『大鏡(おおかがみ)』「雲林院の菩提講(うりんいんのぼだいこう)」②の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。①の続きです。
大宅世継と夏山繁樹の昔話に、まわりの人々が集まってきます。若い侍に「まったく信じられない」と言われた世継は、自分の年齢を説明し、その証拠を挙げます。「こそ」の結びの流れ、謙譲の「給ふ」、世継が挙げた証拠などがよく問われます。
原文の読み方
原文の一語一語に、活用や助動詞・助詞の意味を示しています。緑の下線は敬語です。下のボタンで、用言・助動詞・助詞などのラベルを別々に出したり消したりできます。ラベルを押すと古典文法一覧の説明に飛びます。
現代語訳・品詞分解・解説
集まってくる人々
現代語訳(その場にいた人のうち)少しは心得のありそうな者たちはだれも、(老人たちのほうに)目を向けたり、にじり寄ったりなどした。
- よろし
- まあまあだ。ふつうよりは少しましだ。
- 見おこす
- こちらを見る。視線を向けてくる。
- 居寄る
- 座ったまま近寄る。にじり寄る。
「少しよろしき者ども」は、菩提講に集まった人々の中で、少しは物のわかりそうな者たち。
現代語訳(中でも)年が三十歳ぐらいの侍らしい者が、ぐっと近くに寄ってきて、
- 三十
- 三十歳。
- 侍めく
- 侍らしく見える。
- せちなり
- ひたすらだ。ここでは「ぐっと(近く)」。
現代語訳「いやもう、ずいぶんおもしろいことを言う老人たちですね。まったく信じられませんよ。」と言うと、老人二人は顔を見合わせて大声で笑う。
- いで
- いやもう。いやはや。
- 老者
- 老人。
- あざ笑ふ
- 大声で笑う。
「さらにこそ信ぜられね」は、老人たちが、百三十年ほども前のことを自分の体験として話しているのが、まったく信じられないということ。
文末の「ね」は打消の「ず」の已然形で、上の「こそ」の結びになっている。
世継の年齢
現代語訳(侍は)繁樹と名乗る老人のほうに目を向けて、「(あなたは)『年がいくつかは覚えていない。』と言うようだ。
- 方ざま
- 方向。…のほう。
- 見やる
- そちらのほうへ目を向ける。
『いくつといふこと覚えず。』は、①で繁樹が言った「いくつといふこと、さらにおぼえ侍らず」を受けている。
現代語訳こちらのご老人のほうは(ご自分の年を)覚えておいでですか。」と尋ねると、
- たぶ
- 「給ふ」が変化した形。尊敬の補助動詞。
「この翁ども」は世継のこと。「ども」は、ここでは複数ではなく、やわらげて言う言い方。
「問へば」の主語は侍。
現代語訳(世継が)「言うまでもありません。百九十歳に、今年はなりました。
- さらにもあらず
- 言うまでもない。
ここから世継の言葉。世継は今年百九十歳だという。「ぞ」の結びは「ぬる」。
現代語訳ですから、繁樹は百八十歳になっておりましょうが、(年をとりすぎているのを)恥ずかしがって(覚えていないと)申しているのです。
- やさし
- 恥ずかしい。きまりが悪い。
「やさしく申すなり」は、繁樹は年をとりすぎているのを恥ずかしがって、「年がいくつかは覚えていない」と言っているのだ、ということ。
「こそ」の結びになるはずの「らめ」(現在推量「らむ」の已然形)が、接続助詞「ど」に続いて文が終わっていない(結びの流れ)。
現代語訳私は、水尾の帝(清和天皇)がご退位なさった年の、正月十五日に生まれましたので、
- 水尾の帝
- 清和天皇。
- おる
- (帝の位から)おりる。退位する。
- 望の日
- 十五日。
現代語訳十三代の天皇の御代にめぐりあい申し上げているのです。
- 十三代
- 清和天皇から今の後一条天皇までの、十三代の天皇の御代。
「あひたてまつりて」は、十三代の天皇の御代にめぐりあい申し上げているということ。
現代語訳まんざら悪くもない年ですな。(とはいえ)本当のことだと人はお思いにならないでしょう。
- けしうはあらず
- たいして悪くはない。「けしう」は形容詞「けし(異様だ)」の連用形のウ音便。
- 思す
- 「思ふ」の尊敬語。
「けしうはさぶらはぬ年」は、「悪くもない年」と言いながら、実はたいへんな高齢であることを言っている。
世継は、聞いている人たちは自分の年を本当だとは思わないだろうと考えて、次に証拠を挙げる。
年齢の証拠
