『土佐日記(とさにっき)』「帰京」の現代語訳・品詞分解・助動詞・和歌・解説です。
土佐から旅をしてきた紀貫之が、ようやく京の自分の家に帰り着く、日記の最後の場面です。荒れ果てた家への不満と、庭の小松から思い出される亡き娘への悲しみが、二首の和歌とともに描かれます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
荒れ果てた家
現代語訳京に入ってうれしい。家に着いて門に入ると、月が明るいので、とてもよく様子が見える。
- 見ゆ
- 見える。
「うれし」は、長い船旅を終えて京に帰り着いた喜びを表す。
現代語訳うわさに聞いていたよりもひどく、言いようもなく壊れ傷んでいる。家に預けておいた人の心も、すさんでいたのだった。
- 言ふかひなし
- 言いようもない、どうしようもない。
- こぼれ破る
- 壊れ傷む。
「聞きし」は、家の様子について以前から聞いていたこと。
「人の心も」の「も」は、家だけでなく、預けておいた人の心も、という気持ちを表す。
「家を預け」ではなく「家に預け」と言うことで、家ばかりか預かった人の心まで荒れていた、とおどけてみせた言い方(諧謔)になっている。
現代語訳「隔ての垣根はあるが、一つの家のようなものだから、(先方が)望んで預かったのだ。」
- 中垣
- 家と家とを隔てる垣根。
「中垣こそあれ」は「こそ〜已然形」の逆接(下の解説を参照)。
「預かれる」の主語は隣人。
- さるは
- そうではあるが。
- たより
- 機会。
- 得させたり
- 手に入れさせた→与える。
「得させたり」の主語は作者(貫之)。
現代語訳(作者は)今夜、「こんなひどいありさまだ。」と(供の者たちに)大声で文句を言わせることもしない。とても薄情だとは思われるけれど、お礼はしようと思う。
- つらし
- 薄情だ、つらい。
- こころざし
- お礼の贈り物。
「かかること」は、家が荒れ果てていることを指す。
「声高にものも言はせず」…作者は、供の者たちが隣人について大声で不満を言うのをやめさせている。
貫之の家の隣人のほうから、留守の間家を預かろうと提案してきたのに、帰ってきたらぼろぼろになっていた。
庭の松
現代語訳さて、池のようにくぼんで、水がたまっている所がある。ほとりに松もあった。
- 池めく
- 池のようになる。荒れ果てて池の形をなしていない庭を、少し皮肉をこめて言っている(謙遜の言い方ととる説もある)。
現代語訳五、六年のうちに、千年も過ぎてしまったのだろうか、半分は枯れてなくなっていた。今生えたものが混じっている。
- 千年や過ぎにけむ
- 千年が過ぎてしまったのだろうか。松は千年の寿命があるといわれるのに、わずか五、六年で半分がなくなっていた。家を預かった隣人が管理を怠ったことへの、皮肉をこめた言い方。
- かたへ
- 半分、一部分。
「今生ひたる」は、新しく生えた小松のこと。
※「なくなりにけり」の「けり」は、気づいたことを表す詠嘆。
現代語訳全体がみな荒れてしまっているので、「ああ。」と人々は言う。
「あはれ」は、荒れ果てた家を見ての驚きや嘆きを表す言葉。
亡き子を思う歌
現代語訳思い出さないことはなく、恋しく思う中でも、この家で生まれた女の子が、一緒に帰らないので、どれほど悲しいことか。
- いかが
- どんなに。
紀貫之は、娘を土佐にいる間に亡くしていた。この家で生まれた女の子が一緒に帰れないことが、悲しみの中心にある。
- ののしる
- 大声で騒ぐ。
船人の子供たちが騒ぐ様子が、亡くなった娘を思い出させ、悲しみをいっそう深めている。
現代語訳(作者は)こうしているうちに、やはり悲しさに堪えられなくて、ひそかに事情を知っている人と詠み合った歌、
- なほ
- やはり。
心知れる人…作者の妻のこととされる。
※「言へりける」の「けり」は過去。「なくなりにけり」の、気づきを表す詠嘆の「けり」との違いに注意。
現代語訳生まれた子も帰らないのに、わが家に小松があるのを見るのが悲しいことだ。
- ものを
- 〜のに。逆接の接続助詞。
庭に育つ小松を目にして、帰ってこないわが子を思い起こし、嘆いている。
現代語訳と詠んだ。まだ満足できなかったのだろうか、またこのように、
- 飽く
- 満足する。
「またかくなむ」の下には、「詠める」などの結びが省略されている。
現代語訳亡くなったあの子が松の千年のように生きていたならば、遠い土地で悲しい別れをしただろうか(しなかっただろうに)。
- 〜ましかば〜まし
- 反実仮想「もし〜だったら〜だろうに」。
「や」は反語。「あの子が松のように長生きしていたなら、遠く離れた土地で悲しい死別などしただろうか、いや、しなかったはずだ」という意味。
「見し人」は亡くなった娘。「遠く悲しき別れ」は土佐での死別を指す。
現代語訳忘れがたく、残念なことは多いけれど、書き尽くすことができない。ともかく、早く破り捨ててしまおう。
- え尽くさず
- 書き尽くすことはできない。「え〜打消」で「〜できない」。
- とまれかうまれ
- ともかく。
- とく
- はやく。
- てむ
