『老子②』書き下し文・現代語訳・解説|無為之治・無用之用・天下莫柔弱於水・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 一 無為之治(第三章)
  3. 二 無用之用(第十一章)
  4. 三 天下水より柔弱なるは莫し(第七十八章)
  5. テスト予想問題

『老子(ろうし)』のうち、「無為之治」(第三章)・「無用之用」(第十一章)・「天下水より柔弱なるは莫し」(第七十八章)の三つの章の書き下し文・現代語訳・語句・句法を解説します。「大道廃れて、仁義有り」と「小国寡民」は「老子①」で解説しています。

書き下し文・現代語訳・解説

一 無為之治(第三章)

本文(訓読文)

白文不尚賢、使民不争。不貴難得之貨、使民不為盗。不見可欲、使民心不乱。

書き下し賢を尚(たふと)ばざれば、民をして争はざらしむ。得難きの貨を貴(たふと)ばざれば、民をして盗を為さざらしむ。欲すべきを見さざれば、民の心をして乱れざらしむ。

現代語訳(為政者が)賢者を尊ばなければ、人民に争いをさせないことになる。手に入りにくい財宝を大切にしなければ、人民に盗みをさせないことになる。欲しくなるようなものを見せなければ、人民の心を乱れさせないことになる。

尚
「たふとブ」。尊ぶ。あがめる。
賢
賢者。才知のすぐれた人。賢者を取り立てなければ、その地位を目ざして人々が争うこともない。
難得之貨
手に入れにくい財宝。
見
見せる。示す。
可欲
欲しいと思わせるもの。欲望をかき立てるもの。

白文是以聖人之治、虚其心、実其腹、弱其志、強其骨。

書き下し是を以つて聖人(せいじん)の治は、其の心を虚(むな)しくして、其の腹を実たし、其の志を弱くして、其の骨を強くす。

現代語訳こういうわけで、聖人の政治は、人民の心を空っぽにして(余計な知恵や欲望をなくさせ)、腹をいっぱいに満たしてやり、その望みを弱くして、骨(=体)を丈夫にしてやるのである。

是以
「ここヲもつテ」。こういうわけで。「以是(これをもつて)」とは別の語なので注意。
聖人
無為自然の道を身につけた人。ここでは理想の為政者。
治
政治。
虚
「むなシクス」。空っぽにする。
実
「みたス」。満たす。
其
四つとも人民を指す。

白文常使民無知無欲、使夫智者不敢為也。為無為、則無不治。

書き下し常に民をして無知無欲ならしめ、夫(か)の智者(ちしや)をして敢(あ)へて為さざらしむるなり。無為(むゐ)を為せば、則ち治まらざること無し。

現代語訳いつも人民を知識も欲望もない状態にさせ、あの知恵のある者たちにも、進んで事を行おうとさせないようにするのである。(このように)何もしないということを行えば、治まらないものはない。

無知無欲
余計な知識も欲望もないこと。
夫
「かノ」。あの。
智者
世間で知恵のある者とされている人。
不敢為
進んで事を行おうとしない。「不敢A」は「敢へてAせず」と読む。
為無為
「無為」(作為を加えないこと)を行う。
則
「すなはチ」。そうすれば。

二 無用之用(第十一章)

本文(訓読文)

白文三十輻、共一轂。当其無、有車之用。

書き下し三十輻(ふく)、一轂(こく)を共にす。其の無(む)に当たりて、車の用(よう)有り。

現代語訳(車輪の)三十本の輻(や)は、一つの轂(こしき)を中心として集まっている。その轂の中が空になっているからこそ、車輪としてのはたらきがある。

輻
車輪の中心から外側へ放射状にのびる棒。スポーク。
轂
「こしき」。車輪の中央にあって輻が集まり、車軸を通す部分。
当其無
その何もない空間があって(こそ)。
用
はたらき。役割。

白文埏埴以為器。当其無、有器之用。

書き下し埴(しよく)を埏(こ)ねて以つて器を為(つく)る。其の無に当たりて、器の用有り。

現代語訳粘土をこねて器を作る。その器の中が空になっているからこそ、(物を入れる)器としてのはたらきがある。

埏
「こヌ」。こねる。
埴
粘土。
以
それによって。
為
「つくル」。作る。

白文鑿戸牖以為室。当其無、有室之用。

書き下し戸牖を鑿(うが)ちて以つて室(しつ)を為る。其の無に当たりて、室の用有り。

現代語訳(壁に)穴をあけて戸や窓とし、部屋を作る。その部屋の中に何もない空間があるからこそ、部屋としてのはたらきがある。

鑿
「うがツ」。穴をあける。
戸牖
戸と窓。
室
部屋。

白文故有之以為利、無之以為用。

書き下し故に有(いう)の以つて利(り)を為すは、無の以つて用を為せばなり。

現代語訳それゆえ、有形のものが利益をもたらすのは、何もない部分(無)が役目を果たしているからなのである。

有
形のあるもの。
無
形のないもの。何もない空間。
為利
役に立つ。利益をもたらす。
為用
はたらきをする。役割を果たす。

三 天下水より柔弱なるは莫し(第七十八章)

本文(訓読文)

