『呉越同舟(ごえつどうしゅう)』の書き下し文・現代語訳・句法・故事成語の意味を解説します。出典は、中国の代表的な兵法書『孫子(そんし)』(九地篇)です。『孫子』は、春秋時代の末に呉王闔閭(こうりょ)に仕えた孫武(そんぶ)の著とされ、十三篇からなります。
書き下し文・現代語訳・解説
常山の蛇「率然」
白文善用兵者、譬如率然。
書き下し善く兵を用ゐる者は、譬へば率然のごとし。
現代語訳兵をたくみに動かす者は、たとえて言えば、率然のようなものである。
- 善
- 「よク」。じょうずに。たくみに。
- 兵
- 兵士。軍隊。
- 用兵
- 兵を用いる。軍隊を指揮して動かす。
- 譬
- 「たとヘバ」。たとえて言うと。
- 如
- 「~ノごとシ」。~のようだ。
- 率然
- 常山にいるという蛇の名。「率然」には「すばやい、にわかに」の意味がある。
白文率然者、常山之蛇也。
書き下し率然は、常山の蛇なり。
現代語訳率然というのは、常山にすむ蛇のことである。
- 者
- ここでは「は」と読む。
- 常山
- 中国北部の山の名。恒山ともいう(今の山西省にある)。
- 也
- 「なり」。断定。
白文撃其首則尾至、撃其尾則首至、撃其中則首尾俱至。
書き下し其の首を撃たば則ち尾至り、其の尾を撃たば則ち首至り、其の中を撃たば則ち首尾俱に至る。
現代語訳その頭を打てば尾が助けに来て、その尾を打てば頭が助けに来て、その胴の真ん中を打てば頭と尾がいっしょに助けに来る。
- 撃タバ
- 「撃たば」。もし打つならば(仮定)。
- 則
- 「すなはチ」。~すると、そのときは。
- 至
- やって来る。ここでは、助けにやって来る。
- 其中
- 蛇の体の真ん中。頭と尾の間の胴の部分。
- 俱
- 「ともニ」。いっしょに。どちらも。
呉の人と越の人
白文敢問、「兵可使如率然乎。」
書き下し敢へて問ふ、「兵は率然のごとくならしむべきか。」と。
現代語訳思い切ってお尋ねしますが、「軍隊を率然のようにさせることができるのでしょうか。」と。
- 敢
- 「あヘテ」。思い切って。尋ねにくいことを、あえて尋ねる気持ち。
- 兵
- 兵士たち。軍隊。
- 可
- 「べシ」。~できる(可能)。
- 使
- 「しム」。~させる(使役)。
- 乎
- 「か」。疑問。
白文曰、「可。
書き下し曰はく、「可なり。
現代語訳答えて言う、「できる。
- 可
- 「かナリ」。できる。よろしい。
白文夫呉人与越人相悪也。
書き下し夫れ呉人と越人とは相悪むなり。
現代語訳そもそも、呉の国の人と越の国の人とは、互いに憎み合っている。
- 夫
- 「そレ」。そもそも。話を始めるときに使う。
- 呉
- 春秋時代の国。今の江蘇省のあたりを治めた。
- 越
- 春秋時代の国。今の浙江省のあたりを治めた。呉と越は長く戦い、前四七三年に越が呉を滅ぼした。
- 与
- 「Aト与ハB」で「AとBとは」。
- 相
- 「あひ」。互いに。
- 悪
- 「にくム」。憎む。嫌う。
白文当其同舟而済、遇風、其相救也、如左右手。」
書き下し其の舟を同じくして済るに当たりて、風に遇はば、其の相救ふや、左右の手のごとし。」と。
現代語訳(しかし、その両国の人が)同じ舟に乗り合わせて川を渡っているときに、大風に出あったならば、互いに助け合うさまは、まるで左右の手のようである。」と。
- 同舟
- 同じ舟に乗る。
- 済
- 「わたル」。川を渡る。
- 当
- 「あタル」。~するときに。
- 遇風
- 大風に出あう。
- 也
- ここは「や」と読む。
- 如左右手
- 一人の人の左手と右手が、一つの目的のために力を合わせて動くようだ。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
①善く
②譬へば
③俱に
④敢へて
⑤夫れ
⑥悪む解答を見る
①よく/たくみに、じょうずに
②たとえば/たとえて言うと
③ともに/いっしょに
④あえて/思い切って
⑤それ/そもそも
⑥にくむ/憎む、嫌う次の語は、本文ではどのような意味か。
①兵
②済
③其中解答を見る
①兵士。軍隊。
②川を渡る。
③蛇の体の真ん中(頭と尾の間の胴の部分)。
B 書き下し文・現代語訳
「撃其尾則首至」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:其の尾を撃たば則ち首至る。
現代語訳:その尾を打てば、頭が助けに来る。「兵可使如率然乎」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:兵は率然のごとくならしむべきか。
現代語訳:軍隊を率然のようにさせることができるか。「夫呉人与越人相悪也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:夫れ呉人と越人とは相悪むなり。
現代語訳:そもそも、呉の人と越の人とは互いに憎み合っている。「其相救也、如左右手」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
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書き下し文:其の相救ふや、左右の手のごとし。
現代語訳:互いに助け合うさまは、まるで左右の手のようである。
C 内容の読み取り
「率然」とはどのような蛇か。本文に即して説明せよ。
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常山にすむ蛇で、頭を打てば尾が、尾を打てば頭が、胴を打てば頭と尾がいっしょに助けに来る蛇。
「其相救也」とあるが、だれとだれが助け合うのか。また、それはどのようなときか。
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呉の人と越の人。
同じ舟に乗って川を渡っているときに、大風に出あったとき。「率然」の話と、呉の人と越の人の話に共通するのはどのような点か。
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別々の部分(蛇の頭と尾、仲の悪い呉人と越人)が、危険なときには一つにまとまって互いに助け合う点。
故事成語「呉越同舟」は、現在どのような意味で使われるか。
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仲の悪い者どうしが、同じ場所に居合わせること。また、敵どうしでも、共通の困難に対しては協力すること。