江戸時代の俳諧から、松尾芭蕉・与謝蕪村・小林一茶らの発句(ほっく)十四句を取り上げ、現代語訳・品詞分解・解説をまとめました。教科書によく載る句を中心に選んでいます。
それぞれの句の季語と季節、切れ字、そして何を詠んだ句か(情景と心情)がよく問われます。句の中の語の意味や、ふまえている古典・漢詩にも注意しましょう。
原文の読み方
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松尾芭蕉
枯れ枝に烏のとまりけり秋の暮れ
- 秋の暮れ
- 秋の夕暮れ。
季語は「秋の暮れ」(秋)、切れ字は「けり」。
葉の落ちた枯れ枝に烏がとまっている寂しい姿が、秋の夕暮れのもの寂しい趣にいかにもふさわしい、と詠んでいる。
中七が「からすのとまりけり」の八音で、字余りになっている。初めは「とまりたるや」という形だったのを、のちに「とまりけり」に改めた。
海暮れて鴨の声ほのかに白し
- ほのかなり
- かすかだ。ぼんやりしている。
季語は「鴨」(冬)。尾張の熱田(今の名古屋市)で、海辺で一日を過ごしたときの作。
「ほのかに白し」は、鴨の声がそう感じられるということ。耳で聞いた鴨の声を、「白し」と目で見た色のように表している。
ふつうの五・七・五でなく、五・五・七の形になっている。「ほのかに白し鴨の声」としないことで、鴨の声を含んだ冬の海の夕暮れの景色全体が「白し」と感じられる。
梅が香にのつと日の出る山路かな
- 梅が香
- 梅の香り。
- のつと
- ぬっと。突然、姿を現すさま。
- 山路
- 山道。
季語は「梅(が香)」(春)、切れ字は「かな」。梅の咲く早春の、まだ寒さの残る早朝の山道を詠んでいる。
優美な「梅が香」に、「のつと」という俗な言葉(擬態語)を取り合わせている。芭蕉が晩年に目指した「かるみ」をよく表す句といわれる。
この道や行く人なしに秋の暮れ
- 所思
- (前書き)心に思うこと。
季語は「秋の暮れ」(秋)、切れ字は「や」。芭蕉が亡くなった年(元禄七年)の作。
目の前の、だれも通る人のない道を詠みながら、「この道」には自分の歩んできた俳諧の道が重ねられている。自分に続く者がいないという孤独と寂しさがこめられている。
蛸壺やはかなき夢を夏の月
- 明石夜泊
- (前書き)明石(今の兵庫県明石市)に船で一夜泊まって。
- 蛸壺
- 蛸をとるための素焼きの壺。
季語は「夏の月」(夏)、切れ字は「や」。夏の夜の短さを感じさせる。
「はかなき夢」は、夜が明ければ壺ごと引き上げられてしまうことも知らずに、蛸が壺の中で見ている夢。そこに、旅寝をする自分の人生のはかなさも重ねている。
病雁の夜寒に落ちて旅寝かな
- 堅田にて
- (前書き)堅田(琵琶湖の西岸の地)で。
- 病雁
- 病気の雁。「びょうがん」とも「やむかり」とも読む。
- 夜寒
- 秋が深まって夜に寒さを感じること。
- 落つ
- (鳥が)降り立つ。
季語は「雁」「夜寒」(秋)、切れ字は「かな」。
旅寝をしているのは病雁だが、そこに、堅田で病気になって旅寝をしている作者自身の姿が重ねられている。
与謝蕪村
牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片
- 二三片
- 二、三枚(の花びら)。
季語は「牡丹」(夏)、切れ字は「ぬ」(完了の助動詞の終止形)。
上五が「ぼたんちりて」の六音で、字余りになっている。
「打ちかさなりぬ」の主語は「二三片(の牡丹の花びら)」。主語を後に置く倒置になっていて、大きな花びらが重なり合う様子が印象に残る。
