『源氏物語(げんじものがたり)』若菜上(わかなじょう)の巻、「女三の宮の降嫁(おんなさんのみやのこうか)」の場面の前半、「かくて二月の十余日に」から「いとあまりものの栄えなき御さまかなと見奉り給ふ」までの現代語訳・品詞分解・敬語・解説です(全3回の①)。
朱雀院の娘、女三の宮が、光源氏の正妻として六条院に迎えられます。これまで光源氏の妻として並ぶ者のなかった紫の上は、心の動揺を隠して平静にふるまいます。一方、光源氏は、まだ幼い女三の宮を、かつての紫の上と比べてしまいます。
原文の読み方
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現代語訳・品詞分解・解説
六条院に迎えられる女三の宮
現代語訳このようにして、二月の十日あまりに、朱雀院の姫宮(女三の宮)は六条院へお輿入れになる。
- 二月
- 陰暦二月。
- 六条院
- 光源氏の大邸宅。
「渡り給ふ」の主語は女三の宮。
- 御心まうけ
- 心の準備。用意。
- 世の常ならず
- 並ひととおりではない。
- 若菜
- 正月に、長寿を祝って献上する若菜。
- 参る
- (ここでは)召し上がる。
- 御帳
- 御帳台。貴人の寝所・座所。
「若菜参りし」は、正月の四十の賀で、光源氏が若菜を召し上がったということ。
現代語訳そこから一、二の対の屋、渡り廊下にかけて、女房の部屋部屋に至るまで、細かく調え磨きたてさせなさった。
- 対
- 寝殿の東西などに建てた建物。対の屋。
- 渡殿
- 建物どうしをつなぐ渡り廊下。
- 局
- 女房の部屋。
- しつらふ
- 整え飾る。
現代語訳入内なさる方の作法にならって、あちらの院(朱雀院)からも御調度などが運ばれる。
- 内裏に参る
- 入内する。后や女御として宮中に入る。
- まねぶ
- まねをする。ならう。
- 御調度
- お道具類。
女三の宮の輿入れは、入内の作法にならって行われた。
現代語訳お移りになる儀式の盛大さは、いまさら言うまでもない。お見送りに、上達部なども大勢参上なさる。
- いへばさらなり
- 言うまでもない。
- 上達部
- 大臣・大納言・中納言・参議など、三位以上の人。
現代語訳あの、女三の宮の家司になりたいと望んでいらっしゃった大納言も、心穏やかでなく思いながらお仕えなさる。
- 家司
- 親王・大臣などの家の事務を取りしきる職員。
- 安からず
- 心穏やかでない。
この大納言は、女三の宮の婿になることを望んでいた一人。家司として仕えたいと願い出ていた。だから、宮が光源氏に嫁ぐことを心穏やかでなく思っている。
現代語訳お車を寄せた所に、院(光源氏)がお出ましになって、(女三の宮を)お降ろし申し上げなさることなども、通例とは違っていることである。
- 院
- (ここでは)光源氏。
- 例
- 通例。ふつう。
「例には違ひたることども」は、光源氏がみずから出迎えて、女三の宮を車からお降ろし申し上げたこと。入内のとき、帝や院が出迎えることはない。
現代語訳(光源氏は)臣下でいらっしゃるので、何事にも決まった限度があって、入内の儀式にも似ておらず、
- ただ人
- 臣下。皇族ではない人。
- 内裏参り
- 入内。
光源氏は上皇に準じる待遇を受けているが、身分は臣下。そのため儀式にも制限があり、入内と同じにはならない。
現代語訳婿の大君(皇族の婿)と言おうとしても事情が違っていて、なんとも珍しいご夫婦の間柄である。
- 婿の大君
- 皇族の婿。
- あはひ
- 間柄。
入内でもなく、皇族の婿を迎えるのでもない、例のない縁組みだということ。「なむ」の結び(「ある」など)が省略されている。
平静を装う紫の上
