『不若人有其宝』の書き下し文・現代語訳・重要語句・句法・内容をわかりやすく解説します。
本文解説
宋人有得玉者。献諸司城子罕。子罕不受。
宋人に玉を得し者有り。諸を司城子罕に献ず。子罕 受けず。
宋の人で宝玉を得た者がいた。これを司城の子罕に献上した。子罕は受け取らなかった。
・献ず…ささげる。目上の人に物を贈る。
・諸…「これ」と読む。「之於(之を~に)」が一字になった形。
献玉者曰、「以示玉人、玉人以為宝。故敢献之。」
玉を献ずる者曰はく、「以つて玉人に示すに、玉人 以つて宝と為す。故に敢へて之を献ず。」と。
玉を献じた者が言うことには、「これを玉人に見せたところ、玉人は宝玉だと認めました。それで、どうしてもと思い、これを献上するのです。」と。
・玉人…玉を鑑定する人。
・敢…「あヘテ」。やりづらいことを思い切ってする。
○「敢」には、宋人が本当は自分の宝として持っていたいが、その気持ちを抑えて、無理をしてでも子罕に献上しようとする気持ちが表れている。
子罕曰、「我以不貪為宝、爾以玉為宝。
子罕曰はく、「我は貪らざるを以つて宝と為し、爾は玉を以つて宝と為す。
すると子罕は言った。「私は貪欲にならないことを宝としており、あなたは玉を宝としている。
・貪…貪欲。ひどく物をほしがる。
・爾…「なんぢ」あなた、おまえ。
若与我者、皆喪宝也。不若人有其宝。」
若し我に与ふれば、皆 宝を喪ふなり。人ごとに其の宝を有するに若かず。」と。
もし私に与えれば、どちらも宝を失うことになる。それぞれに宝を持っているのがよい。」と。
・若~…「もシ~バ」(仮定)もし~ならば。
・不若~…「~にシかず」(比較)~に及ばない、~の方がよい。
宋人は玉を渡せば、自分が宝としている「玉」を失う。
子罕は玉を受け取れば、自分が宝としている「貪らない」という信条に背くことになる。
だから子罕は、「それぞれが自分の宝を持っている方がよい」と考えた。
故宋国之長者曰、「子罕非無宝也。所宝者異也。
故に宋国の長者曰はく、「子罕は宝無きに非ざるなり。宝とする所の者 異なるなり。
だから宋国の有徳者が言うことには、「子罕は宝がないわけではない。宝とするものが異なっているのである。
非無~…「~なキニあらズ」 二重否定
「~がないのではない」=「~はあるのだ」。
今以百金与摶黍、以示児子、児子必取摶黍矣。
今 百金と摶黍とを以つて、以つて児子に示さば、児子は必ず摶黍を取らん。
今、百金ときびだんごとを子供に示すならば、子供は必ずきびだんごを選ぶだろう。
・摶黍…きびだんご。
○子供は百金の価値がわからず、食べておいしいきびだんごを選ぶ。
以和氏之璧与百金、以示鄙人、鄙人必取百金矣。
和氏の璧と百金とを以つて、以つて鄙人に示さば、鄙人は必ず百金を取らん。
和氏の璧と百金とをつまらぬ人間に示すならば、その人は必ず百金を選ぶだろう。
・和氏の璧…非常に価値の高い宝玉。
・鄙人…つまらない人間。
○鄙人には和氏の璧の本当の価値がわからないため、使い道のわかりやすい百金を選ぶ。
以和氏之璧与道徳之至言、以示賢者、賢者必取至言矣。
和氏の璧と道徳の至言とを以つて、以つて賢者に示さば、賢者は必ず至言を取らん。
和氏の璧と道徳の至言とを賢者に示すならば、賢者は必ず道徳の至言のほうを選ぶだろう。
・至言…道徳について真実を語る言葉。
○賢者は物質的な価値の高い和氏の璧よりも、精神的な価値の高い「道徳の至言」を選ぶ。
三つのたとえが表していること
児子 百金 < 摶黍
鄙人 和氏の璧 < 百金
賢者 和氏の璧 < 道徳の至言
同じ物を見せても、何を選ぶかはその人によって異なる。
その違いを生むのが、物の本当の価値を見抜く「知」である。
其知弥精、其取弥精。其知弥粗、其取弥粗。
其の知 弥精なれば、其の取るや弥精なり。其の知 弥粗なれば、其の取るや弥粗なり。
その知が精密であればあるほど、その取るものも精である。その知が粗雑であればあるほど、その取るものも粗である。
・弥…「いよいよ」ますます。
・知…物事の本当の価値を認識する力。
「粗→精」の順に整理すると
知……児子 → 鄙人 → 賢者
取……摶黍 → 百金 → 和氏の璧 → 至言
物事の価値を見抜く力が高くなるほど、より精神的で価値の高いものを選ぶようになる。
子罕之所宝者至矣。」
子罕の宝とする所の者 至れり。」と。
子罕が宝としているものは、この上なく素晴らしい。」と。
子罕が宝としている「貪らないこと」は、人間として正しく生きていくうえで極めて大切なものである。
玉や金のような物質的な宝ではなく、正しい生き方そのものを宝とする子罕の価値観を称賛している。
『不若人有其宝』予想問題
問1 「故敢献之」の「敢」から、玉を献じた宋人のどのような気持ちがわかるか。
問2 「若与我者、皆喪宝也。」とあるが、なぜ二人とも宝を失うことになるのか。
問3 「不若人有其宝。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】それぞれに宝を持っているのがよい。
問4 「子罕非無宝也。所宝者異也。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】子罕は宝がないわけではない。宝とするものが異なっているのである。
問5 児子・鄙人・賢者の三つのたとえ話は、何を表しているか。
問6 賢者が「和氏の璧」ではなく「道徳の至言」を選ぶのはなぜか。
問7 「其知弥精、其取弥精。其知弥粗、其取弥粗。」を書き下し文にせよ。また、現代語訳せよ。
【現代語訳】その知が精密であればあるほど、その取るものも精である。その知が粗雑であればあるほど、その取るものも粗である。
問8 本文中で、「知」の最も精なるもの・最も粗なるもの、「取」の最も精なるもの・最も粗なるものをそれぞれ答えよ。
【取】最も精なるもの=至言、最も粗なるもの=摶黍。