五月雨や大河を前に家二軒
- 五月雨
- 陰暦五月ごろに降り続く長雨。梅雨。
季語は「五月雨」(夏)、切れ字は「や」。
「大河」は、降り続く五月雨で水かさが増し、濁流となって流れている川。
「家二軒」は、その大河の前で、二軒の家が寄り添うように心細く建っている様子。大きな自然の脅威と、小さな家の心細さが対照的に描かれている。芭蕉の「五月雨を集めてはやし最上川」を思わせる句。
月天心貧しき町を通りけり
- 天心
- 天の中心。空の真上。
季語は「月」(秋)、切れ字は「けり」。俳句でただ「月」といえば秋。
「通りけり」の主語は作者。月光に照らされた、寝静まった貧しい町を、作者がひとり通っていく。
初めは上五が「名月や」だった。「月天心」とすることで、月が真上にあり、夜更けであることがはっきりする。漢語の「天心」が引きしまった響きを生んでいる。
小林一茶
これがまあつひの栖か雪五尺
- 十二月二十四日、故郷に入る
- (前書き)一茶が五十歳のとき、故郷の柏原に永住しようと決めて帰ったときの作。
- つひ
- 終わり。最後。
- 栖
- 住まい。
- 五尺
- 一尺は約三十センチメートル。
季語は「雪」(冬)。「か」は詠嘆の終助詞で、ここで句が切れる。
「つひの栖」は、命が尽きるまで住む最後の住まい。長い放浪の末に帰った故郷は、五尺もの雪に埋もれている。結びの「雪五尺」は体言止め。
悠然として山を見る蛙かな
- 悠然
- ゆったりと落ち着いているさま。
季語は「蛙」(春)、切れ字は「かな」。
中国の詩人陶淵明(陶潜)の漢詩「飲酒」の一節「菊を采る東籬の下、悠然として南山を見る」をふまえている。
ふてぶてしい顔の蛙を、山を眺める隠者の詩人に見立てたところに、おかしみがある。
露の世は露の世ながらさりながら
- 露の世
- 露のようにはかない世。
- さりながら
- そうではあるが。しかし。
季語は「露」(秋)。長女さとを満一歳あまりで亡くしたときの作。
「ながら」は逆接の接続助詞。この世がはかないものだとわかってはいても、「さりながら」の後には、わが子の死をあきらめきれないという気持ちが省かれている。
「露の世」「ながら」を繰り返すリズムの中に、あきらめきれない悲しみがこめられている。
芭蕉の門人
梅一輪一輪ほどのあたたかさ(服部嵐雪)
現代語訳梅が一輪咲いた。(まだ寒い中に)その一輪ほどの(ほのかな)暖かさが感じられる。
季語は「梅」。寒さの中に咲いた梅(寒梅)で、冬の季語とされる。切れ字はない(「一輪」の後で切れる)。
梅が一輪咲いたことに、ほんのわずかな暖かさ、近づいてくる春の気配を感じている。
「一輪ほどの」であって「一輪づつの」ではないので、梅は一輪だけ咲いている。
応々といへどたたくや雪の門(向井去来)
- 応々
- 「おう、おう」という返事の声(擬声語)。
季語は「雪」(冬)、切れ字は「や」。
「応々」と返事をしているのは、家の中にいる人(作者)。返事をしているのに、外の訪問者は門をたたき続けている。
たたき続けるのは、降る雪に声がかき消されて返事が聞こえないからか、寒さのために早く開けてほしくて急かしているからだと考えられる。
おくのほそ道の句:立石寺(閑かさや岩にしみ入る蟬の声) / 平泉(夏草や兵どもが夢の跡) / 『去来抄』:行く春を
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①烏
②夜寒
③牡丹
④五月雨
⑤天心
⑥栖
⑦蛙解答を見る
①からす
②よさむ
③ぼたん
④さみだれ
⑤てんしん
⑥すみか
⑦かわず次の語の意味を答えよ。
