井原西鶴『西鶴諸国ばなし』「大晦日は合はぬ算用(おおつごもりはあわぬさんよう)」②(あるじの申すは〜格別ぞかし)の現代語訳・品詞分解・解説です。
酒宴の終わりに小判が一両足りないとわかり、浪人たちは身の潔白を示そうとします。たまたま一両を持っていた男は、疑われることを恥じて自害しようとしますが、そこへ小判が出てきて、今度は十一両になってしまいます。一人一人の言動の理由と、余った一両の始末のしかた、最後の「格別ぞかし」がよく問われます。前半は大晦日は合はぬ算用①で読みます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞・敬語の種類と向きを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
身の潔白を示す客たち
現代語訳主人が申すには、「そのうちの一両は、ある所へ支払ったのに、私が覚え違いをしていた。」と言う。
- さる
- ある。
- 拙者
- わたし。武士などが自分のことをいう語。
内助がこう言ったのは、客に疑いがかかり、せっかくの宴が気まずくなるのを防ぐため。
現代語訳(客たちは)「たった今まで確かに十両見えていたのに、奇妙なことだよ。ともかく、めいめいが身の潔白を明らかにしよう。」と言って、
- めいよ
- 奇妙だ。不思議だ。
- とかく
- ともかく。
- 身晴れ
- 身の潔白を明らかにすること。
「見えしに」の「に」は逆接確定(〜のに)。たった今まで確かに十両あったのに、という気持ち。
現代語訳上座にいる者から順に帯をほどいて見せると、その次の者も(衣服を)調べてみせた。三人目に座っていた男は、渋い顔つきで黙りこんでいたが、膝を立て直して、
- 上座
- 上位の人が座る席。
- 渋面
- しかめっ面。
「帯をとけば」は、小判を身につけて隠していないことを示すため。客たちが自分から身の潔白を示そうとしている。
自害しようとする三人目の男
現代語訳「世の中には、こんな難儀なこともあるものよ。わたしは、着物を振って見せるまでもない。
- 浮世
- この世。世の中。
- 難儀
- 困ったこと。厄介なこと。
- それがし
- わたし。
「身ふるふまでもなし」は、ほかの客のように着物を振って調べてみせるまでもない(自分は小判を持っている)ということ。
現代語訳小判一両を持ち合わせていることこそ、わが身の不運だ。思いがけないことで、この命を捨てる。」と腹を決めて申すと、
- 因果
- 身の不運。
- 思ひ切る
- 覚悟を決める。
「こそ〜なれ」は係り結び。「なれ」は断定の助動詞「なり」の已然形。
「因果(不運)」なのは、一両がなくなったちょうどそのときに、偶然自分が一両を持っていたため、盗んだと疑われる立場になってしまったから。
「一命を捨つる」は、疑われることそのものを恥とし、死んで潔白を示そうという武士の意地。
現代語訳居合わせた者たちは声をそろえて、「あなただけではない。落ちぶれた身の上だからといって、小判一両を持っているはずがない、ということはない。」と申す。
- こなた
- あなた。
- あさまし
- (ここでは)落ちぶれている。みじめだ。
「持つまじきものにもあらず」は、「(小判一両を)持っているはずがないというものでもない」。だれが小判を持っていてもおかしくはない、と男をかばっている。
現代語訳(三人目の男は)「確かに、この小判の出どころは、私が長年持っていた徳乗作の小柄で、それを唐物屋十左衛門の店へ、
- いかにも
- 確かに。
- 徳乗の小柄
- 彫金家後藤徳乗が飾りを彫った小柄(刀の鞘にさしそえる小刀)。
- 唐物屋
- 輸入品などを扱う商人。
現代語訳一両二歩で、昨日売りましたもので、そのことに間違いはないけれども、時が悪かった。
- 歩
- 江戸時代の貨幣の単位。四歩で一両。
- まぎれ
- まちがい。
- 折ふし
- 時節。そのときのめぐりあわせ。
「折ふしわるし」は、ちょうど一両がなくなったときに一両を持ち合わせていた、というめぐりあわせの悪さ。
現代語訳ふだん親しく語り合ってきたよしみで、(私が)自害した後に(事実を)お調べになって、死後の恥だけはせめて(晴らしてくれるよう)頼む。」と言い終わらないうちに、
- よしみ