現代語訳けれども、(私の)父が大学寮の若い学生に使われ申し上げていて、
- 生学生
- 大学寮で学ぶ若い学生。
- たいまつる
- 「たてまつる」が変化した形。謙譲の補助動詞。
「使はれたいまつりて」の主語は、世継の父。「れ」は受身。
現代語訳『身分は低くても都の近くに住む者(は自然と教養が身につく)』ということわざのとおりなので、
- 下﨟
- 身分の低い者。
- 都ほとり
- 都の近く。
「下﨟なれども都ほとり」は、身分の低い者でも都の近くに住んでいれば、自然と見聞が広くなり教養が身につく、ということわざ。
現代語訳(父は)文字の読み書きができまして、産衣に(私の生まれた年月日を)書いておいたものが、今もございます。
- 目を見給へて
- 文字の読み書きができまして。
- 産衣
- 生まれた子に着せる着物。
「給へ」は下二段活用の謙譲の補助動詞。父のことでも自分の身内なので、聞き手に対してへりくだって言っている。
世継が自分の年齢の証拠として挙げたこと:父が大学寮の学生に使われていたので自然と文字の読み書きを覚え、世継の生まれた年を産衣に書きつけておいた。その産衣が今も残っている。
- 丙申の年
- 貞観十八年(八七六年)。
- げに
- なるほど。
「げにと聞こゆ」は作者の感想。証拠の産衣の話を聞いて、作者もなるほどと思った。
『大鏡』のほかの話:鶯宿梅 / 三舟の才 / 弓争ひ / 花山天皇の出家① / 道真左遷① / 道真左遷② / 道長の豪胆(肝試し) / 時平の大臣 / 最後の除目 / 宣耀殿の女御
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①誰
②三十
③老者
④水尾の帝
⑤望の日
⑥生学生
⑦下﨟
⑧産衣
⑨丙申解答を見る
①たれ
②みそじ
③ろうざ
④みずのおのみかど
⑤もちのひ
⑥なまがくしょう
⑦げろう
⑧うぶぎぬ
⑨ひのえさる次の語の本文中での意味を答えよ。
①見おこす
②居寄る
③せちに
④やさし
⑤けしうはさぶらはぬ
⑥げに解答を見る
①こちらを見る
②にじり寄る
③ぐっと
④恥ずかしい・きまりが悪い
⑤たいして悪くはありません
⑥なるほど
B 文法・敬語
「さらにこそ信ぜられね」を現代語訳せよ。また、「られ」「ね」の意味と活用形を答えよ。
解答を見る
訳=まったく信じられない。/られ=可能の助動詞「らる」の未然形 ね=打消の助動詞「ず」の已然形(「こそ」の結び)
「繁樹は百八十におよびてこそさぶらふらめど」の「さぶらふ」「らめ」を文法的に説明せよ。また、「こそ」の結びはどうなっているか。
解答を見る
さぶらふ=丁寧の補助動詞「さぶらふ」(ハ行四段)の終止形 らめ=現在推量の助動詞「らむ」の已然形/「こそ」を受けた「らめ」が、接続助詞「ど」に続いて文が終わらず、結びが流れている(結びの流れ)。
次の傍線部の敬語の種類を答えよ。
①この翁どもは覚え「たぶ」や
②父が生学生に使はれ「たいまつり」て
③目を見「給へ」て解答を見る
①尊敬語(尊敬の補助動詞)
②謙譲語(謙譲の補助動詞)
③謙譲語(謙譲の補助動詞)
C 現代語訳・内容
「この翁どもは覚えたぶや」を現代語訳せよ。また、「この翁ども」とはだれか。
解答を見る
訳=こちらのご老人のほうは(ご自分の年を)覚えておいでですか。/この翁ども=大宅世継
「やさしく申すなり」とは、だれが、どうしていることを言っているのか説明せよ。
解答を見る
繁樹が、年をとりすぎているのを恥ずかしがって、自分の年がいくつかは覚えていないと言っていること。
「けしうはさぶらはぬ年なりな。まことと人思さじ」を現代語訳せよ。
解答を見る
たいして悪くもない年ですな。本当のことだと人はお思いにならないでしょう。
「下﨟なれども都ほとり」とはどういう意味のことわざか、説明せよ。
解答を見る
身分の低い者でも、都の近くに住んでいれば、自然と見聞が広くなり教養が身につくということ。
世継は、自分の年齢が本当だと示すために、何を持ち出したか。説明せよ。
解答を見る
父が大学寮の若い学生に使われていたので自然と文字の読み書きができ、世継の生まれた年を産衣に書きつけておいた。その産衣が今も残っていて、丙申の年に生まれたとわかること。
「げにと聞こゆ」を現代語訳せよ。また、だれがそう感じたのか答えよ。
解答を見る
訳=なるほどと思われる。/作者(菩提講に居合わせた筆者)