①秋の暮れ
②のつと
③天心
④つひの栖
⑤露の世解答を見る
①秋の夕暮れ
②ぬっと・突然姿を現すさま
③天の中心・空の真上
④最後の住まい・命が尽きるまで住む所
⑤露のようにはかない世
B 季語・切れ字・文法
次の句の季語と季節を答えよ。
①海暮れて鴨の声ほのかに白し
②梅が香にのつと日の出る山路かな
③蛸壺やはかなき夢を夏の月
④病雁の夜寒に落ちて旅寝かな
⑤五月雨や大河を前に家二軒
⑥月天心貧しき町を通りけり
⑦悠然として山を見る蛙かな
⑧露の世は露の世ながらさりながら解答を見る
①鴨・冬
②梅(梅が香)・春
③夏の月・夏
④雁、夜寒・秋
⑤五月雨・夏
⑥月・秋
⑦蛙・春
⑧露・秋次の句の切れ字を抜き出せ。
①枯れ枝に烏のとまりけり秋の暮れ
②この道や行く人なしに秋の暮れ
③牡丹散りて打ちかさなりぬ二三片
④応々といへどたたくや雪の門解答を見る
①けり
②や
③ぬ
④や次の傍線部の品詞と意味・用法を答えよ。
①露の世は露の世ながら の「ながら」
②病雁の夜寒に の「の」
③打ちかさなりぬ の「ぬ」解答を見る
①接続助詞・逆接(確定)
②格助詞・主格
③完了の助動詞(終止形)
C 句の内容
「海暮れて鴨の声ほのかに白し」について、①「ほのかに白し」とは何がそうだというのか。②この句の表現の特徴を、音数と感覚の面から説明せよ。
解答を見る
①鴨の声
②五・五・七の破調になっている。耳で聞いた鴨の声を「白し」と、目で見た色のように表している。「この道や行く人なしに秋の暮れ」について、「この道」には目の前の道のほかに何が重ねられているか。また、この句にはどのような心情がこめられているか。
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俳諧の道。 自分に続く者がいないという、孤独で寂しい思い。
「蛸壺やはかなき夢を夏の月」の「はかなき夢」とは、どういうことか。説明せよ。
解答を見る
夜が明ければ壺ごと引き上げられてしまうことも知らずに、蛸が壺の中で見ている短い夢。そこに人生のはかなさも重ねている。
「病雁の夜寒に落ちて旅寝かな」について、①「落ちて」とはどういう意味か。②この句で、作者は病雁に何を重ねているか。
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①(群れから離れて)降り立って。
②病気になって旅寝をしている自分自身の姿。「月天心貧しき町を通りけり」について、①「通りけり」の主語を答えよ。②上五が初め「名月や」だったのを「月天心」としたことで、どのようなことがはっきりしたか。
解答を見る
①作者
②月が空の真上にあること、そして夜更けであること。「悠然として山を見る蛙かな」は、だれの何という漢詩をふまえているか。また、この句のおもしろさはどこにあるか。
解答を見る
陶淵明(陶潜)の「飲酒」。 蛙を、山をゆったりと眺める隠者の詩人に見立てたところ。
「露の世は露の世ながらさりながら」の「さりながら」の後には、どのような気持ちが省略されていると考えられるか。この句が詠まれた事情をふまえて答えよ。
解答を見る
長女を幼くして亡くした作者が、この世がはかないものだとわかってはいても、わが子の死をあきらめきれないという気持ち。
「応々といへどたたくや雪の門」について、①「応々」と言っているのはだれか。②訪問者が門をたたき続けるのはなぜだと考えられるか。
解答を見る
①家の中にいる人(作者)
②降る雪に声がかき消されて返事が聞こえないから。(寒さのために、早く門を開けてほしいと急かしているから。)