李景亮『人虎伝』③書き下し文・現代語訳・解説|化して異獣と為り、人に靦づる有り・テスト予想問題付き

目次
  1. 書き下し文・現代語訳・解説
  2. 虎になっていく
  3. 人を食べてしまう
  4. 人に顔向けできない
  5. 心ははっきりしている
  6. テスト予想問題
  7. 続き(④)

李景亮『人虎伝(じんこでん)』③「化して異獣と為り、人に靦づる有り」の書き下し文・現代語訳・解説です。中島敦「山月記」の原典となった唐代の伝奇小説で、本文は『唐人説薈』によります。

②では、人食い虎が出る道を進んだ袁傪が、草むらに隠れた虎から声をかけられ、その虎が旧友の李徴だと知りました。

書き下し文・現代語訳・解説

虎になっていく

本文(訓読文)

白文虎曰、「我前身客呉楚。

書き下し虎曰はく、「我が前身(ぜんしん)呉楚に客(かく)たり。

現代語訳虎は言った、「私は人間だったころ、呉楚の地方に旅をしていた。

前身
虎になる前の身。人間だったころ。
客
「かくタリ」。旅人として滞在する。

白文去歳方還、道次汝墳、忽嬰疾発狂。

書き下し去歳(きよさい)方(まさ)に還らんとして、道に汝墳に次(やど)り、忽ち疾に嬰(かか)りて発狂す。

現代語訳去年、ちょうど(故郷に)帰ろうとして、途中、汝墳に泊まったとき、突然病気にかかって正気を失った。

去歳
去年。
方
「まさニ」。ちょうど。ここは再読文字ではない。
次
「やどル」。宿泊する。
嬰
「かかル」。(病気に)かかる。

白文夜聞戸外有呼吾名者、遂応声而出、走山谷間。

書き下し夜戸外に吾が名を呼ぶ者有るを聞き、遂に声に応じて出で、山谷の間を走る。

現代語訳夜、戸口の外から私の名を呼ぶ声がしたので、すぐにその声にこたえて外へ出て、山や谷を駆け回った。

戸外
戸の外。家の外。
遂
「つひニ」。そのまま。
応声
呼ぶ声に応じる。

白文不覚、以左右手攫地而歩。

書き下し覚えず、左右の手を以て地を攫(つか)みて歩む。

現代語訳いつのまにか、両手で地面をつかみながら歩くようになっていた。

不覚
「覚えず」。知らないうちに。
攫
「つかム」。つかむ。

白文自是覚心愈狠、力愈倍。

書き下し是れより心愈(いよいよ)狠(こん)、力愈倍せるを覚ゆ。

現代語訳この時から、心はますます残忍になり、力もますます強くなっていくのを感じた。

自是
「是れより」。この時から。
愈
「いよいよ」。ますます。
狠
残忍なこと。心がねじ曲がること。
倍
強さが増す。

白文及視其肱髀、則有毛生焉。

書き下し其の肱髀(こうひ)を視るに及びては、則ち毛の生ぜる有り。

現代語訳自分のひじやももをよく見てみると、なんと毛が生えていた。

肱髀
ひじと、もも。
焉
置き字。

白文心甚異之。

書き下し心に甚だ之を異(あや)しむ。

現代語訳心の中で、とても不思議に思った。

異
「あやシム」。不思議に思う。
之
ひじやももに毛が生えてきたこと。

白文既而臨渓照影、已成虎矣。

書き下し既にして渓(たに)に臨みて影を照らせば、已に虎と成れり。

現代語訳やがて谷川に臨んで自分の姿を水に映してみると、もう虎になっていた。

既而
「既にして」。やがて。まもなく。
渓
谷川。
照影
水面に姿を映す。
已
「すでニ」。もう。

白文悲慟良久。

書き下し悲慟(ひどう)すること良(やや)久し。

現代語訳(私は)しばらくの間、悲しんで声をあげて泣いた。

悲慟
悲しんで声をあげて泣く。
良久
「やや久し」。しばらくの間。

人を食べてしまう

本文(訓読文)

白文然尚不忍攫生物食也。

書き下し然れども尚(な)ほ生物を攫みて食らふに忍びざるなり。

現代語訳けれども、それでもまだ、生き物をつかまえて食べることはできなかった。

尚
「なホ」。それでもまだ。
不忍A
「Aに忍びず」。Aするのに耐えられない。とてもAする気になれない。
○虎になったばかりで、まだ人間の心が残っていたので、生き物を殺して食べることにためらいがあったと考えられる。

