『宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)』「小野篁広才のこと(おののたかむら こうさいのこと)」の現代語訳・品詞分解・解説です。
内裏に「無悪善」と書かれた立て札が立てられます。帝に命じられた小野篁は、ためらいながらも読み解きますが、そのために「書いたのはおまえだろう」と疑われてしまいます。篁はどうやって疑いを晴らしたのでしょうか。「広才」は、幅広い学識・才能のことです。帝と篁の会話が続くので、だれの言葉か、敬語がだれからだれへの敬意かに注意して読みましょう。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
「無悪善」の立て札
- おはす
- 「あり」「をり」の尊敬語。いらっしゃる。
現代語訳嵯峨天皇の御代に、(何者かが)内裏に札を立てたことがあったが、(その札には)「無悪善」と書いてあった。
- 内裏
- 天皇の住む御殿。宮中。
- 札
- 立て札。
- 御時
- 天皇の御代。
読むのをためらう篁
- 仰す
- 「言ふ」の尊敬語。おっしゃる。
「仰せられ」は、尊敬の動詞「仰す」に尊敬の助動詞「らる」が付いた形で、二重に尊敬を表す(最高敬語)。帝に対して使われている。
現代語訳(篁は)「読むことはきっと読みましょう。けれども、畏れ多いことでございますから、口に出して申し上げることはできかねます。」と帝に申し上げたところ、
- 恐れ
- 恐れ多いこと。
- え
- 下に打消の語を伴って「〜できない」。
- 奏す
- 天皇に申し上げる。
- 候ふ
- ここは丁寧の補助動詞。〜ます。〜ございます。
「奏す」は、天皇(上皇)に対してだけ使う謙譲語(絶対敬語)。
「なん」は、強意の助動詞「ぬ」の未然形+意志の助動詞「む」。「きっと読みましょう」。
「え申し候はじ」は「え〜打消」で不可能。「じ」は打消意志。申し上げることはできません。
篁が「恐れ」たのは、札の内容が帝を呪う言葉だったから。それを口にすれば帝の怒りを招き、さらに自分が疑われるおそれもあった。
- ただ
- かまわずに。とにかく。
どんな内容なのか、とにかく聞かせよと迫る帝の気持ちが表れている。
帝を呪う言葉
現代語訳(篁は)「『さがなくてよからん(悪がなくてよいだろう)』と書いてあるのでございます。つまり、帝をお呪い申しているのです。」と申し上げたところ、
- さが
- 悪。生まれつきの悪い性質。「嵯峨」と掛ける。
- されば
- だから。
- 君
- 天皇。ここは嵯峨天皇。
「無悪善」を訓読すると「悪(さが)無くて善(よ)からん」。本来は「悪い性質がなくてよいだろう」という意味だが、「さが」に「嵯峨」が掛けられ、「嵯峨天皇がいなくてよいだろう」と読める。そのため、帝を呪う言葉になる。
会話文中の「申し」「参らせ」は謙譲語、「候ふ」は丁寧語で、篁から帝への敬意。
現代語訳(帝は)「おまえ以外に、だれが書くだろうか、いや、だれも書くまい。」とおっしゃったので、
- おのれ
- おまえ。
- 放つ
- 除く。
「か」は反語。結びは「ん」(連体形)。
帝が篁を疑ったのは、「無悪善」はだれにでも読めるものではなく、読めた者こそが書いた本人だと考えたから。
現代語訳(篁が)「だからこそ、申し上げますまいと申し上げたのでございます。」と申し上げると、
- されば
- だから。
「さればこそ」は「だからこそ」。帝に疑われることを予想していたから、初めに「え申し候はじ」と言って読むのをためらったのだ、ということ。
「こそ」の結びは「つれ」(完了の助動詞「つ」の已然形)。
「子」の字十二
現代語訳帝は「それでは、何でも書いてあるようなものは、きっと読めるのか。」とおっしゃったので、
- さて
- それでは。
「書きたらんもの」の「ん」は婉曲(〜ような)。
