『枕草子(まくらのそうし)』「頭の弁の、職に参り給ひて」②の現代語訳・品詞分解・敬語・解説です。教科書によっては「鳥の空音」という題で載っています。
手紙のやりとりのあと、頭の弁(藤原行成)は、作者の手紙を殿上人たちにみな見せたと言います。作者はそれを怒るどころか、自分を大切に思ってくれた証拠だと喜んでみせ、頭の弁を感心させます。会話が多いので、誰の言葉か、敬語が誰から誰への敬意かを押さえることが大切です。
前の場面:『枕草子』頭の弁の、職に参り給ひて①
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
手紙を見せた頭の弁、隠した作者
現代語訳さて、(頭の弁が)「あの手紙は、殿上人がみんな見てしまったよ。」とおっしゃるので、
「その文は……見てしは」は頭の弁の言葉。「その文」は、作者の「夜をこめて」の歌を書いた手紙。
「見てし」は、て=「つ」(完了)の連用形、し=「き」(過去)の連体形。「見てしまったよ」の意。
現代語訳「(あなたが私を)心から大事に思っていてくださったのだと、この一件で自然とわかりました。すばらしいものは、人が言い広めてくれなければ、かいのないことですものね。
- 思す
- お思いになる(尊敬語)。
- かひなし
- かいがない、効き目がない。
「まことに思しけり」は、頭の弁が作者を本当に大切に思っていたということ。「知られ」の「れ」は自発。
「これ」は、作者からの手紙を頭の弁が殿上人みなに見せたこと。
「めでたきこと」は、作者自身のすばらしい手紙(歌)のこと。すばらしいものは人が言い伝えてくれないとかいがない、と、見せてくれたことを喜んでみせている。
現代語訳また、見苦しいものが世間に広まるのはつらいので、(あなたの)お手紙はしっかり隠して、人には少しも見せておりません。
- わびし
- つらい。
- つゆ〜ず
- 少しも〜ない。
「見苦しきこと」は、作者が返歌できなかった頭の弁の「逢坂は」の歌(手紙)のこと。
見苦しいものが世間に広まるのはつらいので、頭の弁の手紙は隠して誰にも見せていないと言っている。
現代語訳(お互いの)お気持ちの深さを比べると、同じくらいでございましょう。」と言うと、
- 心ざし
- (相手を思う)気持ち。
「等しくこそは」は、作者のすばらしい手紙を殿上人に見せた頭の弁の気持ちと、頭の弁の見苦しい手紙を隠した作者の気持ちは、どちらも相手を大切に思う点で同じだということ。
「こそは」の結びは省略されている。
作者に感心する頭の弁
現代語訳「このように物事をよくわきまえて言うのが、やはり普通の人とは違っていると思われる。
- 思ひ知る
- 物事をよくわきまえる。
手紙を人に見せられて怒るのではなく、それを自分を大切に思ってくれたしるしだと受けとめ、喜んでみせた作者の機知に、頭の弁は感心している。
現代語訳『思いやりもなく、ひどいことをしたものだ。』などと、世間の女のように言うのではないかと思っていた。」などと言って、お笑いになる。
- 思ひぐまなし
- 思いやりがない。
「思ひぐまなく、悪しうしたり」は、頭の弁が作者の手紙を殿上人に見せたことを、普通の女なら非難するだろうと思っていた言葉。
現代語訳「これはまたどうして(そんなことを)。お礼を申し上げたいくらいです。」などと言う。
- などて
- どうして。
- 喜び
- お礼。
「聞こえ」は謙譲語で、作者から頭の弁への敬意。
現代語訳「私の手紙をお隠しになったというのは、これもまた、やはりしみじみとうれしいことですよ。(もし人に見られたら)どんなに情けなくつらいことだろうに。
- まろ
- 私。
- 心憂し
- 情けない。
「いかに心憂くつらからまし」の前に「もし私の手紙を人が見たとしたら」という仮定が省略されている。「まし」は反実仮想で、「どんなに情けなくつらいだろうに」と訳す。
現代語訳これから先も、そのように(隠してくれるものと)頼りにさせていただこう。」などとおっしゃった。その後、経房の中将がおいでになって、
「さ」は、作者が頭の弁の手紙を隠してくれたこと。これからもそのように隠してくれるものと頼りにしよう、ということ。
「頼み聞こえ」の「聞こえ」は謙譲の補助動詞で、頭の弁から作者への敬意。
経房の中将の話
現代語訳「頭の弁が、あなたをとてもほめておいでなのを知っているか。先日の手紙に、あの日あったことなどを書いておられる。
- 一日
- 先日。
「ほめ給ふ」「語り給ふ」の「給ふ」は、経房から頭の弁への敬意。