- 強意の助動詞「つ」の未然形+意志の「む」で、「きっと〜しよう」の意。
※「とく破りてむ」は、取るに足りない書き物だという謙遜の言い方とされる。
『土佐日記』のほかの場面:阿倍仲麻呂の歌 / 白波 / 亡児
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①今宵
②五年六年
③千年
④女子
⑤船人
⑥宿解答を見る
①こよい
②いつとせむとせ
③ちとせ
④おんなご
⑤ふなびと
⑥やど次の語の意味を答えよ。
①言ふかひなし
②たより
③つらし
④こころざし
⑤かたへ
⑥いかが
⑦くちをし解答を見る
①言いようもない・どうしようもない
②機会
③薄情だ・つらい
④お礼の贈り物
⑤半分・一部分
⑥どんなに
⑦残念だ・心残りだ
B 文法
「千年や過ぎにけむ」の「に」「けむ」について、意味と活用形をそれぞれ答えよ。また、「や」の結びはどれか。
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「に」=完了の助動詞「ぬ」の連用形。「けむ」=過去推量の助動詞「けむ」の連体形。「や」の結びは「けむ」。
「荒れたるなりけり」の「たる」「なり」「けり」について、意味と活用形をそれぞれ答えよ。
解答を見る
「たる」=存続の助動詞「たり」の連体形。「なり」=断定の助動詞「なり」の連用形。「けり」=詠嘆の助動詞「けり」の終止形。
「中垣こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預かれるなり。」を、「こそ〜已然形」の働きがわかるように現代語訳せよ。また、「やうなれ」「る」「なり」の意味と活用形を答えよ。
解答を見る
隔ての垣根はあるけれども、一つの家のようなものだから、(先方が)望んで預かったのだ。「やうなれ」=比況の助動詞「やうなり」の已然形。「る」=完了の助動詞「り」の連体形。「なり」=断定の助動詞「なり」の終止形。
C 現代語訳・内容
「五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり」を現代語訳せよ。また、「千年や過ぎにけむ」という言い方にこめられた作者の気持ちを説明せよ。
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訳=五、六年の間に、千年もの年月が過ぎ去ってしまったのだろうか、(松の)半分は枯れてなくなっていた。気持ち=千年生きるはずの松が、留守のわずかな間に半分も消えていたことに対する、家を預かった隣人へのあてこすり。
「さるは、たよりごとに、ものも絶えず得させたり」を、「得させ」の主語と、だれに与えたのかを補って現代語訳せよ。
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(家を預かってもらったとはいうものの)そうはいっても、(私は)機会があるたびに、(隣人に)贈り物も欠かさず与えてきたのだ。
「この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき」を現代語訳せよ。また、「帰らねば」の「ね」「ば」を文法的に説明せよ。
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訳=この家に生まれた娘が、(土佐で死んでしまい)ともに帰ってこないので、なんと悲しいことか。ね=打消の助動詞「ず」の已然形。ば=已然形に付く順接確定条件(原因・理由)の接続助詞。
「生まれしも帰らぬものをわが宿に小松のあるを見るが悲しさ」について、①歌を現代語訳せよ。②「ものを」の意味を答えよ。③新しく生えた小松は、作者に何を思い起こさせたのか。
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①この家で生まれた子さえ帰ってこないのに、わが家の庭に小松が育っているのを見るのは悲しいことだ。②逆接(〜のに)。③この家で生まれ、土佐で亡くした幼い娘のこと。
「見し人の松の千年に見ましかば遠く悲しき別れせましや」を、反実仮想の意味がわかるように現代語訳せよ。また、「や」の意味と、「見し人」が誰かを答えよ。
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亡くなった娘が、松の千年の寿命のように長く生きていたならば、遠い土地で悲しい別れなどしただろうか、いや、しなかっただろうに。「や」=反語。「見し人」=亡くなった娘。
「忘れがたく、くちをしきこと多かれど、え尽くさず。とまれかうまれ、とく破りてむ。」を現代語訳せよ。また、「破りてむ」の「て」「む」の意味を答えよ。
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忘れられず、心残りなことは多いが、すべては書ききれない。ともかく、早く破り捨ててしまおう。「て」=強意(完了)の助動詞「つ」の未然形。「む」=意志の助動詞。