『史記』荊軻②「風蕭蕭として易水寒し」|書き下し文・現代語訳・解説・テスト予想問題

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 易水のほとりでの別れ
  3. 振り返らずに去る荊軻
  4. テスト予想問題

司馬遷『史記』刺客列伝「荊軻(けいか)」から、「風蕭蕭として易水寒し」後半の書き下し文・現代語訳・解説です。

秦王暗殺に向かう荊軻を、太子丹(たいしたん)と事情を知る人々が白い喪服で見送り、一行は燕の国境に近い易水(えきすい)のほとりに着きました。ここで別れの宴が開かれ、荊軻は有名な「風蕭蕭として易水寒し、壮士一たび去りて復た還らず」の歌をうたいます。

前の場面は荊軻①、続きは荊軻③です。

書き下し文・現代語訳・解説

易水のほとりでの別れ

本文(訓読文)

白文既祖取道。

書き下し既に祖(そ)して道を取る。

現代語訳道の神を祭って旅の無事を祈り、いよいよ旅路についた。

祖(そ)
旅立ちの前に道の神を祭る儀式。
取道
旅路につく。出発する。

白文高漸離撃筑、荊軻和而歌、為変徴之声。士皆垂涙涕泣。

書き下し高漸離(かうぜんり)筑(ちく)を撃ち、荊軻和(わ)して歌ひ、変徴(へんち)の声を為す。士皆涙を垂れて涕泣(ていきふ)す。

現代語訳高漸離が筑を打ち鳴らすと、荊軻はそれに合わせて歌い、悲壮な変徴の調べを響かせた。見送る男たちは、みな涙をこぼしてむせび泣いた。

高漸離(かうぜんり)
荊軻の親友。筑の名手。
筑(ちく)
琴に似た弦楽器。竹のばちで弦を打って鳴らす。
変徴(へんち)
悲壮な調子の音階。
士
ここでは、見送りの男たち。
涕泣(ていきふ)
涙を流して泣く。

「変徴」は、中国の音階の一つで、悲壮な響きをもつ調子です。荊軻の歌を聞いた人々は、悲壮な調べに感極まり、これが最後の別れだと思って涙を流しました。

白文又前而為歌曰、

書き下し又前(すす)みて歌を為(つく)りて曰はく、

現代語訳さらに荊軻は前に進み出て、歌を作ってうたった。

為歌
歌を作る。

白文「風蕭蕭兮易水寒、壮士一去兮不復還。」

書き下し「風蕭蕭(せうせう)として易水寒し、壮士(さうし)一たび去りて復た還(かへ)らず。」と。

現代語訳「風はひゅうひゅうともの寂しく吹き、易水の流れは冷たい。勇ましい男はひとたびここを去れば、もう二度と帰ってはこない。」

蕭蕭(せうせう)
風がもの寂しく吹くさま。
兮
歌の調子を整える語。読まない。
壮士(さうし)
勇ましい男。ここでは荊軻自身。
不復還
二度と帰ってこない。

振り返らずに去る荊軻

本文(訓読文)

白文復為羽声忼慨。士皆瞋目、髪尽上指冠。

書き下し復た羽声(うせい)を為して忼慨(かうがい)す。士皆目を瞋(いか)らし、髪尽(ことごと)く上がりて冠を指す。

現代語訳さらに今度は激しく高い羽声の調べで歌い、気持ちを奮い立たせた。男たちはみな目をむき、髪の毛は一本残らず逆立って、冠を突き上げるほどであった。

羽声(うせい)
激しく高ぶる調子の音階。
忼慨(かうがい)
憤り嘆いて、気持ちが高ぶる。
瞋目(しんもく)
目をむく。目を怒らせる。
指冠
(逆立った髪が)冠を突き上げる。

白文於是荊軻就車而去。終已不顧。

書き下し是に於(お)いて荊軻車に就(つ)きて去る。終(つひ)に已(すで)に顧(かへり)みず。

現代語訳こうして荊軻は車に乗って去っていった。そしてとうとう最後まで、一度も後ろを振り返らなかった。

終已
とうとう最後まで。「終已に」と読む教科書もある。

続きは、秦の宮殿での場面の荊軻③です。

テスト予想問題

A 語句

  1. 「既祖取道」の「祖」の意味を答えよ。

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    旅立ちの前に道の神を祭ること(送別の宴を開くこと)。

  2. 「蕭蕭」の読みと意味を答えよ。

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    しょうしょう/風がもの寂しく吹くさま。

  3. 「忼慨」の読みと意味を答えよ。

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    こうがい/憤り嘆いて、気持ちが高ぶること。

  4. 「士皆瞋目」の「瞋」の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。

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    いからし(いからす)/目をかっと見開く。

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「風蕭蕭兮易水寒、壮士一去兮不復還」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:風蕭蕭として易水寒し、壮士一たび去りて復た還らず。
    現代語訳:風はもの寂しく吹き、易水の流れは冷たい。勇ましい男はひとたびここを去れば、二度と帰ってはこない。

  2. 「士皆瞋目、髪尽上指冠」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:士皆目を瞋らし、髪尽く上がりて冠を指す。
    現代語訳:男たちはみな目を見開き、髪の毛はすべて逆立って冠を突き上げるほどであった。

  3. 「終已不顧」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:終に已に顧みず。
    現代語訳:とうとう最後まで、一度も振り返らなかった。

C 内容の読み取り

  1. 「士皆垂涙涕泣」とあるが、見送りの男たちが泣いたのはなぜか。

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    荊軻が悲壮な変徴の調子で歌うのを聞き、生きて帰れないであろう荊軻とはこれが最後の別れになると思ったから。

  2. 荊軻の歌「風蕭蕭兮易水寒、壮士一去兮不復還」で、韻を踏んでいる字を答えよ。

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    寒・還

  3. 荊軻の歌には、だれのどのような覚悟が表れているか。

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    荊軻(「壮士」)の、秦王暗殺のためにもう生きて燕に帰ることはないと覚悟した、決死の決意。

  4. 「変徴之声」と「羽声」とで、見送る人々の様子はどのように変わったか。

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    悲壮な変徴の調子のときは涙を流して泣いていたが、激しい羽声の調子になると、目を見開き髪が逆立つほど気持ちが高ぶった。

  5. 「終已不顧」から、荊軻のどのような思いが読み取れるか。

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    未練を断ち切り、命を捨てる覚悟で秦王暗殺に向かおうとする強い決意。