣。

書き下し別れて年有り。

現代語訳(しかし)別れてから何年もたっていた。

有年
何年もたつ。
矣
置き字。

白文忽聞其語、既驚且異、莫測焉。

書き下し忽ち其の語を聞きて、既に驚き且(か)つ異(あや)しみて、測る莫し。

現代語訳思いがけずその声を耳にしたので、驚きもし、不思議にも思って、どういうことなのか見当もつかなかった。

既A且B
「既にAし且つBす」。Aでもあり、その上Bでもある。
異
「あやシム」。不思議に思う。
莫測
推し量ることができない。
焉
置き字。

白文遂問曰、「子為誰。豈非故人隴西子乎。」

書き下し遂に問ひて曰はく、「子は誰と為す。豈(あ)に故人の隴西子(ろうせいし)に非ずや。」と。

現代語訳そこで問いかけた、「あなたは誰か。わが旧友の隴西の君ではないのか。」と。

子
あなた。
為誰
「誰と為す」。誰であるか。
隴西子
隴西出身の人。ここは李徴を指す。
故人
ここは袁傪から見た旧友で、李徴のこと。

白文虎呼吟数声、若嗟泣状。

書き下し虎呼吟(こぎん)すること数声、嗟泣(さきふ)する状のごとし。

現代語訳虎は何度かうなり声をあげたが、それはまるですすり泣いているようであった。

呼吟
うなる。うめく。
数声
何度か声をあげる。
嗟泣
すすり泣く。
若
「ごとシ」。~のようだ。

白文已而謂傪曰、「我李徴也。」

書き下し已(すで)にして傪に謂ひて曰はく、「我は李徴なり。」と。

現代語訳やがて(虎は)袁傪に向かって言った、「私は李徴だ。」と。

已而
「すでニシテ」。やがて。まもなく。

再会のあいさつ

本文(訓読文)

白文傪乃下馬曰、「君何由至此。」

書き下し傪乃ち馬より下りて曰はく、「君何(なに)に由りてか此に至れる。」と。

現代語訳袁傪はそこで馬から下りて言った、「君はどういうわけでこんなことになったのか。」と。

乃
「すなはチ」。そこで。
何由
「何に由りてか」。どういうわけで。(疑問)
至此
このような状態になる。

白文虎曰、「我自与足下別、音容曠阻且久矣。幸喜得無恙乎。宦途不致淹留乎。今又何適。」

書き下し虎曰はく、「我足下(そくか)と別れてより、音容(いんよう)曠阻(くわうそ)し且つ久し。幸喜(さいは)ひに恙(つつが)無きを得たるか。宦途(くわんと)淹留(えんりう)を致さざるか。今又何(いづ)くにか適(ゆ)く。」と。

現代語訳虎は言った、「私があなたと別れてから、遠く離れて声も聞かず姿も見ないまま、ずいぶん時がたった。幸いに無事でおられたか。役人としての出世は滞りなく進んだか。今はまたどこへ行くのか。」と。

足下
あなた。相手への敬称。
音容曠阻
遠く離れていて会えないこと。「音容」は声と姿。
無恙
無事である。
宦途
役人として出世していく道。
淹留
とどこおる。
何適
「何くにか適く」。どこへ行くのか。(疑問)

白文傪曰、「近者幸得備御史之列。今奉使嶺南。」

書き下し傪曰はく、「近者(ちかごろ)幸ひに御史の列に備へらるるを得たり。今使ひを嶺南に奉ず。」と。

現代語訳袁傪は言った、「近ごろ幸いにも御史の仲間入りをすることができた。今は命令を受けて、嶺南へ使者として行くところだ。」と。

近者
「ちかごろ」。最近。
備御史之列
御史の一員に加えられる。

白文虎曰、「吾子以文学立身、位登朝序。可謂盛矣。心喜故人居此地。甚可賀。」

書き下し虎曰はく、「吾子(ごし)文学を以て身を立て、位朝序(てうじよ)に登る。盛んなりと謂ふべし。心に故人の此の地に居るを喜ぶ。甚だ賀すべし。」と。

現代語訳虎は言った、「君は学問によって身を立て、朝廷の高官にまでなった。まことに立派なことだ。旧友がこのような地位にいることを心からうれしく思う。たいへんめでたい。」と。

吾子
「ごし」。君。親しみをこめた呼び方。
文学
学問。
朝序
朝廷の高官。
此地
この地位。監察御史という高い位を指す。
可賀
祝うべきだ。めでたい。

なぜ姿を見せないのか

本文(訓読文)