白文既久飢不可忍、遂取山中鹿豕獐兎充食。

書き下し既に久しくして飢ゑて忍ぶべからず、遂に山中の鹿豕獐兎(ろくししやうと)を取りて食に充つ。

現代語訳やがて時がたつと、飢えて我慢できなくなり、とうとう山中の鹿・いのしし・のろじか・兎などをとって食べ物にするようになった。

不可忍
我慢することができない。
鹿豕獐兎
鹿・いのしし・のろじか・兎などの野生の獣。
充食
食べ物にあてる。

白文又久諸獣皆遠避、無所得、飢益甚。

書き下し又久しくして諸獣皆遠く避け、得る所無く、飢ゑ益(ますます)甚だし。

現代語訳さらに時がたつと、獣たちはみな(私を)遠く避けるようになり、獲物がとれなくなって、飢えはますますひどくなった。

諸獣
獣たち。
無所得
「得る所無く」。手に入れるものがない。獲物がとれない。
益
「ますます」。

白文一日有婦人、従山下過。

書き下し一日(いちじつ)婦人有り、山下より過ぐ。

現代語訳ある日のこと、一人の女性が山のふもとを通りかかった。

一日
ある日。
従
「よリ」。~を。~から。
山下
山のふもと。

白文時正餒迫、徘徊数四、不能自禁、遂取而食。

書き下し時に正に餒(う)ゑ迫り、徘徊(はいくわい)すること数四(すうし)、自ら禁ずること能はず、遂に取りて食らふ。

現代語訳そのとき(私は)ちょうど飢えにせまられていたので、何度もあたりを行ったり来たりしたあげく、自分で自分をおさえることができず、とうとう(その女性を)とらえて食べてしまった。

正
「まさニ」。ちょうど。
餒
「うウ」。飢える。
徘徊
あちこち歩き回る。
数四
しばしば。何度も。
自禁
自分で自分をおさえる。
○徘徊数四
人を食べることには、さすがにためらい、迷っていた様子が表れている。

白文今其首飾、猶在巌石之下也。

書き下し今其の首飾(しゆしよく)、猶ほ巌石(がんせき)の下(もと)に在るなり。

現代語訳今でもその女性の髪飾りが、大きな岩のもとに残っている。

首飾
髪飾り。かんざし。
猶
「なホ」。今でもまだ。ここは再読文字ではない。
巌石
大きな岩。

人に顔向けできない

本文(訓読文)

白文非不念妻孥、思朋友。

書き下し妻孥(さいど)を念ひ、朋友(ほういう)を思はざるに非ず。

現代語訳妻子のことを気にかけたり、友人のことを思ったりしないわけではない。

妻孥
妻子。「孥」は子ども。
朋友
友人。

白文直以行負神祇、一旦化為異獣、有靦於人。

書き下し直(た)だ行ひ神祇(しんぎ)に負(そむ)けるを以て、一旦(いつたん)化して異獣と為り、人に靦(は)づる有り。

現代語訳ただ、自分の行いが天地の神々に背いていたために、ある日突然、獣に変わってしまったので、人に顔を合わせるのが恥ずかしいのだ。

直
「たダ」。ただ~だけ。
行
行い。
負
「そむク」。背く。
神祇
天地の神。
一旦
ある日突然。
異獣
人間とは違う獣。
靦
「はヅ」。恥じる。

白文故分不見矣。」

書き下し故に分として見(まみ)えず。」と。

現代語訳だから、獣の身としては、(君に)会うわけにはいかないのだ。」と。

分
(獣としての)分際。身のほど。
見
「まみユ」。会う。顔を合わせる。
矣
置き字。

白文因呼吟咨嗟、殆不自勝遂泣。

書き下し因りて呼吟咨嗟(しさ)し、殆(ほとん)ど自ら勝(た)へずして遂に泣く。

現代語訳そう言って、うなり声をあげてため息をつき、こらえきれない様子で、とうとう泣き出した。

呼吟
うなる。
咨嗟
ため息をついて嘆く。
不自勝
自分をおさえきれない。こらえられない。

心ははっきりしている

本文(訓読文)

