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『史記』荊軻②風蕭蕭として易水寒し 書き下し文・現代語訳

既祖取道。高漸離撃筑、荊軻和而歌、為変徴之声。士皆垂涙涕泣。

既に()して道を取る。高漸(かうぜん)() (ちく)を撃ち、荊軻 和して歌ひ、(へん)()の声を為す。士 皆涙を垂れて涕泣(ていきふ)す。

道中の安全を祈願して宴を開いて出発した。高漸離が筑を弾き、荊軻は合わせて悲壮な音調で歌った。みな涙を流して泣いた。

・祖…道祖伸を祭って宴を開くこと。

・高漸離…荊軻の友人。筑(楽器の一種)の名手。

又前而為歌曰、

 風蕭蕭兮易水寒

 壮士一去兮不復還

又前みて歌を(つく)りて曰はく、

 蕭蕭(せうせう)として易水寒し、壮士一たび去りて復た還らず。

○刺客としての決死の覚悟を歌った。太子にせかされての出発で失敗の予感もあったかもしれないが、愚痴をこぼさず出発する。

復為羽声忼慨。士皆瞋目、髪尽上指冠。於是荊軻就車而去。終已不顧。

復た羽声を為して(こう)(がい)す。士 皆目を(いか)らし、髪(ことごと)く上がりて冠を指す。是に於いて荊軻 車に()きて去る。(つひ)(すで)(かへり)みず。

再び激しい調子で歌い、心を高ぶらせた。見送る者たちはみな、目を見開き、頭髪はことごとく逆立って冠を突き上げるほどであった。そして荊軻は馬車に乗って去った。それっきり最後まで振り返ることをしなかった。

『史記』荊軻①

『史記』荊軻③

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