白文天下莫柔弱於水。而攻堅強者、莫之能先。以其無以易之也。

書き下し天下水より柔弱(じうじやく)なるは莫(な)し。而(しか)れども堅強(けんきやう)を攻むるは、之に能(よ)く先んずる莫し。其の以つて之を易(か)ふる無きを以つてなり。

現代語訳世の中に水よりも柔らかく弱いものはない。それなのに、堅く強いものを攻めるとなると、水に勝てるものはない。それは、水の(柔らかく弱い)性質を変えられるものが何もないからである。

天下
世の中。
柔弱
柔らかく弱いこと。
而
「しかレドモ」。それなのに。逆接を表す。
堅強
堅く強いもの。
者
「は」と読む。~するのは。
莫之能先
これにまさるものはない。「之」は水を指す。
易
「かフ」。変える。
以~也
「~を以つてなり」。~だからである。理由を表す。

白文故柔之勝剛、弱之勝強、天下莫不知、莫能行。

書き下し故に柔の剛(がう)に勝ち、弱の強に勝つは、天下知らざる莫きも、能く行ふこと莫し。

現代語訳だから、柔が剛に勝ち、弱が強に勝つという道理は、世の中のだれもが知っているのに、それを実行できる者はいない。

剛
かたく強いもの。
莫不知
知らない者はいない。二重否定。
莫能行
実行できる者はいない。柔弱が剛強に勝つと信じて、それに徹することができないから。

白文是以聖人云、「受国之垢、是謂社稷主。受国之不祥、是謂天下王。」正言若反。

書き下し是を以つて聖人云(い)ふ、「国の垢を受くる、是れを社稷(しやしよく)の主(しゆ)と謂ふ。国の不祥(ふしやう)を受くる、是れを天下の王と謂ふ。」と。正言(せいげん)は反(はん)するがごとし。

現代語訳こういうわけで聖人は言っている、「国の汚辱をわが身に引き受ける者を、国家の主と呼ぶ。国の不吉な災いをわが身に引き受ける者を、天下の王と呼ぶ。」と。本当に正しい言葉は、(一見)道理に背いているように聞こえるものである。

垢
けがれ。恥辱。
社稷
国家。「社」は土地の神、「稷」は五穀の神で、それを祭るのが君主であったことから、国家の意となった。
不祥
不吉なこと。災い。
正言
真理にかなった正しい言葉。
若反
真理に反しているようだ。「若」は「ごとシ」と読む。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と、ここでの意味を答えよ。
    ①是を以つて
    ②夫の
    ③敢へて
    ④鑿ちて
    ⑤而れども
    ⑥社稷

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    ①ここをもって/こういうわけで
    ②かの/あの
    ③あえて/進んで
    ④うがちて/穴をあけて
    ⑤しかれども/それなのに
    ⑥しゃしょく/国家

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「不尚賢、使民不争」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:賢を尚ばざれば、民をして争はざらしむ。
    現代語訳:(為政者が)賢者を尊ばなければ、人民に争いをさせないことになる。

  2. 「使夫智者不敢為也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:夫の智者をして敢へて為さざらしむるなり。
    現代語訳:あの知恵のある者たちにも、進んで事を行おうとさせないようにするのである。

  3. 「為無為、則無不治」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:無為を為せば、則ち治まらざること無し。
    現代語訳:何もしないということを行えば、治まらないものはない(必ず治まる)。

  4. 「故有之以為利、無之以為用」を書き下し文にし、「有」「無」の意味を明らかにして現代語訳せよ。

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    書き下し文:故に有の以つて利を為すは、無の以つて用を為せばなり。
    現代語訳:それゆえ、有形のものが利益をもたらすのは、空っぽの部分(無)が役目を果たしているからである。

  5. 「天下莫柔弱於水」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:天下水より柔弱なるは莫し。
    現代語訳:世の中に水よりも柔らかく弱いものはない。

  6. 「天下莫不知、莫能行」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:天下知らざる莫きも、能く行ふこと莫し。
    現代語訳:世の中に知らない者はいないのに、それを実行できる者はいない。

C 内容の読み取り

  1. 「虚其心、実其腹、弱其志、強其骨」とは、聖人が人民をどのようにすることか。説明せよ。

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    人民の心から余計な知恵や欲望を取り去って腹を満たしてやり、望みを強く持たせずに、体を丈夫にしてやること。

  2. 三つの「当其無」の「其無」は、それぞれ何を指すか。

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    ①轂の中の空洞(車軸を通す部分)
    ②器の中の空洞
    ③部屋の中の空間

  3. 「莫之能先」を、「之」の指す内容がわかるように現代語訳せよ。また、「天下莫不知」とあるが、世の中の人は何を知っているのか。

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    現代語訳:水より先に立つ(水に勝てる)ものはない。
    知っていること:柔が剛に勝ち、弱が強に勝つという道理。

  4. 聖人の言葉「受国之垢、是謂社稷主。受国之不祥、是謂天下王」は、君主をどのような存在だと述べているか。また、それを受けた「正言若反」の意味を答えよ。

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    国の汚辱や災いをわが身に引き受ける者こそが、国家の主であり天下の王であると述べている。
    「正言若反」=真に正しい言葉は、うわべでは道理に背いているように聞こえる。