- 親しいつきあい。
- 生害
- 自害。ここでは切腹。
- かばねの恥
- 死後まで残る恥。
- 申しもあへず
- 言い終わらないうちに。
「御尋ねあそばし」は、自分の死後、唐物屋十左衛門に、本当に小柄を一両二歩で買ったかどうかを尋ねて、小判の出どころを確かめてほしいということ。
「あそばし」は尊敬の補助動詞。三人目の男から一座の客への敬意。
出てきた小判
現代語訳刀の革柄に手をかけたその時、「小判はここにある。」と言って、丸行灯の陰から(だれかが小判を)投げ出したので、
- 革柄
- 皮でおおい糸で巻いた刀の柄。
- 丸行灯
- 丸い形の行灯(灯火の道具)。
「投げいだせば」の主語は示されていない。一座の客のだれかが、行灯の陰から小判を投げ出した。
現代語訳「それでは(見つかったのか)。」と騒ぎをおさめ、「何事も、念を入れて調べるのがよい。」と言っているときに、
- さては
- それでは。(予想していたことが確かになったときに言う語)
- 事を静む
- 騒ぎをおさめる。
現代語訳台所から、内儀が声をあげて、「小判はこちらへ来ておりました。」と言って、重箱の蓋にくっつけたまま、座敷へお出しになった。
- 内証
- 家の奥。ここでは台所。
「この方」は、内儀のいる内証(台所)のこと。
「まゐつ」は「まゐる」の促音便。
現代語訳これは宵のうちに、山芋の煮しめを入れて(座敷に)お出しになった重箱で、その湯気で(蓋に小判が)くっついたのだろうか。そういうことも起こるだろう。
- 宵
- 日が暮れてまもないころ。
重箱の蓋に小判がついていたのは、宵に山芋の煮しめを入れて出した重箱の湯気で、小判が蓋にくっついたから、と語り手が推測している。
現代語訳こうなると小判は十一両になってしまった。一座の人々が申されたことには、「この小判が、ひたすら数を増やしていくのは、めでたい。」と言う。
- ひたもの
- ひたすら。
行灯の陰から出た一両と、重箱の蓋についていた一両で、九両に二両が加わり、十一両になってしまった。
余った一両の始末
現代語訳亭主の申すことには、「九両だった小判を十両と思って詮議しているうちに、十一両になったのは、ご一座の中に小判をお持ちの方がいて、
- 詮議す
- 調べる。取り調べる。
内助は、もとは九両だったのを十両と思って調べていたと考えている。
現代語訳先ほどの難儀を救おうとして、お出しになったことは疑いない。この一両を私の手もとに収めるいわれはない。持ち主へお返ししたい。」と尋ねたが、
- 最前
- 先ほど。
- 用
- いわれ。必要。
- 御主
- 持ち主。
「最前の難儀」は、たまたま一両を持っていた客が、疑われて自害しようとしたこと。
「御主」は、余った一両の持ち主(行灯の陰から一両を投げ出した客)。
現代語訳だれ一人返事をする者もなく、一座は妙な具合になって、夜更けの一番鶏も鳴く時刻になったけれども、皆は立ち去りかねていらっしゃったので、
- 異なもの
- 変な具合。
- 夜更け鶏
- 夜中に鳴く一番鶏。午前二時ごろに鳴くとされた。
名乗り出れば、自害しようとした男に恩を着せることになり、また一両を惜しんで初めは黙っていたようにも見えてしまう。そのため、だれも返事をしなかったと考えられる。
現代語訳(内助が)「こうなった上は、亭主である私の考えどおりになさってください。」と願ったところ、(客たちが)「ともかくご主人のお心のままに。」と申されたので、
- 所存
- 考え。
- 心まかせ
- 心のまま。
「このうへは〜あそばされてたまはれ」は、内助(亭主)の言葉。「亭主」は内助が自分のことを言っている。
現代語訳例の小判を一升枡に入れ、庭の手水鉢の上に置いて、「どなたでも、この小判の持ち主の方は、お取りになってお帰りください。」と言って、
- 一升枡
- 一升入りの枡。
- 手水鉢
- 手を洗う水を入れておく鉢。
現代語訳お客を一人ずつお立たせして、そのたびごとに戸を固く閉め、七人を七回に分けて帰して、
- さしこむ
- 戸を固く閉める。
一人ずつ帰し、そのつど戸を閉めたのは、どの客が小判を持ち帰ったのか、だれにもわからないようにするため。持ち主に名乗り出させずに、一両を返そうとした。
現代語訳そうしてから内助が手燭をともして(枡を)見ると、だれとも知れないが、(小判は)持ち帰られていた。