現代語訳(婚儀の)三日の間、あちらの院(朱雀院)からも、主人側の院(光源氏)の方からも、盛大で目新しい風流を尽くした贈り物をなさる。
- 三日がほど
- 結婚の儀式の三日間。
- 主の院方
- 主人側の院。光源氏の方。
- いかめし
- 盛大だ。
- みやび
- 風流。優雅なこと。
現代語訳対の上(紫の上)も、何かにつけて、平気ではいられないお二人の夫婦のありさまである。
- 対の上
- 紫の上。
- ただなり
- ふつうだ。平気だ。
「世のありさま」の「世」は男女の仲。光源氏と女三の宮の夫婦の様子を、紫の上は平気ではいられない。
現代語訳本当に、このようなこと(女三の宮の降嫁)があったからといって、(紫の上が)ひどく相手に劣って圧倒されることもないだろうけれど、
- こよなし
- この上ない。格段だ。
- 消つ
- 圧倒する。
「人に劣り消たるる」の主語は紫の上、「人」は女三の宮。紫の上がひどく圧倒されることはないだろう、ということ。
現代語訳(紫の上は)これまで肩を並べる人もない状態に慣れていらっしゃったのに、(女三の宮が)はなやかに、行く末も長く、あなどれないご様子でお移りになってきたので、
- ならふ
- 慣れる。
- 生ひ先
- 将来。行く末。
- あなづりにくし
- あなどりがたい。
「並ぶ人なくならひ給ひて」は、紫の上が、肩を並べる人のいない状態に慣れていたということ。
「はなやかに生ひ先遠くあなづりにくき気配」は、女三の宮の様子。若く、身分も高いので、あなどれない。
現代語訳なんとなくきまりが悪くお思いになるけれど、何気ないふうにばかりふるまって、(女三の宮の)お輿入れの時も、(光源氏と)心を合わせて、ちょっとしたこともお世話なさって、
- なまはしたなし
- なんとなくきまりが悪い。
- つれなし
- 平然としている。何気ない。
- もろ心
- (二人で)心を合わせること。
「つれなくのみもてなして」は、紫の上が、女三の宮の降嫁に心が揺れているのを表に出さず、平然とふるまう態度。
現代語訳(そんな紫の上の)たいそういじらしいご様子を、(光源氏は)ますますめったにない方だとお思い申し上げなさる。
- らうたげなり
- いじらしい。かわいらしい。
- ありがたし
- めったにない(ほどすばらしい)。
「らうたげなる御ありさま」は、不満を見せずに婚儀の世話をする紫の上の様子。
「思ひ聞こえ給ふ」の主語は光源氏。
女三の宮と紫の上
現代語訳姫宮(女三の宮)は、聞いていたとおり、まだたいそう小柄で、未熟でいらっしゃるうえに、たいそう幼い様子で、ひたすら子どもっぽくていらっしゃる。
- 片なりなり
- (体や心が)まだ十分に成長していない。
- いはけなし
- 幼い。子どもっぽい。
- ひたみちなり
- ひたすらだ。
- 若ぶ
- 子どもっぽくふるまう。
「げに」は、聞いていたとおり、ということ。
現代語訳(光源氏が)あの紫のゆかりの人(紫の上)を探し出して引き取りなさった時のことをお思い出しになると、あちら(紫の上)は気が利いていて相手にしがいがあったが、
- 紫のゆかり
- 紫の上。藤壺(「紫」)の姪にあたるので、こう言う。
- さる
- 気が利いている。
- 言ふかひあり
- 言うだけのかいがある。相手にしがいがある。
現代語訳こちら(女三の宮)は、ただもう幼いとばかりお見えになるので、(それも)まあよかろう、憎らしく我を張って出しゃばるようなことはなさそうだとお思いになるものの、
- おし立つ
- 我を張る。出しゃばる。
女三の宮が幼いので、憎らしく我を張って出しゃばる心配はないだろう、と光源氏は考えている。
現代語訳あまりにも見ばえのしないご様子だなあと拝見なさる。
- ものの栄え
- 見ばえ。引き立つところ。