「読みてんや」は「読み+て(強意「つ」の未然形)+ん(推量「む」)+や」。きっと読めるのか。
現代語訳(帝は)片仮名の「子」の字を十二並べてお書きになり、「読め。」とお命じになったので、
片仮名の「子」…当時は、漢字の「子」の形が、片仮名の「ネ」として多く使われていた。
帝が「子」の字を十二書いて読ませたのは、篁が本当に何でも読めるのかを確かめるため。読めれば、「無悪善」が読めたのも篁の学識によるもので、書いた犯人だからではないことになる。
現代語訳(篁が)「猫の子の子猫、獅子の子の子獅子。」と読んだので、
「子」を、十二支の「ね」、訓読みの「こ」、音読みの「し」の三通りに読み分けている。漢字に直すと「子子の子の子子子、子子の子の子子子」。
現代語訳帝はにっこりとほほえまれて、おとがめもなく済んだのだった。
- 事なし
- 何事もない。おとがめがない。
帝がほほえんだのは、難しい文字を見事に読んでみせた篁の学識に感心したから。
「事なくてやみにけり」は、篁にかかった疑いが晴れて、おとがめもなく済んだということ。
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①帝
②内裏
③奏し
④誰(誰か書かん)解答を見る
①みかど
②だいり
③そうし
④たれ次の語の意味を答えよ。
①おはす
②奏す
③されば
④おのれ
⑤事なし解答を見る
①いらっしゃる
②(天皇に)申し上げる
③だから・そういうわけで
④おまえ
⑤何事もない・おとがめがない
B 文法・敬語
次の傍線部の敬語の種類と、だれへの敬意かを答えよ。
①【仰せ】られたりければ
②え申し【候は】じ
③と【奏し】ければ解答を見る
①尊敬語・帝への敬意
②丁寧語・帝への敬意(会話の聞き手)
③謙譲語・帝への敬意「読みは読み候ひなん」の「なん」と、「読みてんや」の「てん」を、それぞれ文法的に説明せよ。
解答を見る
なん=「な」は強意「ぬ」の未然形、「ん」は意志「む」の終止形。てん=「て」は強意「つ」の未然形、「ん」は推量「む」の終止形。
「恐れにて候へば、え申し候はじ」を現代語訳せよ。また、「じ」の意味を答えよ。
解答を見る
訳=畏れ多いことでございますから、申し上げることはできかねます。 じ=打消意志。
C 内容
「無悪善」について、①篁はどのように読んだか。本文中の言葉で答えよ。
②それが「君を呪ひ」の言葉になるのはなぜか。解答を見る
①さがなくてよからん
②「さが(悪)」に「嵯峨」が掛けられていて、「嵯峨天皇がいなくてよいだろう」という意味になるから。「おのれ放ちては、誰か書かん」を現代語訳せよ。また、帝がこのように言ったのはなぜか。
解答を見る
訳=おまえ以外に、だれが書くだろうか、いや、だれも書かないだろう。 理由=「無悪善」はだれにでも読めるものではなく、読めた篁こそが書いた本人だと考えたから。
「さればこそ、申し候はじとは申して候ひつれ」とあるが、篁が初め「え申し候はじ」と言ったのはなぜか。
解答を見る
札の内容が帝を呪うものだったので、読めば帝の怒りを招き、自分が書いたと疑われることを予想していたから。
「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし」について、①十二の「子」を漢字で示せ。
②「子」はどのように読み分けられているか。解答を見る
①子子の子の子子子、子子の子の子子子
②十二支の「ね」、訓読みの「こ」、音読みの「し」の三通りに読み分けている。「事なくてやみにけり」とあるが、どうなったということか。また、そうなったのはなぜか。
解答を見る
篁にかかった疑いが晴れて、おとがめもなく済んだということ。難しい文字を見事に読んだことで、「無悪善」が読めたのも篁の学識によるもので、書いたからではないと帝が理解したから。