白文傪曰、「往者吾与執事同年成名。交契深密、異於常友。

書き下し傪曰はく、「往者(さき)に吾と執事(しつじ)と年を同じくして名を成す。交契(かうけい)の深密(しんみつ)なること、常友(じやういう)に異なり。

現代語訳袁傪は言った、「以前、私とあなたとは同じ年に進士に合格して名をあげた。その親しく深い交わりは、普通の友人とは違っていた。

往者
「さきニ」。以前。
執事
あなた。相手への敬称。
同年成名
同じ年に(進士に合格して)名をあげる。
交契
交際。
常友
普通の友人。

白文自声容間阻、去日如流。想望風儀、心目倶断。

書き下し声容間阻(かんそ)してより、去日(きよじつ)流るるがごとし。風儀(ふうぎ)を想望(さうばう)して、心目倶に断(た)ゆ。

現代語訳遠く離れて会えなくなってから、月日は流れるように過ぎた。君の立派な姿を遠く思いやっても、心にも目にも浮かばなくなっていた。

声容間阻
遠く離れていて会えないこと。「声容」は声と姿。
去日如流
過ぎ去った日々は、流れるように早い。
想望
遠く思いやる。
風儀
立派な姿。

白文不意、今日獲君念旧之言。

書き下し意(おも)はざりき、今日君が旧を念ふの言を獲んとは。

現代語訳思いもしなかった、今日、昔をなつかしむ君の言葉を聞けようとは。

不意
「意はざりき」。思いもしなかった。
念旧
昔のことをなつかしく思う。

白文雖然執事何為不見我、而自匿于草木中。故人之分、豈当如是耶。」

書き下し然りと雖(いへど)も執事何為(なんす)れぞ我を見(み)ずして、自ら草木の中に匿(かく)るる。故人の分、豈に当(まさ)に是(か)くのごとくなるべけんや。」と。

現代語訳それなのに、あなたはどうして私に顔を見せずに、自分から草木の中に隠れているのか。旧友のつきあいが、このようであってよいだろうか、いや、よいはずがない。」と。

雖然
「然りと雖も」。そうではあるが。
何為
「何為れぞ」。どうして。(疑問)
匿
ここは「かくル」。隠れる。
于
置き字。
故人之分
旧友としてのつきあい。

白文虎曰、「我今不為人矣。安得見君乎。」

書き下し虎曰はく、「我今人為(た)らず。安(いづ)くんぞ君に見(まみ)ゆるを得んや。」と。

現代語訳虎は言った、「私は今、人間ではないのだ。どうして君に会うことができようか、いや、できはしない。」と。

不為人
人ではない。
見
「まみゆ」。お目にかかる。会う。
矣
置き字。

白文傪曰、「願詳其事。」

書き下し傪曰はく、「願はくは其の事を詳(つまび)らかにせん。」と。

現代語訳袁傪は言った、「どうか、そのわけを詳しく聞かせてほしい。」と。

願A
「願はくはAせん」。どうかAしたい。Aさせてほしい。
詳
「つまびラカニス」。詳しく知る。
其事
李徴が人間でなくなった(虎になった)いきさつ。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①晨
    ②白
    ③果
    ④幾
    ⑤近者

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    ①あした/早朝
    ②もうして/申し上げて
    ③はたして/思ったとおり
    ④ほとんど/あやうく・もう少しで
    ⑤ちかごろ/最近

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①故人
    ②足下
    ③無恙
    ④嗟泣

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    ①旧友
    ②あなた(相手への敬称)
    ③無事である
    ④すすり泣く

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「故途於此者、非昼莫敢進」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:故に此に途する者は、昼に非ざれば敢へて進むもの莫し。
    現代語訳:だから、ここを通る者は、昼間でなければ、進んで行こうとする者はいない。

  2. 「異乎哉。幾傷我故人也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:異なるかな。幾ど我が故人を傷つけんとするなり。
    現代語訳:不思議なことだ。あやうく私の旧友を傷つけるところだった。

  3. 「故人之分、豈当如是耶」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:故人の分、豈に当に是くのごとくなるべけんや。
    現代語訳:旧友のつきあいが、このようであってよいだろうか、いや、よいはずがない。

  4. 「我今不為人矣。安得見君乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:我今人たらず。安くんぞ君に見ゆるを得んや。
    現代語訳:私は今、人間ではないのだ。どうして君に会うことができようか、いや、できはしない。

C 内容の読み取り

  1. 宿場の役人(駅吏)は、袁傪に何と忠告したか。理由とあわせて説明せよ。

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    この先の道には人を食う凶暴な虎が出て、昼でなければ誰も通らないので、まだ早いうちは車を止めて、決して出発しないように、と忠告した。

  2. 「虎匿身草中」とあるが、虎はなぜ草むらに身を隠したのか。

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    襲いかかった相手が、昔の親友(袁傪)だとわかったから。

  3. 「我故人」と「故人隴西子」の「故人」は、それぞれ誰を指すか。

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    我故人=袁傪(李徴から見た旧友)
    故人隴西子=李徴(袁傪から見た旧友)

  4. 「願詳其事」の「其事」とは、どのようなことか。

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    李徴が人間でなくなってしまった(虎になってしまった)いきさつ。

続き(③)

李徴は、自分が虎になったいきさつと、ついに人まで食べてしまったことを袁傪に語ります。