白文傪且問曰、「君今既為異類。何尚能人言耶。」

書き下し傪且つ問ひて曰はく、「君今既に異類(いるい)と為る。何(なん)ぞ尚ほ人の言を能くするか。」と。

現代語訳袁傪はさらに尋ねた、「君は今、もう人間ではないものになってしまった。(それなのに)どうしてまだ人間の言葉を話せるのか。」と。

且
「かツ」。さらに。
異類
人間とは違う種類のもの。獣。
何
「なんゾ」。どうして。(疑問)
能
「よクス」。上手にできる。

白文虎曰、「我今形変、而心悟耳。

書き下し虎曰はく、「我今形変ずるも、心悟(さ)むるのみ。

現代語訳虎は言った、「私は今、姿は変わってしまったが、心はまだはっきりしているのだ。

形
姿。外見。
悟
「さム」。心がはっきりしている。正気である。
耳
「のみ」。~だけだ。~なのだ。(限定・強調)
而
置き字。

白文自居此地、不知歳月多少。

書き下し此の地に居りてより、歳月の多少を知らず。

現代語訳この地に住むようになってから、どれほどの月日がたったのかわからない。

自
「よリ」。~から。
多少
どれほど。ここはどれくらいの長さか、ということ。

白文但見草木栄枯耳。

書き下し但(た)だ草木の栄枯(えいこ)するを見るのみ。

現代語訳ただ、草木が茂ったり枯れたりするのを見るだけだった。

但
「たダ」。ただ~だけ。
栄枯
(草木が)茂ったり枯れたりする。

白文近日絶無過客、久飢難堪。

書き下し近日(きんじつ)絶えて過客(くわかく)無く、久しく飢ゑて堪へ難し。

現代語訳近ごろは通りかかる旅人がまったくなく、長い間飢えていて、我慢できなかった。

近日
近ごろ。
絶
「たエテ」。(打消を伴って)まったく~ない。
過客
通りかかる旅人。

白文不幸唐突故人。慙惶殊甚。」

書き下し不幸にして故人に唐突(たうとつ)す。慙惶(ざんくわう)殊に甚だし。」と。

現代語訳不運にも、旧友(の君)に不意に飛びかかってしまった。本当に恥ずかしく、申しわけない。」と。

唐突
不意につきあたる。いきなり飛びかかる。
慙惶
恥じて恐れ入る。
殊
「ことニ」。とりわけ。

白文傪曰、「君久飢。食籃中有羊肉数斤。留以為贈、可乎。」

書き下し傪曰はく、「君久しく飢う。食籃(しよくらん)の中に羊肉数斤有り。留めて以て贈るを為さん、可ならんか。」と。

現代語訳袁傪は言った、「君は長い間飢えている。食べ物を入れた竹かごの中に羊の肉が数斤ある。ここに残して贈ろうと思うが、よいだろうか。」と。

食籃
食べ物を入れる竹のかご。
斤
重さの単位。
可乎
「可ならんか」。よいだろうか。

白文曰、「吾方与故人道旧、未暇食也。君去則留之。」

書き下し曰はく、「吾方(まさ)に故人と旧を道(い)へば、未だ食らふに暇(いとま)あらざるなり。君去るとき則ち之を留めよ。」と。

現代語訳(虎は)言った、「私は今ちょうど旧友と昔話をしているところだから、食べている暇はない。君が立ち去るときに、置いていってくれ。」と。

方
「まさニ」。ちょうど今。
道旧
昔のことを語る。昔話をする。
未暇A
「未だAに暇あらず」。まだAする暇がない。
之
羊の肉。

テスト予想問題

A 語句

  1. 次の語の読み(送り仮名を含め、現代仮名遣いのひらがな)と意味を答えよ。
    ①次
    ②愈
    ③良久
    ④数四
    ⑤直

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    ①やどり/宿泊する
    ②いよいよ/ますます
    ③ややひさし/しばらくの間
    ④すうし/何度も・しばしば
    ⑤ただ/ただ~だけ

  2. 次の語の意味を答えよ。
    ①前身
    ②狠
    ③肱髀
    ④妻孥
    ⑤神祇

    解答を見る

    ①人間だったころの身
    ②残忍なこと
    ③ひじと、もも
    ④妻子
    ⑤天地の神

B 書き下し文・現代語訳

  1. 「夜聞戸外有呼吾名者」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:夜戸外に吾が名を呼ぶ者有るを聞き、
    現代語訳:夜、戸口の外から私の名を呼ぶ声がしたので、

  2. 「然尚不忍攫生物食也」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:然れども尚ほ生物を攫みて食らふに忍びざるなり。
    現代語訳:けれども、それでもまだ、生き物をつかまえて食べることはできなかった。

  3. 「非不念妻孥、思朋友」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

    解答を見る

    書き下し文:妻孥を念ひ、朋友を思はざるに非ず。
    現代語訳:妻子のことを気にかけたり、友人のことを思ったりしないわけではない。

  4. 「但見草木栄枯耳」を書き下し文にし、現代語訳せよ。

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    書き下し文:但だ草木の栄枯するを見るのみ。
    現代語訳:ただ、草木が茂ったり枯れたりするのを見るだけだった。

C 内容の読み取り

  1. 「心甚異之」の「之」は、どのようなことを指すか。

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    (李徴の)ひじやももから、毛が生えてきたこと。

  2. 「不能自禁、遂取而食」とあるが、何を取って食べたのか。また、食べる前に迷っていた様子を表す部分を、本文から四字で抜き出せ。

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    婦人(山のふもとを通りかかった女性)。
    徘徊数四

  3. 「有靦於人」とあるが、李徴はなぜ人に顔を合わせるのを恥ずかしいと思っているのか。

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    天地の神に背くような行い(人まで食べてしまったこと)をしたために、獣になってしまったから。

  4. 「故分不見矣」とは、どういうことか。

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    獣になってしまった身としては、(旧友の袁傪に)顔を合わせるわけにはいかない、ということ。

続き(④)

李徴は袁傪に、残された妻子のことと、自分の詩文を書きとめてほしいことを頼み、今の思いを詩に詠みます。