「いとあまりものの栄えなき御さま」は、女三の宮の様子。安心する一方で、あまりの幼さに見ばえのなさを感じ、失望している。
源氏物語のほかの場面:桐壺①「いづれの御時にか」 藤壺の入内 若紫①「北山の垣間見」 須磨① 御法① 明石の君の苦悩① 明石の姫君の入内①
テスト予想問題
A 読み・語句
次の語の読みを現代仮名遣いで答えよ。
①二月
②朱雀院
③御帳
④局
⑤内裏
⑥上達部
⑦家司
⑧対の上解答を見る
①きさらぎ
②すざくいん
③みちょう
④つぼね
⑤うち
⑥かんだちめ
⑦けいし
⑧たいのうえ本文で使われている次の語の意味を書け。
①みやび
②御心まうけ
③あはひ
④なまはしたなし
⑤つれなし
⑥ありがたし
⑦ひたみちなり
⑧いはけなし
⑨され(さる)解答を見る
①風流・優雅なこと
②心の準備・用意
③間柄
④なんとなくきまりが悪い
⑤平然としている・何気ない
⑥めったにない(ほどすばらしい)
⑦ひたすらだ
⑧幼い・子どもっぽい
⑨気が利いている
B 文法・敬語
次の助動詞の意味を答えよ。
①かの院よりも御調度など運ばる(る)
②ただにも思されぬ世のありさまなり(れ)
③人に劣り消たるることも(るる)
④なまはしたなく思さるれど(るれ)
⑤ひたみちに若び給へり(り)
⑥あるまじかめり(まじか・めり)解答を見る
①受身
②可能
③受身
④自発
⑤存続
⑥まじか=打消推量、めり=推定次の敬語の種類と意味を答えよ。
①若菜参りし(参り)
②内裏に参り給ふ人(参り)
③安からず思ひながら候ひ給ふ(候ひ)
④ただにも思されぬ(思さ)解答を見る
①尊敬語・召し上がる
②謙譲語・参内する
③謙譲語・お仕えする
④尊敬語・お思いになる
C 現代語訳・内容
「かの家司望み給ひし大納言も、安からず思ひながら候ひ給ふ」とあるが、大納言が心穏やかでないのはなぜか。
解答を見る
大納言は女三の宮の婿になることを望んでいた一人だったのに、宮が光源氏に嫁ぐことになったから。
「例には違ひたることどもなり」とあるが、どのようなことが通例と違っているのか。だれが何をしたのかを明らかにして説明せよ。
解答を見る
光源氏が、みずから車を寄せた所に出迎えて、女三の宮を車からお降ろし申し上げたこと。
「対の上も事にふれて、ただにも思されぬ世のありさまなり」を現代語訳せよ。また、「世のありさま」とはだれとだれの関係を指すか。
解答を見る
訳=紫の上も、何かにつけて、平気ではいられないお二人の夫婦のありさまである。関係=光源氏と女三の宮の夫婦の仲。
「また並ぶ人なくならひ給ひて」とあるが、①だれのどのような状態のことか。②これに対して「はなやかに生ひ先遠くあなづりにくき気配」とはだれのことか。
解答を見る
①紫の上が、光源氏の妻として肩を並べる人のいない状態に慣れていたこと。②女三の宮。
「つれなくのみもてなして」とあるが、だれが、何に対して、どのようにふるまっているのか。また、その様子を見た光源氏はどう思ったか。
解答を見る
紫の上が、女三の宮の降嫁に対して、心の動揺を表に出さず平然とふるまい、婚儀の世話までしている。光源氏は、そのいじらしい紫の上を、ますますめったにないすばらしい人だと思った。
「かれはされて言ふかひありしを、これは、いといはけなくのみ見え給へば」について、①「かれ」「これ」はそれぞれだれか。②現代語訳せよ。
解答を見る
①かれ=紫の上、これ=女三の宮
②あちら(紫の上)は気が利いていて相手にしがいがあったが、こちら(女三の宮)は、ただもう幼いとばかりお見えになるので。女三の宮に対する光源氏の気持ちを、安心している点と失望している点に分けて説明せよ。
解答を見る
安心している点=幼いので、憎らしく我を張って出しゃばるようなことはなさそうだということ。失望している点=あまりにも幼くて、見ばえがしないこと。