現代語訳自分が大切に思っている人が他人からほめられるのは、たいそううれしいものだ。」などと、まじめな口ぶりでおっしゃるのもおもしろい。
- まめまめし
- まじめだ。
「思ふ人」は経房が大切に思う人で、作者のこと。「人に」の「人」は作者をほめた頭の弁。
現代語訳「うれしいことが二つありまして、あの方がほめてくださるそうなのに加えて、また、(あなたの)大切に思う人の中に(私が)おりましたことを(うれしく思います)。」と言うと、
「うれしきこと二つ」は、①頭の弁が自分をほめてくれたこと、②経房が大切に思う人の中に自分が入っていたこと。
「ほめ給ふなる」の「なる」は伝聞の「なり」の連体形。経房から聞いた話なので伝聞になる。
「侍り」は丁寧語で、作者から経房への敬意。
現代語訳「そのことを、珍しく、今初めて知ったことのようにお喜びになるのですね。」などとおっしゃる。
「それ」は、作者が経房の大切に思う人であること。経房は、前からわかっているはずなのに、今初めて知ったことのように喜ぶのですね、とたわむれている。
『枕草子』のほかの章段:春はあけぼの / 木の花は / 二月つごもりごろに / 大納言殿参り給ひて / 九月ばかり / 雪のいと高う降りたるを / 宮に初めて参りたるころ① / 中納言参りたまひて
テスト予想問題
A 語句
次の語句の意味を、本文の文脈に合わせて答えよ。
①かひなき
②つゆ(〜ず)
③思ひぐまなく
④などて
⑤喜び
⑥一日
⑦まめまめしう解答を見る
①かいがない(効き目がない)
②少しも(〜ない)
③思いやりがない
④どうして
⑤お礼
⑥先日
⑦まじめに
B 文法
傍線部の助動詞について、意味と活用形をそれぞれ答えよ。
①殿上人みな見【て】しは
②これにこそ知ら【れ】ぬれ
③いかに心憂くつらから【まし】
④かのほめ給ふ【なる】に解答を見る
①完了・連用形
②自発・連用形
③反実仮想・終止形
④伝聞・連体形次の傍線部の敬語の種類を答え、誰から誰への敬意かを答えよ。
①まことに【思し】けり
②人につゆ見せ【侍ら】ず
③まろが文を隠し【給ひ】ける
④さを頼み【聞こえ】む
⑤いみじうほめ【給ふ】とは知りたりや
⑥思ふ人のうちに【侍り】ける解答を見る
①尊敬語・作者から頭の弁
②丁寧語・作者から頭の弁
③尊敬語・頭の弁から作者
④謙譲語・頭の弁から作者
⑤尊敬語・経房の中将から頭の弁
⑥丁寧語・作者から経房の中将
C 内容
「まことに思しけりと、これにこそ知られぬれ」について、①誰が誰を「思し」ていたのか。②「これ」は何を指すか。
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①頭の弁が作者を(大切に思っていた)。
②作者からの手紙を、頭の弁が殿上人みなに見せたこと。「めでたきこと」「見苦しきこと」は、それぞれ何を指すか。
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めでたきこと=作者の(「夜をこめて」の歌を書いた)手紙。 見苦しきこと=頭の弁の(「逢坂は」の歌を書いた)手紙。
「御心ざしのほどを比ぶるに、等しくこそは」とあるが、何と何が等しいというのか。
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作者のすばらしい手紙を殿上人に見せた、頭の弁の作者を思う気持ちと、頭の弁の見苦しい手紙を隠して人に見せない、作者の頭の弁を思う気持ち。
「かくものを思ひ知りて言ふが、なほ人には似ずおぼゆる」とあるが、頭の弁は作者のどのような点に感心したのか。
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手紙を殿上人に見せたことを恨むどころか、自分を大切に思ってくれた表れだと受けとめて喜んでみせた、機知に富んだ点。
「今よりも、さを頼み聞こえむ」を、「さ」の内容を明らかにして現代語訳せよ。
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これからも、(私の手紙を)隠してくださることを頼りにし申し上げましょう。
「うれしきこと二つ」とは何と何か。
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頭の弁が自分をほめてくれたことと、経房の中将が大切に思う人の中に自分が入っていたこと。