『圉人之罪(ぎょじんのつみ)』(圉人の罪)の書き下し文・現代語訳・句法を解説します。出典は、前漢の劉向(りゅうきょう)が編んだ『説苑(ぜいえん)』です。漢代以前の故事や逸話をまとめた書物です。
書き下し文・現代語訳・解説
景公の怒り
白文景公有馬。
書き下し景公馬有り。
現代語訳景公は馬を飼っていた。
- 景公
- 春秋時代の斉の君主。
白文其圉人殺之。
書き下し其の圉人之を殺す。
現代語訳その馬の世話係が、馬を死なせてしまった。
- 圉人
- 馬を飼育する役人。
- 之
- 景公の馬を指す。
- 殺
- ここでは、死なせる。
白文公怒援戈、将自撃之。
書き下し公怒りて戈を援り、将に自ら之を撃たんとす。
現代語訳景公は怒って戈を手に取り、自分の手でその世話係を撃ち殺そうとした。
- 援
- 「とル」。手に取る。
- 戈
- 柄の先に、柄と直角に刃をつけた武器。
- 自
- 「みづかラ」。自分から。自分の手で。
- 之
- 圉人を指す。
晏子の申し出
白文晏子曰、「此不知其罪而死。
書き下し晏子曰はく、「此れ其の罪を知らずして死す。
現代語訳晏子が言うには、「この者は(このままでは)自分の罪を知らないまま死ぬことになります。
- 晏子
- 斉の宰相。
- 此
- 圉人を指す。
- 而
- 置き字。ここでは「~して」と下へつなぐ。
白文臣請為君数之、令知其罪而殺之。」
書き下し臣請ふ、君の為に之を数め、其の罪を知らしめて之を殺さん。」と。
現代語訳どうか私に、殿のためにこの者の罪を数えあげて責め、その罪をわからせてから殺させてください。」と。
- 臣
- 家臣である私。晏子が自分をへりくだっていう。
- 請
- 「こフ」。どうか(~させてください)。
- 為君
- 君の為に。殿のために。
- 数
- 「せム」。罪を数えあげて責める。
- 令
- 「しム」。~させる。使役。
白文公曰、「諾。」
書き下し公曰はく、「諾。」と。
現代語訳景公は言った、「よろしい。」と。
- 諾
- 承知した。よろしい。
晏子が数えあげた三つの罪
白文晏子挙戈而臨之曰、
書き下し晏子戈を挙げて之に臨みて曰はく、
現代語訳晏子は戈を振り上げて、世話係に向かって言った、
- 臨
- 向かい合う。
- 之
- 圉人を指す。
白文「汝為吾君養馬而殺之。
書き下し「汝吾が君の為に馬を養ひて之を殺す。
現代語訳「おまえは、わが殿のために馬を飼っていながら、その馬を死なせた。
- 汝
- 「なんぢ」。おまえ。
- 吾君
- わが殿。景公のこと。
- 之
- 馬を指す。
白文而罪当死。
書き下し而の罪死に当たる。
現代語訳おまえの罪は死に値する。
- 而
- 「なんぢ」。おまえ。「汝」と同じ意味。
- 当
- 相当する。値する。
白文汝使吾君以馬之故殺圉人。
書き下し汝吾が君をして馬の故を以て圉人を殺さしむ。
現代語訳おまえは、わが殿に、馬のことが原因で馬の世話係を殺させることになる。
- 使AB
- 「AをしてBしむ」。AにBさせる。
- 以馬之故
- 馬のせいで。馬が原因で。
白文而罪又当死。
書き下し而の罪又死に当たる。
現代語訳おまえの罪は、これもまた死に値する。
- 又
- 「まタ」。これもまた。
白文汝使吾君以馬故殺人、聞於四隣諸侯。
書き下し汝吾が君をして馬の故を以て人を殺し、四隣の諸侯に聞こえしむ。
現代語訳おまえは、わが殿に、馬のことが原因で人を殺させ、そのうわさを周りの国々の諸侯に知れわたらせることになる。
- 四隣
- 四方の隣国。周りの国々。
- 聞
- (うわさが)聞こえる。評判になる。
- 於
- 置き字。「諸侯に」の「に」にあたる。
- 使
- 「殺」と「聞」の両方にかかる。
白文汝罪又当死。」
書き下し汝の罪又死に当たる。」と。
現代語訳おまえの罪は、これもまた死に値する。」と。
景公の言葉
白文公曰、
書き下し公曰はく、
現代語訳景公は言った、
白文「夫子釈之。夫子釈之。勿傷吾仁也。」
書き下し「夫子之を釈せ。夫子之を釈せ。吾が仁を傷なふ勿かれ。」と。
現代語訳「先生、その者を許してやってくれ。先生、その者を許してやってくれ。私の仁徳を傷つけないでくれ。」と。
- 夫子
- 先生。男子に対する敬称。ここでは晏子を指す。
- 釈
- 「ゆるス」。許す。釈放する。
- 之
- 圉人を指す。
- 仁
- 思いやり。人徳。
- 傷
- 「そこなフ」。傷つける。
テスト予想問題
A 語句
次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)を答えよ。
①戈
②数め
③而(而の罪)
④釈せ
⑤夫子解答を見る
①ほこ
②せめ
③なんじ
④ゆるせ
⑤ふうし次の語の、本文中での意味を答えよ。
①圉人
②援(援戈)
③諾
④四隣解答を見る
①馬を飼育する役人(馬の世話係)
②手に取る
③よろしい(承知した)
④四方の隣国(周りの国々)
B 書き下し文・現代語訳
「将自撃之」を書き下し文にし、「自」「之」の指すものを明らかにして現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:将に自ら之を撃たんとす。
現代語訳:景公が、自分の手で圉人(馬の世話係)を撃ち殺そうとした。「令知其罪而殺之」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:其の罪を知らしめて之を殺さん。
現代語訳:その罪をわからせてから、この者を殺しましょう。「汝使吾君以馬之故殺圉人」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:汝吾が君をして馬の故を以て圉人を殺さしむ。
現代語訳:おまえは、わが殿に、馬のことが原因で馬の世話係を殺させることになる。「勿傷吾仁也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。
解答を見る
書き下し文:吾が仁を傷なふ勿かれ。
現代語訳:私の仁徳を傷つけないでくれ。
C 内容の読み取り
次の「之」は、それぞれ何を指すか。本文中の語で答えよ。
①其圉人殺之
②挙戈而臨之
③夫子釈之解答を見る
①馬
②圉人
③圉人「夫子」とは誰のことか。また、「吾君」とは誰のことか。
解答を見る
夫子=晏子 吾君=景公
晏子が数えあげた圉人の罪を、三つに分けて説明せよ。
解答を見る
①殿の馬を飼っていながら、その馬を死なせたこと。
②馬のことが原因で、殿に人(世話係)を殺させること。
③馬のことで人を殺したといううわさを、周りの国々の諸侯に広めさせること。景公が「夫子釈之」と言ったのはなぜか。説明せよ。
解答を見る
馬のことで人を殺したといううわさが周りの国々に広まれば、自分の仁徳が傷つくと気づいたから。
晏子は、どのようにして景公をいさめたか。説明せよ。
解答を見る
景公を直接とがめず、圉人の罪を数えあげて責めるふりをしながら、景公に自分の過ちを気づかせ、圉人を殺すのをやめさせた。