- 手燭
- 柄のついたろうそく立て。
作者の感想
現代語訳主人のとっさの機転、場慣れした客の振る舞い、何かにつけて武士のつきあいというものは、格別なものであるよ。
- 分別
- 判断。考え。「即座の分別」は、とっさの機転。
- 座なる
- 座に慣れる。場慣れする。
- しこなし
- 振る舞い。
この一文が作者の感想。主人のとっさの判断、客たちの振る舞いなど、貧しくても武士としての誇りと義理を重んじ、たがいに相手をかばい合う武士のつきあいを「格別ぞかし(格別なものだ)」と言っている。
『西鶴諸国ばなし』の前半:大晦日は合はぬ算用①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①上座
②渋面
③生害
④丸行灯
⑤内証
⑥手水鉢解答を見る
①じょうざ
②じゅうめん
③しょうがい
④まるあんどん
⑤ないしょう
⑥ちょうずばち次の語の本文中での意味を答えよ。
①めいよ
②因果
③あさましき
④折ふし
⑤異なもの
⑥しこなし解答を見る
①奇妙な・不思議な
②身の不運
③落ちぶれた・みじめな
④時節・めぐりあわせ
⑤変な具合
⑥振る舞い
B 文法
次の助動詞の意味を答えよ。
①さる方へ払ひしに の「し」
②私持ち来たりたる の「たる」
③おのおの立ちかねられしに の「られ」
④取らせられて の「せ」解答を見る
①過去
②存続
③尊敬
④尊敬「金子一両持ち合はすこそ、因果なれ」について、①ここに用いられている係り結びを説明せよ。②現代語訳せよ。
解答を見る
①係助詞「こそ」を受けて、断定の助動詞「なり」が已然形「なれ」で結んでいる。
②小判一両を持ち合わせていることこそが、身の不運だ。「小判一両持つまじきものにもあらず」について、①「まじき」の意味と活用形を答えよ。②現代語訳せよ。
解答を見る
①打消当然・連体形
②小判一両を持っているはずがないというものでもない。(持っていてもおかしくはない。)
C 現代語訳・内容
内助が「そのうち一両は、さる方へ払ひしに、拙者の覚え違へ。」と言ったのはなぜか。説明せよ。
解答を見る
客に疑いがかかって、せっかくの酒宴が気まずいものになるのを防ぐため。
三人目の男が「一命を捨つる」と言ったのはなぜか。説明せよ。
解答を見る
一両がなくなったときにたまたま一両を持ち合わせていたため、盗んだと疑われる立場になり、その恥を死んで晴らすしかないと考えたから。
「生害におよびしあとにて、御尋ねあそばし」とあるが、男はだれに何を尋ねてほしいと頼んでいるのか。
解答を見る
唐物屋十左衛門に、自分が本当に徳乗の小柄を一両二歩で売ったのかどうかを尋ねて、小判の出どころを確かめてほしいと頼んでいる。
「小判はこの方へまゐつた。」について、①「この方」とはどこか。本文中の語で答えよ。②その小判は、なぜそこにあったと考えられているか。
解答を見る
①内証(台所)
②宵に山芋の煮しめを入れて出した重箱の湯気で、小判が蓋にくっついたから。「最前の難儀」「御主」とは、それぞれ何(だれ)のことか。
解答を見る
最前の難儀=一両を持ち合わせていた客が、疑われて自害しようとしたこと。 御主=余った一両の持ち主。
「このうへは亭主が、所存の通りにあそばされてたまはれ。」はだれの言葉か。また、現代語訳せよ。
解答を見る
原田内助の言葉。 訳=こうなった上は、亭主である私の考えどおりになさってください。
内助が、余った一両を一升枡に入れて手水鉢の上に置き、客を一人ずつ帰して、そのたびに戸を閉めたのはなぜか。
解答を見る
だれが小判を取って帰ったのかわからないようにして、持ち主に名乗り出させないまま一両を返すため。
「あるじ即座の分別、座なれたる客のしこなし、かれこれ武士のつきあひ、格別ぞかし。」について、①「即座の分別」とは、内助のどのような判断か。具体的に二つ答えよ。②作者は武士のつきあいのどのような点を「格別」だと言っているのか。
解答を見る
①小判が足りなくなったとき、とっさに自分の覚え違いだと言ってその場をおさめようとしたこと。小判が余ったとき、持ち主がだれかわからないように返す方法を考えたこと。
②貧しくても武士としての誇りと義理を重んじ、たがいに相手を疑ったり詮索したりせず、かばい合うところ。