登場人物
・中宮定子・・・一条天皇の中宮(妃)。
・作者(清少納言)・・・定子にお仕えしている女房。
・その他の女房達。
※女房とは貴人の身の回りの世話や話し相手をする女性。清少納言以外にも大勢いる。
雪のいと高う降りたるを
雪がたいそう高く降り積もっているのに、
例ならず御格子参りて、炭櫃に火おこして、
いつもと違って御格子を下ろし申し上げて、火鉢に火をおこして、
・「例ならず」・・・いつもとちがって (「例の」・・・いつもの、いつものように)
・御格子・・・「みこうし」と読む。窓のようなもの。
→「御格子参る」・・・御格子を下ろし申し上げる(御格子を閉じる)
※いつもだったら格子を上げているのに、この時は格子を閉じて外が見えないようにしていた。
物語などして集まり さぶらう に、
皆で話などをして集まってお仕え申し上げていると、
・「物語す」で「おしゃべりをする」
・「さぶらふ」・・・「お仕えする、お仕え申し上げる」
→ 作者(清少納言)や他の女房達が中宮定子にお仕えしている。謙譲語で作者から中宮定子への敬意。
「少納言よ。香炉峰の雪いかなら む。」と 仰せ らるれ ば、
(中宮定子様が、)「清少納言よ。香炉峰の雪はどうであろうか。」とおっしゃるので、
・「仰す」・・・おっしゃる 「言ふ」の尊敬語。
御格子上げ させ て、御簾を高く上げたれば、笑は せ たまふ。
(私は人に命じて)御格子を上げさせて、御簾を高く上げたところ、(中宮定子様は)お笑いになります。
御簾・・・すだれ
※清少納言が他の女房に言って格子を開いてもらい、自分ですだれを上げた。
それを見て、中宮定子は満足して笑った。
※白居易という詩人の『白氏文集』という詩集に「 香炉峰の雪 は 簾を撥げて看る 」という一節がある。これをふまえた「香炉峰の雪はどうであろうか」という定子の問いかけに対して、清少納言が格子と簾を上げて、雪景色を眺められるようにして、定子の期待通りの反応をした。
人々も 「さることは知り、歌などにさへ歌へど、思ひこそよらざりつれ。
(周りにいた他の)女房も「そのようなこと(香炉峰の雪のこと)は知っておりますし、歌などに詠むことまでありますが、(このように御簾を上げようとまでは)思いもしませんでした。
※「さること」…「香炉峰の雪」は白居易の詩の一節で、「簾を撥げて看る」と続くこと。
「さへ」・・・~までも 添加の副助詞
「こそ~つれ」・・・強意の係助詞「こそ」、係り結びで完了の助動詞「つ」が已然形になっている。
なほ、この宮の人にはさべきなめり。」と言ふ。
(あなたは)やはり、この中宮のお側につく人にふさわしい人のようだ。」
「なほ」・・・やはり
さべきなんめり・・・清少納言は、中宮定子にお仕えする人としてふさわしい人であるようだ。
「さべき」・・・ふさわしい、適当な ※「さるべき」の撥音便「さんべき」の「ん」の無表記。
「なめり」・・・~であるようだ
※断定の助動詞「なり」の撥音便の無表記「な」 + 推定婉曲の助動詞「めり」終止形
※他の女房達も、白居易の詩は当然知っていて、歌に詠むこともあるが、定子の問いかけに対して実際に簾を上げるという対応は思いつかなかった。やはり清少納言は中宮定子さまに仕える人としてふさわしいと感心している。
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