涼州詞 王翰
葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回
葡萄の美酒夜光の杯
ぶどうの美酒を夜光の杯になみなみと注ぐ。
葡萄美酒…ぶどう酒。唐代ではまだ製法が伝わったばかりだった。
夜光杯…夜でも光る杯。当時の唐にはこのようなものを作る技術がなかった。
飲まんと欲すれば琵琶馬上に催す
飲もうとすると、うながすように琵琶の音が馬上から聞こえてきた。
欲…「~んと欲す」で「~しようとする、~したいと思う」
催…おこる、発する。ここでは「うながす」と訳すことが多い。
琵琶…西域から伝わってきた。
〇「葡萄美酒」「夜光杯」「琵琶」…西域のイメージ、異国情緒を具体化している。西域伝来のものを書き連ねて、故郷を遠く離れた辺境の地を印象づけている。
酔うて沙場に臥す君笑ふこと莫かれ
大酔して砂漠の上に倒れ伏しても、どうか笑わないでくれ。
沙場…砂漠。ここでは「戦場」の意味。
莫…「~(こと)莫かれ」と命令形で読む場合は禁止「~するな」。「莫し(~がない)」と読む場合もある。
君莫笑…戦場で酒に酔い潰れることはあるまじき行為だが、そうすることで生きて故郷に帰ることはできないだろうという、不安や悲しみに堪えていこうとしている。
古来征戦幾人か回る
昔から、西域へ遠征した者で、いったい何人が無事に故郷へ帰れたことだろうか(、いや多くの人が無事に帰ってきていない)。
古来…昔から
征戦…遠征しての戦。
幾人…「幾」は量や回数を意味する疑問詞。「幾人」で「どれだけの人、何人が~か」の意味。反語「~いや、多くの人が帰ってきていない」と解釈してもよい。
詩形…七言絶句
押韻…「催(sai)」「杯(hai)」「回(kai)」。初句、二句、四句末で「ai」と韻を踏んでいる。